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第2825号 2009年4月6日


【特集】

新研修医に贈る
院内を駆け回るための15のTips


 新研修医のみなさん,いよいよ病棟に配属ですね。忙しく院内を駆け回るに際して,まず大事なのは院内コミュニケーション。医師としての知識や技術も大事ですが,まずはホウレンソウ(報告・連絡・相談)や指示出し,タイムマネジメントなど,社会人としての基本ルールを学びましょう。今回は,病院各部署の専門家5名に,院内を気持ちよく駆け回るためのTips(ヒント)を3つずつ伝授してもらいました。


原田 賢治(東京大学医学部附属病院医療安全対策センター長 医師)


Tips1 できることと,できないことを,謙虚に見極める

 うまくいかない場合の引き際の見極めや,わからないことは聞き直す,できないことは助けてもらう,知らないこと・やったことのないことは教えてもらう謙虚さが大事です。

悪い例
・患者さんが痛い痛いと言っているのに,点滴を入れようと何度も針を刺した(神経損傷や動脈損傷など事故のもとです)。
・使ったことのない器械を,似たような器械を使ったことがあるから,と考えて使った。
・「坐薬を5錠処方しておいて」と言われて,一度に5錠挿入しようとした。
・「5mgを10に増やして」と言われて,5mg(1アンプル分)から50mg(10アンプル分)に増やした(わからないならば,「10というのは,10mgですか,10アンプルですか?」と聞き直すべきです)。

Tips2 伝えたくないこと,良くないことこそ,早く伝える

 うまくいかなかったときに,どう対処するかがプロとアマの違いです。想定外のことが起こった場合,特に失敗した場合には,「伝えたくない」という気持ちになるかもしれません。しかし,うまくいかなかった,という焦りが,さらに次のミスを引き起こす危険性があります。うまくいかなかったときは,自分だけで対応せず,指導医の指示を仰ぎましょう。

 伝達のコツとして,状況・背景・評価・提案の4項目を意識して伝える,ということが大事です。中島和江先生(大阪大学)の『アニメで学ぶ医療安全 「生死を分けるコミュニケ-ション技術」』(DNPアートコミュニケーションズ)がわかりやすく,参考になります。

Tips3 キーとなる人やポイントをつかむ

 忙しさに流されないために,節目節目をしっかり押さえて自分でコントロールしましょう。作業の分岐点,特に,患者への影響が出る分岐点を意識しましょう。

良い例
・ナースに連絡を行う場合に,そのフロアのリーダーナースを把握しておく。
・指示変更は,指示書(指示システム)を変えるだけでなく,ナースにもひと言「変えたよ」(手数をかけて申し訳ないけど,の気持ちで)と伝える。
・不在のときは,誰が代理かを,フロアのナースにも伝えておく。
・点滴をつなぐ直前に,ボトルの患者氏名と薬剤を再確認する(間違いを,患者への影響が出る前に見つける)。
・自分でオーダーした検査の結果は,自分で見る,記録する。
・患者さんの家族にキーパーソンを見つける。
・健康診断,予防接種(HB,インフルエンザ)は必ず受ける(自分のためだけでなく,患者を守るためでもある)。
・メモ書きや,スケジュール帳を活用する。
・日々のあいさつ(開始と終了を意識する)。

ひと言メッセージ
 Know howとKnow whyの両方を学んで,どうやったらうまくいくかだけでなく,どうやったら危ないかを予測できる,謙虚でかつ熱意を持った医師をめざしてください。


山中 喜代治(大手前病院医療技術部長・臨床検査技術部長 臨床検査技師)


Tips1 餅は餅屋。物事は専門家に聞け

 研修医は広域基礎知識を身につけて現場に配属されますが,一気に多方面からの情報が押し寄せ,混乱すると思います。人工呼吸器の使い方とメンテ,MDRP感染症治療,嚥下障害のケア,放射線治療へのアプローチ,細胞診や組織診の判断,生体検査や検体検査の流れ,栄養指導,リハビリの進め方などなど,上司に聞きにくい場合や緊急的判断の助言が必要なときは,医療技術系のスタッフ(各専門家)を頼りにしてください。

Tips2 美顔で美声が最高

 決してイケメン顔やモデル顔,そしてウグイス嬢になることを勧めているわけではありません。《親のしつけが問われるような態度》を指摘されないよう注意したほうが得です。

 すなわちできるだけ,ニコニコ(ニヤニヤではない)していること。できれば毎朝鏡を見ながら確認するとよいでしょう。そして,電話は丁寧な会話と少し高いトーンの美声で,最後に「ありがとう」を加えると喜んでもらえます。

Tips3 画面より顔面

 電子カルテによるオーダー,患者管理の膨大なデータ分析を画面上ですべて処理しているのが現状です。ですから,ついつい患者さんの顔を見る時間が少なくなり,訴えを聞く態度もおろそかになってしまいます。さらに,看護師さんへの指示も検査処置指示も画面で済ませてしまうことになります。どんな先生かも知られないうちに2年間の研修を終えてしまうことにならないよう,患者さんとその家族,そしてスタッフの顔を“いちばんにみてあげてください”。

