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第2923号 2011年4月4日


interview

瀬尾拡史氏(東京大学医学部附属病院初期研修医1年目)に聞く
3DCGを活用して,医療をもっとわかりやすく身近なものに


 ドラマや映画などで楽しめる,迫力満点の3D(三次元)CG映像。瀬尾拡史氏はその技術を活用し,医療を正しくわかりやすく伝える「医療CG」制作に取り組んでいる。日本では例のない,医学の専門知識を持つCGクリエーターとしての活躍が期待される瀬尾氏に話を聞いた。


――どのようなきっかけで,医療CG制作の道を志されたのですか。

瀬尾 中学2年のとき,NHKスペシャル「驚異の小宇宙・人体III」を見たことがきっかけです。遺伝子や細胞など人体の仕組みがCGで解説されていてとてもわかりやすく感じ,ゲームやアニメとは違う"学べる"CGを作りたいと思いました。医学部をめざしたのも,そうしたCG制作には医学の正確な知識が不可欠と考えたからです。

――東大での医学生生活とCG技術の習得は,どうやって両立させたのですか。

瀬尾 大学1年生の前期で教養課程2年分の単位をほとんど取って時間を作り,約1年間,デジタルハリウッドというCGの専門スクールに通いました。

――5年生時には,裁判員裁判第1号事件の証拠資料となる,3DCG画像を制作されました。

瀬尾 大学のチューターだった吉田謙一先生(東大大学院教授・法医学)に,法医学の鑑定結果を裁判員にわかりやすく示すため3DCGを活用しては,と提案させていただいたのが始まりでした。3週間,約150時間かけて画像を作ったのですが,このときは大学の実習やバレーボール部との両立がさすがに大変でした。

病態生理解説映像「心タンポナーデ」(2008年制作)©Hirofumi Seo
模擬裁判のため制作した3DCGアニメーション。心タンポナーデで心拍動が停止するメカニズムを,1分間の映像でわかりやすく説明している。

――そうした活動が実り,学業優秀者や,スポーツなどさまざまな分野で活躍した学生に贈られる「東京大学総長賞」と,総長賞受賞者から選抜される「総長大賞」も受賞されました。

瀬尾 学術的な価値や希少性といった視点とは別に,「医学のことを誰にでもわかりやすく,正しく,かつ楽しく伝える」CGが認められたのは,うれしかったです。

――受賞者で構成される「総長会」があるとか。

瀬尾 そうですね。勉強会を開くなどして交流しているのですが,普段接することのない分野の話を聞け,とても楽しいです。医学部にいると,同じ道に進む人しか周りにいない状況も珍しくないので,なるべく他領域の人とも交流し,視野を狭めないようにしたいと考えています。

医療イラストレーターという職業が確立している米国

――医療イラストレーションを学ぶため,短期留学をされましたね。

瀬尾 はい。東大のクリニカル・クラークシップでは,毎年5年生の2割ほどが海外のさまざまな地域で実習を行うことができます。その制度を利用し,5年生の1-3月に,ジョンズ・ホプキンス大のDepartment of Art as Applied to Medicineと,カナダのトロント大のDivision of Biomedical Communicationsという学科に留学しました。前者はMax Brödelというドイツ人画家が1911年にジョンズ・ホプキンス大病院の産婦人科に招かれたことで始まった,実に100年もの歴史がある学科です。

 このクラークシップの制度において,研究でも臨床でもなく,"絵を描く"学科で実習したいという要望は初めてだったようです。さらに先方でも,こうした短期留学の受け入れは前例がなかったのですが,今まで作ったCG作品をすべて英語に訳して送るなど,熱意が通じて許可をもらうことができました。

――そうした医療イラストレーションの学科では,どのような人たちが学んでいるのですか?

瀬尾 大学院のプログラムなので,芸術系の大学卒で,副専攻として基礎生物を学んだ,といった経歴の人が多かったです。医療従事者は非常に少数で,米国以外から来ている人がほとんどでした。今のところ米国とカナダ以外にはこうした教育機関がないので,米国でスキルを学び,母国で活かそうと考えているのだと思います。

――留学中は,コミュニケーションに不安はありませんでしたか。

瀬尾 苦労はしましたが,CGのスキルを持っていたことが,言葉の不自由を補ってくれたように思います。3DCGのレクチャーをお願いされたり,しまいにはパソコンの設定までやっていました(笑)。当時のクラスメートはもう就職していて,「こんな仕事をしたよ」と知らせてもらうと刺激になります。

――どんなところに就職するのですか。

瀬尾 『Nature』や『Science』といった科学雑誌のイラストレーターになったり,UpToDate®や医療CG専門のプロダクション,病院に所属する人もいます。病院では,例えば医師から「患者さんにカテーテル手術の説明をしたい」と依頼を受けて画像を作ったり,「この論文が雑誌の表紙に出るから,格好よく描いて」と頼まれ,デザインを考えたりします。専門的な資料や論文も直接読んで理解できるということが,大きなメリットになります。

――医療イラストレーターが,職業として確立されているのですね。

瀬尾 ええ。僕の留学先も定員が一学年5-6人のところに60人の応募があり,就職先も引く手あまたであるなど,人気の高い職業と言えると思います。

「細胞の世界」(2006, 2010年制作)©Hirofumi Seo
「細胞の中の様子を,幻想的な雰囲気で,わかりやすく楽しく伝える」をテーマに制作したもの。

日本で医療CG普及の道を探りたい

――米国と比べると,日本では医療CGの普及はまだまだですね。

瀬尾 そうですね。裁判員裁判でのCGの活用も,現場が希望していても予算の問題などでなかなか進んでいません。サイエンスに特化したCGを作りたい,という志を同じくする人たちがいても,専門のプロダクションなど,集まる場がない現状もあります。

 ただ,日本のエンターテイメントCGの技術はすばらしいですし,最近ではその技術で娯楽性の高さを競うより,社会に貢献したいと考えているクリエーターもいます。そこで彼らの目が"医療"に向くことが,日本で医療CGを普及させる足がかりになると考えています。

――ご自身は,今後CGをどのように医療に活用していきたいですか。

瀬尾 臨床現場では,微小な癌の探索など既にいろいろな用途でCGが使われており,そちらの可能性を追求することもできますが,僕はどちらかというと,患者さんや医学生に医学のことをわかりやすく伝えるため,CGを活用したいと考えています。

 この4月からの臨床研修中も,ほかの研修医とは少し違う目線でいたいと思っています。患者さんが医師の説明でわかりにくいと感じるのはどこか。あるいはカンファレンス中,研修医はどんなことを難しいと感じるか,そういう情報をどんどん仕入れたいですね。

――CGでビジュアルに訴えることで,よりわかりやすくなりそうですね。

瀬尾 そうなんです。また,そうした人たちに興味を持ってもらうためには,医学的に正確であるだけでは足りず,エンターテイメント性も追求していく必要があります。そのために,これからも技術を磨いていかなければと思います。初期研修後は米国かカナダにCGの修業に行くかもしれませんが,日本の医師免許を持っていることを最大限生かして,最終的には日本で医療CG普及のため,活動していきたいです。

――ありがとうございました。

(了)