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第2833号 2009年6月8日


MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内


ティアニー先生の診断入門

ローレンス・ティアニー,松村 正巳 著

《評 者》松村 理司(洛和会音羽病院長)

ティアニー先生に学ぶ臨床推論のテクニック

 ローレンス・ティアニー先生の鑑別診断力の高さが披瀝されている本書が,好調な売れ行きであると先生自身の口から聞く機会が最近あった。誠に慶賀に堪えない。新医師臨床研修制度が開始されて5年近くになるが,研修現場で今も足りないものの一つに「臨床推論・診断推論の訓練」が挙げられる。初期研修医の学習対象が検査や治療手技になりやすく,病歴と身体所見から病気や病態の検査前確率を推定してゆく診断学が,なかなか王道に位置されないのである。

 ティアニー先生の真骨頂は,病歴のみに基づく診断と最終診断との一致率がことのほか高いことにあると思われる。厖大な臨床経験が頭脳の中に質高くまとめられているからであろう。その後に身体所見を加えて検査前確率を上下させるわけだが,先生にとって身体診察の寄与率はあまり高くはなさそうである。しかし,本書の5頁の文言に接すると,そうとばかりもいえないことがわかる。以下に抜粋する。

 「私は,最初の出会いの30秒間が,最も豊かな瞬間であると常に信じてきました。……このような観察は病歴はなくて,むしろ身体診察の一部と思われませんか。観察,打診,触診,聴診は病歴聴取の後にとられるものと伝統的に教育されてきました。しかし,実際には身体診察の一部分は,すべての医師にとって患者との出会いのなかにあります」

 診断推論法には,仮説演繹法,徹底的検討法,アルゴリズム法,パターン認識などがあるが,ティアニー先生が頻用するのは徹底的検討法(本書13頁にあるように11のカテゴリーに分類)である。パターン認識による一発診断もお得意だし,仮説演繹法も駆使できるのに,徹底的検討法にこだわられるのは,呈示症例に難問が多いため,また教育を楽しむためだと見受けられる。

 さて,本書の優れている点は,以下である。第1に,以上のようなオーソドックスな診断過程が,具体的な12症例を用いて臨場感豊かに展開されていること。ティアニー先生と松村正巳先生の共著の意味が納得できる。第2に,松村先生の訳がこなれていること。第3に,松村先生のティアニー先生への尊敬の念があちこちでみられるのだが,とても自然で,初々しく感得されること。第4に,大部でなく,週末を利用して読破できること。

 お二人の出会いがあったと聞く2002年春の京都での国際内科学会議の直前のエピソードを,今でも懐かしく思い出す。学会事務局から私(市立舞鶴市民病院勤務中)に連絡が入ったのである。「ティアニー先生との連絡が全くとれません。他の先生方は京都に前泊してもらうのですが……。既に日本におられるとの話なのですが,そちらでしょうか?」

 実はティアニー先生,当時の同院での“大リーガー医”招聘中の身分だったので,京都へは日帰りの予定だったのである。問題は,そのあたりを事務局に一切連絡していなかったので,右往左往を惹き起こした次第。皆がやきもきする中を悠々と数分前に到着との由だが,これはいつものこと。かように事務能力はゼロに近いのだが,米国でもClinical Masterの名をほしいままにされている生涯現役教師というのが憎い。

A5・頁152 定価3,150円(税5%込) 医学書院
ISBN978-4-260-00698-9


《脳とソシアル》
社会活動と脳
行動の原点を探る

岩田 誠,河村 満 編

《評 者》地引 逸亀(金沢医大教授・精神神経科学)

社会的行動の原点としての神経基盤を探る学際的アプローチ

 東京女子医科大学の前任の神経内科教授・岩田誠先生と昭和大学医学部神経内科教授の河村満先生の編集から成る本書は,2007年11月30日に岩田先生が東京女子医科大学弥生記念講堂で会長として主催された第12回日本神経精神医学会のシンポジウム「脳からみた社会活動」を基としている。

 ただし,実態はそのシンポジウムの域をはるかに超えて,シンポジストのみならず神経心理学や精神医学,脳科学,社会心理学,経済学,倫理学などに携わる臨床医や基礎系の医学者,心理学者,文学,経済学さらには工学系の学者までもが執筆者として名を連ねた甚だ学際的な書物である。

