BRAIN and NERVE Vol.74 No.8
2022年 08月号

ISSN 1881-6096
定価 2,970円 (本体2,700円+税)

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特集 迷走神経の不思議

迷走神経は延髄から出る第Ⅹ脳神経であり,⽛迷走⽜の名前からもわかるように, 多数に枝分れして複雑な経路を示し,胸腔内から腹腔内にまで及ぶ脳神経中最 大の分布領域を有している。中枢と末梢,身体とをつなぐ自律神経機能,心身 連関の根幹をなし,その失調は失神やてんかんといった意識障害とも関連する。 迷走神経刺激は薬剤抵抗性てんかんに対する治療として行われているが,海外 ではうつ病に対しても用いられ,また他疾患への応用も研究されている。脳腸 相関の観点からは,パーキンソン病の発症・進展との関連や,食品成分を通じた認知機能の改善に関する報告がみられる。このように,迷走神経は人体の機 能や疾患と多様な関わりをもつ。その奥深い世界をお楽しみいただきたい。

迷走神経の生理学—基礎研究の歴史から現在への展開 鈴木郁子
第Ⅹ脳神経にあたる迷走神経は,胸腔・腹腔などの器官に広く分布する。メインは副交感神経であり,生体の内部環境が安定に保たれるように働く(ホメオスタシス)。本論では副交感神経としての迷走神経に焦点を絞る。迷走神経遠心路は心筋,平滑筋,腺などの働きを調節する。求心路は内臓の情報を中枢に伝える。迷走神経は腸管神経系・腸内細菌叢・中枢神経系との相互連絡や免疫にも重要な役割を果たす。

マウス迷走神経活動の電気生理学的測定方法 谷田 守
交感神経と副交感神経(迷走神経)から構成される自律神経は,全身の臓器の働きに関わっている。末梢臓器から脳への情報伝達を担う迷走神経求心路の役割と仕組みが近年,クローズアップされており,栄養,循環,炎症などの重要なシグナル経路として提唱されている。本論では,マウスでの迷走神経活動計測法に関するin vivo電気生理学測定法を中心に紹介して,迷走神経の特徴やホメオスタシス維持に寄与する仕組みなどについて解説する。

血管迷走神経性失神 古川俊行
脳灌流の低下による意識消失が失神である。自律神経反射が関与する失神は反射性失神(神経調節性失神)と総称され,その中に血管迷走神経性失神が含まれる。多くの患者が発症し臨床現場では頻繫に遭遇する。この血管迷走神経性失神の機序から治療まで周辺の疾患に触れながら説明していく。危険性の低い失神ではあるが,診断方法や治療法は単純でない。侵襲的な治療が必要になることもあり,ガイドラインを参考に経験も踏まえ血管迷走神経性失神の診療について紹介する。

迷走神経と腸脳相関—迷走神経反射による制御性T細胞誘導機構を中心に 金井隆典 , 寺谷俊昭
迷走神経は腸と脳を双方向性につなぐ腸脳相関における情報連絡の要と考えられている。特に,迷走神経は,腸管のさまざまな情報を受信し脳へ伝達する。われわれのグループは,最近,腸管の末梢性制御性T細胞(peripheral regulatory T cell:pTreg)による免疫寛容機構が,腸内細菌の直接的な司令だけでなく,腸内細菌情報→腸管→肝臓→脳→腸管による迷走神経反射によって制御されていることを見出した。腸管pTreg細胞は腸管の免疫寛容を担う重要な細胞である。腸管pTreg細胞誘導機構における迷走神経反射の関与の発見は,脳を介した精巧な腸脳相関を調整する神経刺激治療のヒントになるかもしれない。本論では,これ以外にも,最近次々と発見されている迷走神経と腸脳相関の発見もまとめて概説する。

パーキンソン病におけるαシヌクレイン異常凝集体は迷走神経を介して上行する  大野欽司 , 平山正昭
パーキンソン病(Parkinson's disease:PD)の中脳黒質神経細胞に蓄積するαシヌクレイン異常凝集体(レビー小体)はプリオンの性質を有する。αシヌクレイン異常蓄積は,PDの腸管神経叢に高率に認められ,剖検脳の検討では延髄から中脳黒質に上行する。事実,迷走神経全切除術はPD発症率を半減する。加えてPDでは短鎖脂肪酸(SCFA)産生菌が低下する。SCFAによる迷走神経刺激がPDにおいて低下することもPD病態の進行を促進する可能性が示唆される。

