根拠に基づく健康政策のすすめ方
政策疫学の理論と実際
健康日本21地方計画推進をサポートする1冊
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根拠に基づく健康政策の推進に寄与する疫学研究方法について,具体例を用いてわかりやすく解説。健康政策の各段階で疫学研究の果たすべき役割を明らかにする。健康日本21地方計画を推進するうえで,自治体の健康部局,保健所などに勤務する行政・保健専門職や大学・研究機関の疫学・公衆衛生学研究者にとって必備の1冊。
原著 | Robert A. Spasoff |
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監訳 | 上畑 鉄之丞 |
訳者代表 | 水嶋 春朔 / 望月 友美子 / 中山 健夫 |
発行 | 2003年10月判型:A5頁:320 |
ISBN | 978-4-260-10636-8 |
定価 | 3,850円 (本体3,500円+税) |
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- 目次
- 書評
目次
開く
I. 概念,方法およびデータ
第1章 政策,公共政策と健康政策
第2章 疫学におけるツール
第3章 集団の健康データ
II. 政策サイクル
第4章 集団の健康評価
第5章 介入効果の予測
第6章 政策の選択
第7章 政策の実施
第8章 政策の評価
参考文献
索引
第1章 政策,公共政策と健康政策
第2章 疫学におけるツール
第3章 集団の健康データ
II. 政策サイクル
第4章 集団の健康評価
第5章 介入効果の予測
第6章 政策の選択
第7章 政策の実施
第8章 政策の評価
参考文献
索引
書評
開く
健康政策にかかわるすべての人の必読書
書評者: 佐藤 敏彦 (北里大助教授・公衆衛生学)
周囲の人に言わせると私は(良く言えば,であろうが)「ロマンチスト」なのだそうである。しかも,(これは自分で言うのだが)独善的であるから他人の言うことを鵜呑みにして物事を判断することはまずない。むしろ他人が良いと言う道とは逆に向かってしまう天邪鬼である。確率論的に正しい方向とは,わざと違った方向に向かって意外性を楽しみたいというわけだ。そういう私がなぜか「根拠に基づく」医療(EBM)や健康政策(EBHP)を学生に説いているというのも妙なことではあるが,根拠はあくまでも根拠であり,個人自らの判断は別物と考えていただいて差し支えない。ただし,他人様への推奨や,健康政策の策定のような集団を対象に物を言う場合には,我はさておき論理的,客観的,確率的にもっとも適切と思われる選択肢を推奨すべきとは考えている。
さて,前置きが長くなった。本書を読み,まず思ったことは「やられてしまった」ということである。私は2年前から大学院で健康政策学の講義をしているが,いまだ手探り状態で,自らの僅かな経験と知識を頼りに試行錯誤の日々である。教科書は使用しておらず,講義ノートをまとめて数年後に出版できたら,という野望を抱いていた。しかしながらである。本書を読み,その考えは取り止めにした。来年からは本書を教科書にすることに決めた。私は本書を越えるものをあと10年は書けない自信(?)がある。しかも著者のメッセージは私の講義のそれとまったく同一なのだから(というと自慢に聞こえるだろうか?)敢えて何を書けというのか。
◆政策決定に疫学が果たす役割
著者の本書執筆の一番の目的は,疫学者に,「疫学が政策決定に重要な役割を果たすことを理解してもらうために,政策そのものを把握してもらい」,「疫学者がその役割を果たすための知識と技術を提示することを促進すること」である。「因果関係の追究を目的とした機序疫学」にしか眼が向いていない疫学者に,政策形成には記述疫学が重要であることを理解させるために具体的な事例をふんだんに取り入れて紹介している。数年前わが国の疫学者のはしくれだった私が,世界保健機関(WHO)に疫学者として採用されてから受けた「カルチャーショック」は,本書を事前に読んでいればまったく起こり得なかったものだ。「集団の健康評価」から「介入効果の予測」,「政策の選択」,「政策の実施」,「政策の評価」という政策サイクルによる保健政策の実施の中での疫学の果たす役割という,現在WHOや欧米でグローバルスタンダードとなっている項目がすべて本書に盛り込まれているからである。
