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高次脳機能障害のリハビリテーション
実践的アプローチ

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高次脳機能障害について、本書では「生活障害」という点を重視。日常の生活場面から復職に至るまで、高次脳機能障害者の日々の暮らしぶりを取り上げ、また各障害の日常生活での現れ方を詳説し、それに対してすぐに実践できるリハビリテーションアプローチの方法を具体的かつ平易に解説。現場ですぐに活用可能な「訓練課題」も豊富に収載。
編集 本田 哲三
発行 2005年11月判型:B5頁:216
ISBN 978-4-260-00178-6
定価 4,180円 (本体3,800円+税)
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  • 目次
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I 高次脳機能障害を引き起こす疾患と主な症状
II 高次脳機能障害者の暮らしぶり
III 高次脳機能障害を疑うとき(見立ての手順)
IV 各障害の診断とリハビリテーション
V 高次脳機能障害者の就労へのアプローチ
VI 高次脳機能障害者を支える諸制度
VII 関係諸機関
VIII 参考文献/ホームページ/一般向け書物/ビデオ
索引

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日常生活の視点から社会復帰実践アプローチ
書評者: 藤田 郁代 (国際医療福祉大教授・保健学部言語聴覚学科)
 高次脳機能障害は「目に見えない」障害であり,この障害をもつ人々に対する社会の対応や支援体制の整備は,運動障害のようなわかりやすい障害に比べ大幅に遅れた。特に,交通事故等の脳外傷によって生ずる高次脳機能障害への専門的対応はわが国ではなかなか進まなかった。しかし,近年になってようやく高次脳機能障害への認識が社会に広まり,支援体制の整備が進んできた。その1つは,平成13年から厚労省が取り組んできた「高次脳機能障害支援モデル事業」であるが,編集の本田先生はそれ以前から東京都をフィールドとして高次脳機能障害の支援プログラムの開発に取り組み,多くの実績をあげてきた。本書は高次脳機能障害について豊富な臨床経験と研究業績をもつリハビリテーション専門医らによって著されたものであり,「高次脳機能障害」というタイトルのつく他の専門書とは一味違っている。

 本書は以下の2点において際立っている。

 第1は,高次脳機能障害を徹底して患者の“日常生活”の視点から把握し,その支援方法について生活機能の向上に主眼を置いて解説している点である。難解な専門用語を用いた病態の記述は最小限に留め,高次脳機能障害によって日常生活にどのような問題が生じ,専門職および家族はそれにどのように対応すべきかをわかりやすく解説している。例えば,「高次脳機能障害者の暮らしぶり」という章においては,患者の日常生活の状況,社会的・文化的活動,職業,経済状態を実態調査のデータを基に説明し,その問題点が浮き彫りにされている。また,「高次脳機能障害を疑うとき」という章では,障害を見出す方法を平易な表現で的確に説明しており,専門職だけでなく家族が障害を理解する際にも大いに役立つと思われる。

 第2は,高次脳機能障害患者に対する支援方法が著者の先生方の実践経験に基づいて具体的に解説されている点である。編者らは高次脳機能障害患者の就労支援の問題に早くから取り組み,この分野の先駆的研究を行ってきた。本書ではその研究の経緯や就労支援の実践例が紹介されており,就労における問題点や支援を進めるうえでの理論的根拠や臨床的示唆を得ることができる。

 以上のほかに,記憶障害,注意障害,遂行機能障害など各種障害に対するリハビリテーションの方法が平易に説明され,家庭でできる訓練方法が例示されているのも本書の特色の1つである。編者は本書において,高次脳機能障害にかかわる全員が家族と力を合わせて社会復帰に向けてのアプローチができるように配慮したと述べている。その言葉どおり,本書は高次脳機能障害のリハビリテーションに携わる専門職のみならず,社会復帰に向けて努力している患者と家族にとっても有用な書である。

高次脳機能障害支援の実践書
書評者: 近藤 克則 (日本福祉大教授・リハビリテーション医学)
 高次脳機能障害に関する神経心理学の本は少なくない。それらの本では,病変の局在や症候,診断分類,鑑別疾患,そして,例えば「なぜ左半分が見えているのに無視するのか」などの機序に関する仮説が詳細に書かれていることが多い。しかし,障害者の社会復帰・社会参加を支援するリハビリテーションの立場からそれらの本を読むと,「ICF(国際生活機能分類)でいう機能障害はわかった。では,活動や参加レベルはどうなのだ。どう支援したらよいのか」という疑問と不満が残ってしまう。そんな疑問・不満に応えてくれるのが本書である。

 本書では,まず高次脳機能障害者の実態調査に基づいて,「I.高次脳機能障害を引き起こす疾患と主な症状」に始まり,「II.高次脳機能障害者の暮らしぶり」では,日常生活の状況から社会文化的活動,職業,経済状態,日常生活で困っていることまで紹介されている。「III.高次脳機能障害を疑うとき(見立ての手順)」でも日常生活のなかで見られる手がかりが書かれている。「IV.各障害の診断とリハビリテーション」では,失語症,注意障害,記憶障害,行動と感情の障害,半側空間無視,遂行機能障害,失行症,地誌的障害,失認症について取り上げられている。それぞれの概念や病巣,診断の方法はもちろん,日常生活での現れ方やリハビリテーションの方法などが書かれている。リハビリテーションの方法では,心理面への配慮,直接的治療介入,代償的治療介入,補填的治療介入,行動的治療介入,環境調整的治療介入などの見出しが立てられ多面的な方法が紹介されている。そのほかにも,就労へのアプローチや高次脳機能障害者を支える諸制度,関係諸機関についてなど,ICFの参加レベルに対応する内容も充実している。

 評者が気に入った点を3つあげれば,1つは『高次脳機能障害のリハビリテーション』のタイトルに相応しく,多面的なアプローチが書かれていることである。機能障害レベルに留まらず,日常生活への援助や就労支援,環境への働きかけ,心理面への配慮,さらにICFの活動や参加レベル,環境・個人因子にまで目を配った内容になっている。

 2つめには,副題にあるとおり「実践的アプローチ」ができるよう工夫していることである。例えば,訓練課題や課題シートの実例がたくさん紹介されている。3つめは,家族などへの支援を忘れていない点である。普段の生活で接している家族に向けて家庭でできる訓練方法を例示し,巻末には参考文献だけでなく,ホームページや一般向け書物,ビデオまで紹介されている。

 あえて2つ注文をつければ,1つは,支援の全体の流れがイメージしやすくなるよう,いろいろな形で社会参加に至った事例をいくつか取り上げ,長期にわたる経過を紹介してはどうか。もう1つは,支援プログラムを立てるうえで重要な,予後予測とゴール設定の手がかりがあると,いっそう役立つものになるように思う。もっとも,ここまで欲張ると,分厚い本になってしまうので無理な注文かもしれない。

 本書によって,高次脳機能障害者に対するリハビリテーション実践が豊かになるのは間違いない。ぜひ,多くの人に手に取っていただき,実践経験を集めていきたいものである。また,障害者自立支援法が2006年4月から導入され,徐々に就労支援にかかわる制度・機関なども変わっていくであろう。集められた経験や制度の変化を反映させ,いつの日か改訂版が出る本に育ってほしい。

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