医学界新聞

 

MEDICAL LIBRARY 書評特集


図で説く整形外科疾患
外来診療のヒント[ハイブリッドCD-ROM付]

寺山 和雄,堀尾 重治 著

《評 者》片山 仁(順大名誉教授)

図で示すわかりやすい骨・関節疾患の手引き書

 ハンディな骨関節疾患の解説書である。図の説明がよく書けている本書は大変わかりやすく,一般の人が読んでも整形外科的な疾患を十分理解できる解説書であると思う。頁を開くとまず目に飛びこんでくるのが見事な図解である。そして簡潔に重要なポイントを解説してある。日頃よく遭遇する疾患を中心に,難しい,専門的な疾患は思い切って割愛してあるのがいい。

 患者さんにわかりやすく説明するのはEBMの観点からも留意すべき点であるが,“云うのはやさし,行うのは難し”というのが現実である。そういう場合に本書はきわめて有用である。先日,自動車の修理工場で,わが愛車の問題の箇所をいろいろ専門用語で指摘されたが,よく理解できず,ただうなずくばかり。知人に通訳を頼んでしまったことがある。それはわれわれ医師も患者さんに説明するのに同じような調子でやっているのではないかと自省させられた機会でもあった。

 本書は堀尾氏のすばらしい挿し絵と相まって,疾患の病態をちょうどよい詳しさで説明してある。病態の理解は現症や治療,予後の説明に欠かせないものであり,患者さんに説明する立場のスタッフにとってありがたい内容である。本書を通読すれば,日常頻度の高い骨関節疾患の全体像が把握できるし,疾患の1つひとつをゆっくり読めば,医師が患者さんの診療にあたって,説明のよすがにするに十分な解説がしてある。医学書院から出版されている『標準整形外科学』と併用すればさらに内容が深まるように考慮されており,医師,コメディカルのスタッフなどのための参考書として役立つものと考える。ぜひ,座右に置かれることをお薦めする。

 著者の一人堀尾重治氏は50年にもなろうとする知己であるが,著書『骨・関節X線写真の撮りかたと見かた』(医学書院)の名著の版を重ねられている逸材である。信州大学名誉教授の寺山和雄先生は整形外科医としてだけでなく,医師として立派な哲学をお持ちの先生で,患者さんのための医療を,患者さんと同じ目線で実践されている医師である。この2人の逸材が協力して,本書をまとめられたことは,医療の質を上げ,患者さんと同じ目線での診療が求められている現在,まことにタイムリーで当を得た内容であると思う。本書にはCD-ROMが添付されているが,パソコンにあまり馴れていない人にも大変使いやすいように気配りがしてあり,まったく問題ない。ハンディな好著である。

B5・頁200 定価7,140円(税5%込)医学書院


高次脳機能障害のリハビリテーション
実践的アプローチ

本田 哲三 編

《評 者》近藤 克則(日本福祉大教授・リハビリテーション医学)

高次脳機能障害支援の実践書

 高次脳機能障害に関する神経心理学の本は少なくない。それらの本では,病変の局在や症候,診断分類,鑑別疾患,そして,例えば「なぜ左半分が見えているのに無視するのか」などの機序に関する仮説が詳細に書かれていることが多い。しかし,障害者の社会復帰・社会参加を支援するリハビリテーションの立場からそれらの本を読むと,「ICF(国際生活機能分類)でいう機能障害はわかった。では,活動や参加レベルはどうなのだ。どう支援したらよいのか」という疑問と不満が残ってしまう。そんな疑問・不満に応えてくれるのが本書である。

 本書では,まず高次脳機能障害者の実態調査に基づいて,「I.高次脳機能障害を引き起こす疾患と主な症状」に始まり,「II.高次脳機能障害者の暮らしぶり」では,日常生活の状況から社会文化的活動,職業,経済状態,日常生活で困っていることまで紹介されている。「III.高次脳機能障害を疑うとき(見立ての手順)」でも日常生活のなかで見られる手がかりが書かれている。「Ⅳ.各障害の診断とリハビリテーション」では,失語症,注意障害,記憶障害,行動と感情の障害,半側空間無視,遂行機能障害,失行症,地誌的障害,失認症について取り上げられている。それぞれの概念や病巣,診断の方法はもちろん,日常生活での現れ方やリハビリテーションの方法などが書かれている。リハビリテーションの方法では,心理面への配慮,直接的治療介入,代償的治療介入,補填的治療介入,行動的治療介入,環境調整的治療介入などの見出しが立てられ多面的な方法が紹介されている。そのほかにも,就労へのアプローチや高次脳機能障害者を支える諸制度,関係諸機関についてなど,ICFの参加レベルに対応する内容も充実している。

