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第2886号 2010年7月5日


【Controversial】

ココモンディジーズの診療において議論のあるトピックスを,Pros and Cons(賛否)にわけて解説し,実際の診療場面での考え方も提示します。

敗血症性ショックの初期治療はカルバペネム+バンコマイシンで良いか?

柳 秀高(東海大学医学部講師・内科学系総合内科)


 敗血症の治療は時間との戦いである。適切な抗菌薬の開始が遅れると生存率は刻一刻と低下する(1)。敗血症のガイドラインでは1時間以内に必要な培養を提出した後で,十分広域な抗菌薬を開始することを推奨している2)

 有効な抗菌薬が開始されるまでの時間と生存率の関係1)


 しかしながら,中心静脈ラインや動脈圧ラインを挿入し,必要に応じて気管挿管し,適切な輸液,血管収縮薬,輸血,陽性変力作用薬を投与しながら,病歴聴取と身体診察,検査などから感染巣を推定し,可能ならばグラム染色も行った上で,1時間以内に適切な抗菌薬を選択することは至難の業である。さらに,近年ではMRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)や緑膿菌,ESBL(extended-spectrum β-lactamase)産生腸内細菌などによる重症感染症も増加してきており,この作業をさらに困難なものにしている3)。一方で,耐性菌の増加に対しては院内感染コントロールのみならず,抗菌薬の適正使用を推進する必要性も年々大きくなってきている3,4)

求められる初期治療

 敗血症性ショックの初期治療は,広域なカルバペネム+バンコマイシンの組み合わせで開始し,培養結果がわかってからde-escalationすれば良いだろうか。

 忙しい救急・集中治療領域では,カルバペネム+バンコマイシンであればとりあえずは臨床的に重要な細菌の大部分をカバーできることから,重症敗血症や敗血症性ショックのほぼ全例で使う,という極論もあるようだ。一方で,感染臓器や起因菌を推定し,グラム染色などでなるべく微生物を詰めてから,必要十分なスペクトラムを持った抗菌薬を選択する,というオーソドックスな意見も認められる。

Pros

 敗血症性ショックへの初期抗菌薬投与は生命予後に直結するため,近年の耐性菌の増加を考えると広域にならざるを得ないだろう。ガイドラインも「広域抗菌薬」を推奨している2)。MRSAや耐性グラム陰性桿菌などをカバーするためにカルバペネム+バンコマイシンで始めても,血液培養最低2セット以上を含めて適切な検体を培養に供するので,培養結果に基づいてde-escalationをきちんと行えば問題はない。

 救急・集中治療領域では感染症専門医にすぐアクセスできない環境も多く,呼吸循環不全への対処などで抗菌薬の選択について十分な時間が割けないこともあり,患者の安全を考えればなるべく広域なカルバペネム+バンコマイシンが選択されるべきである。

Cons

 一口に敗血症といっても,当然感染巣はさまざまである。免疫抑制剤とステロイドを服用中の腎移植後の患者が壊死性筋膜炎で敗血症性ショックになっている場合は,特に過去に耐性グラム陰性桿菌やMRSAの感染歴や定着を認めれば“カルバペネム+バンコマイシン”の組み合わせは適切であろう(クリンダマイシンも蛋白合成阻害の目的で加えるかもしれない)。

 しかし一方で,生来健康な高齢者で病院受診歴がない人が尿路感染,敗血症性ショックで搬送され,尿のグラム染色でグラム陰性桿菌が認められる場合も同じ組み合わせで良いだろうか? もしこれに違和感を覚えないならそれこそ異常である。百歩譲って,その医療施設でESBL産生大腸菌が高頻度で認められるので,ショックを離脱するまではカルバペネムを入れておきたい,というのは良いかもしれないが,バンコマイシンを必要とする理由はない。

 つまり,病歴(市中感染vs.医療施設関連感染,患者の免疫状態を含む),身体所見,一般検査(過去の培養結果を含む),画像所見から感染臓器,起因菌を推定し,グラム染色でさらに絞り込んだ上で,敗血症性ショックという後がない状況と自施設でのローカルファクターを考慮して,十分なスペクトラムを持った抗菌薬を選択するのが常道である1,2)。これを疑問視するのは,「どうして医療現場では病歴と身体所見を取らなければいけないのですか? その根拠は?」と,問うているのと同レベルである。