 編者らは先に『神経文字学――読み書きの神経科学』という編著を出版している。この従来の神経心理学の対象である失語や失行,失認,中でも読み書きという高次の機能の神経基盤からさらに進んで,本書のテーマは人間の行動,特に社会的行動の原点としての神経基盤についてである。本書は社会的行動の原点としての表情認知の脳内機構の章に始まり,意思決定のメカニズム,理性と感情の神経学の3章から成っている。

 特に3章は衝動と脳,損得勘定する脳,親切な脳といじわるな脳,倫理的に振る舞う脳の4項に分けられ,それぞれの行動や判断の神経基盤について記述されている。これらに代表される各項の軽妙なタイトルには大いに惹きつけられる。

 これらの社会的行動の脳内機構に関する所見の多くが最近の機能的脳画像診断,特にfunctional MRIからの知見に拠っている。表情認知や社会的認知には扁桃体や前頭葉内側部が重要な役割を担い,意思決定には前頭葉・大脳基底核,直感的に言い換えれば多分に近視眼的な損得勘定には前頭葉帯状皮質,先を読んだ高度の損得勘定には前頭連合野を中心とする皮質・皮質下の脳領域が賦活され,倫理的判断や行動には比較的全体の脳領域が関与するという。

 項の終わりごとに「こぼれ話」として岩田先生が書いておられる小話がユーモラスでしかも機知に富んでいて楽しい。また本書の「はじめに」と「おわりに」の河村先生が聞き手となった岩田先生との対談も,本書が岩田先生の恩師である故豊倉康夫先生の最終講義をきっかけとしていることや神経経済学,神経倫理学という新しいジャンルがあること,自閉症研究との関係,正直脳と嘘つき脳という言葉や脳の三極化のお話などからうかがえる岩田先生特有の明快な切り口,さらにはコンクリートジャングルに住むダニの話などは岩田先生が日常,周囲の何にどんな関心や考えを持って生活しておられるかうかがい知ることができ大変興味深い。各項を担当した著者らの高い研究レベルや熟練された論述もさることながら,岩田先生の幅広くしかも高い学識や見識,広い交友関係,軽妙洒脱で物事にとらわれない御人柄がうかがえる1冊である。

A5・頁220 定価3,570円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-00693-4


患者にやさしい
経鼻内視鏡ハンドブック [DVD付]

大原 信行 著

《評 者》河野 辰幸(東医歯大医学部附属病院食道・胃外科診療科長)

経鼻内視鏡のノウハウが凝縮された書

 創意工夫を満載した経鼻内視鏡検査の実用書が出版された。臨床の第一線で活躍されている大原信行先生の『患者にやさしい経鼻内視鏡ハンドブック』である。わが国は消化器内視鏡の分野において世界をリードする多くの臨床医,研究者を輩出し続けており,この著者もその一人といえる。著者は新しい診療ツールである経鼻内視鏡の臨床的意義をいち早く認識するとともにその問題点をも正確にとらえ,独創的な工夫を加え続けており,その詳細を余すところなく本書で示している。この姿勢こそが,困難な問題を創意工夫により解決し,わが国の消化器内視鏡技術を世界のトップに押し上げた多くの先達に通ずるものである。

 略歴にある通り,著者はもともと外科医としてスタートしており,本書に示された多くの工夫には外科医としての経歴をうかがわせるものが少なくない。そもそもツールとしての上部消化管内視鏡の目的と意義は何であろうか? 疾患の存在を確認しその性状をできるだけ正確にとらえること,表層性の癌であればその広がりと壁深達度を診断すること,あるいは特記すべき異常のない状況を確認すること,そして,可能であれば疾患の治療(処置)にまで利用することである。

 しかし,第一線の臨床医にそのすべてが求められているわけではなく,求められるのは治癒が十分に期待できる早期癌の拾い上げやさまざまな疾患の存在・確認診断であり,高性能内視鏡や拡大観察でなければ見えないような微小癌までを発見することではない。では内視鏡により咽頭から十二指腸までの上部消化管疾患を同定し,患者の利益とするためには何が重要か? 言うまでもなく,検査に対する患者のコンプライアンスを高めることであり,機器の性能を十分に引き出すための内視鏡医の技術だ。

