医学界新聞

 

MEDICAL LIBRARY 書評特集


救急研修標準テキスト

日本救急医学会 監修
島崎 修次,浅井 康文,有賀 徹,杉本 壽,前川 剛志,益子 邦洋,行岡 哲男 編

《評 者》矢崎 義雄(独立行政法人国立病院機構・理事長)

救急研修の最適・必携のテキスト

 このたび新たに発足した卒後臨床研修制度は,これまで将来めざす専門領域を中心に研修が行われていたところを,すべての医師がプライマリ・ケアにおける基本的な総合診療能力を修得して,全人的な医療を提供できることを目標に,抜本的に改革された。内科や外科といった基本的な診療科の研修を受けるとともに,救急医療を研修することも義務づけられている。

 これは,そもそも救急医療では生命を直接脅かす重篤な病態を呈する患者から,プライマリ・ケアの初療まで広い領域にわたる診療が行われ,しかも迅速な診断と治療方針の確立が常に求められている厳しい臨床現場であることによる。すなわち,研修医にとってプライマリ・ケアにかかわる実践的な診療能力を幅広く,しかも効率よく修得できる研修の場に最も適していることから,新制度のもとでの研修目標達成のために,救急医療の研修が欠かせないところとなった。

 しかし,救急医療の現場においては多様な病態を呈する患者の初療にあたることから,プログラムに沿った体系的な教育研修が実際には困難なことが多い。そこで救急医療システムを理解し,救急研修における実践的な知識や手技を的確に修得するための,しかも研修医や指導医双方にとって日々の研修における指針となるような標準化されたテキストが求められている。

 『救急研修標準テキスト』は,このような研修現場でのニーズに応えて企画編集された最初で最適の手引書といえる。従前より日本救急医学会の監修のもとに『標準救急医学』が刊行され,医学生,研修医をはじめ多方面から好評を受けて広く愛用されてきた。

 このたび36年ぶりに改革された新医師臨床研修制度のもと必修化された救急医療研修への指針として,日本救急医学会は「卒後臨床研修における必修救急研修カリキュラム」を作成した。本書は,このカリキュラムに準拠して,救急医療における診療能力を確実に修得できることをめざして,再び日本救急医学会の監修のもとで実践的なテキストとして刊行されたものである。

 本書の刊行にあたっては,現在の救急医療の最前線で診療と教育に活躍されている先生方が執筆され,救急医療の基本手技・検査から,症候別そして重症度別の病態と患者についての診断・治療のすすめ方など,実際の救急研修現場で必要不可欠な内容が体系的に,そして実践的な視点から解説されている。さらには近年の社会情勢から,大規模災害,テロリズムを中心とした災害時医療に関しても項目を設けるなど,最新の情報と細やかな配慮により,一層充実した内容になっている。

 本書が,臨床医の必修となる救急医療の適切な研修の実践に利用され役立つことになれば,患者本位の医療が実現し,患者の幸せにも直結する大変すばらしいことになると思っている。

B5・頁420 定価5,880円(税5%込)医学書院


標準脳神経外科学
第10版

山浦 晶,田中 隆一,児玉 南海雄 編

《評 者》山本 勇夫(横市大大学院教授・脳神経外科学)

医学生だけでなく研修医も楽しみながら学べる教科書

 『標準脳神経外科学』は1979年の初版以来,改訂の度に新たな試みを重ねてきたが,今回の改訂第10版の主な特長は,(1)脳神経外科の若手リーダー4人が執筆者に加わり,(2)全編にわたり「患者」の語を「患者さん」の表現に変更し,(3)巻末に国家試験を模した「巻末問題」を新設するなど国家試験に取り組む学生へ配慮しながら,(4)ボリュームは第9版とほとんど変わらない本文445ページから構成されていることである。

 本書では多くのことを学ばなければならない学生が,将来臨床の場で必要となる基本的な脳神経外科の知識のみならず,up to dateの知見が有機的に把握できるよう工夫されており,分担者間のばらつきもなく統一的記述となっていることは読者にとって理解しやすい。

 さらに図,イラスト,画像も一層精選され,脳神経外科疾患を系統的に理解しやすいように工夫されている。一般に学生の教科書というと覚えなければならない知識の羅列の感が拭えないが,本書では一歩進んで学習すべき項目を「メモ」(例:プリオン病の解説)として,最新の知識は「Topics」(例:難治性疼痛などに対する電気刺激治療),気楽に読みながら重要な知識が得られる「Coffee Break」(例:軽度の頭痛で発症するくも膜下出血),さらに「やってはいけない医療行為」(例:腰椎穿刺)など,楽しく学べる工夫が随所に見られることも嬉しいことである。

