皮膚付属器腫瘍アトラス

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皮膚付属器腫瘍は、症例数が限られていることや、同じ疾患であってもバリエーションのある病理組織像を呈するため、しばしば診断に苦慮すると言われている。本書は、選りすぐりの病理組織写真を多数掲載し、臨床上の悩みに応える1冊となっている。皮膚科医や皮膚疾患の病理診断に携わる病理医必読のアトラス。
編集 安齋 眞一 / 後藤 啓介
発行 2018年06月判型:A4頁:264
ISBN 978-4-260-03546-0
定価 17,600円 (本体16,000円+税)

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はじめに

 多くの教科書や論文にも書かれているように,皮膚付属器腫瘍の病理診断はしばしば困難を伴います.それは,症例数が限られていること,腫瘍細胞の分化の診断がHE染色だけではしばしば困難であること,そして,同じ腫瘍でもその病理組織像に非常に多くのバリエーションがあるためだと考えています.
 皮膚付属器腫瘍の病理診断は,1980年代以前は,HE染色標本(もちろん現在でもこれが基本です),電子顕微鏡的検討,酵素組織化学によって行われていました.しかし,電子顕微鏡的検討や酵素組織化学をすべての施設で手軽に行えるわけではなく,実践臨床の場では,特に良性腫瘍を中心に“診断不確定”の状況で流された例もたくさんあったと思われます.1980年代に入り,酵素抗体法が広く行われるようになりましたが,まだ,最初は大学病院などごく一部の機関でしか行えない状況でした.それが,1990年代から,一般臨床施設にも普及しはじめ,多くの施設で実施されるようになり,いくつかの皮膚付属器腫瘍の診断も比較的容易になったようです.しかし,それに伴って,逆に疾患概念の誤解による誤診も増えたような気もします.これらの問題を解決するためには,日本語による皮膚付属器腫瘍に関するアトラスを作る必要があると20年ほど前からずっと考えていました.

 そんな中,2015年11月に札幌で,Ackerman記念札幌皮膚病理研究所主催の皮膚付属器腫瘍に関するセミナーが開催されました.そこには,各自がもっている症例の他,札幌皮膚病理診断科がもつ膨大な標本ライブラリーの中から,多数の貴重な症例が供覧されました.せっかくこれだけの症例が収集されたので,それをこのセミナーだけのことにしてはもったいないと思い,Ackerman記念札幌皮膚病理研究所所長および札幌皮膚病理診断科理事長(当時)の木村鉄宣先生にご快諾をいただき,それらの症例を中心に,日本語による皮膚付属器腫瘍のアトラスを作ることを企画しました.編者として,そのセミナーの主要な講師であった後藤啓介先生にも参加していただき,その他セミナーで講師を務めておられた,福本隆也先生,阿南隆先生,高井利浩先生を中心に,参加者であった伊東慶悟先生,古賀佳織先生,加来洋先生,小川浩平先生,荻田あづさ先生にも執筆していただきました.
 今回のこの書籍の編集に関しては,後藤啓介先生の獅子奮迅の活躍がなければ,完成はあり得ませんでしたし,その内容や文章表現の統一,最新情報の取り入れにおける彼の貢献は計り知れないものがあります.怠惰であった編者の1人として,最大限の感謝を捧げたいと思っています.また,彼や,他の著者と原稿の内容を議論していく過程で,さまざまな新しい知識を得ることができ,また,自分がもっていた多くのあやふやな知識をはっきりしたものとし,たくさんの誤った知識を正すことができたと思います.その点についても感謝したいと思います.
 本書では,各項の初めに「定義および概念」という項を設けました.これは各腫瘍がどのような所見や概念によってそう診断できるのかということを表したものです.また,項によっては,歴史的疾患概念の変遷を記したものもあります.そのような内容を読んでいただき,少しでも皮膚付属器腫瘍の病理診断の困難さを克服していただければ幸いです.
 本書発刊の経緯でも述べたように,本書で使用された症例は,その多くが札幌皮膚病理診断科の症例です.それらとても多くの症例の提供を快くご承諾いただいた木村鉄宣先生や阿南隆先生,それらの症例の検索やファイルの抽出にご尽力いただいた札幌皮膚病理診断科やAckerman記念札幌皮膚病理研究所の事務の方たちのご協力にも感謝いたします.
 このような,ある意味マニアックな書籍の発刊を引き受けてくださった医学書院,および,われわれのたくさんのわがままをお聞き届けいただき,本書の発刊に大変なご尽力をいただいた医学書院の天野貴洋さんにも最大限の謝辞を送りたいと思います.

