BRAIN and NERVE Vol.74 No.9
2022年 09月号

ISSN 1881-6096
定価 2,970円 (本体2,700円+税)

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特集 動的環境への適応系としての歩行

周期的な四肢の運動,身体全体の重心移動は,日頃無意識に行っているため,歩行は極めて原始的な機能のようにも思われる。しかし,さまざまな環境の中で歩行を支える神経機構は,大脳皮質も含む,階層的な調節系で極めて複雑な調節を行っている。本特集では,歩行を動的な環境の中で,動物が適応する環境-身体の一体化されたシステムと捉えて,げっ歯類,哺乳類,霊長類,ヒトなどさまざまな動物種に加えて多様な方法論での研究を紹介しながら,この分野における最新知見を提供する。また,神経系の疾患によってそのシステムが損なわれた際にどのようにして回復を目指すのか,人工神経接続やニューロリハビリテーション,そしてiPS細胞を用いた再生医療の取組みを解説する。

呼吸・歩行のcentral pattern generatorsシステムと東洋系bodyworkによる医療応用の可能性—錐体外路系・体幹前進運動システムを考える 貫和敏博
呼吸法を基礎とする東洋系操体の神経機能学的背景は不明である。近年,遺伝子改変動物など分子生物学的手法により,進化的に旧いlocomotion central pattern generatorsである内側細胞柱などのmotor columnの同定と機能解析が進んだ。東洋系操体での二個体間身体反応にはlocomotion関連反応が見られる。本論では東洋系操体が錐体外路系・体幹前進運動システムに関与するとの仮説のもと,二個体間身体反応を考察し,進化レベルの異なる運動システムの重層的連携とその医療応用を議論する。

ドッグスポーツ・アジリティにおけるロコモーション 日暮泰男
アジリティはイヌの障害物競争とも呼ばれ,イヌが障害物をクリアする正確さと速さを競うスポーツである。競技会では,障害物は競技リングの中に複雑に置かれるため,イヌは大小さまざまなターンを繰り返し行う。本論では,アジリティに関する現在までの研究動向と筆者らの研究成果を紹介することで,アジリティに関する研究が四足動物に共通するロコモーションにおける動きの特徴の解明にどのように貢献するのかを明らかにする。

大脳基底核による姿勢と歩行の調節機構—パーキンソン病における病態生理メカニズム 高草木 薫, 他
姿勢と歩行は,状況に即した行為の習得とその自動的遂行,いわゆる,習慣の形成に必須の運動機能である。習慣の獲得には,大脳(基底核)とこれに作用するドーパミンが極めて重要な役割を担う。パーキンソン病では姿勢と歩行の障害に加えて,習慣の遂行能も衰える。本論では,脳幹と大脳皮質による姿勢と歩行の制御に及ぼす基底核の作用について解説するとともに,パーキンソン病における姿勢と歩行障害の病態生理メカニズムを考察する。

マウス歩行リズムの生成機構と神経機構 木津川尚史, 他
連続運動においては,反復動作の時間軸上での配置計画が必要となる。連続運動のメカニズムと神経基盤の理解のために,複雑な連続ステップ走行をマウスに訓練し,反復される足の動きと神経活動を記録した。マウスの運足は,足場ペグに対してより周期的に反復していることが明らかになった。また,線条体からはさらに周期的に活動する神経活動が記録され,複雑な入力をよりリズミカルに変換しているなどの可能性が示された。

大脳皮質による歩行中のステップの制御—障害物を回避するために 中島 敏
歩行中に視覚を手掛かりとして随意的にステップを調節するためには大脳皮質の関与が必須である。本論では1980年代から現在までにネコを用いた実験系で得られた一次運動野,頭頂連合野,高次運動野についての知見を順に紹介し,頭頂連合野-高次運動野からなるネットワークが障害物と自己との時空間的関係や障害物の形状についての情報を筋シナジーを駆動する信号に変換する計算を行い,一次運動野がその信号を出力するという見方を述べる。

