医学界新聞

 

MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内


フィジカルアセスメント ガイドブック
目と手と耳で ここまでわかる

山内 豊明 著

《評 者》高階 經和(社団法人臨床心臓病学教育研究会理事長/高階国際クリニック院長)

ベッドサイド手技を伝える 魅力あるガイドブック

 「フィジカルアセスメント」は,ベッドサイドで問診・視診・触診・打診・聴診によって,呼吸器・循環器・消化器・神経系など各系統の変化を子細に観察し,患者のどこが悪いのかを判断することができるが,1日で習得できる手技ではない。しかし患者の言葉に耳を傾けるとともに,身体所見を的確に捉え,臓器の言葉を的確に理解するための注意深い洞察力と集中力があれば,誰でも身につけることができるベッドサイドの手技なのである。

 私は1972年に臨床には3つの言葉があることを提唱した。それは「日常語」(spoken language),「身体語」(body language),そして「臓器語」(organ language)である。はからずも「臨床における3つの言葉」の持つ意味と,それを看護にどう生かすかという一連の流れを見事にまとめられた山内豊明先生の『フィジカルアセスメント ガイドブック』を手にして,長年,私がどう教えるべきかについて描いていた夢が,本書となって実現したことに感銘を受けるとともに,山内先生の看護学教育に賭ける情熱に感動を覚えた。

 先生は神経内科医として臨床経験を積まれ,カリフォルニア大学医学部に医師として留学された後に,看護学を専攻され,米国・登録看護師免許を取得された。さらにケース・ウエスタン・リザーヴ大学看護学部博士課程で,看護学博士となられた日本ではただ1人の俊才である。私は3年前に山内先生に招かれて名古屋大学で医学英語の集中講義を行ったことがあるが,学生たちに絶大な人気のある非凡な才能の持ち主に敬愛の念を抱いた。

 本書は,まさに山内先生の看護学教育に対する思いが凝縮されたものと言ってよい。今までフィジカルアセスメントについて,医学の立場から書かれたものは少なくないが,医学から看護学への1つの流れとして的確に示された教科書は少ない。

 本書の特徴はアートブックを思わせる斬新な美しい装丁とともに各系統の中から最も必要と思われるポイントを選び,フィジカルアセスメントについて,山内先生ならではの的確で,かつやさしい言葉で語られ,また,フィジカルアセスメントによって得られた情報から「なぜそのアセスメントをするのか」「どうすればそのアセスメントを的確に看護に反映させられるのか」という問題点と意味を,わかりやすいイラストとともにメモにまとめ見事な解説で綴られている。しかし心音や呼吸音を文面に表すことには苦労されたことだろうと推察できた。それは文字の表現によって「臓器語」を読者に実感させることは難しいからである。

 本書はこれから看護学を学ぼうとしている方々はもちろん,臨床の現場で活躍しておられるベテランの方々,そして看護教育に携わっている方々にもお勧めしたい必携の書であり,従来の教科書には見られなかったベッドサイド手技を伝える魅力あるガイドブックとして活用していただきたい。

B5・頁192 定価2,415円(税5%込)医学書院


《標準理学療法学・作業療法学 専門基礎分野》
老年学
第2版

奈良 勲,鎌倉 矩子 シリーズ監修
大内 尉義 編

《評 者》松房 利憲(長野医療技術専門学校・作業療法学)

各臓器の老化を解説した 幅広い内容の教科書

 わが国の65歳以上の高齢者人口は,2004年に2488万人となり,総人口に占める割合(高齢化率)は19.5%となった。高齢化率は上昇を続け,2050年には35.7%にも達すると見込まれている。当然のことながら,それとともに理学療法士・作業療法士の対象となる高齢者は増加するであろう。高齢者を対象とする場合,症候や疾患の知識の習得はもちろんのこと,高齢者をとりまく社会的環境をも配慮する必要がある。

 筆者は標準作業療法学・専門分野で「高齢期作業療法学」を編集・執筆させていただいたが,その際大内先生の編集による標準理学療法学・作業療法学・専門基礎分野の『老年学(初版)』を大いに参考にさせていただいた。大内先生の「高齢者は若中年をそのまま延長したものではない」という基本コンセプトにはまったくもって同感である。

 初版では,第I部で老化に伴う身体や心理の変化とそれらが疾病の成立にどのように関与するかという基本的な問題を扱い,第II部で高齢者に多い疾患の病態,治療の考え方を解説,第III部で機能評価法と退院支援,第IV部で高齢者をめぐる社会的問題について解説するという構成になっていた。この構成で結構理解しやすく編集されていると感じていたが,第2版では理学療法士・作業療法士学生の教科書としてさらに理解しやすくするための工夫がなされている。