著者は本書を「疫学者に政策を紹介するもの」と明言しているが,わが国はEBMの導入と実践において,疫学者よりも疫学を勉強した臨床家が活躍している国である。同様に,EBHPも疫学を勉強した政策形成者に活躍してもらうことにならざるを得ないのではないだろうか。そうだとしたら,やはり本書は政策にかかわるすべての人々,「健康日本21」や「健康寿命」に興味がある人すべてに読んで欲しい。霞が晴れる事請け合いである。
最後に,本書の日本語版出版を速やかに実現させたわが国の「新しい疫学者」の先生方に敬意を表したい。
疫学者や医療政策担当者は必読の1冊
書評者: 藤崎 清道 (厚生労働省大臣官房参事官・健康担当)
本書は,オタワ大学スパソフ教授が長年にわたる疫学の講義や政府関係者・関係機関との仕事の経験を基に,疫学を健康政策過程に寄与させることを目的として書かれたものである。監訳者の上畑鉄之丞氏をはじめ,疫学と健康政策に深い造詣を有する訳者の方々のご努力により出版に至った。
本書の構成等についてであるが,まず対象は疫学の基本的なコースを修了した者,特に健康政策の開発や評価を学びたい大学院生または疫学者としている。構成は2部よりなっており,第1部では健康政策についての解説と疫学との関わり,そこに用いられる特有の疫学ツールと集団の健康データについて記載している。第2部では第1部で示された政策サイクルに基づき,集団の健康評価,介入効果の予測,政策の選択,政策の実施,政策の評価の各過程に疫学の立場からどのように寄与していくかを対象・分野別に具体的に展開し,さらにその際に必要とされる概念,カテゴリー,手法などについて紹介している。
◆政策疫学の体系を示す
さて,本書の特筆すべき点は何であろうか。副題が「政策疫学の理論と実際」とあるが,やはり政策疫学の体系を提示したことであろう。記述疫学を経て分析疫学(病因疫学)が疫学の主流になって久しいが,その成果を踏まえ政策疫学として発展させた意義は大きい。病因疫学との対比については本文に詳述されているので参照していただきたいが,本質部分を引用するならば「分析疫学は,暴露の影響を決定するという観点から,対象を注意深く選択して実施されるが,政策疫学は一般の集団への暴露の影響や,健康にまつわる現象の予測に関するものである」ということになろう。つまり健康政策に適用するには分析疫学の研究結果のgeneralizability(一般化可能性)が常に求められており,内的妥当性に加え外的妥当性が必要になるということである。
また,率に加えて実数が重要であることや調整率よりも粗率が有用な場合があるなど,政策形成の対象となる事項のmagnitude(大きさ,重要性)が問題となる点についても言及している。さらに分析疫学が分析的方法をとるのに対して政策疫学が記述疫学とモデル化を方法とすることを対比させているのも興味深い。これらは行政に携わる評者も日ごろから感じてきたことであり,疫学者の皆さんと認識を共有できることは大変に有難いことである。本書は疫学者のみならず国・地方自治体で働く保健医療政策担当者にも必読の書である。
◆健康日本21の推進にも貢献できると確信
最後になってしまったが,評者は厚生労働省の健康日本21推進本部事務局長を拝命している。健康日本21ではスパソフ教授がめざした根拠に基づく政策形成にそった取組みを推進しており,本書が健康日本21の推進に大きく貢献することを確信しまた期待していることを申し上げたい。
疫学スキルで政策形成を楽しく!
