医学界新聞

 

MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内


標準微生物学
第9版

山西 弘一 監修
平松 啓一,中込 治 編集

《評 者》林 哲也(宮崎大教授・微生物病学)

臨床現場の“今”に対応
充実した微生物学のテキスト

 本書はほぼ3年ごとに改訂されており,今回が第9版となる。今回の改訂では編集者を含む執筆者に相当の交代があり,全体の構成にも大幅な変更がなされた。

 まず目につく点は,疫学的な事項と臨床的な事項がそれぞれ第8章と第9章にまとめられたことである。第9章では臨床症状から各感染症がまとめられ,基礎的な微生物学の知識を臨床現場で必要な知識として再統合できるようにすることが新たに試みられている。最近何かと話題となることの多い人獣共通感染症に関しては,旧版では各論の中に埋もれていたが,第9版では第9章の独立した項としてまとめられ,その重要性が強調された形となっている。また感染症の疫学とワクチンに関しても,新たに独立した項として第8章にまとめられている。どちらも臨床の第一線で活動する医療関係者がきちんと理解しておくべき重要事項であるが,旧版ではほとんど記述がなかった事柄である。

 いわゆる感染症新法に対しても,旧版では対応がなされていなかったが,疫学の項で同法についての記述されているほか,各論の各項にも新法での分類が記載されている。細菌学総論に関しては,それほど大きな変化はないものの,ウイルス学総論では大幅な改訂が行われており,抗ウイルス薬開発の進歩などに対応した形となっている。各論においても,新しい分類に対して対応がなされているほか,新しい知見も随所に取り込まれている。特に目立つのは結核菌の項の大幅改訂であり,非常に充実した内容となった。マイコプラズマ・リケッチア・クラミジアを他の細菌と同列に扱うようになった点も評価したい。

 難を言えば,細菌学総論の病原性の項の記述が少し物足りない点や,一部に基本的な事項とは思えない執筆者自身の研究内容が記載されていることなどである。無芽胞グラム陰性桿菌の病原性の項のように,無理に全体をまとめて記述したことによって,解り難くなっている箇所も見られる。再分類による影響からか,CoxiellaやBartonellaの項が各論からなくなった点も残念である。さらに欲を言えば,明らかにadvanced studyやtopicsと思われるような内容は,できるだけ基本的な事項の記述と区別できる形になっている方が望ましい。こういった点が気にはなるものの,全体としては今回の大幅改訂によって,医学系学生のための微生物学テキストとして本書が非常に充実したものになったことは明らかである。編者および執筆者の方々の努力に敬意を表したい。

B5・頁696 定価7,350円(税5%込)医学書院


図説 マニュアルセラピー
深部組織と神経筋に対するアプローチ

斎藤 昭彦 訳

《評 者》藤縄 理(埼玉県立大教授・理学療法学)

心身一体の考えに基づいた 総合的深部組織治療のガイド

 本書は原題“The Balanced Body-A Guide to Deep Tissue and Neuromuscular Therapy”の意味「調和のとれたからだ-深部組織と神経筋への治療ガイド」が示すとおり,深部組織と神経筋に対する徒手療法のガイドブックである。軟部組織に対する徒手療法には多くの体系があるが,本書は“心身一体的(全体的・全人的,ホリスティック)な考え方に基づき,総合的深部組織治療”について述べている。

 「第1部 総合的深部組織治療システム総論」で理論的背景や,治療の学習,深部組織治療を行うセラピストのためのガイドラインを示している。理論的背景としては,従来用いられてきた深部組織治療,例えば筋膜ネットワークへの治療であるロルフィング(Rolfing),結合組織テクニック(connective tissue technique),トリガーポイントへの治療である神経筋治療,循環系マッサージに分類されるスウェーデン式マッサージ,筋線維に横断的にストロークを加えるクロスファイバーテクニック(cross fiber technique),身体エネルギーの流れを陽極と陰極間の磁力の流れと捉えるポラリティーセラピー(Polarity Therapy),日本の指圧,ストレッチングなどを統合している。

 「第2部 統合的深部組織治療の実際」では,治療対象となる組織,各部位の解剖や基礎的概念,評価,治療,適用と禁忌,などを図表やイラスト,写真を多用して具体的に説明している。

 もちろん,徒手療法の手技は書籍からでは学ぶことはできない。著者も述べているが,本書はあくまでもトレーニングを受けた経験者が指導に用いるためのガイドブックである。軟部組織に対するトレーニングを受けた治療者のもとで本書を用いて学ぶ時に,非常に有益である。

