医学界新聞

 

MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内


小児医療にかかわる医療者にすすめる,「小さくて大きな本」

こどもの検査値ノート 第2版
戸谷誠之,他 編

《書 評》内山 聖(新潟大教授・小児科学)

白衣のポケットに収まる

 小児科診療においても,的確な診断と治療のためにさまざまな検査を行なうことが多くなってきている。結果の評価に当たっては,特に小児では,年齢による変動,性差,採血および検体採取の条件,結果に影響する因子などを常に念頭におく必要があり,細かいことを確認するために分厚い成書を開くこともしばしばである。

 本書はB6変型判のコンパクトな本で,丈夫で光沢のあるライトブルーのソフトカバーと相まって,するりと白衣のポケットに入り込み,存在感をまったく感じさせない。しかし,いったんページをめくると,数倍大きな類書にも決してひけをとらない存在感に圧倒される。

コンパクトながら必要事項を網羅

 臨床化学,穿刺液検査,血液,免疫,内分泌,生理機能検査と日常診療に不可欠な領域をカバーし,160もの検査項目それぞれに分類,検体種,検査値,測定法,解説,文献が過不足なく記載されている。すべての項目が見開き1-4ページに区切りよくまとめられており,図表が実にうまく配置されている。また,解説は極めて簡潔で的を射ており,各領域の専門家が自らの経験と知識をもとに書き記したことが実感として伝わってくる実践的な内容にあふれている。よし調べるぞ,などと肩に力を入れなくとも,必要な折に必要なページを開くだけで,すっとすべてが理解される。

 これだけコンパクトな本であるのに,各種内分泌負荷試験や生理機能検査まで十分な記載があるのには驚きである。また,私自身の経験として,海外の雑誌に臨床論文を投稿する際に検査値にSIユニットを要求され,苦労した思い出がある。関連する検査については換算式をファイリングしていたほどであるが,なんとこの本にはすべての項目でSIユニットが紹介されており,海外の雑誌に投稿する際にも大いに役に立つこと請け合いである。

 小児の診療にかかわる研修医からベテラン医師まで,そして看護師や助産師にも大いに活用してもらいたいと思う。十分に理解しているつもりの検査でも,それぞれの立場で新たな発見があるものと思う。医学生や看護学生の勉強にも役立つことはいうまでもなく,白衣のポケット,外来,ベッドサイドあるいは研究室,図書室に常時置いておきたい,小さくて大きな本である。
B6変・頁256 定価(本体2,600円+税)医学書院


健康政策にかかわるすべての人に

根拠に基づく健康政策のすすめ方
政策疫学の理論と実際
Robert A. Spasoff 原著
上畑鉄之丞 監訳
水嶋春朔,望月友美子,中山建夫 訳者代表

《書 評》佐藤敏彦(北里大助教授・公衆衛生学)

 周囲の人に言わせると私は(よく言えば,であろうが)「ロマンチスト」なのだそうである。しかも,(これは自分で言うのだが)独善的であるから他人の言うことを鵜呑みにして物事を判断することはまずない。むしろ他人がよいと言う道とは逆に向かってしまう天邪鬼である。確率論的に正しい方向とは,わざと違った方向に向かって意外性を楽しみたいというわけだ。そういう私がなぜか「根拠に基づく」医療(EBM)や健康政策(EBHP)を学生に説いているというのも妙なことではあるが,根拠はあくまでも根拠であり,個人自らの判断は別物と考えていただいて差し支えない。ただし,他人様への推奨や,健康政策の策定のような集団を対象に物を言う場合には,我はさておき論理的,客観的,確率的にもっとも適切と思われる選択肢を推奨すべきとは考えている。

 さて,前置きが長くなった。本書を読み,まず思ったことは「やられてしまった」ということである。私は2年前から大学院で健康政策学の講義をしているが,いまだ手探り状態で,自らの僅かな経験と知識を頼りに試行錯誤の日々である。教科書は使用しておらず,講義ノートをまとめて数年後に出版できたら,という野望を抱いていた。しかしながらである。本書を読み,その考えは取り止めにした。来年からは本書を教科書にすることに決めた。私は本書を越えるものをあと10年は書けない自信(?)がある。しかも著者のメッセージは私の講義のそれとまったく同一なのだから(というと自慢に聞こえるだろうか?)あえて何を書けというのか。

