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第2842号 2009年8月10日


MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内


地域医療テキスト

自治医科大学 監修

《評 者》武田 裕子(三重大教授・地域医療学)

「地域医療」を正面からとらえた待望のテキスト

 「『地域医療』があるのはわかるけど,『地域医療学』なんて学問,本当にあるんですか?」と質問されたのは,私が三重県の寄附講座に着任した直後であった。確かに,見わたすと教科書がない。地域医療連携や地域保健・福祉などに関する本はあるものの,「地域医療」を正面からとらえて一冊にまとめた書物はなかった。しかし,実際に地域医療に従事している仲間と会話すると,実践に役立つ知識や方法論,そして日々の悩みやジレンマにも確かに共通のものがある。何よりも,「うんうん,そうそう」と大きくうなずいてしまう患者さんやご家族とのエピソード,病院の中にとどまらない地域を挙げての活動には,伝えずにはいられない楽しさと感動が満載である。これを言語化,理論化できれば,「地域医療」のテキストになるのでは……と思い続けていたところ,ついに出た。自治医科大学監修『地域医療テキスト』である。

 医学教育モデル・コア・カリキュラムの改訂で新たに「地域医療」が導入されたため,大学の講義に用いる学生向けのテキストとして作成されたと聞いている。しかし申し訳ないが,この本を学生にだけ読ませておくのはもったいない。医師,大学教員に限らず,全国の地域医療関係者にもぜひお勧めしたい一冊である。特に行政の方々には,優れた入門書であると同時に問題解決のヒントが得られる本となっている。さらに言うと,地域の中で活動した経験があって初めて,この本の行間にあふれる熱い思いが心の底から理解できるのだと思う。

 実習前の学生の皆さんには,まず,冒頭の「ある地域医師の1日」と「12.外来診療」,最終章「24.ある家族に関わった経験から」を読んでほしい。個人的には最後の劇画調の挿絵にちょっと引いてしまったけれど,そこには地域医療ワールドが展開している。いよいよ地域に出かけていくことになったら,「13.入院診療」「14.在宅医療」「15.保健活動と健康増進」は読んでおこう。地域では,心の眼を開き,耳を澄まして直接に学んでほしい。書いたものでは伝えきれないのも「地域医療」なのである。現場で疑問や矛盾を感じたら,この教科書の別の章が理解を助けてくれるだろう。そして将来,いよいよ医師として地域の健康課題に取り組むようになったら,きっとこの本が頼りになる。さまざまなデータや解説,具体的な実践例が,多方面から考える枠組みを与えてくれるに違いない。

B5・頁224 定価3,990円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-00805-1


リハビリテーション序説

安藤 徳彦 著

《評 者》奈良 勲(神戸学院大教授・理学療法学)

本来あるべきリハビリテーション理念と実際

 本書『リハビリテーション序説』(医学書院,2009)は,リハビリテーション専門医および前横浜市立大学医学部リハビリテーション科教授として,長年リハビリテーション医学・医療に貢献されてきた安藤徳彦氏の業績の集大成ともいうべき名著の一つである。

 これまでも「リハビリテーション入門・概論」に関する著書はいくつか出版されている。しかし,単著としての本書には,安藤氏自身の実践的臨床・教育・研究活動を通じて実感され,思索してこられたもろもろの課題に関して,時には鋭く,そして全体的には親身なスタンスで言及されており,これまでの安藤氏の真摯な足跡が随所に記述されている。

 さらに,世界的視点に立ち,障害のある人々が社会の中でいかにとらえられてきたかとの内省を含め,過去・現在・未来の時空間を踏まえて,本来あるべきリハビリテーション理念と実際とについてバランスよくまとめておられる。単著として一冊の著書を仕上げることの苦労を体験している者の1人として,そのご苦労に心より敬意を表したい。

 本書の大枠は,「I リハビリテーション概論」「II 医学的リハビリテーション総論」「III 医学的リハビリテーション各論」から成る。それぞれの大枠は,リハビリテーションの神髄を一望するために欠かせない細部にわたる項目から構成されている。