 本書では,前処置と検査環境の整備,手技の実際,偶発症対策,そして多くの有用な器具が示されているとともに,DVDにより各技術が動的に体験できるよう工夫されている。特に,著者が積極的に行っている半座位・座位での検査手技は,内視鏡による上部消化管スクリーニング法の一つの方向性を示すものであろう。そして,画質の相対的低さなどスコープが細いための弱点を補うための対策や,分光画像の応用(FICE)法など,最新の技術にも言及している。

 これは著者がクリニックの院長としての多忙な診療の合間に,経鼻内視鏡の利点と問題点を十二分に認識しつつ,新たな技術につきものの道しるべのないさまざまな問題に対して心血を注ぎ工夫を重ねてきた経鼻内視鏡のノウハウが凝縮され示された書である。読者はそれを知ることにより,経鼻内視鏡が実は易しい検査法の一つであり,患者利益の多い新技術であることを理解するに違いない。

 新医療技術の開発と導入は一般的に患者への福音となる。同時に医療費の高騰をもたらす大きな要因でもあるが,経鼻内視鏡は費用効果比に優れた新技術である。今日,医師は制約の多い診療環境において,従来にも増して検査機器の有効活用が求められている。わが国の優れた上部消化管内視鏡技術を維持発展させていくためにも,このような第一線医師の取り組みには大きな意義がある。経鼻スコープを用いた上部消化管内視鏡を始めようとしている医師への入門書として,あるいは現に行っている医師への参考書としてのみならず,患者へ消化器内視鏡検査を勧める立場にある多くの第一線臨床医に読んでいただきたいゆえんである。

A5・頁140 定価4,410円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-00764-1


内科研修の素朴な疑問に答えます

小松 康宏,谷口 誠 編

《評 者》名郷 直樹(地域医療振興協会地域医療研修センター長/東京北社会保険病院臨床研修センター長)

研修医として,ここまで問題意識を持てたら大丈夫

 本書は89の「素朴な質問」と,それに対するエキスパートの答えから成っている。目次に並ぶ「素朴な質問」のリストを眺めるだけでも,本書の企画者の臨床的なセンスの良さが垣間見える。臨床的なセンスの良さとは,多分,臨床的な実力を反映している。研修医が見るべきは,まずこの目次の質問リストだろう。リストを見るなり,そうそう,こういうことで困っていたんだ,ぜひ読んでみたい,なんて思う研修医なら,もうかなりいけている。こういう問題意識を持っていれば,研修医としては,もう大丈夫という感じである。

 例として,一つの質問を取り上げてみよう。なんとなく,私の目を引くのは,次のような項目である。「術前検査はどこまで必要か?」。研修医は,こうした問いかけに対して,どう思うのだろうか。昨日の術前回診で,何かチェックし忘れた検査があったかもしれない。ちょっとこの部分を読んでみよう。そういう方向であろうか。しかし読んでみると,そこには意外なことが書いてある。例えば「病歴と身体所見に異常のない凝固異常は,手術のリスクとはならない」という記述がある。多くの研修医は,凝固系の血液検査の結果を術前にチェックしても,病歴で,鼻出血が止まりにくかったことがありますか,歯磨きのときに出血がありますか,青あざを作りやすいですか,生理のとき出血が止まらないことがなかったですか,などとは聞いていないかもしれない。セット検査でOKということでなく,個別の患者に応じて,リスクを特定して,必要な検査を選ぶことができるか。本書を読んだ研修医が,そういう方向へ行けるかどうか。本書の意義はそういうところにある。

 また,どの答えにも,エビデンスが引用されている。これも本書の特徴の一つだろう。ただ評者が得意とするEBMの視点から見ると,いろいろ言いたいことがある部分も多い。多くの引用が,単にエビデンスのあるなし,つまり,統計学的な有意差があるかどうかにとらわれていて,結果を定量的なところまで評価できていない。有意差の有無だけに言及する,というのはEBM実践の際の最大の落とし穴の一つである。ただ,このあたりまで踏み込んだ記述をするとなると,記述があいまいになり,結局どうしたらいいのか答えていないということになりがちだ。そうなると,「素朴な疑問」ではなくて,ちょっと「マニアックな疑問」という領域になってしまい,本書のコンセプトとずれてしまうかもしれない。たいがいそういう私の好みに走ると,わけがわからない本になる。そういうわけのわからない本にならないような落としどころが,「素朴な疑問に答える」という,より実践的なコンセプトなのであろう。

B5・頁312 定価4,935円(税5%込)MEDSi
http://www.medsi.co.jp

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