政策決定に疫学が果たす役割

 著者の本書執筆の一番の目的は,疫学者に,「疫学が政策決定に重要な役割を果たすことを理解してもらうために,政策そのものを把握してもらい」,「疫学者がその役割を果たすための知識と技術を提示することを促進すること」である。「因果関係の追究を目的とした機序疫学」にしか眼が向いていない疫学者に,政策形成には記述疫学が重要であることを理解させるために具体的な事例をふんだんに取り入れて紹介している。数年前わが国の疫学者のはしくれだった私が,世界保健機関(WHO)に疫学者として採用されてから受けた「カルチャーショック」は,本書を事前に読んでいればまったく起こり得なかったものだ。「集団の健康評価」から「介入効果の予測」,「政策の選択」,「政策の実施」,「政策の評価」という政策サイクルによる保健政策の実施の中での疫学の果たす役割という,現在WHOや欧米でグローバルスタンダードとなっている項目がすべて本書に盛り込まれているからである。

 著者は本書を「疫学者に政策を紹介するもの」と明言しているが,わが国はEBMの導入と実践において,疫学者よりも疫学を勉強した臨床家が活躍している国である。同様に,EBHPも疫学を勉強した政策形成者に活躍してもらうことにならざるを得ないのではないだろうか。そうだとしたら,やはり本書は政策にかかわるすべての人々,「健康日本21」や「健康寿命」に興味がある人すべてに読んでほしい。霞が晴れること請け合いである。

 最後に,本書の日本語版出版を速やかに実現させたわが国の「新しい疫学者」の先生方に敬意を表したい。
A5・頁320 定価(本体3,500円+税)医学書院


循環器疾患にかかわる医療従事者必携の専門書

大動脈瘤・大動脈解離の臨床と病理
由谷親夫,松尾 汎 編

《書 評》居石克夫(九大教授・病理病態学分野)

「古くて新しい」疾患

 「大動脈瘤」と「大動脈解離」は緊急を要する血管手術の代表的な疾患であるが,病型,病因により症状が多彩であり,しかも病変部破綻はしばしば致死的であることから正確な早期診断と早期の適切な治療法選択が極めて大切な疾患である。しかしながらこれら疾患の正診率と予後は現在もまだ充分ではなく,さらに慢性期の治療法の選択には多くの議論を残している。

 近年は,この分野の血管生物学や画像診断が急速に進歩し,大動脈瘤・大動脈解離の諸病型における病理・病態の詳細が明らかになり,内科的・外科的治療法選択の指針や急性・慢性期の看護方針が提唱され,これら疾患の医療が大きく変貌しつつある。

 このように‘古くて新しい’疾患を対象に「大動脈瘤・大動脈解離の臨床と病理」と題して上梓された本書には以下に述べる多くの特徴がある。 1)本書は,大きく(1)基礎編,(2)臨床編,(3)症例編の三部から構成されており,いずれもわかりやすく,また多くの図表や諸処に関連するトピックスに関する解説が‘コラム’を挿入して具体的かつ簡潔に解説されていて初心者でも系統的に理解できるように配慮されている。 2)「臨床編」では,診断法・治療法,治療指針の選択,看護手順について,多くの画像(単純X線,CT・MRI,超音波画像など)や図解を示して,診断のみならずコンピューター技術を駆使したステントグラフト設計や仮想留置像,また外科的手術の実際など最新の専門的知識を紹介している。 3)さらに「臨床編」で特筆される点は,第4章で取り上げられている「クリニカルパスに基づいた看護」である。この章では,大動脈瘤,大動脈解離の手術前,後の看護手順の実際を医療者・患者向けのイメージ図を示しつつ患者の側からの看護の基礎や治療目標などについてのチェックポイントを具体的に提示されわかりやすい解説となっている。 4)「症例編」では,大動脈瘤と大動脈解離の典型例,また診断や治療法を決定する際の参考例などの貴重な24症例が提示されている。各症例の病歴,診断とその根拠になった所見やポイント,治療法とその選択理由,手術材料や剖検所見についての肉眼ならびに組織の病理とその解説,最後に症例の要約,総括がなされている。このように各症例に編者の言う‘学びきれない程の教訓や啓示’を示唆する所見とまとめが提示されている。この「症例編」は編者たちの臨床医学に対する真摯な学問的姿勢を窺わせる章となっており,本書の症例の貴重さと相まって本書の大きな特徴となっている。 5)本書は,内科医,外科医,放射線科医,病理医がそれぞれの専門分野を分担執筆することにより,大動脈瘤・大動脈解離についての基礎・臨床を広く,かつ偏りなく読者に理解させる良書となっている。しかし分担執筆による医学書が陥りがちな重複,欠落部分がなく,しかも診断や治療法選択の整合性がよくとれていること,加えて「問題提起」が素直に提示されている点は,分担執筆者が同一施設で診療体制を組んだか組んでいる医師,看護師であることから,日頃より症例についての活発な討論がなされている診療体制を反映しているためと思われる。編者が序文で述べている「診療体制の構築」の大切さを理解させる意味でも本書は専門外の医師,看護師にとって含蓄に富んだ専門書となっている。

