医学界新聞

寄稿

2008.04.21



【視点】

医療のパラダイムを変革させるキネステティク

徳永恵子(宮城大学教授)
只浦寛子(宮城大学講師)


 宮城大学では2000年からキネステティク概念を応用した看護に関する研究・啓発活動を始め,07年日本キネステティク研究会を設立しました。

 キネステティク(Kinaesthetics)とは,動きと動きから生じる認識についての学問で,人間が本来備えている身体の自然な動き,動きの感覚を人との関わり(コミュニケーション手段)に応用することを主なテーマとしています。

 キネステティクの動きの支援はモビリゼーション(Mobilization)であり,そこには動かすこと,動かして生きる力をも活性化させるという意味が含まれています。日本の看護における動きの支援技術は数十年来メカニカルな方法を追求してきました。しかし,人間は身体と心を持つ社会的な生き物であり,「人は地球という重力磁場において動きを生存の原則として生きており,運動は絶え間ない遺伝子への働きかけである」と跡見順子氏も述べています。動きの支援目的は「人が目的点まで動く」という物理的な移動のみではなく,また褥瘡予防や気分転換だけであってもなりません。看護はホリスティックな支援をめざす学問ですが,この動きの支援はホリスティックな支援,つまり「看護」でなくてはならないのです。

 キネステティクでは,患者は動かされるのではなく動く主体であり,看護師・介護者は,動きを“支援する”側として患者と一緒に動くことを基本とします。そのため,患者はまるで自分で動いているかのように感じ,世話になる心的負担から解放され,不安や恐怖,苦痛を感じません。自尊心を取り戻し,自己効力感を育み,生きる意欲を高めることができるのです。

 現在,高齢化による「寝たきり高齢者」の増加をはじめ,褥瘡発生リスク保有者は確実に増加しています。この状況を受けて褥瘡を社会的問題として捉える必要性が認識され,診療報酬改定にも影響を与えてきています。加えて近年,安静の功罪が改めて明らかにされてきており,キネステティク概念の看護への応用に対する関心は高まっています。

 キネステティク概念が皆様に真に理解され,実践の場で具現されるならば,ケアの対象となる方々の活動性,セルフケア,そして生命力に焦点をあてたホリスティックなケアが提供される医療へのパラダイムシフトを実現できるでしょう。

 

“生きることが動くことなら,動きを支援することは命を支えることである。”

◆第1回日本キネステティク研究会は2008年7月12日(土),宮城大学大和キャンパスにて開催される。
 http://www.myu.ac.jp/~jka/index.html


徳永恵子氏
聖路加看護大卒。1997年より宮城大看護学部教授。2000年にキネステティクを日本で初めて学術的に発表。07年より日本キネステティク研究会代表世話人。

只浦寛子氏
山形大医学部看護学科卒。東北大大学院医学系研究科修了。臨床を経て2003年宮城大看護学部助手,07年より現職。08年8月より客員研究員としてドイツへ留学予定。

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