 巻末には医師国家試験出題基準や医学教育モデル・コア・カリキュラムの中から脳神経外科に関連する部分を抜粋し,本書の関連項目ページを示した対照表が収載されている。また「臨床実習の手引き」の項では患者に接する際の一般的な心構えから始まり,不全麻痺,言語障害,認知症などさまざまな神経脱落症状を持った脳神経外科患者それぞれについて,また手術見学の心構え・準備についても言及されており,学生のみならず,脳神経外科以外の研修医にも必読の書といえる。

 しかも本書では文中「患者さん」という表現が用いられ,序にあるとおり編者の「これまで臨床の教育現場で用いる呼び方と教科書の記述が一致していなかった状況を,変えて行きたい」という意欲が感じられる。

 学生はもとより,臨床研修医,さらにはコメディカルスタッフにまでお勧めしたい好著である。

B5・頁512 定価7,350円(税5%込)医学書院


メディカル クオリティ・アシュアランス
判例にみる医療水準 第2版

古川 俊治 著

《評 者》武藤 徹一郎(癌研有明病院・病院長)

さまざまな医療過誤を実際の判例に基づいて解説

 相変わらず医療事故がなくならない。報道される数が減らないのだから真の実態は推して知るべしである。医療安全管理委員会を設立し,マニュアルを作成し,“指差し確認”を頂点とする標語を作って各部署に貼ってみても,小さなミスは絶えることがない。To err is human(人は誰でも間違える)とは真実であり,間違え方によっては患者さんおよび医療関係者に重大な影響が及ぶことを覚悟しておかなければならないと実感せざるをえない。

 このような時期に『メディカル クオリティ・アシュアランス-判例にみる医療水準(第2版)』という,まことに時宜に合った本が出版された。本書では医療過誤が起こった場合,その関係者がどのような責任を問われるかが,実例に基づいて詳細に述べられており,医療レベルが低いことの結末から,逆にメディカル クオリティ・アシュアランスの必要性がよく理解できる仕組みになっている。

 本書は24章から構成されており,説明義務違反などの一般的な事例に続いて,臓器別に医療訴訟の実例に基づいた解説によって,個々の医療過誤のどこに問題があるかが示されている。すなわち,各章ごとに判例としての事案と裁判所の判断が示され,その後にコメント,あるいは補足的な解説が追加されている。

 トピックス欄にさまざまなトピックスを取り上げて概説してあるのも大変有用である。交通事故後の所見の見逃し責任や,その時の「何か変わったことがあれば病院へ来なさい」というだけでは説明が不十分で責任を問われる,という話など,日常診療現場で起こっている事例がふんだんに出てきて,正直なところ常に正しく対処できる自信を失いそうになる。紹介されている事案は計570件,判例の出典も全部明記されており,その総数は1071に及ぶ。

 個々の医療過誤が裁判官的手法によって詳細・簡潔にまとめられており,どの事案を見ても大変参考になる。登場するのはいずれも新聞沙汰になるような大きな過誤であるが,それは日々起こる小さなインシデント,アクシデントの積み重ねの最終結果であり,クオリティ・アシュアランスのための日常の努力を怠ってはならないことを思い知らされる。

 本書の著者,この世界では有名な古川俊治氏は,現役の外科医にして医学博士,慶應義塾大学法科大学院助教授であるとともに,弁護士としても社会的に活躍しているという誠に多才な能力の持ち主である。本書は正に医学と法律を熟知した著者にしか書くことのできない名著であり,すべての医師にとって,総論および自らの専門とする領域の項を熟読するだけで大変役に立つに違いない。筆者は著者とは外科医として接点があり,いつもシャープで優しい人柄に魅了されているが,医療事故関係の話は生徒として拝聴し,わかりやすい解説と話術の巧みさに感心している。このような多芸多才はどうして生まれてくるのだろうか。歴史上ではレオナルド・ダ・ヴィンチが有名であるが,ちなみに著者の外科における専門はロボット手術で,その機械名をダ・ヴィンチという。

 本書を医療関係者,とくに院長,医療安全管理委員長などの病院管理者の必携書として広くお勧めしたい。

B5・頁528 定価5,880円(税5%込)医学書院


口蓋裂の言語臨床
第2版

岡崎 恵子,加藤 正子 編

《評 者》澤島 政行(東大名誉教授/横浜船員保険病院名誉院長)