書評者: 佐甲 隆 (三重県松阪保健所長)
政策とか,施策とかいう言葉に「堅苦しさ」「難しさ」を感じて,つい敬遠しがちになるのは,私だけだろうか?まして「政策評価は?」「効果効率は?」とか問いつめられるとつい黙りたくなる保健師さんも少なくないだろう。現場の活動が,うまく政策につながらないもどかしさは何に由来するのか?「よかれ」と願う思いや,「こうありたい」という熱意だけでなく,政策決定者を動かす説得力はどこから生まれてくるのか?この本は,そのような問いに1つの答えを与えている。
本書は,科学的な健康政策形成に疫学がどのような役割を果たせるかを示したものであり,エビデンスに裏付けられた保健活動のマネジメントの在り方について,政策疫学の立場から論じたものでもある。もちろん高度な内容の部分もあり,さらりと読める本ではないが,問題意識のある読者には十分な手応えを感じさせるであろう。
まず,健康政策の考え方に始まり,政策サイクルの枠組みに政策疫学を絡めることで,政策の価値を高める方法が示されている。政策形成プロセスから,倫理や法的問題,メディアを含めたコミュニケーションスキルにまで言及され,興味深い。さらに,疫学的な効果判定・政策評価ツールとしての健康寿命や健康調整平均余命などの指標がBoxでの事例とともに詳述され,とても参考になる。健康データの収集・分析も,健康の概念から情報システムまでエビデンスとしての健康情報管理の基本が押さえられる。
続いて,政策サイクルの各段階のアセスメント手法が論じられる。政策の選択,実施,評価の項では,優先度の決定や目標設定の方法など,現実的な計画策定評価に悩む保健師さんに,重要なヒントを与えてくれるはずだ。
政策論とは,パズルのようなものだ。難解で解けなければつまらない。解けはじめると一気にスリルと興奮のるつぼにはまっていく。何ごとも「わかってくると」面白い。政策疫学が,少しずつでもわかりかけてくると政策形成が楽しくなる。もちろん,実際の政策形成に必要なナレッジは,疫学だけではなく,人びととの対話とコミュニケーションからも生まれうるものだ。住民主体の活動計画づくりからも,地域にふさわしい分権的な健康政策が生み出されていく。だからこそ,まず基本的な政策疫学スキルを学ぶことで,説得力を身につけたい。
本庁に働く保健師さんにとっては,頼りになる座右の書となろう。が,政策は本庁だけで形成されるものではない。ストリートレベルの政策形成と言われるように,現場で,政策を生きたものに変え,地域の思いをさらに政策化するために,熱心に住民と向き合っている保健師さんにこそ読んで欲しい。そして,保健所長と保健師がこのような本を読み合いながら,地域の政策をともに考えることができればどんなにすばらしいだろうかとも思った。
(保健師ジャーナル60:202,2004より転載)
公衆衛生の理論と実践にかかわるすべての職種に勧めたい
書評者: 辻 一郎 (東北大学大学院医学系研究科教授・公衆衛生学分野)
「根拠に基づく保健ケア」の重要性は言うまでもないが,それがわが国の公衆衛生の現場で実践として定着しているかと問われれば,課題の大きいことは誰でも認めざるを得ないであろう。
その理由の1つとして,疫学・公衆衛生学の研究者と行政関係者との間で,事実認識や問題意識にズレがあり,しかも共通の言語・思想を持つに至っていないことが挙げられよう。両者の溝は,意外なほど深い。それを埋めるのは何かと悩みつつ,第12回日本疫学会(上畑鉄之丞会長,2002)に参加した評者は,スパソフ教授の特別講演「Enhancing the role of epidemiology in health policy」を拝聴して,目からウロコが落ちる思いをしたものであった。健康政策に寄与する疫学のあり方,疫学的根拠に基づく健康政策のあり方,そして両者の協働による健康への貢献。明確な論点とそれを支える実践例の数々に,当時の評者は圧倒されたものであった。
