総合リハビリテーション Vol.50 No.9
2022年 09月号

ISSN 0386-9822
定価 2,530円 (本体2,300円+税)

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脊髄損傷の多角的マネジメント

 脊髄損傷者は運動・感覚麻痺だけではなく,損傷された脊髄が支配するすべての臓器にも障害が及び,廃用症候群を含む,さまざまな機能障害が続発するリスクを抱えています.また,これらの症状の出現や急性期から生活期にいたる経過は機能障害によって大きく異なります.本特集では,脊髄損傷リハビリテーションにおいてマネジメントが求められる,呼吸機能障害,血圧調節障害,神経障害性疼痛,痙縮,褥瘡,排尿障害,排便障害,体温調節障害,性・生殖機能障害についてご解説いただきました.

呼吸機能障害 土岐 明子氏
 脊髄損傷レベルによって残存する呼吸機能は異なり,急性期から慢性期にかけてさまざまな要因が呼吸機能に影響を与える.呼吸機能障害の病態を把握するために,肺活量,最大強制吸気量,咳のピークフロー,経皮的酸素飽和度,経皮または呼気終末炭酸ガス分圧を計測し,良好な呼吸状態を保つために,残存喚起能力に応じた換気補助方法を導入する.実践例では,機械的咳補助装置を用いた咳介助や従量式の非侵襲的人工呼吸管理を導入した経過が紹介されている.

血圧調節障害 伊藤 倫之氏
 頸髄損傷者および上位胸髄損傷者では,交感神経障害により心拍数や1回心拍出量の増加が制限され,運動時や体温上昇時にも血圧調節機能が低下している.また,頸髄損傷者では自律神経過反射により急激な血圧上昇を起こすことがある.さらに,急性期には麻痺域の自律神経障害により末梢血管抵抗が低下するため起立性低血圧を生じやすいが,生活期になると全身の血管床の減少により,末梢血管抵抗が上昇し,起立性低血圧を起こしにくくなると考えられる.

神経障害性疼痛 菊地 尚久氏
 神経障害性疼痛は,損傷レベルよりも高位,損傷レベル,損傷レベルよりも低位の3群に分類され,それぞれ機序や経過が異なる.疼痛評価では痛みの強さだけでなく,感情や日常生活の活動度も同時に評価することが推奨されている.薬物療法ではプレガバリンやセロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬などが用いられる.ニューロモデュレーション治療としては,脊髄硬膜外に電極を留置して脊髄後索を電気刺激する脊髄刺激療法が第一選択と位置付けられている.

痙縮 八幡 徹太郎氏
 痙縮の評価にはVisual Analogue ScaleやModified Ashworth Scaleがよく使用されているが,近年では患者報告式アウトカム尺度による評価法も開発されている.痙縮は起立や移乗動作時の支えになる一方で,日中のこわばり,安眠障害,有痛性筋痙攣など多岐にわたる症状を引き起こし,治療対象となることが多い.治療には,経口抗痙縮薬,ブロック療法,バクロフェン髄注療法,電気刺激療法,振動刺激法,持続伸張法,装具療法,外科的治療などがある.

褥瘡 持田 賢志氏
 褥瘡の早期発見には,皮膚表面の視診だけでなく,Bモードエコーにて皮下に異常所見の有無を確認することが有用である.真皮までにとどまる浅い褥瘡に対する治療では,吸水性のあるドレッシング剤や外用薬を用いて創を保護し,適度な湿潤環境を保持する.深い褥瘡に対しては,褥瘡状態評価スケールの重症度分類に沿って治療を進める.褥瘡好発部位に感覚障害や自律神経障害があれば,褥瘡発生率が高まるため,より厳密な褥瘡予防対策が必要となる.

排尿障害 鈴木 孝尚氏ら
 脊髄損傷により蓄尿・排尿にかかわる神経回路が損傷されると,急性期には膀胱内にカテーテルを留置しなければ尿を排出できない.回復期には尿失禁,慢性期には排尿筋括約筋協調不全を生じることがある.脊髄損傷に伴う泌尿器科的合併症には腎機能障害,尿路感染症,尿路結石症,カテーテル関連合併症があり,これらの予防や治療には尿路管理が必要となる.排尿方法には自排尿,清潔間欠導尿,カテーテル留置があり,それぞれの長所や短所を踏まえて選択する.