言語臨床の発展のための出発点となる本

 本書は,1997年に出版された第1版の改訂版である。第1版は口蓋裂の言語臨床家として実績を積み上げた著者たちが口蓋裂言語に関する諸問題を包括整理し,臨床経験と併せて世に出したものである。その後8年の時を経て,著者等の実績にも臨床に加えて若い臨床家や学生の指導教育活動が増えてきている。

 第2版では最近8年の新しい知見を加えると共に,後進の育成という意味を含めて新しい著者数名が加わっている。第2版の構成も初版と同じ11章から成る。すなわち「1章 口蓋裂治療における言語臨床家の役割」,「2章 口蓋裂の言語治療に必要な基礎知識」,「3章口蓋裂言語」,「4章 口蓋裂の言語臨床における評価」,「5章 口蓋裂の言語臨床における治療」,「6章 乳児期の言語臨床」,「7章 幼児期の言語臨床」,「8章 学童期の言語臨床」,「9章思春期・成人期の言語臨床」,「10章特別な問題を持った症例」,「11章 口蓋裂の言語臨床における今後の課題」,である。

 第2版の目次では細かい小見出しが付けられ,その章の内容が一目瞭然となっている。内容の記述も新しい知見の追加とともに,かなり細かく書き直され,正確な知識と具体的な臨床実践の手掛かりが得られるように配慮してある。評者は第1版の記述について,初心者には多少取り付きにくいのではないかという懸念を持っていたが,第2版ではその点も改善されている。

 第1章では,チームアプローチを前面に掲げ,またチームのコーディネーターとしての言語臨床家の役割をあげている。これはSTの資格制度が施行され,口蓋裂を含む言語障害の分野でSTの存在が定着し,障害対策が成熟してきたことを示すものである。また第8章,学童期の言語臨床では項目の立て方から大幅に書き換えられている。これには新しく加わった著者の視点と最近の学童生活の実体が反映しているのであろう。

 第10章の重複症例では数名が分担執筆し,最近の知見も加えて内容の充実が図られている。さらに第11章「今後の課題」は,初版では“○○をどうするか?”という問題提起の形式をとっていたが,第2版では課題としての項目を明記して,それに対する指針を示しており,言語評価の国際的標準化にも触れている。

 さて,本書初版の前身が1983年医学書院出版の『口蓋裂の言語治療』であることをご存知の読者も少なくないであろう。この本の著者たちは日本における口蓋裂言語治療の草分けとしてこの領域の開拓,発展を推進して来たSTの先達である。それから14年後,その著者等が内容を一新して出版したのが本書の初版である。第2版が出版された現在は,この領域の開拓,発展が一段落した時代と考えてもよいであろう。第2版はそのような時代の変化を見据えて今までの成果を総括し,今後の新しい発展への引継ぎの意味を込めて書かれていると思われる。本書が新しい言語臨床の出発点となることを期待したい。

B5・頁184 定価5,250円(税5%込)医学書院


レジデントのための
腎疾患診療マニュアル

深川 雅史,吉田 裕明,安田 隆 編

《評 者》平方 秀樹(九大病院助教授・腎疾患治療部)

内科の基本として,腎臓内科のグローバルスタンダードを示す

 腎臓の機能は体液の恒常性維持で,水と溶質を適正なレベルにコントロールすることが腎臓に課せられた使命である。一般内科医は,これらの失調の多くが腎臓に起因することを理解し,腎臓専門医は,病態の補正法に習熟することが基本となる。

 このたび上梓された『レジデントのための腎疾患診療マニュアル』は,このような考えに立脚して執筆・編集された,わが国で初めての腎臓内科の教科書で,編集者の熱い意志が随所で示されている。本書は机に座って読む本ではなく,使いこなす本である。持ち歩いてベッドサイドで確認し,もの足りない部分や新しいエビデンスが明らかになった場合には,書き加えて自分で編集し直しても構わない。線を引いたり,蛍光ペンで色を付けるだけで終わらせずに,読者自身が成長させて欲しい教科書である。

 本書は,イントロダクションに始まり,腎尿路疾患患者への一般的アプローチ,水電解質・酸塩基平衡異常,原発性糸球体疾患,二次性腎疾患,尿細管・間質疾患,急性腎不全,保存期腎不全,末期腎不全へと続く。イントロダクションでは,腎疾患の大まかな捉え方から慢性腎臓病(chronic kidney disease)という新しい概念の提唱とともに,多くのページを鑑別診断過程における確率論を説くことに費やしている。