!私はこう考える

 私はConsを支持する。感染症の専門性があまり高くない救急,集中治療施設では,「カルバペネム+バンコマイシンの組み合わせを基本レジメンとして決めておいたほうが安全では?」という意見も一部あるようだが,これは必ずしも最善とは言えない。

 カルバペネムの使用量が多い施設では,緑膿菌のエンピリックなカバーにカルバペネムの信頼性が高くはないこともあり,個々の施設でのローカルファクターを把握することは非常に重要である。また,グラム陰性桿菌のカバーには,βラクタムに加えてシプロフロキサシンなどのキノロンを加えたほうが良いのか,トブラマイシンが良いのか,あるいはアミカシンでなければいけないのか,なども考えておく必要がある。

 また,基本的に「この組み合わせで」と決めてしまうと,当たり前のことだが“敗血症”という病態の診断まではできても,それ以上の確定診断に至ろうとする努力が行われなくなる。その結果,非定型肺炎,リケッチア,マラリアなど,この組み合わせではカバーできない感染症や疾患に足元をすくわれたり,壊死性筋膜炎や急性化膿性胆管炎などドレナージやデブリードマンが必要な病態を見逃す可能性もあるだろう。

 さらに,感染症に少しでも携わる人(ほとんどすべての医師に抗菌薬を処方する機会があるだろう)が認識すべき事実は,抗菌薬は使えば使うほど効かなくなる,ということである。降圧薬は多くの人に処方した結果,次の人の血圧を下げられないかもしれないということはない。しかし,抗菌薬ではこれが起こるのである。目の前の患者を救うことと同時に,将来の患者や広域抗菌薬の使用量増加で“汚染”され耐性菌の増加した“医療環境”のことも考える必要がある。現在,カルバペネムが無効なクレブシエラや,カルバペネムはもちろんポリミキシンBやコリスチンも無効なアシネトバクター,緑膿菌が報告されているにもかかわらず,これらに有効な薬剤を探索する手段が枯渇してきている現状5)をよく認識すべきである。

 もちろん敗血症性ショックでは後がないので,目の前の患者を救うことが重要であることは論をまたない。繰り返しになるが,呼吸循環状態を改善させながら,1時間以内に感染臓器と起因菌の想定を行い,患者の免疫状態,ローカルファクターなどを考慮し,十分なスペクトラムを持つ抗菌薬レジメンを投与するという常識的な方法を選択したい。

重要文献
1 Kumar A. Optimizing antimicrobial therapy in sepsis and septic shock. Crit Care Clin. 2009 ; 25(4) : 733-51.
2 Dellinger RP, et al. Surviving Sepsis Campaign : International guidelines for management of severe sepsis and septic shock : 2008. Crit Care Med. 2008 ; 36(1) : 296-327.
3 Siegel JD, et al. Management of Multidrug-Resistant Organisms in Healthcare Settings, 2006. Health care Infection Control Practices Advisory Committee(HICPAC). http://www.cdc.gov/ncidod/dhqp/pdf/ar/mdroGuideline2006.pdf
4 Dellit TH, et al. Infectious Diseases Society of America and the Society for Healthcare Epidemiology of America guidelines for developing an institutional program to enhance antimicrobial stewardship. Clin Infect Dis. 2007 ; 44(2) : 159-77.
5 Boucher HW, et al. Bad bugs, no drugs : no ESKAPE! An update from the Infectious Diseases Society of America. Clin Infect Dis. 2009 ; 48(1) : 1-12.


柳 秀高
1994年東大医学部卒。東大病院,公立昭和病院,虎の門病院,亀田総合病院,沖縄県立中部病院などで内科,救急医学,腎臓内科,呼吸器内科などを研修。2001年東海大総合内科立ち上げに参加。05年米国Wake Forest大感染症科臨床フェロー。08年より現職。