ひと言メッセージ
 医師は科学者であり,哲学者であれ。哲学“Philosophy”はギリシア語で「愛」と「知」という言葉から成り立ったそうです。「知を愛し」,ノーベル賞をめざしてください。


黒木 信之(名古屋第二赤十字病院 医療社会事業課課長 医療ソーシャルワーカー)


Tips1 急性期病床からの転院は複雑。患者の条件に合う転院先を選択しよう

 医療機関は,医療機能分化,出来高払いや包括払いの導入で大きく変化している。患者の条件(年齢・病名・ADL・医療依存度・薬の量など)により,受け入れ先は,一般病床(出来高払い),亜急性期病床(包括払い),回復期リハビリテーション病床(包括払い),療養病床(包括払い),緩和ケア病床(包括払い)など大きく変わる。

 急性期治療の終了後,治療継続が必要か,機能回復が必要か,また長期介護が必要か,緩和ケアが必要かの評価で転院先が決まってくる。患者の条件に合う転院先を選択しないと相手の医療機関とトラブルが生じてしまう。地域連携パスの診療報酬評価でますます地域との連携が重視されている。

Tips2 医療費の自己負担は,年齢・所得で異なる。医療保険の仕組みの理解が大切

 医療費は加入している医療保険・年齢によって自己負担が異なる。またその自己負担も医療制度改革の中で年々増大している。医療費といっても,入院にかかる医療費と外来にかかる医療費とでは,患者の利用できる制度の違いで大きく自己負担が変わってくる。さらに入院にかかる医療費では,入院期間の短縮化で,例えば1泊2日の入院であっても,高度な治療を行えば百万円単位の自己負担が生じる。またDPCの導入により,がんの治療等の高額な医療を外来で行うことになり,外来1回あたりの自己負担も高額になっている。2008年には後期高齢者医療制度が始まり,75歳以上の高齢者の医療費は自己負担の増大かつ複雑な仕組みとなった。

 いずれにせよ医療保険の仕組みを理解しておくことが大切である。

Tips3 がんの末期,高齢者や障害者の在宅療養は,往診医と訪問看護,介護保険・自立支援法サービスのセットで

 入院中の重度の難病患者,老衰の患者,末期がんの患者などで在宅での療養を希望する方々が増えている。2006年から24時間対応の在宅療養支援診療所が診療報酬で評価された。訪問看護や介護保険のサービスを利用して,自宅で療養し最期まで看取れるようになった。

 在宅における療養の実現のためには,患者家族の思い・病状・ADL・必要な医療処置・家族の介護力・自宅の状況・地域で利用できるサービスの内容で,在宅療養ができるかどうかを評価することが必要になる。適切な在宅療養実施基準のもとに評価を行い,地域の関係機関と連携して患者,家族をサポートする体制を作ることが重要である。

ひと言メッセージ
 国の医療費抑制政策で,医療機関は在院日数の短縮を求められている。クリティカルパスや地域連携パスの導入で医療が流れ作業のように行われている。感情のある人間を治療していることを意識し,不安な気持ちを受けとめられる医療を行うことが大事である。


大谷 道輝(東京逓信病院 薬剤部副部長 薬剤師)


 薬剤師は処方せんをもとに業務を行っています。処方せんを見ると,医師の力量がわかると言っても過言ではありません。薬物療法は診断と同様に大切です。そこで,薬の処方に大切な3つのTipsを書きました。これを参考にして,研修医のうちから美しい処方が入力できるよう心掛けてください。

Tips1 頓用薬はきちんと指示を

 解熱鎮痛薬や睡眠薬などは頓用として処方する場合が少なくありません。これら頓用薬では指示が不十分な場合があります。次の例を見てください。

 Rp. マイスリー錠10mg 10錠

 眠れないときに1回1錠

 このような処方では,1日何回まで飲んでいいのかわかりません。そのため,患者が中途覚醒のたびに服用して,翌朝にふらついて転倒するなどの事故が発生しています。マイスリー錠は医療用医薬品添付文書の【用法・用量】の項に「年齢,症状,疾患により適宜増減するが,1日10mgを超えないこととする」と明記されています。処方では「眠れない時に1日1回1錠まで」などと1日の制限量を記載することが大切です。下剤のラキソベロン液でもしっかりと指示をしなかったために,新人看護師が誤って患者に1本すべて服用させた事例があります。

Tips2 処方は薬を理解して

 他院から転院されてきた患者などの場合,以前に処方されていた薬をそのまま処方する研修医が少なくありません。処方内容について薬剤師が疑義照会をした場合でも「処方するように指示されたから」と主治医や看護師から指示されて,そのまま処方した場合も少なくありません。薬を処方する場合には必ず調べた上で,処方を継続する必要があります。