ニホンザルの四足歩行と二足歩行に伴う姿勢制御 中陦克己, 他
二足直立姿勢は四足立位に比べて不安定である。ヒト二足歩行制御機序の核心は,中枢神経系がこの不安定性をどのように克服するのかにある。四足動物のニホンザルは状況依存的に二足で歩く。加えて大脳機能がヒトと同様に発達している。この動物の生体信号を二足歩行と四足歩行で比較すれば,直立姿勢の不安定性を補償する中枢機序を抽出できる。このことは霊長類以外の四足動物からヒトに至る歩行機序の系統的理解に有用である。

ニューロリハビリテーションからみた適応的歩行 森岡 周
近年,歩行の神経機構や運動機能回復のメカニズムが明らかにされ,そうした知見をリハビリテーションの臨床に活かす試みがある。ニューロリハビリテーションとは神経科学の知見をリハビリテーションの臨床に活かす試みであり,本論ではニューロリハビリテーションからみた適応的歩行と題して概説した。特に,脳卒中後に生じる歩行障害に着目し,その特徴,ならびにニューロリハビリテーションの戦略を網羅的に解説した。

人工神経接続を用いた脳・脊髄損傷後の身体運動機能の再建 田添歳樹, 他
人工神経接続の技術は,コンピューターを用いて神経・筋構造間に人工的な神経連絡路を構築することができる。筆者らの一連の研究では,この人工神経接続によって以下の3つが可能になることが示されている。1)脳卒中や脊髄損傷によって喪失した随意運動を生成するための神経経路を代償する。2)人工神経接続でつないだ神経がそれまで持っていなかった機能を新たに付与する。3)人工神経接続によってつないだ神経構造間にある既存の神経経路に可塑変化を誘導する。本論ではこれらの事象の起こる生理学的背景を解説するとともに,脳卒中や脊髄損傷によって障害された随意歩行機能の再建および回復を促す人工神経接続の神経メカニズムを紹介する。

脊髄損傷へのiPS細胞を用いた新規治療法 近藤崇弘, 他
筆者らは,神経幹細胞移植による脊髄損傷の再生医療の開発を長年行っており,ついにヒトiPS細胞由来神経前駆細胞を用いた亜急性期脊髄損傷の再生医療Phase I-IIa試験(臨床研究)の “First-human-trial” を開始した。また,幹細胞移植による治療メカニズムの研究も世界中で行われており,本論ではこれまでに明らかになってきた治療メカニズムと,iPS細胞による最新の知見について概説する。

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特集 動的環境への適応系としての歩行

呼吸・歩行のcentral pattern generatorsシステムと東洋系bodyworkによる医療応用の可能性──錐体外路系・体幹前進運動システムを考える
貫和敏博

ドッグスポーツ・アジリティにおけるロコモーション
日暮泰男

大脳基底核による姿勢と歩行の調節機構──パーキンソン病における病態生理メカニズム
高草木 薫,他

マウス歩行リズムの生成機構と神経機構
木津川尚史,広兼浩二朗

大脳皮質による歩行中のステップの制御──障害物を回避するために
中島 敏

ニホンザルの四足歩行と二足歩行に伴う姿勢制御
中陦克己,他

ニューロリハビリテーションからみた適応的歩行
森岡 周

人工神経接続を用いた脳・脊髄損傷後の身体運動機能の再建
田添歳樹,西村幸男

脊髄損傷へのiPS細胞を用いた新規治療法
近藤崇弘,岡野栄之


■総説
大脳皮質の領野間連合回路の形成機構
岡 雄一郎


●脳神経内科領域における医学教育の展望──Post/withコロナ時代を見据えて
第13回 医療安全とシミュレーション教育
冨田泰彦

●臨床神経学プロムナード──60余年を顧みて
第19回 神経内科看護は特有な看護体系である
──内科看護,外科看護とは異なる第三の看護──
平山惠造

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