地域作業療法学

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地域リハビリテーションにおける地域作業療法の位置づけや介護保険制度における地域作業療法の役割についてわかりやすく解説。さらにさまざまな施設での実践事例を紹介。地域作業療法の多様な姿を明示する。作業療法士を志す学生はもちろん、これから地域に出ようとしている作業療法士にも最適の1冊。
シリーズ 標準作業療法学 専門分野
シリーズ監修 矢谷 令子
編集 小川 恵子
発行 2005年10月判型:B5頁:276
ISBN 978-4-260-00046-8
定価 4,180円 (本体3,800円+税)
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  • 目次
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序章 地域作業療法学を学ぶ皆さんへ
第1章 地域作業療法の基盤と背景
第2章 地域作業療法を支える制度・支援・連携
第3章 地域作業療法の実践
第4章 地域作業療法の実践事例
地域作業療法学の発展に向けて

さらに深く学ぶために
索引

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他職種との連係に向けて相互理解への橋渡し
書評者: 片岡 愛子 (作業療法士・ハートフルクリニック)
 「地域リハビリテーション」という言葉の真に意味するところがどれほど理解されているかを考えるとかなり不安である。何しろ,地位や名誉,権利の回復と言うのが本来の意味であり,障害をもった人々に関して言えば「全人間的復権」(上田敏氏)を意味するはずのリハビリテーションと言う言葉が,さる著名な人物の脳卒中発症後の報道においていまだに「…今後は右半身のリハビリに専念…」と言う使われ方をするのである。いわんや,リハビリテーションに地域がつけば,単純に「セラピストが対象者の自宅や地域の通所施設において機能訓練をすること」と理解している人が医療・福祉関係者の中に,まだかなりの数いるとしても不思議ではない。筆者も時折そのような現実に出会うことがある。このような状況下では「地域作業療法」などというものは,多くの人にとってさらに理解しがたいものである。その現実にさらされた当の作業療法士も,十分な経験がなければ自分のアイデンティティを見失ってしまう可能性がある。

 こういった現状を筆者の方々はよく認識されておられるからなのか,この本の第1章は「地域作業療法の基盤」と題し「地域」のとらえ方について触れ,次いで「地域医療活動の成り立ち」そして地域リハビリテーションとは何か」についての説明がなされている。そしてそのあとに初めて「地域作業療法とは」という項目が設けられている。これは,教える側にとっては大変ありがたい。基礎となる言葉の意味するところの正確な理解なくして確固とした理念を把持することは難しいと考えるからである。

 全体を通して本書には,それぞれの項目に必要な内容が過不足なく盛り込まれている。特に,第2章では他職種との連携のあり方について触れられており,作業療法をいかにして理解してもらうかについて述べられているとともに,8つの職種の業務と役割が説明されている。互いを知らずして連携は成り立たない。他職種についてはリハビリテーション概論等でも学んでいるはずだが,再度ここで詳しく学ぶ意義は大きい。第4章の各現場での作業療法の説明も簡潔かつ具体的でわかりやすい。

 以上,さすがに経験豊富な執筆陣の手になるものと敬服するばかりである。ただ一点気になるのはアセスメント・評価の項が2か所にわたっていることである。これはできれば統合していただけると教える側としてはありがたい。また,シリーズの他の本にあるように,評価の項でICFの観点と関連づけた説明があればとも感じた。ICFが専門職間および当事者との共通言語たるべき役割を担って登場し活用されていることを考えると,改訂の際にはぜひご一考を願いたい。


学生から実践者まで幅広いニーズに対応
書評者: 貫井 信幸 (山梨県福祉保健部長寿社会課・作業療法士)
 一般に地域作業療法は,言葉としてなじみのないものである。行政に籍をおくと,誰に対してもわかりやすい言葉で説明できることが求められる。難しい言葉や意味不明な単語は不要で,実践の裏付けがないものにはなんの興味もない。

 その意味で本書は,編集者・執筆者自らの経験や参考文献を生かして解説し,最新の情報を含めた内容になっている。

 本書は,教育カリキュラムに対応したテキストとして,地域作業療法の標準的な内容と現状,および課題をまとめたものである。学生にとってわかりやすくまとめられており,すでに作業療法士として活躍している者にとっても,語句の解説や地域作業療法の内容を整理することができる。また,各章に一般教育目標(GIO),行動目標(SBO),修得チェックリストの記載があり,学生のみならず教員にとっても扱いやすいテキストとなっている。

 以下に本書の構成に沿って述べる。「第1章 地域作業療法の基盤と背景」は,「I 地域医療の台頭」「II 地域リハビリテーションとは」「III 地域作業療法とは」を通して,地域作業療法のもととなる地域医療や地域リハビリテーションの成り立ちについて,各執筆者が各時代の経験者として丁寧に解説している。

 「第2章 地域作業療法を支える制度・支援・連携」は,「I 制度」「II 支援」「III 連携」について社会制度の仕組み,改正介護保険制度の内容,地域リハビリテーションにおけるチームワークや連携など最新の情報を取り入れて解説している。特に,本章のSBOでは「介護保険制度における作業療法士の役割について説明できる」「介護保険法の改正について説明できる」など,現在,地域で活躍中の作業療法士でも説明が難しい点を,図や表を活用してわかりやすく解説している。

 本書は学生のためのテキストだけではなく,地域で働く作業療法士同士の,共通言語としてマニュアルのような活用が期待できる。実践論にまで言及している本書だからこそ,幅広い読書層が可能となっている。

 「第3章 地域作業療法の実践」は,「I 地域作業療法の基本的枠組み」「II 地域作業療法の実践過程」を通し,アセスメント(生活課題分析)の方法や評価,目標設定とプログラムについて解説している。この章では,具体的な評価スケールや写真を交えて説明し,ICFに代表される環境因子が生活障害を評価する重要な要素となること,住宅改修や福祉用具の適応についても解説している。

 「第4章 地域作業療法の実践事例」は,病院(身体機能領域・精神機能領域),小児医療施設,診療所,介護老人保健施設,通所介護施設,共同作業所,保健センター,身体障害者福祉センター,リハビリテーションセンター,訪問看護ステーション,在宅介護支援センター,介護老人福祉施設,在宅(終末期)の各施設の特徴・作業療法士の役割・作業療法の活動の実際・今後の課題を,それぞれ各執筆者が豊富な経験に基づいて解説し,本書において最もボリュームのある章となっている。

 巻末の「地域作業療法学の発展に向けて」では,「地域で作業療法士としての専門性を確立するには,1つひとつの事例をエビデンスとして積み重ねていくことが重要である」「作業療法士としての仕事に少し余裕が出てきたら,目の前の対象者だけでなく,もう少し視野を広げて地域全体を見る目を養ってほしい。障害をもった人だけでなく,すべての住民に目を注ぎ,障害をもった人と健康な住民とが協力し合える地域構造ができているかどうかを見ていってほしい」など,これから地域作業療法学を実践する者への編集者の期待が述べられており,深く同感するところである。

 「さらに深く学ぶために」では書籍の紹介や学会,研究会まであげて,1人ひとりへの配慮が行き届いている。地域作業療法を学ぶ,学生から実践者まで幅広いニーズに応えたマニュアル的な一書であり,推薦したい書である。

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