そのスパソフ教授の著書を,上畑氏らが『根拠に基づく健康政策のすすめ方−政策疫学の理論と実際』という訳書にされた。上記の特別講演をさらに発展させた内容であり,あの時の興奮を思い起こしながら一気に読み終えた。
政策論から始まり,そのツールとしての疫学指標に関する記述は平易で簡潔である。しかし研究者にとっても復習に余りあるレベルとなっている。後半の「政策サイクル」では,集団の健康評価−介入効果の予測−政策の選択−実施−評価という,一連の流れについて,疫学と政策の融合を目指す立場から論じられている。「ボックス」に示された数々の実例が,読者の理解を助けてくれるとともに,明日の実践にヒントを与えてくれる。この観点から,自分の仕事のあり方を見直さなければならないと痛感した。
水嶋氏らは,本書を含めて3編を世に問うたことになる。最初に出版された訳書『予防医学のストラテジー−生活習慣病対策と健康増進』(医学書院,1998)で示されたポピュレーション戦略の考えは,「健康日本21」策定の基調をなすものであった。その後,水嶋氏の著書『地域診断のすすめ方−根拠に基づく健康政策の基盤』(同,2000)は,健康日本21地方計画の策定にあたる方々に対して,確かな理論的基盤を提供するものとなった。これで3編目となる本書は,わが国の公衆衛生の理論と実践に対して,どのようなインパクトを与えてくれるのであろうか。
公衆衛生の理論と実践にかかわるすべての職種にとって,「必読の書」と言っても過言ではない。
(公衆衛生68:50, 2004より転載)
「根拠に基づく健康政策」の基本は「地域診断」にある
書評者: 篠原 芳恵 (徳島県鴨島保健所健康増進課健康対策係技術主任)
◆2冊の赤い本
本書は,既刊『地域診断のすすめ方:根拠に基づく健康政策の基盤』(水嶋春朔著,医学書院,2000)の原書でもあり,続編でもあると思いました。
私は,2年前の2001年9月に旧国立公衆衛生院の公衆栄養コースで1か月間の研修を受けました。そのとき出会ったのが,本書の訳者の諸先生方と2冊の赤い本『予防医学のストラテジー:生活習慣病対策と健康増進』(Geoffrey Rose著,曽田研二,田中平三監訳,医学書院,1998)と『地域診断のすすめ方』でした。先生方に教えていただいたことと,この2冊の赤い本との出会いは私にとって「感動」でした。
その後,水嶋先生には徳島県での研修会(糖尿病に関する地域診断)でもお世話になりましたが,それまで悩んでいたことが一歩一歩解決されていくのが自分でもよくわかりました。それまでの悩みの内容は,「根拠に基づく健康政策」の基本が「地域診断」だということを理解できていなかったことによるものだと気がついたのです。
◆実践から出た疑問にも答え
このように,地域診断や政策サイクルのことが少しずつわかってきて,評価をどうするか,次にどう進めるか,ということを考えて保健所での実際の事業を考案,実施するようになりました。つたないながら,2年間このように進めてきた結果,まわりの理解がすごく得られたように思います。しかし,実際の仕事に携わる中でまた新たな疑問が生じてきたのも事実です。地域診断のためのデータをどのように集め(既存のデータがあるかないか,どこを探せばいいのか),どう活用していくか,評価指標はどうするか,など数多くの新たな疑問の中で本書と出会えました。とてもタイムリーによい本に巡り会えたと思います。疫学的に難解な部分も多々ありましたが,実践に即役立ちそうな,第6,7,8章の政策の選択→実施→評価のくだりは,早く次のページが読みたくて,ページをめくる手ももどかしく……,という感じで読みました。
