臨床研究の論文を正しく読むことは大切だけど,けっこう難しい(植田真一郎)
連載
2009.04.06
論文解釈のピットフォール
【第1回】
臨床研究の論文を正しく読むことは大切だけど,けっこう難しい
植田真一郎(琉球大学大学院教授・臨床薬理学)
ランダム化臨床試験は,本来内的妥当性の高い結果を提供できるはずですが,実に多くのバイアスや交絡因子が適切に処理されていない,あるいは確信犯的に除 去されないままです。したがって解釈に際しては,“ 騙されないように” 読む必要があります。本連載では,治療介入に関する臨床研究の論文を「読み解き,使う」上での重要なポイントを解説します。
「朝食を食べない子は学力が低い」あるいは「授業態度が悪い」なんていう記事を見たことがあると思います。「日経新聞を読んでいると成績が良い」「数学を勉強した人は収入が高い」とか何でもいいのですが,いかにも前者が後者の原因になっているような新聞記事はけっこう多いですね。荒唐無稽ではなく,適度にもっともらしいというか,そうかもしれないと思う人が出る程度の怪しさなので,受験が近づくと日経新聞を購読するような家庭も出てくるかもしれません。
これらはある意味で事実なのですが,この記事は事実を淡々と述べているのではなく,そこに因果関係があると謳っています。しかしよく読むと,このような因果関係は決して証明されていないのです。朝食を食べない家庭,朝食を作らない親は別の何かの象徴かもしれませんし,日経新聞は単に経済的余裕を表している可能性もあります。むしろそんなはずはないと疑うほうが,受験そのものにも,そしてきっとその後の人生にも役に立つと思います。
医学研究論文は正しいのか
では,医学研究はもう少し格調が高いのでしょうか? 学会や製薬会社の宣伝用記事にはけっこうこの手のものがあります。「AとBが相関する。したがってAはBの原因と考えられる」なんていう論文は多いですが,単なる相関はその因果関係を示唆するものではありません。
図1 利尿薬使用の増加は腎不全を増加させる? 著者らは利尿薬の使用率の推移と2年後の末期腎不全発生の推移が並行していることから,利尿薬使用と末期腎不全の発生は因果関係があるとの仮説を提唱した。 |
一見すると利尿薬の使用率と末期腎不全(透析導入や腎移植)の発生率は並行しているように見えます。統計学的にもこれが偶然起こる確率は0.8%に満たないと解析されています。論文の著者らはこの結果から利尿薬は腎不全リスクを増やす可能性が高いと述べています。これは正しいのでしょうか?
残念ながら,これはおそらく正しくありません。その理由はいくつかありますが,まずこの解析が正当なのかどうか考えてみましょう。この母集団はどこから来ているのでしょうか? まず同じ集団の中での利尿薬が処方されたかどうか,腎機能の推移をみたものではありません。2年ずらすという一見もっともらしい方法をとっていますが,別の集団です。そもそも血清クレアチニンが2mg/dlを超えるとサイアザイド系利尿薬は処方されないので,関連を見ることは困難なのです。
利尿薬の使用率の推移も,「高血圧でサイアザイド系利尿薬を投与されている患者の頻度」を表しているわけではありません。腎機能が下がればサイアザイドは減り,ループ利尿薬の使用は増加し,最終的に末期腎不全となれば必要なくなりますから処方されません。最大限譲歩して関連があるとしたら,利尿薬の処方が増え,血圧が下がり,脳卒中や心筋梗塞のリスクが下がったため,腎機能...
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