理学療法ジャーナル Vol.55 No.10
2021年 10月号

ISSN 0915-0552
定価 1,980円 (本体1,800円+税)

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タッチ――触れることと触れられること

 岩村吉晃先生の名著『タッチ』(医学書院,2001)の「序」には,この書籍の表題を体性感覚ではなくタッチとした理由について,アリストテレス時代の触覚の定義は曖昧であり,その顰に倣って幅広い内容,例えばアクティブタッチや内臓感覚を含むためであると言及されている.今回,「タッチ」として特集を組むにあたってさまざまな角度からの情報,成果,展望を取り込んで構成しようと考え,気鋭の先生方に論述していただいた.皆様の探求心の琴線に「触れる」ことができれば幸いである.

触れることと触れられること――動くことの意味 樋口貴広,他
 能動的触知覚における運動の役割について概説する.運動指令の転送情報(遠心性コピー)に基づき,運動後に生起する体性感覚入力が予期され,触知覚に利用されることを説明する.また,ダイナミックタッチの概念を提示した生態心理学では,運動なしには能動的触知覚は成立しないというほど,運動の役割に重きが置かれることを示す.最後に,能動的触知覚の理解がリハビリテーションにもたらすことについて私見を述べる.

理学療法士のタッチと癒し効果 山口 創
 理学療法士によるタッチングは,主に身体機能の向上を目的としたものが多い.その際に患者の心に寄り添うような「間主観的な」タッチングにより,患者の身体はリラックスし機能向上が促されると同時に,オキシトシンの分泌により疼痛緩和などの心身への多くの効果が発揮される.

体性感覚情報処理と脳活動 大西秀明
 体性感覚刺激を与えると刺激から100ミリ秒以内に一次体性感覚野(S1),二次体性感覚野(S2),後頭頂皮質,一次運動野が活動する.また,動的な触圧覚刺激時には,S1,S2,上頭頂葉,下頭頂葉(縁上回,角回),頭頂間溝,中側頭回V5野,外側前頭前皮質,下前頭回,前補足運動野,島,小脳なども活動する.

VR空間におけるタッチ 河合隆史
 本稿では「VR空間におけるタッチ」と題し,クロスモーダルを活用した触れる,触れられる感覚生起に関する筆者らの取り組みについて紹介する.具体的に,VR 空間におけるラバーハンド錯覚の追試をはじめ,筆者らの試作した「見るだけで,触れているように感じるシステム」,「動いていないのに,動いているように感じるシステム」の概要について述べる.

痛みとタッチ 内藤卓也,他
 理学療法を実施するうえでタッチは治療の基本となる.しかし,痛みによってタッチ(触れる・触れられる)は弊害となることがある.痛みを抱える患者は痛みの感覚のみでなく,情動的な反応,さらに感作の影響によって,広範な強い痛みを呈することがある.これらを十分に評価したうえで,患者に安心感を与えるタッチを行うことが重要である.

ライトタッチと姿勢・歩行バランス 新井智之,他
 ライトタッチは体性感覚の求心性情報に基づく姿勢制御であり,年齢や障害にかかわらず,身体動揺を減少させる効果がある.またライトタッチ条件では,筋活動の減少率が低いため,患者のバランスを高める介入手段として有用である.タッチを行う部位としては,肩の高さでのinterpersonal touchは,身体動揺を最も減少させることが示されており,臨床場面でも患者の歩行介助に応用できる.

タクティール®ケアから学ぶタッチ――終末期リハビリテーションに可能な緩和ケア 神谷万波
 タッチングやマッサージ,リラクセーションテクニックなどは代替療法と呼ばれているが,これらは治療やリハビリテーションではなくそれらをスムーズに施行するための補助手段として利用されている.終末期リハビリテーションや緩和ケアでなすべきことに行き詰まったとき,患者に触れて幸せホルモンを分泌し,穏やかに1日を終わることができる手技がある.それが“タクティール®ケア”である.その歴史や科学的根拠を踏まえつつ紹介する.

動作誘導とタッチ 冨田昌夫
 私たちは患者に対して個別ではなく,客観的で認知,理性的な活動を要求し,それができる人のための治療を推奨してきた.筆者の捉えるエビデンスに基づく治療である.患者をエビデンスに基づく治療に乗れる人,乗れない人に区分して現時点では乗れない人を見捨てる方向に向かっている.筆者はこのような流れをよしとは思わない.そこで流れとは逆の主観的な情動や報酬の重さについて考えてみた.

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触れることと触れられること――動くことの意味
樋口貴広,他

理学療法士のタッチと癒し効果
山口 創

体性感覚情報処理と脳活動
大西秀明

VR空間におけるタッチ
河合隆史

痛みとタッチ
内藤卓也,他

ライトタッチと姿勢・歩行バランス
新井智之,他

タクティール®ケアから学ぶタッチ――終末期リハビリテーションに可能な緩和ケア
神谷万波

動作誘導とタッチ
冨田昌夫


■Close-up 転倒予防に活かすバランス評価
ベッドサイドで行う転倒予防に活かすバランス評価
中嶋俊祐

施設内での転倒予防に活かすバランス評価
松下信郎,他

在宅生活での転倒予防に活かすバランス評価
小暮英輔


●とびら
「職域拡大」に向けて
林 雄史

●再考します 臨床の素朴な疑問・10
パーカッションに痰を移動させる効果はない? 人工呼吸器装着中に呼吸介助をしてはいけない?
瀬崎 学

●診療参加型臨床実習・10
診療参加型臨床実習の取り組みの現状と展望
 介護老人保健施設
 石田悦二

 通所・デイケア
 竹野恭平,他

●国試から読み解く・22
三次元歩行分析装置の評価
福井 勉

●臨床実習サブノート 診療参加型臨床実習――「ただ見ているだけ」にならないように!・7
超高齢者
江渕貴裕

●私のターニングポイント
在宅サービスに必要なこと
亀谷真久

●原著
大腿骨頸部/転子部骨折術後における急性期リハビリテーションの費用対効用
近藤千雅,他

●報告
夜間痛を合併した拘縮期の肩関節周囲炎における臨床的特徴
赤羽根良和,他

●症例報告
クリーゼを呈したLambert-Eaton筋無力症候群に対し,理学療法を介入した一例
大熊遼太郎,他

●文献抄録
澤 龍一・春山幸志郎・岡部優希・焼谷由梨

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