MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内
2008.04.28
MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内


有田 眞 監修
犀川 哲典,小野 克重 編
《評 者》平岡 昌和(東医歯大名誉教授・循環器学)
再注目のQT間隔の知識を詳細かつコンパクトにまとめた一冊
心電図のQT間隔は日常臨床で簡単に計測できる指標でありながら,詳しい成因,正確な測定法,心拍数の変動をはじめとする様々な修飾要因とその意義,致死的な不整脈の予知など,利便性・重要性が認められながらも未解決の問題が多い,古くて新しいトピックスである。特に最近では遺伝性QT延長症候群の研究が進み,薬剤投与によるQT延長の発生から致死的な不整脈に至る副作用(薬物誘発性QT延長)が,薬物の開発・臨床応用への大きな障壁ともなっている。QT間隔は単に心電図の1指標にとどまらない臨床的にも意義の高いパラメータである。本書ではQT間隔をめぐる基礎から臨床上までの問題点を幅広く取り上げ,それぞれの最新の知見を解説したものである。
QT間隔が再び注目を浴びたのは,遺伝性QT延長症候群の研究により分子・遺伝子の異常とその機能的背景が解明され,心筋活動電位を構成するイオンチャネルの欠陥が疾病や病態の発現に直接寄与することが明らかとなったことによる。さらにこれらの研究や臨床報告から多くの薬物がQT延長の副作用を有することがわかり,その機序は多種類のKチャネルのなかで,QT延長症候群の原因遺伝子の一つであるHERG(KCNH2)Kチャネルを特異的に抑制するためであることが判明した。すなわち,QT間隔には分子・遺伝子レベルの病態発現から薬物使用時の副作用,新薬開発への障壁に至るまでの幅広い問題を包括している。
個々の心筋細胞の再分極のイオン機序は解明されてきているが,QT間隔の定義は心室の興奮の開始から再分極の終了までの時間とされるものの,今やその過程はとても複雑であることが知られており,どの時点・部位がQT間隔を示しているのかはわかりにくい。実際にQT間隔を測定するうえでは,目視法からコンピュータを用いての計測まであるが,T波の最終点,U波との識別など,その判定には意見の一致がない。
本書においては,QT間隔の心拍数変動とその補正,男女による正常値の違いとそのイオン機序,自律神経その他の体液性因子による調節,抗不整脈薬を含む心臓薬・非心臓薬など広範な薬物のQT間隔への作用,QT間隔の延長や逆に短縮によりもたらされる病態,各種病態におけるQT間隔の変化と成因などについて,最新の知見が記述・解説されている。執筆には,わが国で活躍中の専門家・中堅の研究者・循環器専門医のエキスパートがそれぞれの章を担当しており,各章において理論的背景,機序,最新の知見が詳細にかつコンパクトにまとめられている。
特に各章において「読者と一緒に考えるQ&A」として,詳しい分子レベルの質問から日常臨床でふと気がつく疑問などを取り上げて,簡潔にかつわかりやすく解説がなされている。本文でも理解できない,あるいはふと「何故だろう?」と気になる疑問点について納得する説明を得られる。各章の内容については基本的な事項から最新の知見までが含まれており,QT間隔に関連する基礎知識の有無にかかわらず,読者には恰好の書となるであろう。あえて欠点を挙げれば,分担執筆のために一部の重複や記述の重要度の認識がされにくいかとも思われるが,そのために本書の価値が落ちるものではない。
B5・頁276 定価6,720円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-00508-1


鈴木 明子 監訳
福田 恵美子,河野 仁志 訳者代表
《評 者》守口 恭子(健康科学大教授・作業療法学)
治療的作業療法の方向を示したフィドラー60年の歩みの集大成
人々によって繰り返し続けられている生活の営みは,いつの日か気がつくと文化や風習になっている。私たちが毎日取り組んでいるアクティビティ(本書では作業と同義に使われている)も日常的で現実的であると同時に,その背景にある学問分野は,深遠な形而上学的な広がりをもつと,原著者G.フィドラーは主張する。アクティビティは遂行者の動機づけがあり,個人の行為には相互関係があり,人間の心理,社会的,文化的背景などのさまざまな切り口で論ずることができ,単なる目の前の現実を超えて,象徴化し,対象化できるものなのである。
原著者のG.フィドラー(1916-2005)は米国の作業療法の基礎を築いた一人であり,作業療法が用いるアクティビティを各要素に分析し,力動的に論じて治療的作業療法の方向性を示した人である。本書は,そのフィドラーの60年の歩みの集大成ともいえる。日本の愛弟子である本書の監訳者の鈴木明子氏に,重篤な病を経たフィドラーから日本語に翻訳してほしいと手紙が来たことで翻訳作業が開始されたという。媒介となる言語そのものも文化を色濃く反映するので,現実のアクティビティを象徴化するプロセスを縦横に語る本論に向き合う翻訳作業は容易ではなかったに違いない。監訳者・訳者の多大な尽力に敬意を表する。
内容は全13章で構成される。アクティビティは象徴化できるもので,人との関係においてダイナミックに変化する。またその重要性は測定でき,立証できるものだという第1章から始まり,平凡な日々のなかで気づかずに過ごしていることが,象徴化の過程...
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