医学界新聞


外科学を取り巻く環境改善に向けて

2007.05.21

 

外科学を取り巻く環境改善に向けて

第107回日本外科学会開催


 第107回日本外科学会が門田守人会長(阪大)のもと,さる4月11-13日,大阪国際会議場・リーガロイヤルホテル(大阪市)で開催された。大会テーマは「社会と共に進化する外科学――Changing Society,Evolving Surgery」。手技や治療知識のBrush upのみでなく,医療を取り巻く環境が著しく変化する中で,外科学が果たすべき社会の役割について考える場になった。特別企画では,がん治療における外科医の役割や,専門医制度のあり方,医療の安全確保などについて討論された。


 大会テーマと同題で行われた会長講演では,日本外科学会が会員1276人に対して行ったアンケート調査結果を報告。外科医の抱えている問題ならびに外科志望者の減少の主な理由が,(1)長時間勤務,時間外勤務が多い,(2)労働に見合わない報酬,(3)高い医療訴訟リスク,に集約されたと説明。(1)に関連する当直明け勤務について,「医療事故防止の観点からも改善が必須」とし,主治医制から時間単位で治療を担当する交代勤務制への移行や,コメディカル・医療事務スタッフを充実し,外科医業務以外の負担軽減の必要性に言及した。

 問題解決に向けて,いままで外科学の発展・進歩にのみ重きを置き,社会との対話を疎かにしてきた学会としての責任にも言及。今後は社会的問題に対して継続的にとり組んでいくとともに,関連団体との連携,行政へ必要な措置を求めるとした。

外科医の地位向上にむけて

 患者・メディア・外科医-女性・若手・勤務医-などさまざまな視点から外科医を取り巻く環境と改善について論議された特別シンポジウム「外科医の地位向上にむけて」(座長=長崎大・兼松隆之氏,東大・名川弘一氏)では,はじめに田林晄一氏(東北大)が「外科医の処遇改善をどうするか?」と題し,労働環境・待遇・教育体制・医療事故の4点について口演。労働環境について医療の分業化の遅れを指摘。コメディカルの拡充と医療行為の範囲拡大や施設の集約化などを改善対策として挙げた。

 「正しい情報がないままでは医療崩壊は加速,立ち上がれ外科医,さもなくば外科医の地位向上は望めない」と参加者に檄を飛ばし,本田宏氏(埼玉県済生会栗橋病院)は口演を開始した。患者と医療関係者の間には深い川が流れているが,その溝を埋めるためには「現場の真実が不可欠」と医師の声を上げていく必要性を強調した。

 川瀬和美氏(慈恵医大)は,女性医師は増加しているが需要も増加しており「女性外科医の活躍が望まれる」と述べた。女性外科医が活躍するためには,働き続けられる環境づくりが必須。環境整備の絶対必要条件として,(1)育児中のサポート,(2)復職支援,(3)女性医師のための設備,(4)精神的サポート,(5)フレックスタイムや当直などの勤務体制の配慮,を挙げた。そして女性医師のみではなく,「男性医師も安心して働ける環境づくりを考えることが重要」と医師全体の環境改善の必要性を説いた。

 若手医師の立場から牧野知紀氏(阪大)は,2006年の日本外科学会アンケート調査で今後も外科医を続けたい若手医師は約7割近くにのぼる反面,「後輩に外科医を勧める」とした医師は3割を下回ったことについて,「外科医としての未来像が描きにくい」現状を指摘。交代制勤務の導入や専門性を追求できる環境づくり,医療過誤を扱う中立的専門機関の設立など時代・環境の変化に対応し改善していき,「魅力ある外科医」の確立をめざすことが必要とまとめた。

 辻本好子氏(NPOささえあい医療人権センター)は患者の意識レベルについて「1990年当初は赤子のようなものだったが,現在は過剰なまでの権利意識とコスト意識のため反抗期を迎えた」と例え,今後,自立した意識へとしていくためには医師・患者がともに歩み,成長していくことが必要と述べた。

 鈴木満氏(日本医師会)は,必要な医療財源を確保するためには「学会,外保連など関係諸団体との有機的な連携の下,患者本位の医療,医師自身がやりがいを持って仕事のできる環境をめざすことが必要」とした。

 最後にメディアの立場から吉島一彦氏(読売新聞)が登壇。腕のいい外科医の報酬を高くするなど,「腕の差をリストにし明らかにする」ことなどを提言。一方,外科医は「命の恩人」と尊敬される地位にいるのに,このシンポジウムの演題がなぜ外科医の地位向上なのかと疑義を呈した。

■臨床試験の信頼性を保証するために

 シンポジウム「外科領域における臨床試験の特異性と将来」(座長=東医大・加藤治文氏,国立がんセンター中央病院・笹子三津留氏)では,はじめに大分県立病院の村岡昌司氏が,多施設共同臨床試験におけるQuality control(QC)の重要性を強調。QCは研究結果の信頼性を保つためにも必要なため,「手技に関する事前の綿密な討論と術後の評価方法を充実させる」ことが必須とした。また,十分な症例集積のためには,医師のモチベーションを維持する工夫が必要と述べた。

 坪井正博氏(東医大)は,試験のQC,QA(Quality Assessment)を保つためには客観的評価に耐えうる「記録」が必須とし,写真やVTRを用いて術中あるいは術直後の記録を残すことや,統一された基準で合併症を評価,効果・安全性について検証する第三者的諮問機関が必要とまとめた。

 膵癌切除症例に対する補助化学療法について小菅智男氏(国立がんセンター中央病院)は「膵癌補助療法の症例数確保が最大の問題点」と指摘する一方で,がん専門病院を中心に登録症例が増加,施設単位では欧米の大規模試験よりも症例の集積効率はよいため,本邦の施設のみでも大規模な試験を行える可能性があると示唆した。

 吉川貴己氏(神奈川県立がんセンター)は腹腔鏡補助下幽門側胃切除術(LADG)の施設間格差について口演。「施設間での症例の背景因子の差は手術成績に影響しうる」とし,術者の技量が同一であっても,消化器外科専門の固定メンバーとレジデントを含む手術メンバーでは,高齢でBMI値の高い難度症例で差が出やすい可能性があると言及した。

 消化器癌の手術手技を評価するJCOG臨床試験の現状について黒川幸典氏(国立がんセンター)が口演。非劣性試験のデザインでは手術術式の逸脱によって本当は差がないのに差があるという結果が増えないよう,術式のコンタミネーションに注意することなどを指摘した。

 最後に四方哲氏(蘇生会総合病院)は,手術の質を均一にできるかなど外科のエビデンスには大きな問題があるため,観察研究を含めた外科独自のエビデンスレベルの作成が必要ではないかと述べた。

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