薬剤抵抗性てんかんに対する迷走神経刺激治療 杉山一郎, 福村麻里子, 小杉健三, 戸田正博
薬剤抵抗性てんかんに対する迷走神経刺激治療は,本邦では2010年に薬事承認された比較的新しい緩和的外科治療法である。なぜ迷走神経刺激がてんかんに有効であるのか,その明確な理由についてはいまだ解明されていない。最近では,迷走神経刺激のてんかん以外の疾患に対する有効性についても研究が進められている。本論では,薬剤抵抗性てんかんに対する迷走神経刺激治療の適応・有効性について解説する。

経皮的耳介迷走神経刺激の臨床応用 山本貴道
経皮的耳介迷走神経刺激(transcutaneous auricular vagus nerve stimulation:taVNS)はいまだ本邦において医療機器としては未承認であるが,左側の耳甲介に分布する迷走神経耳介枝を皮膚の上から刺激する手法である。植込み型VNSと同様にてんかんをはじめとするさまざまな疾患に対して研究が行われている。主たる副作用は刺激部位のしびれ感である。臨床現場に導入された場合は24時間連続で刺激を行うよりも,1日に一定の時間を決めて毎日実施することが治療の基本となるだろう。

うつ病に対する迷走神経刺激 吉野敦雄, 岡本泰昌, 山脇成人
迷走神経刺激(vagus nerve stimulation:VNS)は,欧米では難治性のてんかんだけでなくうつ病に対して行われている治療法である。本邦では難治性てんかんに対して保険適用があるが,うつ病に関しての臨床応用はほとんど進められていない。そこで本論では,これまでのVNSの歴史を振り返り,海外のうつ病に対する先行研究について紹介する。そして最後にうつ病と関連したVNSの治療効果メカニズム仮説について取り上げる。

ホップ由来苦味酸による脳腸相関活性化—食成分を通じた迷走神経刺激 阿野泰久
超高齢社会や社会環境変化により認知機能や気分状態の維持改善が重要な社会課題となっている。ビールの苦味成分としても知られるホップ由来苦味酸が,腸の苦味受容体に作用し,迷走神経を刺激することで脳腸相関の活性化により認知機能および抑うつ状態を改善することが非臨床試験で確認され,健常中高齢者対象の臨床試験でも有効性が確認されている。食を通じた迷走神経刺激は日常的に続けやすく,新たな予防方法の開発が期待される。

ポリヴェーガル理論—その概要と臨床的可能性 花澤 寿
ポリヴェーガル理論は,系統発生的に異なる2つの迷走神経系の存在を前提とし,腹側迷走神経が他の脳神経群と形成する腹側迷走神経複合体による社会的関与,交感神経系による可動反応,背側迷走神経系による不動反応という3つの階層的適応反応を提唱している。この理論は,トラウマをはじめとするさまざまな病態に新しい理解をもたらすとともに,安全な関わりが前提となる精神療法等対人援助全般の基本理論となる可能性を持つ。

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特集 迷走神経の不思議

迷走神経の生理学──基礎研究の歴史から現在への展開
鈴木郁子

マウス迷走神経活動の電気生理学的測定方法
谷田 守

血管迷走神経性失神
古川俊行

迷走神経と腸脳相関──迷走神経反射による制御性T細胞誘導機構を中心に
金井隆典,寺谷俊昭

パーキンソン病におけるαシヌクレイン異常凝集体は迷走神経を介して上行する
大野欽司,平山正昭

薬剤抵抗性てんかんに対する迷走神経刺激治療
杉山一郎,他

経皮的耳介迷走神経刺激の臨床応用
山本貴道

うつ病に対する迷走神経刺激
吉野敦雄,他

ホップ由来苦味酸による脳腸相関活性化──食成分を通じた迷走神経刺激
阿野泰久

ポリヴェーガル理論──その概要と臨床的可能性
花澤 寿


■総説
「人工知能(AI)による筋病理判読アルゴリズム」の開発
大久保真理子,他

■症例報告
新型コロナワクチン(BNT162b2)接種後にギラン・バレー症候群を生じた71歳女性例
押部奈美子,他


●脳神経内科領域における医学教育の展望──Post/withコロナ時代を見据えて
第12回 オンライン多職種連携教育
河内 泉

●臨床神経学プロムナード──60余年を顧みて
第18回 Guillain-Barré症候群(GBS)の知られざる歴史的展開
(1)注目されなかった半世紀 (2)誤解と共に広がる (3)「syndrome」とは
平山惠造

●LETTERS
レンブラント絵画の中の「脳と神経」
森 望

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