 序説「PT・OTと老年学のかかわり」が加わり,なぜ「老年学」が必要かが述べられ,総論的な知識を扱ったパートを前半に,各論的な知識を扱ったパートを後半に置き換え講義しやすいように流れが変わっている。また,耳鼻咽喉科疾患や眼疾患を独立させ,東洋医学とその周辺領域からのアプローチも加わり,初版に比べてより多角的に高齢者の疾患・治療が解説されている。

 臓器別の疾患を扱った章では,老化がどのように疾患と結びつくかを「○○領域の老化と疾患」という小項目があり,学生の理解に繋げたいという思いが十分に伝わってくる。さらに「療法士の視点から」という小項目では,理学療法・作業療法の現場での留意点についてふれられている。

 知識の習得は理解して記憶するというプロセスが必要であり,理解のないまま記憶しても,それは臨床では使えない知識となる。また,人間は臓器だけを診ればよいのではなく,その人が生きてきた歴史が現在の対象者の行動と関係していることを理解しておかなければならない。人は環境によって変化する。そして高齢者に対する社会資源や制度も,高齢者の増加にあわせ急激に変化している。家屋・家族的環境だけでなく,社会的環境まで考慮して初めて高齢者に対処できると言えよう。本書は身体を構成する各臓器の老化による変化を解説し,それ故さまざまな疾患に結びつくという流れを示し,収めてある内容も幅広く,学生の理解に大いに役立つと思われる。

B5・頁324 定価4,410円(税5%込)医学書院


カラーアトラス
網膜の遺伝病
遺伝子解析と臨床像

和田 裕子,玉井 信 著
医学書院 発売

《評 者》三宅 養三(国立病院機構東京医療センター・臨床研究センター長)

眼科臨床遺伝学における 本邦初のモノグラフ

 1999年に私は『臨床眼科』の編集委員を務めていた。その頃東北大学の和田裕子先生と,同じく編集委員であった玉井信先生が臨床眼科誌の“連載”のコーナーに「目の遺伝病」という題で毎月1つの遺伝子異常を取り上げ,それにより生じる網膜疾患を1つ示し,その眼所見,眼機能をコンパクトにまとめ連載を開始された。私の興味も同じ分野にあるので,大変興味を持ってその経過を見守った。またこの作業を開始された和田,玉井両先生を大変うらやましく思ったのも事実である。というのは,内容の充実した報告が切れ目なく継続されるからである。私も実は自験例だけで,自分の思想や流れを入れた単著が書きたかったからである。 その後,これは間違いなくすばらしい本としてまとめられるだろうとの期待と羨望を強く意識したのは,2003年の頃であったように思う。私の予想をはるかに超えたロングランの連載の後,玉井教授の退官に時期をあわせるかのように,この本邦初の眼科臨床遺伝学のモノグラフが出版された。

 まずアトラス形式のため,非常に読みやすい本である。さらに最先端の診断法であるOCTや多局所ERG等もカラーで視覚に訴える方法で取り入れており,次々にページをめくるのが楽しくなるのである。従来眼科遺伝病の教科書は最初に病気の解説があり,最後に遺伝子異常がわかっているものにはその解説が付記されるのが一般的であった。しかしこの本はまず遺伝子異常を先行させ,それに起因する網膜疾患を1つずつ見事に解説している。著者はこれを大変重要な示唆と意識しておられるに違いない。すなわち遺伝性網膜疾患は,遺伝子異常によってその診断が再編成されることを強調されているのであろう。同じ遺伝子異常でもこのように大きな表現型の差がみられる以上,まさにこれは正論であろうことがこの本を通読すると感じられる。さらにこの本の終わりには,Mutation Databaseとして,現時点での各遺伝子変異とその報告者が詳細にまとめられており,網膜の遺伝に関した情報はここにすべてが網羅されている感がある。

 日本人の遺伝病は欧米とは異なる点が多々あることは多くの証拠があるが,すべて日本人の自験例で,それも和田先生のオリジナルであるFSCN2と網膜色素変性の因果関係等々の新しい情報を多数含んだこの本は,まさに東北大学の「継続は力」を感じさせる名著である。

A4・頁332 定価21,000円(税5%込)医学書院


Clinically Oriented Anatomy, 5th edition

Keith L. Moore,Arthur F. Dalley 著

《評 者》坂井 建雄(順大教授・解剖学)

現代の医学教育に 最も適した解剖学テキスト

 ヴェサリウスの昔から人体の構造は変わらないけれども,人体の構造について教える内容やそのアプローチは変わり続けている。解剖学も進化している。現代の医学教育に最も適した解剖学の教科書はどのようなものか。本書“Clinically Oriented Anatomy”は,その問いに対する最もスマートな回答の1つである。