 海外の徒手療法関係の文献には,優れたものがたくさんある。しかし,翻訳する場合,訳者がその内容を十分理解していないと誤った訳をしてしまう。訳者の斎藤昭彦先生はオーストラリアの大学院で徒手療法を学ばれ,日本における徒手療法の臨床,研究,教育の第一人者であり,多くの論文・著書と訳書を著しておられる。先生によってまさに日本語版に命を吹き込まれたと言ってもよい。

 徒手療法に興味のある方はぜひご一読されることをお薦めする。そして,経験者は初学者に系統的に技術を指導していただきたい。

B5・頁300 定価5,040円(税5%込)医学書院


麻酔科臨床の書

内藤 嘉之 著

《評 者》尾原 秀史(神戸大大学院教授/麻酔・周術期管理学)

麻酔科臨床の面白さが 理解できる必読の書

 『麻酔科臨床の書』の著者内藤嘉之氏は1983年京都大学を卒業され,その後自治医科大学,京都大学麻酔科を経て1995年2月より神戸市立中央市民病院に勤務されてきた。その後2004年10月に現在の明石医療センター麻酔科に移られた。10年余り勤務された神戸市立中央市民病院は,900床余りを有する関西を代表する研修指定病院である。しかも教育システム,スタッフが充実しているため研修医の間で評判であり,研修をしたいという志願者の倍率も毎年高い病院である。本書は神戸市立中央市民病院にて実際に研修医の指導にあたられ,自ら経験された豊富な臨床経験から生まれた。

 本書を実際に読んでみて,教科書,マニュアルというよりは小説を読んでいるような錯覚に捕われた。しかも18症例の解説はそれぞれ独立した短編を読んでいるようで,私のように35年余り麻酔に従事してきた者にも大変面白く,一気に読んでしまった。

 従来出版されている麻酔学の教科書,マニュアルは多くの文献を集め,それらをレビューしたものが大半である。しかも麻酔のみに関する記述が多い。臨床実習にローテートしてきた,教科書しか読んでいない学生たちと話をしていた時,麻酔学とは何ですかと質問したことがある。学生曰く「麻酔学とは麻酔をかけて患者さんを眠らす学問です」。これでは麻酔学の面白みが理解できないと考える。麻酔は講義だけでは理解できないことが多く,実際に患者さんと接し麻酔を行うことによって面白さが実感できる。『麻酔科臨床の書』を読んでみると,麻酔とは術前評価,術前,術中,術後管理に麻酔薬の知識のみならず,薬理学,呼吸循環を中心とした各臓器の生理学,内科系,外科系の知識を総動員して行う全身管理学であることが理解できる。本書は内藤氏が日常の診療において自ら研修医を指導し,彼らと討論した結果生まれた書であるので,実際の症例にあたった時何に注意し,それらをどのように処理していけばよいかがスムーズに理解できる。

 いずれにしても本書は分子化学的なかたくるしい表現もなく大変読みやすい。麻酔の臨床の面白さ,醍醐味が読んでいくうちに理解できる必読の書と考える。特に麻酔学を学んだ学生,研修医,すでに麻酔専門医資格の習得のため,日夜麻酔の研鑽に励んでいる医員の人達にもぜひ読んでもらいたい書の1つである。

B5変・頁228 定価4,830円(税5%込)MEDSi


内科医の薬100
Minimum Requirement 第3版

北原 光夫,上野 文昭 編集

《評 者》木野 昌也(認定内科専門医会会長/北摂総合病院院長)

臨床医の虎の巻

 毎年,夥しい数の医学書が出版され,そして消えていく。そのような医学書が多い中で,この書は1993年の初版発行以来,12年間読み継がれ版を重ねている数少ない名著の1つである。今回第3版が出版されることになった。この書が何故にこれだけの評価を受けてきたのか。

 第一に,この書は大学の教授が書いた教科書ではない。多くの患者や医師から信頼を集める臨床医であれば,誰もが臨床経験とEvidenceに裏付けられた知識と技術を持っているものであるが,そのような臨床医が大切に温めてきた虎の巻という方が,より適切であろう。

 編者の北原光夫,上野文昭の両氏は米国での豊富な臨床経験をもとに,ベッドサイドにおける患者のための医療を実践し,わが国をリードしてきた真の臨床医である。さらに臨床を知り尽くした人たちが各分野の執筆を担当しているが,選び抜かれ磨かれた100種の薬剤について,臨床医がマスターしておくべき知識が詰まっているのである。パーソナル・ドラッグ(P-drug)の項目を作り,読者が自らの手で「自家薬籠中の薬」を持つことを勧めているが,この書の中では,名医たちが自らの手のうちを明かしているのである。