これからも,本書と『地域診断のすすめ方』は,実践の現場で「根拠に基づく健康づくり」に携わっている人間にとって,バイブルとなるのではないかと思います。地域診断を恒常的に進めていくには,データバンク機能をもった(あるいは,もつべき)保健所や衛生研究所,行政が大学などと連携し,疫学の専門家である先生方と一緒に,「政策サイクル」にのせていくことが重要だと思われます。このことも本書及び『地域診断のすすめ方』の双方にわかりやすく,また深く書かれていたことです。
最近,県の研修で政策法務講座を受講する機会があり,地域診断の結果をまさに自治体の政策に反映させていく過程をシミュレーションする演習を体験できました。行政職として,これまでこういうことを考えて仕事をしてきただろうかと強く反省し,「根拠に基づく健康政策」の原点は,「地域診断」にあるということを,改めて認識できたように思います。
唯一残念だったのは,本書が訳本だということです。難解なことが,英語の並びで表現されているので,理解に苦しむ部分,もう1つすっきりわからない部分が,特に第1部の疫学手法に関する解説で多かったと思います。『予防医学のストラテジー(訳書)』のエッセンスが『地域診断のすすめ方』でわかりやすく解説されていたように,本書『根拠に基づく健康政策のすすめ方(訳書)』のエッセンスをわかりやすく解説した実践書の出版を切に希望します。
書評者: 佐藤 敏彦 (北里大助教授・公衆衛生学)
周囲の人に言わせると私は(良く言えば,であろうが)「ロマンチスト」なのだそうである。しかも,(これは自分で言うのだが)独善的であるから他人の言うことを鵜呑みにして物事を判断することはまずない。むしろ他人が良いと言う道とは逆に向かってしまう天邪鬼である。確率論的に正しい方向とは,わざと違った方向に向かって意外性を楽しみたいというわけだ。そういう私がなぜか「根拠に基づく」医療(EBM)や健康政策(EBHP)を学生に説いているというのも妙なことではあるが,根拠はあくまでも根拠であり,個人自らの判断は別物と考えていただいて差し支えない。ただし,他人様への推奨や,健康政策の策定のような集団を対象に物を言う場合には,我はさておき論理的,客観的,確率的にもっとも適切と思われる選択肢を推奨すべきとは考えている。
さて,前置きが長くなった。本書を読み,まず思ったことは「やられてしまった」ということである。私は2年前から大学院で健康政策学の講義をしているが,いまだ手探り状態で,自らの僅かな経験と知識を頼りに試行錯誤の日々である。教科書は使用しておらず,講義ノートをまとめて数年後に出版できたら,という野望を抱いていた。しかしながらである。本書を読み,その考えは取り止めにした。来年からは本書を教科書にすることに決めた。私は本書を越えるものをあと10年は書けない自信(?)がある。しかも著者のメッセージは私の講義のそれとまったく同一なのだから(というと自慢に聞こえるだろうか?)敢えて何を書けというのか。
◆政策決定に疫学が果たす役割
著者の本書執筆の一番の目的は,疫学者に,「疫学が政策決定に重要な役割を果たすことを理解してもらうために,政策そのものを把握してもらい」,「疫学者がその役割を果たすための知識と技術を提示することを促進すること」である。「因果関係の追究を目的とした機序疫学」にしか眼が向いていない疫学者に,政策形成には記述疫学が重要であることを理解させるために具体的な事例をふんだんに取り入れて紹介している。数年前わが国の疫学者のはしくれだった私が,世界保健機関(WHO)に疫学者として採用されてから受けた「カルチャーショック」は,本書を事前に読んでいればまったく起こり得なかったものだ。「集団の健康評価」から「介入効果の予測」,「政策の選択」,「政策の実施」,「政策の評価」という政策サイクルによる保健政策の実施の中での疫学の果たす役割という,現在WHOや欧米でグローバルスタンダードとなっている項目がすべて本書に盛り込まれているからである。