 評者が気に入った点を3つあげれば,1つ目は『高次脳機能障害のリハビリテーション』のタイトルに相応しく,多面的なアプローチが書かれていることである。機能障害レベルに留まらず,日常生活への援助や就労支援,環境への働きかけ,心理面への配慮,さらにICFの活動や参加レベル,環境・個人因子にまで目を配った内容になっている。

 2つ目には,副題にあるとおり「実践的アプローチ」ができるよう工夫していることである。例えば,訓練課題や課題シートの実例がたくさん紹介されている。3つ目は,家族などへの支援を忘れていない点である。普段の生活で接している家族に向けて家庭でできる訓練方法を例示し,巻末には参考文献だけでなく,ホームページや一般向け書物,ビデオまで紹介されている。

 あえて2つ注文をつければ,1つは,支援の全体の流れがイメージしやすくなるよう,いろいろな形で社会参加に至った事例をいくつか取り上げ,長期にわたる経過を紹介してはどうか。もう1つは,支援プログラムを立てるうえで重要な,予後予測とゴール設定の手がかりがあると,いっそう役立つものになるように思う。もっとも,ここまで欲張ると,分厚い本になってしまうので無理な注文かもしれない。

 本書によって,高次脳機能障害者に対するリハビリテーション実践が豊かになるのは間違いない。ぜひ,多くの人に手に取っていただき,実践経験を集めていきたいものである。また,障害者自立支援法が2006年4月から導入され,徐々に就労支援に関わる制度・機関なども変わっていくであろう。集められた経験や制度の変化を反映させ,いつの日か改訂版が出る本に育ってほしい。

B5・頁216 定価3,990円(税5%込)医学書院


《標準作業療法学 専門分野》
地域作業療法学

矢谷 令子 シリーズ監修
小川 恵子 編

《評 者》片岡 愛子(ハートフルクリニック・作業療法士)

他職種との連携に向けて

 「地域リハビリテーション」という言葉の真に意味するところがどれほど理解されているかを考えるとかなり不安である。何しろ,地位や名誉,権利の回復というのが本来の意味であり,障害をもった人々に関して言えば「全人間的復権」(上田敏氏)を意味するはずのリハビリテーションという言葉が,さる著名な人物の脳卒中発症後の報道においていまだに「……今後は右半身のリハビリに専念……」という使われ方をするのである。いわんや,リハビリテーションに地域がつけば,単純に「セラピストが対象者の自宅や地域の通所施設において機能訓練をすること」と理解している人が医療・福祉関係者の中に,まだかなりの数いるとしても不思議ではない。筆者も時折そのような現実に出会うことがある。このような状況下では「地域作業療法」などというものは,多くの人にとってさらに理解しがたいものである。その現実にさらされた当の作業療法士も,十分な経験がなければ自分のアイデンティティを見失ってしまう可能性がある。

 こういった現状を筆者の方々はよく認識されておられるからなのか,この本の第1章は「地域作業療法の基盤」と題し「地域」のとらえ方について触れ,次いで「地域医療活動の成り立ち」そして「地域リハビリテーションとは何か」についての説明がなされている。そしてそのあとに初めて「地域作業療法とは」という項目が設けられている。これは,教える側にとっては大変ありがたい。基礎となる言葉の意味するところの正確な理解なくして確固とした理念を把持することは難しいと考えるからである。

 全体を通して本書には,それぞれの項目に必要な内容が過不足なく盛り込まれている。特に,第2章では他職種との連携のあり方について触れられており,作業療法をいかにして理解してもらうかについて述べられているとともに,8つの職種の業務と役割が説明されている。互いを知らずして連携は成り立たない。他職種についてはリハビリテーション概論等でも学んでいるはずだが,再度ここで詳しく学ぶ意義は大きい。第4章の各現場での作業療法の説明も簡潔かつ具体的でわかりやすい。

 以上,さすがに経験豊富な執筆陣の手になるものと敬服するばかりである。ただ一点気になるのはアセスメント・評価の項が2か所にわたっていることである。これはできれば統合していただけると教える側としてはありがたい。また,シリーズの他の本にあるように,評価の項でICFの観点と関連づけた説明があればとも感じた。ICFが専門職間および当事者との共通言語たるべき役割を担って登場し活用されていることを考えると,改訂の際にはぜひご一考を願いたい。

B5・頁276 定価3,990円(税5%込)医学書院