医学界新聞

連載

2009.09.07

研修病院見学ルポ
~いい病院のええとこ取りをめざして~

【第5回】トヨタ記念病院

水野 篤(聖路加国際病院 内科)


前回からつづく

特色

企業ベースの病院であり,福利厚生がしっかりしている。
プライマリ・ケアの習得を目的としたER研修重視の姿勢が明確である。
腎臓内科が教育内科という立場で展開している(プレゼンテーションなどの教育が主体)。
期間は短いがE-DUOというマイナー科のローテーションが必須。
カンファレンスは多くはないが,積極的姿勢により参加率が高い。

Profile
病床数:513床
救急車受け入れ台数:6133台/年(2008年度)
救急受け入れ人数:4万319人/年(2008年度)

Opening
 朝7時すぎにトヨタ記念病院に到着。予定より早かったが,受付で企画グループの方を呼んでいただいた。企画グループという部署が企業らしいと思いながら視聴覚室へと移動。モーニングカンファを見学した。

写真1 カンファレンスの光景:参加率はかなり高い!!

モーニングカンファ
 内容は「Arrhythmia(不整脈)」。1年目の研修医が症例と心電図を10例挙げ,2年目の研修医がOne Pointレクチャーを行う。カンファレンスの参加者は20-30人でかなりの人数が集まっていた。この参加率であれば開催側も満足であろう。どこの病院でもカンファレンスへの研修医の参加率の低さは,やはり悩みの種ではないだろうか……。ちらっと横をみるとサンドイッチやおにぎりと飲み物が大量に置かれており,参加者は食べながら聞いているようだ。モーニングカンファは週4回開かれているが,そのうち2回は病院がこのような朝食を用意してくれるという。終了後,企画グループの方から情報収集。いろいろな話を聞いたが1つ挙げると,やはり昨今のトヨタ自動車の事情により金銭面は厳しいとのこと。海外講師の招致などは,金銭的な理由で正直難しいと……,これだけの大企業だが企業病院というのは難しいものだなぁという印象を受けた。

 さて,質問後は今回の見学の窓口となっていただいた岩瀬三紀副院長とともに,病院の見学を開始した。

病院内の見学
 まず,救急(統合診療科)の様子を見学した。カーテンで仕切られたスペースに無造作にストレッチャーが置かれ,自由度はかなり高い。8ベッドで2次,3次対応を行う。かつて救急は最も整備が遅れていた部分だったが,新医師臨床研修制度の発足と同時に,日勤帯に研修医を教える科として統合診療科を創設。指導体制は着実に「カイゼン」を続けているようだ。3次救急指定病院ではないが,多発外傷患者も来院するとのこと。洛和会音羽病院(連載第4回)の救急外来と雰囲気は似ていた。

教育内科という立場
 病院の方針として,腎臓内科が教育内科として展開しているとのことであった。消化器や循環器のような検査手技が多い科では,カンファレンスの時間をとり,しっかり教育することは困難という意見からそうなったようであるが,興味深いアイデアである。教育内科のカンファレンスは毎日行われており,朝8時半からとのこと。筆者が見学させてもらったときには,既に入院患者の日々のプレゼンテーションはほぼ終わっている様子だったが,数例聞いたところ名前と現状を簡単に報告するスタイルであった。一方,新規入院患者のプレゼンは,見学にきた筆者を待っていてくれたようで,それから始まった。

 プレゼンは年齢・性別から始まり,既往歴,現病歴についてカルテやチャートを読み進めながら行うスタイル。総括として科内の医師との間でディスカッションをするという方法で行っていた。他の診療科では,このようなプレゼンを練習するカンファレンスはないということで,教育内科としての役割をここで担っている。

 今回の症例は,シャント導入目的(トヨタ記念病院では腎臓内科がシャントを作成する)で入院した糖尿病・高血圧の既往のある腎不全患者で,糖尿病と高血圧のどちらの要素が腎不全に強く関与しているか,という教育的な内容のもの。過去に一度,左冠動脈前下行枝の心筋梗塞に対してカテーテルインターベンションが施行されている。心房細動がありワルファリンは導入されているが,抗血小板薬はない。さまざまな状況が考えられるだろうが,その辺りを中心にディスカッション。時間はかなり余裕を持って用意されていた。

写真2 食堂の自動計算機

病棟と食堂へ
 カンファレンス終了後,2年目研修医と病棟の見学。システムは電子カルテである。聖路加国際病院では,処方切れなどのいわゆる“To do”のリストは紙媒体で行っているが,ここでは電子カルテ上のメールで行っている。このほか,オンラインで病院独自ガイドライン(抗菌薬など)が参照できるシステムとのこと。腎臓内科だけに透析室も見学させていただいた後に,食堂に同行。今回の見学で一番驚いたシステムがここにあった!! 食堂は職員の満足度も高く,自慢ということであったのでどんな形かと思っていたが,まず,味は薦めるだけあってやはりおいしい。そして驚いたのは料理の自動計算機があり,会計は無人。皿を載せたプレートを台に置くだけで値段がわかり,食後にカードで支払うシステムだ(写真2)。いろいろな病院があるが,このシステムは企業風でありかっこよかった。

そのほかには
 さて,話がそれてしまったが,そのほかに話を聞いたなかで興味を持ったのが,E-DUOという他の病院ではあまりみないマイナー科のローテーションだ。必須の研修項目となっているが,ポリクリの延長にすぎないという意見と,他院にはあまりないローテーションであり,良い教育になるという意見とに分かれている印象。個人的には眼科や耳鼻科も救急では結局必要であり,そこに主眼を置いて研修できるのであればかなり有意義だと考えている。

 アメニティであるが,研修医には机,ロッカーはもちろんあり,最新型ではないがパソコンが与えられるとのこと。また,研修医用の寮にはテニスコートやサウナ付き大浴場があり,さらにベンチプレスのようなトレーニング用具もあるとのことで,満足度は高いという。アメニティも素晴らしいようだ。

これからのトヨタ記念病院を支える人たち
 その後,再度救急に戻り他の研修医からも話を聞いた。皆モチベーションが高く,この病院を変えてゆこうという強い想いを感じた。研修医が自主性を持って病院の制度改革に行動を起こすのはなかなか難しいことであるが,そのようなことが比較的認められているような印象を持った。岩瀬副院長からも自由を認めるような雰囲気が感じられ,今後も積極性のある研修医がいれば,いろいろ面白い企画ができるような印象を持った。

聖路加国際病院との共通点
 寮のアメニティはトヨタ記念病院のほうが当然よいであろうが,病院としてのアメニティはともに良い。積極的に頑張ろうとしている研修医は,聖路加のチーフレジデントに雰囲気がかなり似ていた。トヨタではまだチーフレジデントを制度化していないようであるが,モチベーションがある医師がいれば,病院の雰囲気としてはピッタリ合いそうな気がした。

Point!
非常に良いアメニティのなかで,自主性の高い研修医。統合診療科と総合診療科的腎臓内科はこれからどのように進化するのか楽しみである。

つづく

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