 第二に,この書は実に読みやすい。どの内科医にとっても手放すことができない薬剤ばかりだからであろう。電車の中でまるで珠玉のエッセイを読むように,1ページから実に楽しく読み進めることができる。

 第三に,記載は簡潔明瞭である。薬理作用,病態生理,臨床使用の根拠となったEvidenceは贅肉をそぎ落とされ必要なものだけが選択されている。さらに一般名とともに代表的な商品名,常用量,薬価まで記載されている。研修医や若手の臨床医を対象にしているが,ベテランの医師にとっても知識が整理される貴重な書である。

 最後に,この書が版を重ねた名著と言われるだけに注文がある。臨床医学,特に薬剤の進歩には目覚ましいものがある。5年前の知識がすでに陳腐になる時代である。この書のめざすものは新薬を追いかけることではなく,そのような臨床医学の進歩の中で,ベッドサイドで揉まれ選び抜かれた真の薬剤について記載することであろう。その理念を十分に認識したうえでの注文であるが,毎年とは言わないが,できれば2-3年毎の改訂をお願いしたい。例えばACE阻害薬,アンジオテンシンII受容体拮抗薬については,同種同効薬が多く開発され,そのどれもがEvidenceを競っており甲乙つけがたい。勤務する病院によって,採用される薬剤も異なるであろう。使用される頻度が多いだけに,もう少し紹介があってもよかったのではないか。また,インスリン製剤の進歩は目覚ましく,強化療法が一般的に行われるようになっている。インスリン・リスプロやインスリン・グラルギンについても,次回の改訂での紹介を期待している。一方で,この種の選択自体,臨床医としての編者の良心を示すものであろう。本書のサブタイトルである内科医としてのminimum requirementとして,すべての臨床医に広くお勧めしたい。

B6・頁304 定価3,990円(税5%込)医学書院


医療・福祉現場のための
目標設定型 上下肢・言語 グループ課題集

小田柿 誠二,鈴木 茂,三原 重徳,築舘 陽子 著

《評 者》二瓶 隆一(日本リハビリテーション専門学校・校長)

障害のレベルに合わせた グループ訓練の課題集

 まずこの書を開くとすぐ目に入るのが,グループ訓練のイラストである。どんな訓練をするのかが一目で読者にわかり,全体的に楽しい本に仕上がっている。またレイアウトがよくできていて,用具や手順,問題点と対応,アドバイスと応用などがよくまとめられている。

 この中で著者らが最も特色としたい点は『目標設定型 上下肢・言語 グループ課題集』と題されているように,グループ参加者の身体機能,言語機能,精神機能などの問題(症状)を理解して訓練することで,本来の「楽しさ」に加え,機能維持,グループの交流を深めながらQOLの向上に一層効果的に役立てようとするところにある。そのため訓練の課題を下肢課題,上肢課題,言語課題,作品課題に分け,それらをそれぞれ障害のレベルに合わせて重度,中等度,軽度に分けて参加者の能力を最大限に活用しながら,その人の能力を引き出すための工夫が何気なく遊びの中に仕掛けられている。

 グループ訓練は楽しさだけでなく,機能訓練的な考え方も考慮に入れることが必要であることから,簡潔な説明も加えられ,特にこれから実習に出られる理学療法士,作業療法士,言語療法士をめざす学生や新人など,この分野の専門職となる方にお薦めしたい。

 また看護師,看護助手,保健師,介護職員など,この分野で働く多くの方もこの書を参考にすれば,手持ちのレパートリーも増え,効果的な,もっと面白い課題を応用問題として考えることも楽しいのではないかと思う。新人の療法士や学生の中には,すぐ機能訓練に結びつけたがる傾向の人もいるので,遊びの中に全身の調整を含んだ方法があることを学ぶこともできると思う。

 専門職の中には本書を見て,自分のところでも同じようなグループ訓練を行っているとか,もっと別な方法もあるのではないかと思う向きもいると思うが,本書がより効果の上がる,新しい課題を考えるヒントとなることを期待したい。

 1つの施設において,日頃多忙な現場業務の中で,これだけ種々の課題をまとめ上げることは,相当の努力であったことと思う。敬意を表したい。

B5・頁240 定価2,940円(税5%込)医学書院