医学界新聞

2012.02.06

自ら“つかみとる”学びを!!
自治医大「Free course-student doctor」制度


 「地域で求められる総合的臨床力を有し,他職種と連携して地域の医療・保健・福祉の構築,実践,維持に寄与できる」医療人の育成を教育ミッションに掲げる自治医科大学。臨床実習(BSL)を国際基準を満たす72週(4,5年次)に設定するなど,高度な臨床的能力を有する医師の養成に努めている。2010年度には,学内外のBSL,評価法のさらなる充実を目的に,新たな臨床教育システムが導入された(表1)。

表1 自治医科大学のカリキュラム(4-6学年)

 新たな取り組みの中でもとりわけユニークなのが,成績上位者の自主性を伸ばすことを目的に企画され今年度開始された「Free course-student doctor制度」だ。2011年11月30日に同大で開催された報告会では,7人の参加者が6か月間の経験を紹介した。本紙ではそのもようをお伝えする。


 「このコースを通して,医療者に必要な人間力の重要性を学ぶとともに,臨床現場で活躍する多くの先輩に出会い,将来のロールモデルを見つけた」。Free course-student doctor制度の参加者7人のうちの一人,天野雅之さんの言葉だ。この制度は,5年次に受験する「5,6年共通総合判定試験」で6年次学生の平均点を超える成績(医師国家試験の合格が担保される目安)を修め,さらに臨床実習の評価やAdvanced OSCEの成績が優秀な学生(最大10人)を対象に,6か月間,学内外の施設での臨床実習や研究の機会を与えるというもの。

(左から)岡崎仁昭氏,高久史麿学長
 本制度を企画した岡崎仁昭氏(医学教育センター長/教務委員長)は,「以前から,6年次の半年間が座学となることを懸念していた。特に5年次終了時点で医師国家試験の合格水準に達している成績上位者の向上心や知的探究心,自主性をより高めたいと考えた」と導入の経緯を説明。また,本制度の名付け親でもある高久史麿学長は,「将来どのような分野に進んでも,チームワークが大前提となる。本制度を通してさまざまな経験を積み,優れたリーダーになってほしい」と期待を寄せた。

目標に則り自ら実習を企画

 参加者は,6年次学生を対象とした統括講義の受講,卒業試験の受験が免除され,本来統括講義が行われる5月からの半年間を,自身で計画したプログラムに沿って学ぶ機会として与えられる。参加者の一人,中村晃久さんは,(1)情報を発信できる医師,(2)総合医として地域医療に貢献できる医師,(2)住民-行政担当者-医療従事者の「わ」を広げられる医師,の3つを実習目標に掲げて学びの計画を立案。海外での実習のほか,学会発表や論文執筆を行うなど,充実した6か月間となったようだ(表2)。

表2 参加学生の実習例(中村晃久さんの場合)

 他の参加者も,「開発途上国での国際貢献のために国際資格を取得する準備をしたい」「学内BSLで足りなかった部分を学びたい」「臨床研究を学ぶことで,地域医療を担いながら研究ができるという自信をつけたい」など,それぞれの目標に則って,初期臨床研修レベルの学内BSLや,学外施設での地域医療BSL,米国,カナダ,オーストラリアなど海外施設での見学・実習,臨床研究,学会発表などを経験したという。

 報告会では,参加者から「初期臨床研修レベルの臨床実習を行い,主治医として患者を診察し治療方針を決定するとはどういうことか,より深く感じることができた」「海外実習を経験し,世界で求められる医療はどこでも同じだとわかり,国際貢献への思いが高まった」などの感想が語られ,各人が確かな手ごたえを得たことが伺えた。

 参加者一人一人に指導教員(メンター)が付き,きめ細やかな指導・支援を行うのも本制度の特徴だ。「患者さんを最後までみられる外科医」をめざす橋本優さんは,「まずは自治医大が掲げる全人的医療をめざそう」とのメンターのアドバイスにより,外科実習に加え,緩和ケア実習を行ったことで,より臨床への理解が深まったという。

報告会のもよう。指導教官や同級生のほか,本制度に興味を持つ下級生の姿も見られた。
 報告会では参加者からの反省点として,「もっと早期に計画を立てる必要があった」ことが多く挙げられた。岡崎氏によれば,特に海外実習の実現が難しかったとのこと。「制度への参加が決まってから実習を開始するまでの時間が重要。明確な目的意識を持ち,実現に向けて動いてほしい」。また,岡崎氏は次年度に向け,「この制度には,下級生のよい刺激となってほしいというねらいもある。そのためにも,教員が一丸となって学生の学びを支援していきたい」と語る。その一方で,「こういった診療参加型BSLの充実を図るには,医師国家試験の在り方の見直しが必須」とも。

 自治医大では卒後9年間,都道府県知事の指定するへき地等の病院で勤務することが義務付けられている。「どこで研修しようが自分次第」。参加者の力強い言葉に,本制度のねらいがしっかり根付いていることを実感した。

*米国で臨床研修を希望する外国人医師に対して研修資格を認定するECFMGは,2023年以降,米国医学教育連絡協議会もしくは世界医学教育連盟の認証を受けた医学部卒業を要件としている。そこでは,医学部での臨床実習は72週以上が要求されている。

Free course-student doctor制度の参加者。


■ミッションとして,自ら学ぶ楽しさを伝えてほしい

桃井真里子医学部長に聞く


 本来勉強とは自分自身で“つかみとる”ものです。しかし,近年受け身の勉強しか身についていない学生が増え,医学教育も例外ではなく,学生の“つかみとる”という意識を引き出すことに難渋するようになりました。新たな教育手法や仕掛けを考えなければいけない時代に突入しているのも事実です。

 そのようななかで開始した本制度は,学生の進度に応じてさまざまなチャンスを与えようという考えに立脚したものです。本学には,“地域医療に寄与できる人材育成”という大きなミッションがありますが,卒業後のキャリアはさまざまですから,学生自身が“なりたい医師像”を築き上げ,それに向けて経験を積んでいくことも重要です。計画立案から実行に至るまで,自分が何をすべきかを常に考えながら過ごしたこの6か月は,学生にとって非常に貴重な機会であったと思います。

 このコースを経験した学生には,これからのミッションとして,自ら学ぶことの楽しさを下級生に伝えていってくれることを期待しています。

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