排便障害 山内 利紗氏ら
 脊髄損傷者の便秘・排便困難には,長時間の安静臥床や活動性の低下,水分摂取量の低下などが関与していると考えられる.明確な便意がなくても自律神経過反射による症状や腹部膨満感などで便意を代償できる場合がある.便が直腸まで到達しても便意が低下・消失している場合には坐薬や浣腸を用いた直腸刺激により便意を呼び起こし,排便反射を促す.排便管理には,排便日誌を活用し,排便周期,排便時間,便の性状,排便場所などの情報を整理して対応する.

体温調節障害 林 聡太郎氏ら
 暑熱下における脊髄損傷者の熱放散機能の低下には,麻痺部の皮膚血管拡張や発汗の障害,さらには動脈ポンプ作用や筋ポンプ作用の低下が関与している.暑熱下の運動時には,暑熱順化を進めながら,冷飲料またはアイススラリーの摂取,クーリングベストの装着などを行う.寒冷下では,麻痺部の皮膚血管が収縮しないので,熱放散が抑制されない.運動障害のためにふるえ熱産生を十分に行うことができなければ,保湿力の高い衣服の着用や末梢部の加温などを行う.

性・生殖機能障害(男性側・女性側) 岡田 弘氏ら
 脊髄損傷者の性機能と挙児にかかわる問題は,男性では勃起,射精,受精に,女性では妊娠,出産などに分けられ,それぞれに対して治療や支援を行う必要がある.勃起の誘発には局所刺激を,勃起の維持には勃起補助薬などを用いる.射精障害に対してはバイブレーター刺激などを用いる.精子機能の低下による受精障害や性交不能に対しては,顕微授精を中心とした生殖補助技術が用いられる.分娩方法としては帝王切開が選択される割合が健常者よりも高い.

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特集 脊髄損傷の多角的マネジメント

呼吸機能障害
土岐 明子

血圧調節障害
伊藤 倫之

神経障害性疼痛
菊地 尚久

痙縮
八幡 徹太郎

褥瘡
持田 賢志

排尿障害
鈴木 孝尚,他

排便障害
山内 利紗,他

体温調節障害
林 聡太郎,他

性・生殖機能障害(男性側・女性側)
岡田 弘,他


●巻頭言
収斂と峻別
斉藤 秀之

●入門講座
住環境整備の基礎知識 ④
外出
西村 顕

●実践講座
神経発達症の診療 ③
注意欠如・多動症──ADHDの評価・診断
宮尾 益知

●研究と報告
高次脳機能障害者の就労支援におけるWork-ability Support Scale日本語版(WSS-J)の信頼性と妥当性の検討
北上 守俊,他

●症例報告
骨折後の肩関節拘縮に対して持続的電気刺激と振動刺激を併用した促通反復療法が有効だった上腕骨近位端骨折の1例
黒田 涼介,他

●第50巻記念 特別連載
「総合リハビリテーション」の50年──印象に残った記事から読み解く ⑧
講座・実践講座・一頁講座(1)
上田 敏

●精神保健福祉に関する支援とサービスの活用 ③
障害年金受給のプロセスと書面診査ゆえの留意点──「精神の障害」に焦点化して
青木 聖久

●障害者の就労支援 ②
難病患者における就労支援
春名 由一郎

●YouTubeの使えるコンテンツ/アプリの紹介 ②
YouTubeを利用した地域へのアプローチ
宮島 恵樹

●Sweet Spot 文学に見るリハビリテーション
マンゾーニの『いいなづけ 17世紀ミラーノの物語』──ペスト塗りと魔女狩り
高橋 正雄

●Sweet Spot 映画に見るリハビリテーション
「ひいくんのあるく町」──闇の中の光が可視化された
二通 諭

●私の3冊
清水 美緒子

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