医学界新聞

2011.10.17

国境なき医師団セミナーが開催される


 国境なき医師団(MSF)日本が主催する「国境なき医師団日本外科セミナー」が,9月23-24日,日仏会館(東京都渋谷区)にて開催された。MSF主催によるセミナーは,ヨーロッパ各国では定期的に実施されているが,日本で開催されるのは初めて。今後は定期的に開催される予定だ。本紙では,23日に行われた公開講座のもようを紹介する。

◆自然災害・紛争地域での活動経験で得られた知識を共有

会場のもよう
 自然災害・紛争地域では人的・物的医療資源が不足する。公開講座では,そのような状況下で医療に携わった経験を持つ医師7人が,緊急時の外科医療において求められる実践的な手技や考え方を紹介した。

 最初に登壇したパトリック・へラード氏(MSFフランス)は,創外固定による骨折治療の方法を解説。X線検査が使えない,衛生面に不安がある地域でも創外固定による治療が可能であることなどを利点として挙げ,その適応例やMSFで実際に使用されている創外固定器について説明した。

 戦傷のトリアージについて言及したのはマルコ・バルダン氏(赤十字国際委員会)。氏は,自爆テロにより多数の死傷者が担ぎ込まれるイラクの病院の様子を映したビデオ映像を紹介し,トリアージが実施できていないために医療現場が混乱を極めていると指摘。緊急時におけるトリアージの重要性を示し,それぞれの病院が適切に実施できるよう対策を講じる必要があると述べた。

 フランソワ・ボワロー氏(MSFフランス)は,各地で多く遭遇する慢性骨髄炎の治療について発言。MSFで使用されているプロトコールに基づいた,慢性骨髄炎に対する保存的治療,外科的治療,切断などのアプローチ方法について紹介した。

 再建外科分野から発言したのはパトリック・ニッパー氏(形成外科専門NGOインタープラスト)。氏は,作業環境として適切か検討すること,ミッションの期間に沿った治療計画を立てること,派遣先地域が持つ独自の文化を尊重することが大切と述べた上で,実地で行っている植皮・熱傷治療の基本的な手技を示した。

 設備や助産師の不足など,派遣先の産婦人科医療現場に十分な環境が整っているとは限らない。伊藤まり子氏(MSF日本)は,リベリア,南スーダンなどで産婦人科医として行った活動を紹介し,現地で実施することの多い帝王切開症例を解説した。

 大友康裕氏(東京医歯大)は東日本大震災の発生急性期におけるDMATの活動について報告し,「これまでの訓練が生かされていた」と評価。一方で,指揮調整機能・情報伝達技術の強化,広域医療搬送戦略の見直しなどを今後の課題として挙げた。

 2010年に起こったハイチ地震。その際の活動経験から,ヨハン・フォン・シュレブ氏(カロリンスカ研究所)は,自然災害・紛争地域への医療介入の理想的なモデルについて考察。政情や経済状況,文化,求められる医療は国ごとに異なることから,現地の人々の価値観を踏まえ,ニーズを把握し,的確な戦略を構築すべきだと訴えた。

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