著者は本書を「疫学者に政策を紹介するもの」と明言しているが,わが国はEBMの導入と実践において,疫学者よりも疫学を勉強した臨床家が活躍している国である。同様に,EBHPも疫学を勉強した政策形成者に活躍してもらうことにならざるを得ないのではないだろうか。そうだとしたら,やはり本書は政策にかかわるすべての人々,「健康日本21」や「健康寿命」に興味がある人すべてに読んで欲しい。霞が晴れる事請け合いである。
最後に,本書の日本語版出版を速やかに実現させたわが国の「新しい疫学者」の先生方に敬意を表したい。
疫学者や医療政策担当者は必読の1冊
書評者: 藤崎 清道 (厚生労働省大臣官房参事官・健康担当)
本書は,オタワ大学スパソフ教授が長年にわたる疫学の講義や政府関係者・関係機関との仕事の経験を基に,疫学を健康政策過程に寄与させることを目的として書かれたものである。監訳者の上畑鉄之丞氏をはじめ,疫学と健康政策に深い造詣を有する訳者の方々のご努力により出版に至った。
本書の構成等についてであるが,まず対象は疫学の基本的なコースを修了した者,特に健康政策の開発や評価を学びたい大学院生または疫学者としている。構成は2部よりなっており,第1部では健康政策についての解説と疫学との関わり,そこに用いられる特有の疫学ツールと集団の健康データについて記載している。第2部では第1部で示された政策サイクルに基づき,集団の健康評価,介入効果の予測,政策の選択,政策の実施,政策の評価の各過程に疫学の立場からどのように寄与していくかを対象・分野別に具体的に展開し,さらにその際に必要とされる概念,カテゴリー,手法などについて紹介している。
◆政策疫学の体系を示す
さて,本書の特筆すべき点は何であろうか。副題が「政策疫学の理論と実際」とあるが,やはり政策疫学の体系を提示したことであろう。記述疫学を経て分析疫学(病因疫学)が疫学の主流になって久しいが,その成果を踏まえ政策疫学として発展させた意義は大きい。病因疫学との対比については本文に詳述されているので参照していただきたいが,本質部分を引用するならば「分析疫学は,暴露の影響を決定するという観点から,対象を注意深く選択して実施されるが,政策疫学は一般の集団への暴露の影響や,健康にまつわる現象の予測に関するものである」ということになろう。つまり健康政策に適用するには分析疫学の研究結果のgeneralizability(一般化可能性)が常に求められており,内的妥当性に加え外的妥当性が必要になるということである。
また,率に加えて実数が重要であることや調整率よりも粗率が有用な場合があるなど,政策形成の対象となる事項のmagnitude(大きさ,重要性)が問題となる点についても言及している。さらに分析疫学が分析的方法をとるのに対して政策疫学が記述疫学とモデル化を方法とすることを対比させているのも興味深い。これらは行政に携わる評者も日ごろから感じてきたことであり,疫学者の皆さんと認識を共有できることは大変に有難いことである。本書は疫学者のみならず国・地方自治体で働く保健医療政策担当者にも必読の書である。
◆健康日本21の推進にも貢献できると確信
最後になってしまったが,評者は厚生労働省の健康日本21推進本部事務局長を拝命している。健康日本21ではスパソフ教授がめざした根拠に基づく政策形成にそった取組みを推進しており,本書が健康日本21の推進に大きく貢献することを確信しまた期待していることを申し上げたい。
疫学スキルで政策形成を楽しく!