 目次をみると,従来は扱いが小さかった水電解質異常なども含め,腎臓内科の全分野について,バランスよく幅広くカバーされている。特に注目すべきは,日本の腎臓内科のほとんどのカリキュラムに欠けていた「腎移植」を,内科医の立場で取り上げていることである。これには神戸大の深川雅史氏をはじめとする3人の編集者の強い意志が反映しているものと思われる。

 もちろん,章によっては十分なページが取れず物足りなさを感じる部分もあるが,腎臓の専門家をめざすには,全分野について使える知識を身に付ける必要があるので,最初の一歩としては適切なレベルであろう。「私は透析の専門家だから,組織のことはわからない」などというのは,腎臓の専門家同士では謙遜の情の表現にはなるが,コンサルトに来ている非専門家にとっては噴飯ものなのだから。

 一方,前書きにもあるが,この本は初期研修を終えた程度の内科医のレベルを想定して書かれている。そのために,最初の部分を占める症候論の部分だけでなく,全体を通じて「病歴や身体所見を重視すること」,「特殊検査はきちんと選択して行うこと」,「病態に基づき,なるべくエビデンスのある治療法を選択すること」という,内科医としてのポリシーが強調されているように思う。その一環であろうが,鑑別診断に必要な,疾患の事前確率,事後確率,感度と特異性,検査閾値,治療閾値などについて,「診断のプロセスとアプローチ」として,イントロの部分で十分に説明しているのも特筆に値するだろう。ここにも編集者の意志が感じられる。

 1つだけ気になるのは,本文のレイアウトであろうか。黒と青の2色刷りにしたおかげで,とても見やすくなっている。しかし,全体のページ数を圧縮するためであろうが,新しいセクションがページの下のほうから始まる場所も多々あり,めくっている時に読みにくく,出版社に改善を求めたい。

 さて,編者だけでなく,執筆者も助教授,講師クラスのバリバリの中堅どころが主体なので,読者の反応に応じて,今後さらに改訂されていく可能性を感じさせる1冊である。その際にはConsultation Nephrologyなどの,新しい分野であり,日本の教科書に欠けていた部分もさらに補強されることを期待したい。

A5・頁496 定価5,040円(税5%込)医学書院


ベッドサイドのBasic Cardiology
心臓の収縮・弛緩
その調節と破綻,そして治療

北風 政史 著

《評 者》小室 一成(千葉大大学院教授・循環病態医科学)

心臓研究の第一人者がわかりやすく解説

 「心臓は難しいから面白いのだ」。これは私が学生や研修医を誘うときの口説き文句である。残念ながらこの言葉で誘われる若者は多くないが,誘われる人の多くはやる気に満ちた有望な人物である。しかし実際のところ,循環器を選ぶ人は,私を含めて結構単純な人が多い。ここが問題である。つまり本来循環器病は決してやさしくないのだが,診断機器や治療技術の発達によりあまり病態生理を考えずして診断・治療が可能になっている。しかし,例えば心不全の発症の機序はどこまで理解されているのであろうか。私の言っているのは急性心筋梗塞のことではなく,少し前まで心機能のよかった高血圧性心肥大や弁膜症,陳旧性心筋梗塞の場合である。おそらく代償が破綻した,簡単に言えば心臓が疲れたのであろうが,それを科学的な言葉で語ることは困難である。

 最近遺伝子改変マウスやゲノム情報を用いることにより,ようやく心不全の発症機序に関する解析が可能になってきた。幸いわが国でも,そのような研究をする人が増えてきたが,その前に心臓の機能に関する生理学的な知識が必要であろう。

 心臓の収縮・弛緩といった特異的な機能を調節しているメカニズムを知り,その破綻した状態である心不全を理解するうえで格好な本,ベッドサイドのBasic Cardiology『心臓の収縮・弛緩-その調節と破綻,そして治療』が出版された。著者である北風先生は,まず工学部で流体力学を学び,次に医学部で心臓力学や生化学的研究をし,さらに現在国立循環器病センターで多数の心不全患者の診療を行っている。まさに心不全を解明,理解するうえで最高のバックグラウンドの持ち主である。

 本書において,特に冠循環,プレコンディショニング,心臓のメカニクスに関する章は,世界をリードする著者らしい長年の奥深い考察に基づいている。本書はこれから心臓の生理を勉強する学生や循環器病を学ぶ研修医ばかりでなく,心臓に興味のある人全員にお勧めしたい“わかりやすいが面白い”良書である。

A5変・頁192 定価4,620円(税5%込)MEDSi