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第2835号 2009年6月22日


MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内


コルカバ コンフォート理論
理論の開発過程と実践への適用

キャサリン・コルカバ 著
太田 喜久子 監訳

《評 者》筒井 真優美(日赤看護大教授・小児看護学)

理論の説明だけでなく,その熟成過程も参考にできる書

 コンフォートとは,「緩和,安心,超越に対するニードが,経験の4つのコンテクスト(身体的,サイコスピリット的,社会的,環境的)において満たされることにより,自分が強められているという即時的な経験である」(p.15)と定義されている。本書は,こうしたコンフォート理論の説明はもちろんのこと,大学院における研究課題の明確化,理論開発などについても解説している。

 著者のコルカバ博士は1980年代の後半から,ケース・ウェスタン・リザーブ大学(CWRU)の博士課程に在籍し,その博士論文が本書の基になっている。「大学院在学中に,一般コンフォート質問票のパイロット研究を行った。それは,CWRUを修了するには不十分なものだった。そして指導教官は,本当にコンフォートは測定可能なのかを調べるための介入研究をするよう『ほのめかした』」(p.256)とある。私も同時期にニューヨーク大学の博士課程で研究をしていたが,同様に指導教官より「質問紙の開発には2年以上かかるが,それだけでは博士論文としては不十分である」と言われたことを記憶している。

 第1章「コンフォート研究との出会い」では,著者が博士課程に入学する前の出会いからコンフォートという看護実践の課題をどのように明確にしていったかが,順を追って明らかにされている。コンフォート研究が,本人のひたむきな努力とさまざまな学識者(大学教員,学会参加者,博士課程の仲間,学会誌の査読者,そして配偶者など)との交流の中で熟成していく過程を,丁寧に描いている。この章は特に修士課程,博士課程で課題を明確化する過程にある院生にぜひ一読してほしい章である。また,大学院の教育を担当する教員にとっては,カリキュラム構築の考え方だけでなく,大学院生に伝えなくてはならないことは何かなどの示唆となる。

 さらに,博士課程の院生にとって,p.7からの『概念分析』,p.17にある『分類的構造』の図,第6章「コンフォートの属性」にある『概念分析』,第7章「実験」にある『サブストラクション』,第9章「ミッションの更新」にある『アウトカム研究へのコンフォート理論の展開』(図9-3,9-4,9-6,9-7)などは具体的で参考になる。難を言えば,章のタイトルが抽象的なので,本文を読まないと内容が把握しにくい。付録に質問紙が紹介されているが,日本語訳になったコンフォートを測定する質問紙の信頼性・妥当性の検討が書かれていないので,これを使用するには著者の許可だけでなく,日本語訳の信頼性・妥当性の問い合わせも必要になろう。

 コルカバ博士が最終章を執筆する中,米国の同時多発テロ(2001年9月11日)が起こった。最終章で「どうか,覚えておいて下さい。私たちは皆,家族としての責務を果たしているときや疲れきっているときに,コンフォートを提供することが難しいことはわかっている。しかし,『誰かがそれをやらなければならない』」(p.222)と結んでいる。このミッションが本書には一貫して流れており,著者の看護観が伝わってくる。ぜひお薦めしたい著書である。

A5・頁308 定価3,360円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-00565-4


医療事故初期対応

前田 正一 編

《評 者》嶋森 好子(慶大教授・医療安全管理学)

医療安全を考え,医療事故に適切に対応するための必読書

 1999年に重大な医療事故が発生し,医療現場が必ずしも安全ではないことを,患者を含む国民皆が知ることになりました。2001年には,厚生労働省医政局に医療安全推進室が設けられ,医療安全の推進を国としても図ることが明確に示されました。各種検討委員会が設けられ,医療安全を推進するためのさまざまな取り組みが行われるようになったのです。それから約10年を経ましたが,果たして医療現場がより安全になったといえるでしょうか。

 医療現場での研究的な取り組みや他分野の知見を得て,安全のためになすべきことはある程度明らかになってきています。しかし,それがなされないままに10年前と同じような事故が生じているように思います。あらためて,医療現場でなすべきことは何かという視点で安全確保を検討するときではないかと考えます。

 本書は,そのような時期にふさわしい書といえます。本書のタイトルは,『医療事故初期対応』です。これまで報道されている医療事故の中で,長く紛争が続いている事故の多くは初期の対応が適切でないことから,患者側と医療者側にいわゆるボタンのかけ違いというような状況が生じて,関係者すべてが傷ついたままで修復が困難な状況に置かれているように思われます。

 本書の編集者である前田正一氏も,「はじめに」でそのことについて次のように述べています。

 「医療事故が発生した場合,それが真に解決されるか,あるいは訴訟・紛争に発展するかは,行った医療行為に過失があったか否かということよりも,事故の現場保存・原因究明から始まる一連の初期対応が適切に行われたかどうかに大きく影響されるように思われる」

 本書は,総論編と実践編に分けて述べられています。総論編の1章は,用語の定義と医療事故や訴訟の現状で,ここでは,日本の医療事故の現状や医療事故に関連する用語の定義が述べられています。2章は,本書のタイトルとなっている,医療事故発生時の初期対応について詳細に述べられています。

 3章は,事故調査について,調査委員会の設置や進め方について,また,エラーの分析手法としてのRCAの解説とそのトレーニングについても触れています。4章は,個人情報保護とカルテ開示について,具体的にガイドラインや記録で行うべきことなどが述べられています。これらの基本的な項目は,実際に事故が生じた場合,生じた事象についてどのように判断すべきか,どのような考え方で,何を行うべきかなど,事前に考えておくための参考になるものです。

 続く実践編では,これらの基本的な考え方に基づいて,実際に現場で起きている10の事例を用いて,どのような手順で何をすべきかについて,フローチャート形式で判断の進め方と行うべきことが述べられています。このフローチャートは,読者の医療現場で生じやすい事故事例を使って,事故発生時にどのように判断し何をすべきかを明確にしておくために役立てることができます。この事例そのものを用いて,現場の医療安全教育を行うことも可能です。

 本書は,医療現場で働く人々と医療職をめざす学生たちが,医療安全を考え,生じた医療事故に適切に対応するための基本的な考え方を身につけるための必読書です。

B5・頁232 定価3,990円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-00740-5

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