書評者: 佐甲 隆 (三重県松阪保健所長)
政策とか,施策とかいう言葉に「堅苦しさ」「難しさ」を感じて,つい敬遠しがちになるのは,私だけだろうか?まして「政策評価は?」「効果効率は?」とか問いつめられるとつい黙りたくなる保健師さんも少なくないだろう。現場の活動が,うまく政策につながらないもどかしさは何に由来するのか?「よかれ」と願う思いや,「こうありたい」という熱意だけでなく,政策決定者を動かす説得力はどこから生まれてくるのか?この本は,そのような問いに1つの答えを与えている。
本書は,科学的な健康政策形成に疫学がどのような役割を果たせるかを示したものであり,エビデンスに裏付けられた保健活動のマネジメントの在り方について,政策疫学の立場から論じたものでもある。もちろん高度な内容の部分もあり,さらりと読める本ではないが,問題意識のある読者には十分な手応えを感じさせるであろう。
まず,健康政策の考え方に始まり,政策サイクルの枠組みに政策疫学を絡めることで,政策の価値を高める方法が示されている。政策形成プロセスから,倫理や法的問題,メディアを含めたコミュニケーションスキルにまで言及され,興味深い。さらに,疫学的な効果判定・政策評価ツールとしての健康寿命や健康調整平均余命などの指標がBoxでの事例とともに詳述され,とても参考になる。健康データの収集・分析も,健康の概念から情報システムまでエビデンスとしての健康情報管理の基本が押さえられる。
続いて,政策サイクルの各段階のアセスメント手法が論じられる。政策の選択,実施,評価の項では,優先度の決定や目標設定の方法など,現実的な計画策定評価に悩む保健師さんに,重要なヒントを与えてくれるはずだ。
政策論とは,パズルのようなものだ。難解で解けなければつまらない。解けはじめると一気にスリルと興奮のるつぼにはまっていく。何ごとも「わかってくると」面白い。政策疫学が,少しずつでもわかりかけてくると政策形成が楽しくなる。もちろん,実際の政策形成に必要なナレッジは,疫学だけではなく,人びととの対話とコミュニケーションからも生まれうるものだ。住民主体の活動計画づくりからも,地域にふさわしい分権的な健康政策が生み出されていく。だからこそ,まず基本的な政策疫学スキルを学ぶことで,説得力を身につけたい。
本庁に働く保健師さんにとっては,頼りになる座右の書となろう。が,政策は本庁だけで形成されるものではない。ストリートレベルの政策形成と言われるように,現場で,政策を生きたものに変え,地域の思いをさらに政策化するために,熱心に住民と向き合っている保健師さんにこそ読んで欲しい。そして,保健所長と保健師がこのような本を読み合いながら,地域の政策をともに考えることができればどんなにすばらしいだろうかとも思った。
(保健師ジャーナル60:202,2004より転載)
公衆衛生の理論と実践にかかわるすべての職種に勧めたい
書評者: 辻 一郎 (東北大学大学院医学系研究科教授・公衆衛生学分野)
「根拠に基づく保健ケア」の重要性は言うまでもないが,それがわが国の公衆衛生の現場で実践として定着しているかと問われれば,課題の大きいことは誰でも認めざるを得ないであろう。
その理由の1つとして,疫学・公衆衛生学の研究者と行政関係者との間で,事実認識や問題意識にズレがあり,しかも共通の言語・思想を持つに至っていないことが挙げられよう。両者の溝は,意外なほど深い。それを埋めるのは何かと悩みつつ,第12回日本疫学会(上畑鉄之丞会長,2002)に参加した評者は,スパソフ教授の特別講演「Enhancing the role of epidemiology in health policy」を拝聴して,目からウロコが落ちる思いをしたものであった。健康政策に寄与する疫学のあり方,疫学的根拠に基づく健康政策のあり方,そして両者の協働による健康への貢献。明確な論点とそれを支える実践例の数々に,当時の評者は圧倒されたものであった。
そのスパソフ教授の著書を,上畑氏らが『根拠に基づく健康政策のすすめ方−政策疫学の理論と実際』という訳書にされた。上記の特別講演をさらに発展させた内容であり,あの時の興奮を思い起こしながら一気に読み終えた。
政策論から始まり,そのツールとしての疫学指標に関する記述は平易で簡潔である。しかし研究者にとっても復習に余りあるレベルとなっている。後半の「政策サイクル」では,集団の健康評価−介入効果の予測−政策の選択−実施−評価という,一連の流れについて,疫学と政策の融合を目指す立場から論じられている。「ボックス」に示された数々の実例が,読者の理解を助けてくれるとともに,明日の実践にヒントを与えてくれる。この観点から,自分の仕事のあり方を見直さなければならないと痛感した。
