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第2920号 2011年3月14日


寄稿

筋肉は健康のバロメーター
サルコペニアを知ろう

若林秀隆(横浜市立大学附属市民総合医療センター リハビリテーション科)


高齢化社会における深刻な健康問題

 サルコペニア(Sarcopenia)とは,骨格筋・筋肉(Sarco)が減少(penia)していることです。狭い定義では加齢に伴う筋肉量の低下1),つまり老年症候群のひとつです。筋肉量は30 歳ごろがピークであり,その後は加齢とともに低下します。一方,広い定義では,すべての原因による筋肉量と筋力の低下を意味します2)。70歳以下の高齢者の13-24%,80歳以上では50%以上に,サルコペニアを認めるという報告があります1)

 サルコペニアは高齢化が進む日本で,深刻な健康問題となり得ます。例えば四肢体幹の筋肉,嚥下筋,呼吸筋のサルコペニアが進めば,それぞれ寝たきり,嚥下障害,呼吸障害となります。いずれもリハビリテーションの重要な対象です。寝たきりと嚥下障害の原因疾患の第1位は脳卒中ですが,第2位はサルコペニアだという仮説もあります。海外ではサルコペニアへの関心が高まり,『Journal of Cachexia, Sarcopenia and Muscle』という雑誌も創刊されましたが,日本での関心は低いのが現状です。そこで今回は,サルコペニアの原因と,引き起こされる悪循環,その対応についてご紹介します。

サルコペニアの4つの原因

 上述のとおりサルコペニアには2つの定義がありますが,ここでは二次性サルコペニアを含めた広義のサルコペニアを軸に話を進めます。

 サルコペニアには加齢も含め,4つの原因があります(2)。加齢のみが原因の場合を原発性サルコペニア(=狭義のサルコペニア)といいます。高齢者においては,筋蛋白質同化刺激による筋蛋白質の合成促進反応と分解抑制反応が減弱しているために,サルコペニアが起こると考えられています3)

表 広義のサルコペニアの原因2)
原発性サルコペニア
 加齢以外の原因なし
二次性サルコペニア
・活動に関連(廃用,無重力)
・栄養に関連(エネルギー摂取不足,飢餓)
・疾患に関連(侵襲,悪液質,神経筋疾患など)

 一方,活動,栄養,疾患が原因の場合,二次性サルコペニアと称します。入院患者では,複数の原因による二次性サルコペニアが多く認められます。二次性サルコペニアのうち,活動に関連したサルコペニアは,安静,臥床,無重力などによって生じます。廃用症候群,廃用性筋萎縮はここに含まれます。また,禁食すると,嚥下筋のサルコペニアが認められます。

 栄養に関連したサルコペニアは,エネルギーと蛋白質の摂取量不足によって生じます。神経性食思不振症や不適切な栄養管理による飢餓はここに含まれます。

 疾患に関連したサルコペニアの原因には,侵襲,悪液質,神経筋疾患(多発性筋炎,筋萎縮性側索硬化症など)などがあります。侵襲とは,生体の内部環境の恒常性を乱す刺激です。具体的には手術,外傷,骨折,感染症,熱傷などがあり,急性の発熱やCRPの上昇が目安となります。高度の侵襲では,筋肉量が1日につき1 kg減少するといわれています。また悪液質は,近年新たに「併存疾患に関連する複雑な代謝症候群で,筋肉の喪失が特徴である。脂肪は喪失することもしないこともある。特徴は体重減少,食思不振,炎症,インスリン抵抗性,筋蛋白分解の増加である」4)と定義されています。その原因疾患には,がんだけでなく,感染症(結核,HIVなど),膠原病,慢性心不全,慢性腎不全,慢性呼吸不全,肝不全などが挙げられています。

引き起こされる悪循環

 さて,患者の身体において,サルコペニアはどのように進行するのでしょうか。3つの悪循環が,サルコペニアを進行させると考えられています5)

 第一に,サルコペニアにより転倒や転落の機会が増加します。その結果骨折を来すと,体動が減少,制限されサルコペニアがいっそう進行します。第二に,体動が減少,制限されるため摂食能力の低下,低栄養の進行,蛋白合成の障害を来し,サルコペニアはさらに進行します。第三に,アミノ酸プールの減少により,病気や外傷などで蛋白必要量が増加した場合の対応能が低下します。そのため病的状態からの回復が遅延し,サルコペニアはますます進行するのです。

 廃用症候群は,入院リハビリテーションの主要な対象障害の一つです。廃用症候群というと単なる安静や臥床による廃用性筋萎縮と考えられがちですが,実際には多くの高齢者が原発性サルコペニアを合併している可能性があります。また,栄養面では,廃用症候群の91%の患者で低栄養を認めたという報告があります6)。さらに,廃用症候群の原因疾患としては,大半の患者に「侵襲」が,一部の患者に「悪液質」が認められます。