 このように本書は,現在の日本における大動脈瘤・大動脈解離に関する臨床と病理の集大成として,またこの分野の日常診療に直ちに役立つ専門書として循環器疾患に携わる医療従事者の必携の専門書となっている。
B5・頁244 定価(本体10,000円+税)医学書院


造血細胞移植の過去と現在を的確に示す

必携造血細胞移植
わが国のエビデンスを中心に
小寺良尚,加藤俊一 編

《書 評》正岡 徹(大阪府立成人病センター顧問)

日本における移植成績は海外に決して劣らない

 読みはじめると止められなくなり,一気に読みきりました。われわれが骨髄移植をはじめた頃からの進歩の歴史と最近の移植細胞,移植手技の多様化とその適応範囲の拡大は目を見張るばかりで,よくここまできたなという感慨があります。

 今回は副題に示されているように,各病型の移植成績など日本における成績が示され,その成績が海外の成績に比べてけっして劣らず,むしろ優れていることも大きな喜びでした。271ページにアメリカの骨髄バンクと日本の骨髄バンクの非血縁骨髄移植の成績が比較され,HLA適合例,不適合例など,子供,成人,またすべての病期において日本の成績が優れていることが誇らしげに書かれています。学問的にも,これまでGVHDという1つの病気と考えて疑わなかったものに,血栓性微小血管障害(TMA)という機序も治療法もまったく異なる合併症のあることが示され,また組織適合性抗原でもマイナー抗原や母子免疫寛容など新しい発見とpromisingな研究分野が示されています。

医学の進歩,医療を取り巻く状況の変化を見据えて語られる未来

 移植の対象症例もこれまでの血液疾患以外に,乳がん,生殖器疾患,先天性の代謝疾患,小児の固形腫瘍などの移植が簡潔に述べられています。骨髄移植から,末梢血幹細胞移植,臍帯血移植と進んできてミニ移植などあらたに検討を要する分野もどんどん広がってきました。このような医学的な進歩とともに実際の診療上も医療費の考慮や骨髄バンク,臍帯血バンクの利用方法などの実際的な説明も入っています。医療を開始する際の患者への説明同意にも変化が見られています。慢性骨髄性白血病の治療方針で302ページには短期決戦型の骨髄移植と長期戦型の薬剤治療の双方が示され,患者は自身の生き方から治療法を選択すればよい,と治療法は患者が決めることが明らかに述べられています。

 以上,本書は造血細胞移植の過去と現在を的確に示し,最後に未来への展望が語られています。ES細胞などの研究によって,これから必要な細胞・臓器をつくりだし,難病を克服しようとする試みも夢ではなくなってきました。

 本書は移植を学問として研究する人も,移植を臨床診療として担当実施する人にも,医師,看護師,検査技師,移植を受ける患者とその家族,移植をサポートするボランティアの方々にもお勧めできる本だと思います。
B5・頁420 定価(本体8,200円+税)医学書院


整形外科医のバイブルが,時代に合わせた記述を追加して改訂

今日の整形外科治療指針 第5版
二ノ宮節夫,他 編

《書 評》落合直之(筑波大教授・整形外科学)

 本書は,1987年の初版刊行以来4-5年ごとに改訂を重ね今回で第5版を迎えることとなった。これまでのものと装いも新たに淡いブルーを所々に配する2色刷りとなり,本を開いたときの最初の印象は,どことなく新鮮な明るい感じを受ける。執筆陣も大幅に変わり各項目ごとに患者説明のポイント,看護のケアとリハビリ上の注意も付記されるなど,現代の社会的要求によく応えている。これまで3版,4版と執筆陣の一角に加えていただいたことからよけい馴染み深いものがあり,また外来に置いておくにはたいへんコンパクトでかつ安定感も良く,ちょっと記憶の曖昧な事項の確認,あるいは,不明な事項を調べるのにたいへん便利な思いをさせていただいてきた。今回のものも座右の書の1つとして,ぜひ手元に置いておきたい本である。

整形外科医が知るべき制度にも言及

 さて,高齢化社会を迎え,これからはいかに生きいきとした生活を送れるかが重大な課題である。健康スポーツの導入など予防医学がこれまで以上に重要視される。しかし,不幸にして介護が必要になった時,できる限り自宅で自立した生活が送れるよう2000年4月から介護サービスを総合的一体的に提供する制度が施行された。ちなみに,1998年度の国民生活基礎調査によると,介護を必要とする原因疾患は,脳血管障害,ついで高齢による衰弱,痴呆。骨折・転倒,リウマチ,関節炎などの整形外科疾患は,第3位を占める。したがって,整形外科医は積極的に介護保険制度を利用し要介護者の自立を支援する役割を負っている。この社会資源の活用にはそれなりの知識が必要であるが,新たにはじまった制度でもあり,なじみがたいものがある。本改訂版では,新たに第11章として,介護・福祉の制度について整形外科医にぜひ知ってもらいたいことが極めて簡潔に要領よくまとめてある。