水嶋氏らは,本書を含めて3編を世に問うたことになる。最初に出版された訳書『予防医学のストラテジー−生活習慣病対策と健康増進』(医学書院,1998)で示されたポピュレーション戦略の考えは,「健康日本21」策定の基調をなすものであった。その後,水嶋氏の著書『地域診断のすすめ方−根拠に基づく健康政策の基盤』(同,2000)は,健康日本21地方計画の策定にあたる方々に対して,確かな理論的基盤を提供するものとなった。これで3編目となる本書は,わが国の公衆衛生の理論と実践に対して,どのようなインパクトを与えてくれるのであろうか。
公衆衛生の理論と実践にかかわるすべての職種にとって,「必読の書」と言っても過言ではない。
(公衆衛生68:50, 2004より転載)
「根拠に基づく健康政策」の基本は「地域診断」にある
書評者: 篠原 芳恵 (徳島県鴨島保健所健康増進課健康対策係技術主任)
◆2冊の赤い本
本書は,既刊『地域診断のすすめ方:根拠に基づく健康政策の基盤』(水嶋春朔著,医学書院,2000)の原書でもあり,続編でもあると思いました。
私は,2年前の2001年9月に旧国立公衆衛生院の公衆栄養コースで1か月間の研修を受けました。そのとき出会ったのが,本書の訳者の諸先生方と2冊の赤い本『予防医学のストラテジー:生活習慣病対策と健康増進』(Geoffrey Rose著,曽田研二,田中平三監訳,医学書院,1998)と『地域診断のすすめ方』でした。先生方に教えていただいたことと,この2冊の赤い本との出会いは私にとって「感動」でした。
その後,水嶋先生には徳島県での研修会(糖尿病に関する地域診断)でもお世話になりましたが,それまで悩んでいたことが一歩一歩解決されていくのが自分でもよくわかりました。それまでの悩みの内容は,「根拠に基づく健康政策」の基本が「地域診断」だということを理解できていなかったことによるものだと気がついたのです。
◆実践から出た疑問にも答え
このように,地域診断や政策サイクルのことが少しずつわかってきて,評価をどうするか,次にどう進めるか,ということを考えて保健所での実際の事業を考案,実施するようになりました。つたないながら,2年間このように進めてきた結果,まわりの理解がすごく得られたように思います。しかし,実際の仕事に携わる中でまた新たな疑問が生じてきたのも事実です。地域診断のためのデータをどのように集め(既存のデータがあるかないか,どこを探せばいいのか),どう活用していくか,評価指標はどうするか,など数多くの新たな疑問の中で本書と出会えました。とてもタイムリーによい本に巡り会えたと思います。疫学的に難解な部分も多々ありましたが,実践に即役立ちそうな,第6,7,8章の政策の選択→実施→評価のくだりは,早く次のページが読みたくて,ページをめくる手ももどかしく……,という感じで読みました。
これからも,本書と『地域診断のすすめ方』は,実践の現場で「根拠に基づく健康づくり」に携わっている人間にとって,バイブルとなるのではないかと思います。地域診断を恒常的に進めていくには,データバンク機能をもった(あるいは,もつべき)保健所や衛生研究所,行政が大学などと連携し,疫学の専門家である先生方と一緒に,「政策サイクル」にのせていくことが重要だと思われます。このことも本書及び『地域診断のすすめ方』の双方にわかりやすく,また深く書かれていたことです。
最近,県の研修で政策法務講座を受講する機会があり,地域診断の結果をまさに自治体の政策に反映させていく過程をシミュレーションする演習を体験できました。行政職として,これまでこういうことを考えて仕事をしてきただろうかと強く反省し,「根拠に基づく健康政策」の原点は,「地域診断」にあるということを,改めて認識できたように思います。
唯一残念だったのは,本書が訳本だということです。難解なことが,英語の並びで表現されているので,理解に苦しむ部分,もう1つすっきりわからない部分が,特に第1部の疫学手法に関する解説で多かったと思います。『予防医学のストラテジー(訳書)』のエッセンスが『地域診断のすすめ方』でわかりやすく解説されていたように,本書『根拠に基づく健康政策のすすめ方(訳書)』のエッセンスをわかりやすく解説した実践書の出版を切に希望します。
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