 つまり,廃用症候群の患者には,サルコペニアの4つの原因すべてを認めることが少なくありません。同様に,誤嚥性肺炎の患者でも4つの原因をすべて認めることがあります。これらの原因が重複して悪循環を引き起こした結果,四肢体幹の筋肉や嚥下筋のサルコペニアが著明となります。この悪循環を断ち切ることが,サルコペニアの治療では重要なのです。

原因に見合った治療を

 サルコペニアへの対応はまず,その存在を疑うことから始まります。診断においては,「筋肉量の低下(例:若年の2標準偏差以下)を認め,筋力の低下(例:握力が男性30 kg未満,女性20 kg未満)もしくは身体機能の低下(例:歩行速度が0.8 m/s以下)を認める場合」という基準があります2)。診断基準を満たしていた場合,4つの原因の有無をそれぞれ判断した上で,原因に見合った治療を行います。

 原発性サルコペニアの場合,筋力トレーニングが最も有効です。分岐鎖アミノ酸やビタミンDが有効な可能性があります。

 活動に関連したサルコペニアでは,不要な安静や禁食を避け,少しでも早く離床や経口摂取を行うことが大切です。入院患者では「とりあえず安静,禁食」と指示されることがありますが,医学的にみて本当に安静や禁食が必要かどうか検証することが必要です。不要な安静や禁食の結果,寝たきりや嚥下障害になることは避けなければいけません。

 栄養に関連したサルコペニアの治療に必要なのは,適切な栄養管理です。筋肉量が少ないからといって栄養を考慮せず筋力トレーニングを行っても,この場合,筋肉量は減少する可能性が高いです。

 疾患に関連したサルコペニアにおいては,原疾患が侵襲,悪液質,神経筋疾患のいずれでも,まずその治療が必要です。同時に適切な栄養管理とリハビリテーションを併用します。疾患の程度によっては,筋力トレーニングはあえて行わないようにします。

 なお,複数の原因を有するサルコペニアならば,「リハビリテーション栄養」の考え方が治療に有用です。リハビリテーション栄養とは,栄養状態も含めてICF(国際生活機能分類)で評価を行った上で,障害者や高齢者の「機能,活動,参加」を最大限実現できるような栄養管理を行うことです。栄養障害を認める患者では,栄養管理とリハビリテーションとを併用することで,ADLやQOLの向上をより期待できます。スポーツ栄養のリハビリテーション版ともいえます。

 実際に,低栄養で不適切な栄養管理下に置かれている障害者や高齢者は多くいますが,例えばこうした人々に1日2-3時間の積極的な機能訓練のみを行っても,低栄養がさらに進行して筋力や持久力はむしろ低下します。「栄養ケアなくしてリハビリテーションなし」「リハビリテーションにとって栄養はバイタルサイン」なのです。

 サルコペニアの4つの原因をすべて認める場合には,原疾患の治療と適切な栄養管理を優先し,筋力トレーニングは行いません。機能維持を目標とした関節可動域訓練や座位訓練のみ行います。その後,ある程度原疾患が落ち着いて栄養管理が適切であれば,筋力トレーニングに進みます。

 リハビリテーション栄養の詳細は,拙書やブログも参照してください。筋肉は健康のバロメーターのひとつです。サルコペニアに適切に対応して,寝たきり,嚥下障害,呼吸障害を改善させましょう。

参考文献
1)Baumgartner RN, et al. Epidemiology of sarcopenia among the elderly in New Mexico. Am J Epidemiol. 1998 ; 147 (8): 755-63.
2)Cruz-Jentoft AJ, et al. Sarcopenia: European consensus on definition and diagnosis: Report of the European Working Group on Sarcopenia in Older People. Age Ageing. 2010 ; 39 (4): 412-23.
3)町田修一,他.サルコペニアの分子メカニズム.GM. 2010 ; 48 (2): 169-76.
4)Evans WJ, et al. Cachexia: a new definition. Clin Nutr. 2008 ; 27 (6): 793-9.
5)大村健二.高齢者における栄養管理のポイント.日外会誌.2010 ; 111 (6): 353-7.
6)若林秀隆,他.入院患者における廃用症候群の程度と栄養障害の関連:横断研究.臨床リハ,in press.


若林秀隆氏
1995年横市大医学部卒。2008年より現職。日本静脈経腸栄養学会評議員/首都圏支部幹事。日本摂食・嚥下リハビリテーション学会評議員。日本プライマリ・ケア連合学会代議員。入院リハビリテーションを行う患者に低栄養が多いことから,リハビリテーション栄養とサルコペニア治療の重要性を実感し,これらの普及をめざしている。編著に『リハビリテーション栄養ハンドブック』(医歯薬出版)など。ブログでも情報を発信している。