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第2860号 2009年12月21日


MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内


透析療法事典 第2版

中本 雅彦,佐中 孜,秋澤 忠男 編

《評 者》岸本 武利(阪市大名誉教授・泌尿器科学)

透析者の健康管理に必要な知識が集約された一冊

 医学書院より出版された『透析療法事典(第2版)』は初版から10年を経て,内容を一新進化させ編纂されている。エビデンスに基づいた腎不全に対する透析療法とその関連領域を網羅し,優れた編集により検索しやすい。また透析医学・医療のテキストブックにもなり得,透析医療にかかわるすべての人が必携すべき書の一つである。

 透析医学・医療は従来の身体系統的医学分類には入れることのできない学際領域であり,わが国では約半世紀前から腹膜透析,血液透析の血液浄化法が腎不全の救命手段として臨床に導入され,成果を挙げてきた。当初は安全で副作用の少ない治療法の開発が急務で,腎機能が廃絶し長期にわたるこの腎補助療法が人体にどのような影響を与えるか未知であった。また学際領域であるがゆえに,それぞれ異なった分野の医師が携わっていたため,皆が知恵を持ち寄り問題解決の努力を重ね発展させてきた。すなわち透析医療従事者は各系統的疾患の専門家のアドバイスを得ながら,透析者の身体全体を管理し生活指導を行ってきた。その成果を主に人工透析研究会(現日本透析医学会)に持ち寄り意見交換を通じ自己研鑽し,透析医学・医療の発展に貢献し透析医学を確立させ専門医制度を導入してきた歴史がある。その努力の積み重ねと経済発展に伴う医療費補助制度の充実とが相まってわが国の透析医療の普及を促し,世界に誇る治療成績を挙げるに至った。その成果を本書に垣間見ることができる。

 本書の内容はAKI(急性腎障害),CKD(慢性腎臓病)から腎不全,透析,腎移植と腎不全医療とその周辺に関する事項,さらに食事療法,患者福祉までと総括的に取り上げられ,透析者の健康管理に必要な知識がこの一冊に集約されている。編集者を含めた執筆者は約200名で,医師のみならず化学工学者,コメディカルと異なったバックグラウンドを持ったエキスパートで,それぞれの専門性を生かし長期にわたり透析医学・医療に真摯に取り組んで来られた実務家が中心である。各項目は豊富な臨床経験とエビデンスに基づいた見解が重要引用論文を添え,限られた字数の中でまとめられており理解を助けている。本書は臨床家にとって心強い味方になり,診療の質の向上に資すると期待する。

 たゆまぬ改善と提言で透析医療をより充実させることにより,透析者のQOLがより向上し社会復帰が促進され社会に貢献することを願うと共に,腎移植の普及を図り腎不全対策がより進展することを願う。

A5・頁592 定価5,460円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-00845-7


市中感染症診療の考え方と進め方
IDATEN感染症セミナー

IDATENセミナーテキスト編集委員会 編

《評 者》後藤 元(杏林大教授・呼吸器内科学)

すべての臨床医に贈る感染症診療の指南書

 79歳の女性。認知症があり,自宅で半ば寝たきりで過ごしていた。2,3日前から元気がなくなり,食欲も低下してきた。37℃台前半ではあるが微熱が出現している。胸部X線を撮ると右下肺野の透過性が低下しているようにみえる。血液検査では白血球数は4800/μLであったが,CRP(C-reactive protein)は3.2mg/dLと軽度ながら上昇していた。とりあえずキノロン系抗菌薬を経口で開始した。3日間使用したが,微熱は相変わらず続き,全身状態も改善がみられなかった。このため入院とし,抗菌薬をカルバペネムに変更した。しかし1週間経っても状態は同様であった。喀痰検査を行ってみたところ,Stenotrophomonas maltophiliaとMRSAが検出された。薬剤感受性成績をみるといずれもカルバペネム耐性である。そうか,だからカルバペネムは効かないのだ。この菌種を狙って抗菌薬を変更しようと今,考えているあなたにとって,本書は大きな助けとなってくれるであろう。

 感染症は,どの診療科であっても日常臨床の中で否応なしに対応を迫られる頻度の高い疾患である。しかし現在,わが国で感染症を専門としている医師は多くはない。ありていに言えば少ない。実際このような症例に遭遇したとき,的確なアドバイスを与えてくれる上級医がそばにいてくれないという状況は少なくない。

 こうしたわが国の医療環境の中で,感染症診療と教育を普及・確立・発展させたいという思いを持って活動を続けているグループが日本感染症教育研究会(IDATEN)である。毎年2回セミナーを開催し,全国から応募した医学生・医師を対象に,臨床感染症の考え方から各論まで幅広く講義している。しかしセミナーに参加できる人数は,当然のことながら限定され,すべての希望者を受け入れることはできない。そのような方たちにもセミナーの内容を伝える必要があり,またIDATENの教育内容のさらなる普及のために本書は発行された。

 冒頭の7ページに目を通すだけで,本書の意図は明らかである。「感染症の存在を考えるにあたり,発熱やCRPといった『いわゆる』炎症反応を示す指標に依存しすぎないことが重要である」「『CRPや白血球数上昇の程度=感染症の重症度』といった初歩的な誤解も散見される」「市中感染症ではきちんとした問診と身体所見の検討により7-8割の症例で問題臓器が絞れる」「臨床状況から得た情報をもとに原因微生物を想定することは,習慣的に塗抹や培養検査を提出することよりもはるかに重要である」。

 本書では,感染症診療の基本原則に引き続き,日常臨床でよく出合う市中感染症のマネジメントとして,肺炎,細菌性髄膜炎,皮膚・軟部組織感染症,骨・関節・軟部組織感染症,感染性心内膜炎,胆道系感染症,急性下痢症,尿路感染症,急性腹症,STI・骨盤内炎症性疾患,敗血症,急性咽頭炎・急性副鼻腔炎,深頸部感染症,腹腔内感染症・腸管穿孔の各疾患を取り上げ,おのおの実例に即しながら,その際の考え方と診療の進め方について具体的に示されている。

 引き続いて,臨床で重要な微生物と抗菌薬について解説されているが,いずれも冗長にならず,ポイントをおさえた大変わかりやすい内容である。

 2002年に「病院内感染症勉強会」として始まったIDATENが,その力を結集して本書をまとめられたことに敬意を表したい。

B5・頁216 定価3,675円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-00869-3

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