 また,「私のノートから/My Suggestion」と題するコラムも実にユニークな取り組みである。ここには,本書をこれまで執筆されたこの道の大家25名が,これまでの整形外科の医療・研究に携わった経験を踏まえ,後輩の方々へのたいへん含蓄のあるメッセージを語っている。医療過誤が取りざたされる今日,これだけの医道にかかわる処世訓をきちっと弁えておけばまず間違いなく医師としての道から外れることはないであろう。自らの経験に照らし合わせてなるほどと納得のいく哲学が,大家の経験を通して書かれておりなかなか味わい深く読ませていただいた。

 巻末付録資料として,標準脊髄損傷神経機能評価表の掲載や人工膝関節置換術・人工骨頭置換術におけるスタッフ・患者用クリティカルパスの実例が収録されている。在院日数の短縮などにはクリティカルパスの導入も必須であり,この実例は,さまざまな整形外科疾患のパス作成の参考になろう。また,身体障害者手帳診断書の記入のしかたが懇切に解説されているのもありがたい。さらに,各項目における必読の参考文献が新たに掲載されたことや索引がいっそう充実されたことなど使い勝手がいっそうよくなっており,本書は使用者への配慮が実によく行き届いているというのが読後感である。
B5・頁944 定価(本体18,000円+税)医学書院


「現代の解剖学」を理解するために

ムーア臨床解剖学 第2版
Essential Clinical Anatomy, 2nd Edition
坂井建雄 訳

《書 評》松村讓兒(杏林大教授・解剖学)

臨床科目へのステップアップを目的とした解剖学書の代表格

 解剖学書は大きく2つのタイプに区分される。1つは解剖学的事実を詳細に記載した事典あるいは学習の拠りどころとしての役割を果たすタイプであり,伝統的な教科書として使われているグレイのテキストなどがその代表的なものと言える。いま1つは医学を学ぶ際の導入,あるいは臨床科目へのステップアップを目的として書かれた解剖学書であり,本書(ムーア)はその代表格と言うことができる。これらの解剖学書はそれぞれに用途が異なり,どちらがよいというものではないが,本書のようなタイプのテキストは読者から「わかりやすさ」を求められるため,書き手から言えばこういったタイプの本を作るのはきわめて難しい。

 本書はESSENTIAL CLINICAL ANATOMY(2版)の日本語訳書であり,翻訳は初版と同じ坂井建雄教授(順天堂大学)による。オリジナル(原書)は,親本CLINICALLY ORIENTED ANATOMYとともに,臨床との関連を重視した画期的な解剖学書として認められており,日本でも最も多くの学生の支持を受けている。初版でも,読みやすい章構成・図版の美しさ・記載の正確さと理解しやすさが高い評価を受けていたが,今回の改訂版でも,扉を開いた瞬間に受ける「これは役に立ちそうだ」という強い印象は他書の比ではない。このような印象は,初学者が手にする最初の本としてばかりでなく,医療系の教員が利用する解剖学書としても大切な要件である。

臨床的視点を重視した大幅な改変

 今回の改訂版でまず気がつくのは,図版が大幅に改変されたことである。初版にも多くのすばらしい図が使われていたが,その多くを惜しげもなく廃し,より斬新な図や写真が採用されている。解剖実習にも役立つ美しい図版や工夫された流れ図,そして豊富な医療画像は,眺めているだけでも楽しくかつわかりやすい。また,本文にも初版に比べて150頁もの増頁と大改訂が施されたうえ,細心な記載に加えて多くの教科書で漫然と記されている誤りを大胆に訂正するなど,臨床的視点を重視した全面的な書き直しが行なわれている。

 翻訳者については今さら申し上げるまでもないが,今回の翻訳でもその力量はいかんなく発揮されており,原文の雰囲気を損なわない名訳は初版以上の出来栄えであろう。理解しやすさに重きを置いている点では,むしろ原書以上に注意が払われていると言えよう。わが国で最も支持されている解剖学書である理由はここにある。オリジナル(原書)はもとより,この日本語版が解剖学書のスタイルに新たな一時代をもたらすものであることは疑いがない。学生だけでなく,教員にも携えていただきたい1冊であり,特に臨床の医師や教員には「現代の解剖学」を理解していただくための必携書と言えよう。
B5・頁664 定価(本体10,000円+税)MEDSi