 よって,本書は,医師や関連職種としてリハビリテーション医学・医療を志向する初学者はもとより,既に保健・医療・福祉現場をはじめ,教育・研究,さらに行政職として活躍してこられた方々にとっても,今後の課題を展望し,実践していく上で大きな示唆を与えるものと確信する。

 しかし,文中に「訓練」という用語が多用されていることが気に掛かる。安藤氏とは『理学療法ジャーナル』(医学書院)の編集委員として,十数年ほど一緒に仕事をさせていただいた。ジャーナルの企画内容をはじめ,投稿論文の査読についても,たいへん厳格でありながら,温かみとユーモアのあるパーソナリティに,リハビリテーション専門医としての深みを感じていたことが想起される。これは,医師だけに限らず,関連職への情熱と期待が込められていたためと思える。

 その過程で,『理学療法ジャーナル』編集室では行政用語としての「機能訓練事業」「職業訓練」などを除き,原則として「訓練」という用語の使用を自粛する方針で編集してきた。「訓練」という概念は,戦前・戦中の日本における軍国主義を反映して,上位から下位の者に対する規範を強要する印象が強いこと。馬や犬などの訓練・調教やテロリストの訓練などと使用され,リハビリテーションの理念と相反するからである。

 専門および俗称の用語の問題は,教育・実践現場での刷り込みの要素もある。初学者が手にする『リハビリテーション序説』としての影響力は大きいだけに,こうした用語に関しては慎重であってほしかった。

B5・頁208 定価3,570円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-00754-2


標準生理学 第7版

小澤 瀞司,福田 康一郎 総編集
本間 研一,大森 治紀,大橋 俊夫 編

《評 者》齋藤 宣彦(聖マリアンナ医大名誉教授・内科学)

臨床医も手元に置きたい生理学の教科書

 『標準生理学』は1985年に初版が上梓されてからすでに四半世紀が過ぎ,歴代執筆者の欄には斯界の泰斗が名を連ねている。本書は発刊以来,文字通り医学生用生理学教科書のスタンダードとなってきた。

 このたび出版された改訂第7版は,本文だけで1000頁を超え,カラーイラストも多く,各章の終わりには「学習のためのチェックポイント」が箇条書きで示され,巻末には「医師国家試験出題基準対照表」と「医学教育モデル・コア・カリキュラム対照表」が付されている。加えて44頁からなる別冊には,79項目に及ぶ論述試験問題「生理学で考える臨床問題」が解説付きで示されている。学生用としてこれ以上行き届いた教科書は類をみない。特に「生理学で考える臨床問題」は,臨床医を志す学生が生理学の重要性を意識することで学習へのモチベーションを高める効果がある。

 近年の医学・医療は,地を揺るがす巨大な列車のように轟音を立てながら驀進している。ぼんやりしていると,振り落とされそうな勢いで進歩しているといってもよい。筆者は,この列車から振り落とされないよう,しゃにむにしがみついているつもりなのだが,ひょっとすると本人も知らない間に,すでに振り落とされてしまっているのかもしれない。

 臨床医の場合,基礎科学の知識は大学を出て数年後にはそろそろ錆が出はじめ,臨床経験と反比例して学生時代の知識は化石となっていく。それを防ぐには,医学部卒業後も,(1)生理学をはじめとする基礎科学の教科書を気軽に開く習慣をつけることと,(2)最新の臨床医学の知識や技能を修得する努力をすることで,この2つは臨床医の生涯教育における必須科目である。臨床の知識は常に基礎科学に裏打ちされたものでなければ,病態解析が極めて浅薄なものになってしまうことは,臨床に身を置く者ならば皆,感じているに違いない。病態生理という言葉はいささか使い過ぎ気味だが,この言葉が頻繁に使われるゆえんは,生理学は日常の病態解析に応用可能な部分が多く,かつ他の基礎科学に比べて親しみやすいからだと思う。

 そこで,本書は学生用教科書の範疇にとどめておくべきではないという結論に至る。本書では,新しい基礎科学の知識のみならず,現在の卒前医学教育の目標や臨床医学への橋渡し的内容を備えてあることで,医師の生涯教育用教科書としての役目も意識してつくられていることがわかる。編集や執筆に携わった方々の慧眼に敬服する次第である。

B5・頁1200 定価12,600円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-00301-8

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