 Rp. リピトール錠10mg  1錠

 1日1回1錠 夕食後 7日分

 この処方は他院からの処方に基づいて,処方した例です。用法・用量では問題はありませんが,実際には他院ではリピトール錠の5mgが処方されており,規格に注意しなかったために,倍量服用させてしまった事例です。病院によって採用している規格含量が異なることから,よくある間違いです。

 他院からの処方でも,その薬が何のために処方されていたかを確認して,必要に応じて整理してから処方することが大切です。

Tips3 処方はできるだけ早い時間に

 研修医は多忙で処方の入力を忘れたり,遅れたりすることがあります。薬剤師は急患や入院患者の容態急変時の対応に1人で夜間当直をしています。そのため,入力を忘れたものを夜間に処方すると,時間がかかることや1人で調剤から鑑査まで行うために,リスクが増える場合があります。看護師も調剤が終わった薬を確認して,患者に与薬するのに急ぐ必要があり,他の業務が圧迫されるだけでなく,リスクが高まりますので注意してください。

 医師の処方入力の確認や催促は本来の看護業務ではありませんが,多くの時間を費やしているのが現状です。このようなことを催促されないようになることが「できる研修医」への第一歩です。

ひと言メッセージ
 薬剤師は薬の専門家です。最近では病棟にいる機会も増えています。薬について少しでもわからないことがあれば,気軽に声をかけてください。薬剤師は臨床現場で研修医の強い味方になると信じています。


阿南 誠(国立病院機構九州医療センター医療情報管理室長 診療情報管理士)


Tips1 「壁に耳あり,障子に目あり」,始まった流出は止まらない……

 刑法の第134条に,「医師,薬剤師,医薬品販売業者,助産師,弁護士,弁護人,公証人又はこれらの職にあった者が,正当な理由がないのに,その業務上取り扱ったことについて知り得た人の秘密を漏らしたときは,6月以下の懲役又は10万円以下の罰金に処する」とある(秘密漏示)。秘密の流出,これは患者の投書等によって発覚することがあるが,例えば,エレベーターの中で患者の秘密を話していた,カルテをこれみよがしに持っていた,居酒屋で患者の話をしていたなど,バリエーションは豊富である。また,受診の事実そのものが秘密だという意識も持たなければならない。何気ない行為が,刑法犯とされる可能性を生み,場合によっては損害賠償事件に発展することもある。

 最後にわれわれの経験を話しておこう。患者の職場の上司への病状説明という(当の医師にとっては)ささいな行為が,1年分の患者の年収に相当する損害賠償事件に発展したことがある。いつ何時も,聞かれている,見られているという意識を持って診療にあたってほしい。

Tips2 カルテを書かない医師は罰金!!

 医師法第24条に,「医師は,診療をしたときは,遅滞なく診療に関する事項を診療録に記載しなければならない(以下略)」とあり,医師に対する診療録の記載義務が規定されている。「遅滞なく」は,合理的説明がつけば遅れてもよいことを意味し,合理的説明とは,救急患者が搬送,その対応のために診療録の記載が中断された場合等を指す。通常は,遅くてもその日のうちには記載しなければならないとされる。

 実は,この義務違反に対しては罰則が存在する。同じく医師法の第33条の1に,違反した者に対して,50万円以下の罰金に処する,とある。その対象は,診療録の記載義務違反,医籍の登録違反,無診療投薬,無診療診断書作成等である。もっとも,医師法の規定以前に,例えば,不幸にして医療ミスではないかと糾弾された場合,医療者を守るのは,まず適正な記録だということを理解してほしい。逆に,適正に記載された診療記録が有事の際に医療者を救うことをわれわれは何度も経験しているのである。

Tips3 これって秘密漏洩? 保険会社と面談していいの?

 診断書の作成後,保険会社等の第三者から記載内容をより詳細に知りたいと面談を求められることがある。記載不備の確認等であれば誠意を持って対応すべきであるが,その多くは,保険金の給付をめぐっての確認である。

 医師法の第19条に,「診療に従事する医師は,診察治療の求があつた場合には,正当な事由がなければ,これを拒んではならない」という有名な応召義務規定があり,続いて「診断書若しくは検案書又は出生証明書若しくは死産証書の交付の求があつた場合には,正当の事由がなければ,これを拒んではならない」という規定がある。

 すなわち,患者への義務はあるが,それ以外の第三者に対しては,何らの義務が定められているわけではない。また,第三者は患者の「同意書」を持参することが多いが,そもそも,患者の同意が存在しても医師が応じる法的義務はない。では,どう対応すべきか。前述のように,患者に対しての義務はあるので,患者自身から申請してもらい,言った,言わないというトラブルを回避するためにも,診断書等の文書として回答するのである。

◆ひと言メッセージ

 これらのケースについては,過剰に恐れる必要はない。しかし,不安があったら必ず上司や情報を管理している部署に相談してほしい。

NEWS◆2009年度マッチングスケジュールが医師臨床研修マッチング協議会から発表された。臨床研修見直しに伴うプログラム変更手続きに対応できるよう,例年より1か月程度遅いスケジュールとなっている。詳細は同協議会HPを参照のこと。