 その特徴は,学生に対して徹底してfriendlyなことである。臨床医になろうとする医学生の興味を引きつけながら,必要な情報をコンパクトに,かつ理解しやすく提供していく。伝統あるグラント解剖学図譜から取られた精緻な解剖図と,新しく描かれたメリハリのあるイラストを組み合わせて,人体の構造と機能を視覚的に理解させる。臨床との関連を扱う青地のコラム,内容を要領よくまとめた青字の要約,細々とした筋・血管・神経の情報を整理した表,体表解剖を扱う黄地の頁,CTとMRIといった医療画像を扱う各章末の緑地の頁などなど,医学生のための心配りを行き届かせている。

 さらに付録として,学習を補助する2枚のCD-ROMもついている。一昔前の大学教育を受けた人間にとっては,驚くほどの親切さかもしれない。まさにこの徹底した親切さの中に,時代の流れが感じられる。

 16世紀にヴェサリウスの『ファブリカ』,19世紀にはグレイの解剖学など,進化した出版技術を用い,時代のニーズに合わせた解剖学教科書が生み出されてきた。本書は弟版にあたる『Essential Clinical Anatomy』(邦訳『ムーア臨床解剖学』)とともに,コンピュータによる編集技術を駆使した,まさに現代の解剖学教科書の傑作である。

A4変・頁1209 定価10,720円(税5%込)Lippincott Williams & Wilkins


胆道外科
Standard & Advanced Techniques

高田 忠敬,二村 雄次 編

《評 者》木村 理(山形大大学院教授・消化器・一般外科学)

胆道外科のあらゆる項目を網羅
深い知見に満ちあふれた書

 ざっとページをめくってみた。読みやすいのに驚いた。その理由を考えてみた。余白が多く,1ページに書いてある量が少ない。図がきれいで豊富に存在した。ちりばめられたCoffee BreakやDo's & Don'ts,あるいはOne Point Lessonなどが拾い読みをいっそうしやすくしており,さっと目に飛び込んできた。構えて読まなくても手術や診断・治療の要点がとらえやすく,気楽な気分で入っていけた。そんなことが,理由としてすぐに浮かんだ……。

 随所に設けられたコラムにはちょっとした,それでいて示唆にあふれ,胆道外科のキーポイントとなるような知識が簡潔に,明瞭に述べられている。また,「胆管拡張を伴わない膵胆管合流異常に対する術式は胆管分流手術か胆摘術のみか」などの現在のさまざまな論争点が十二分に述べられているトピックスのコラムも存在する。

 編集者はいわずと知れた世界の胆道外科の大御所,高田忠敬教授,二村雄次教授である。したがって,本書の内容が両編者のこれまで世界の胆道外科を究極に導いてきた実力が遺憾なく発揮されており,折り紙付きであることには何の不思議も感じない。その微に入り細を穿った緻密な解剖や手術の要点は,胆道を手術する外科医にとって日常の診療になくてはならないものである。

 本書は例えば胆嚢摘出術を施行する際に,患者さんやその家族から「胆嚢をとってしまって大丈夫ですか? 何か障害は起こらないのでしょうか?」などの質問を受けたとき,基本的な知識をもとに的確,かつ患者さんにもわかりやすい懇切丁寧な説明ができる,臨床の現場のニーズに沿うような内容の情報を提供することを目的に企画されたものだという。しかしその目的は軽々と達成され,さらに有り余る専門知識・情報が満載されている。この領域を専門にしていこうとする外科医にとっても,十分に満足できるだけの深い知見に満ちあふれている。

 執筆者は現在の日本の胆道外科の分野を引っ張っている選び抜かれた精鋭の先生方で,どの項目にも力が入っている。最新の情報が盛り込まれていて,読者を飽きさせない。胆道の外科解剖と生理,胆道形成異常,肝門部胆管癌,胆嚢癌,定期的手術術式と術後管理,尾状葉切除術,標準膵頭十二指腸切除術,胆道癌の拡大手術,腹腔鏡下胆道手術,術後合併症とその対策などなど,胆道外科に関するあらゆる項目が網羅されていて,しかもいずれも力作であり,本書があれば日常の臨床現場で生じるほとんどすべてのことに対処できるものである。

 さあ,「胆嚢のadenomyomatosisでなぜ腹痛が起こるか」知りたい方,「左肝管にも南回りがあること」をご存じなかった方,胆道外科手術のコツを1日で知り尽くしたい方,すぐにでも本書を手に入れ,読んでみましょう。

B5・頁448 定価21,000円(税5%込)医学書院