総合診療 Vol.33 No.11
2023年 11月号

ISSN 2188-8051
定価 2,750円 (本体2,500円+税)

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プライマリ・ケアの“3つのルール”と“創発特性”
藤沼康樹(医療福祉生協連 家庭医療学開発センター)

 複雑性科学の最も魅力的な原理の1つは、複雑なシステムの動作が単純なルールで説明できる場合があるということだ。たとえば、鳥の驚異的に複雑な群れ行動は、以下の 3 つの単純なルールによって生み出されると言われている。

▪ 整列:近くの鳥たちときちんと並ぶ。
▪ 密着:周囲の鳥たちの中に出現する中心集団に向かって進む。
▪ 別々:衝突しないように隣の鳥と等距離になるようにする。

 さてEtzら1)は、現代の医療の主流コンセプトや組織化、評価・測定法は、実はこの“鳥の群れ”と同様に、以下の3つのシンプルなルールから生成されていると言う。これらは「専門医」の行動原則であるとも言えよう。

▪ 治療対象となる疾患を同定し分類する。
▪ 各科の専門的知識により解釈する。
▪ 治療計画を生み出し、実行する。

 たしかに専門医は、患者が自分の専門分野である病気に罹患しているかどうかを特定し、その専門知識に焦点を当てる方法で対象の病気を診断・治療することが中心的な仕事である。このやり方は、単一の問題に繰り返し集中することで構築された知識や技術を必要とするタイプの患者に対しては非常に有用である。しかし、この“専門医のルール”をシステム全体、特に「プライマリ・ケア」に適用すると、ケアが断片化され、高コストかつ低価値になる危険性がつきまとうことになるだろう。
 では、プライマリ・ケアの一見すると複雑な特徴、たとえば「全人性」「継続性」「包括性」「回復・癒やし」「地域指向性」などを生み出すルールは何だろうか? プライマリ・ケアチームが毎日対応している健康問題の集積や、患者の年齢・性別ごとの数、関わるスタッフの労働時間など、いわゆる診療統計や活動記録をいくら積み重ねても表現できないこれらの特徴は、なぜ生じるのか? Etzら 1)は、以下のシンプルなルールがこうした特徴を生み出していると主張している。

▪ 幅広い多種多様な問題点や関わりの機会を認識する。
▪ 健康や回復・癒やし、さまざまなつながりを促進することを目的とした関心・行動を優先する。
▪ 地域という文脈のなかで、個人あるいは家族の特性に基づく個別化されたケアを行う。

 この3つのルールは、まさに真正のプライマリ・ケアを実施するチームの特徴でもあり、ジェネラリスト医師の行動原則そのものであると言える。そして、このルールは、プライマリ・ケア活動を表面的に見ているだけでは見えないものである。このルールがあって初めて、複雑なシステムであるプライマリ・ケア活動の“創発特性”としての「全人性」「継続性」が顕れてくるのだ。であれば、総合診療医・家庭医の教育は、この“3つのルール”を中心に実施されねばならないのではないだろうか。

※創発特性……個が統合され全体(システム)として機能して初めて顕現する、個にはみられない、またその総和にとどまらない新たな性質。

文献
1)Etz R, et al : Simple rules that guide generalist and specialist care. Fam Med 53(8) : 697-700, 2021. [PMID]34587265

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●Editorial
プライマリ・ケアの“3つのルール”と“創発特性”
藤沼康樹

●What’s your diagnosis?|251
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