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第2939号 2011年8月1日


今,プライマリ・ケアの飛躍のとき

第2回日本プライマリ・ケア連合学会開催


 第2回日本プライマリ・ケア連合学会が,7月2-3日,ロイトン札幌(札幌市)にて開催された。草場鉄周大会長(北海道家庭医療学センター)のもと,「時と人をつなぎ今飛躍の時へ」をテーマに開催された今回は,職種・地域を超えてプライマリ・ケアに携わる医療者が参集。知識とスキルを共有し,良質なケアの提供につなげようと,会場各所で熱心な討論が交わされた。


時を越え,人をつないで伝わるプライマリ・ケアの価値

草場鉄周大会長
 大会長講演「時と人をつなぎ 今飛躍の時へ」では,草場氏がプライマリ・ケアの今後の在り方を展望。氏はまず家庭医としての自身の歩みを振り返り,「地域を包括するケア」「継続する身近なケア」がプライマリ・ケアに必要とした。次に,診療所の家庭医と中小病院の総合医,基幹病院の専門医とが連携することで安定した医療を広く提供できると提言。東日本大震災での支援活動の経験も踏まえ,「多様な健康問題に対応するケア」「連携や協調を重視したケア」がプライマリ・ケアの強みだとした。また医療の量より質が重視される時勢に鑑み,個々の患者の生活や価値観を踏まえ適切な医療を実施する「個別性を重視したケア」を追求すべきとした。

 最後に氏は,確かな臨床能力や確固たるアイデンティティ等が,町医者から家庭医療専門医へ「時」を越えて伝承されること,職種を超え「人」をつないで,切れ目のない医療ネットワークが実現できることを強調。一人ひとりを大切にする上質な医療をすべての人に提供し,日本全体の医療の質向上を図るときこそ,プライマリ・ケアの飛躍のときだと結んだ。

患者一人ひとりの「病い」の背景を知る

 「患者中心の医療」の技法(Patient-centered clinical method;PCCM)は,1970-90年代にかけカナダ・ウェスタンオンタリオ大で開発された。患者一人ひとりの背景や思いも含む「病い」を受け止め,個別性のあるケアを提供するこの概念は,プライマリ・ケアの現場には必須といえる。シンポジウム「患者中心の医療――過去・現在・未来」(司会=草場氏,あさお診療所・西村真紀氏)では,真の「患者中心の医療」をどう創出するかが議論された。

 Thomas Freeman氏(ウェスタンオンタリオ大)は,PCCMの6要素である(1)疾患と「病い」両方の経験を探る,(2)全人的な理解,(3)共通の理解基盤の発見,(4)予防・健康増進の導入,(5)患者・医師関係の強化,(6)実行が可能,を提示。患者と医師が問題・ゴールを共有し役割を分担する(3)が特に重要だとした。PCCMには患者満足度の向上や身体症状の改善のほか,医師の満足度向上,医療過誤・コスト減少などの効果も確認されている。氏はトラウマの多い現代社会にこそ,言語化されない兆候も察知するPCCMが必要と結論付けた。

 石垣靖子氏(北海道医療大大学院)は初めてホスピスを訪れた際,"ふつうに生き,ふつうに死んでいく"ことの価値を知った。氏は患者一人ひとりの物語を理解し,対話を重ね固有の医療を構築する必要性を述べ,生物医学モデルからケアリング(思いやり)モデルへの転換を説いた。患者を理解しようと努力する姿勢,孤立化させないことが重要として,看護師は"傍らにいることを許された者"でありたいと結んだ。

 NPO法人ささえあい医療人権センターCOMLは,20年余り,約5万人の患者・家族の電話相談を実施してきた。同センターの山口育子氏は,患者の医療への姿勢が,受身から権利の自覚へと変化する一方,医療者側にも役割を明確に伝え意思疎通を図る姿勢がみられるようになったと考察。患者の主体的な医療参加,医療者と対等な関係での協働が必要であり,医療選択や決断を十分理解・納得して行えるよう,わかりやすい情報提供と,"賢い患者"になるためのサポートを求めた。

 松繁卓哉氏(国立保健医療科学院)は医療社会学の立場から考察。患者と医療者の関係は,疾病構造の変化や医療の地域移行の影響で,医療者に従う「コンプライアンスモデル」から同じ目線で話し合う「コンコーダンスモデル」へと2000年前後に転換したという。「患者中心の医療」を評価する際の問題点としては,医療現場の状況により定義が変化する,意思決定プロセスに参加したくない患者もいる,評価者の選定が困難,の3点を列挙。社会学における対象理解の手法「解釈型アプローチ」を応用し,患者の主観的認識を理解することを提案した。

総合診療医の可能性と課題

 シンポジウム「日本の総合診療 これからの飛躍にむけて」(司会=江別市立病院・阿部昌彦氏,勤医協中央病院・臺野巧氏)では,多様な場で活躍する総合診療医の在り方が語られ,総合医認定制度の試案が示された。

 小泉俊三氏(東光会七条診療所)は,総合診療医の価値観としては患者中心のチーム医療やEBMなどを列挙,その診療姿勢を「労をいとわず・えり好みをせず積極的に診療する」と表現した。従来は理念主導の議論が繰り返されてきたが,社会や人口,疾病構造の変化を見据え現実的なシステム構築が重要と指摘。診療の「場」を問わず価値観や診療姿勢は共通であり,「場」の特性に沿った役割を議論し,能力が十分に発揮される医療システムを要望した。

 松村理司氏(洛和会音羽病院)は,総合診療科の在りようを「自由自在,融通無碍,伸縮自在」と表現。非専門的な仕事を総合診療科が担うことで専門医の負担を軽減できると話した。また専門特化していない中小病院でこそ病院総合医が活躍できると提言。教育を充実させ研修医を集めることで,病院経営,市民サービスに資すると主張した。さらに超高齢社会で医療・介護のエキスパートとなる期待も示した。

 井村洋氏(飯塚病院)は,救急外来の融通の利く受け皿となり,他科からの信頼を得て患者数も増加したこと,研修医教育を率先して行い,教育イベントを病院の事業に拡大した経験などを例に"切り札"を持つことが総合診療科の確立につながると提案。多くのステークホルダーと共同戦線を張り良質の総合診療医を輩出することが大規模病院での総合診療科の使命と結んだ。

 同学会認定制度委員会の大滝純司氏(東医大)は,病院総合医の認定制度案を解説した。プログラム案の要点は,家庭医療専門医の取得が前提であること。その上で診療・病院管理・他科や他職種との調整・医療の質改善という病院総合医を特徴付ける4つの能力と,教育・研究能力を問う[細則案は同学会HP参照]。氏は,まずは確固たる枠組みを作る必要性を述べ,理解を求めた。

 伴信太郎氏(名大大学院)は総合診療医を「総合する専門医」と称し,その専門性を,Diagnostician(診断の専門家),不定愁訴への対応,日常診療の包括的対応,保健・福祉介護との連携の4点に総括。専門性を概念付けることが大学の総合診療部門の役割だとした。教育においては多職種連携や地域包括の重要性に言及。大学に総合診療部門を根付かせ,政策的に日本の医療システムに適合した総合医の養成を行うことを提言した。