 最後に,本書作成の発端となったセミナーで主要な講師のお一人であった三砂範幸先生は,この書籍の執筆が始まった頃には,すでに体調を崩されており,実際の執筆には加わっていただけませんでした.三砂先生とは,20年ほど前から,皮膚付属器腫瘍の本を一緒に作ろうと誓い合って,やっと,実現しそうになったときに病に倒れられてしまい,無念な思いで一杯です.しかしながら,セミナーで提示された症例や図の使用を快くご承諾いただきましたので,共著者のお一人に加えさせていただきました.
 三砂先生は,本当に残念ながら2017年8月にご逝去されました.この本の完成した姿をご覧いただけなかったことが,何より残念でなりません.この本を捧げ,ご冥福をお祈りしたいと思います.

 2018年陽春
 安齋眞一

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第1章 エクリン器官・アポクリン器官系病変および乳腺様器官系病変
 1 エクリン器官,アポクリン器官,肛門外陰部乳腺様器官の正常組織
 2 エクリン器官・アポクリン器官系病変および乳腺様器官系病変の概要
 3 エクリン器官,アポクリン器官,肛門外陰部乳腺様器官およびそれらの
     関連病変の免疫組織化学的所見
 4 Supernumerary Mammary Tissue 副乳
 5 Eccrine Hidrocystoma エクリン汗嚢腫
 6 Syringofibroadenomatous Hyperplasia 汗管線維腺腫様過形成
 7 Eccrine Angiomatous Hamartoma エクリン血管腫様過誤腫
 8 Porokeratotic Adnexal Ostial Nevus 角化性付属器開口部母斑
 9 Benign Poroid Neoplasms(Poroma and Its Subtypes)
     良性汗孔新生物(汗孔腫とその亜型)
 10 Hidradenoma 汗腺腫
 11 Syringoma 汗管腫
 12 Spiradenoma,Cylindroma,Spiradenocylindroma
     らせん腺腫,円柱腫,らせん腺円柱腫
 13 Tubulopapillary Cystic Adenoma with Apocrine Differentiation
     (Syringocystadenoma Papilliferum,Tubular Papillary Adenoma,
     and Apocrine Gland Cyst)
     アポクリン分化を伴う管状乳頭状嚢胞状腺腫(乳頭状汗管嚢胞腺腫,
     管状乳頭状腺腫,アポクリン腺嚢腫)(悪性型を含む)
 14 Mixed Tumor of the Skin,Eccrine Type エクリン型皮膚混合腫瘍
 15 Mixed Tumor of the Skin,Apocrine Type
     アポクリン型皮膚混合腫瘍(悪性型を含む)
 16 Cutaneous and Soft Tissue Myoepithelial Tumors
     皮膚および軟部組織筋上皮腫瘍
 17 Fibroadenoma and Phyllodes Tumors 線維腺腫と葉状腫瘍
 18 Nipple Adenoma 乳頭腺腫
 19 Hidradenoma Papilliferum 乳頭状汗腺腫
 20 Porocarcinoma 汗孔癌
 21 Hidradenocarcinoma 汗腺腫癌
 22 Malignant Neoplasms Arising from Preexisting Spiradenoma,
     Cylindroma,and Spiradenocylindroma
     らせん腺腫,円柱腫,らせん腺円柱腫由来悪性腫瘍
 23 Apocrine Carcinoma アポクリン癌
 24 Primary Cutaneous Cribriform Carcinoma 皮膚篩状癌
 25 Primary Cutaneous Adenoid Cystic Carcinoma 皮膚腺様嚢胞癌
 26 Microcystic Adnexal Carcinoma 微小嚢胞性付属器癌
 27 Mucinous Carcinoma of the Skin 皮膚原発性粘液癌
 28 Endocrine Mucin-Producing Sweat Gland Carcinoma
     内分泌性粘液産生性汗腺癌
 29 Digital Papillary Adenocarcinoma 指趾乳頭状腺癌
 30 Extramammary Paget’s Disease,Primary Cutaneous
     皮膚原発性乳房外Paget病
 31 その他の稀なエクリン・アポクリン系悪性腫瘍
  [1]Secretory Carcinoma of the Skin 皮膚分泌癌
  [2]Squamoid Eccrine Ductal Carcinoma 扁平上皮様エクリン管癌
  [3]Primary Signet-Ring Cell/Histiocytoid Carcinoma of the Eyelid
       眼瞼原発印環細胞/組織球様癌
  [4]Low-Grade Neuroendocrine Carcinoma of the Skin
       低異型度皮膚神経内分泌癌
  [5]Mucoepidermoid Carcinoma of the Skin 皮膚粘表皮癌
  [6]Polymorphous Sweat Gland Carcinoma 多型汗腺癌

第2章 毛器官系病変
 1 毛器官の正常組織
 2 毛器官系病変の概要
 3 毛器官および毛器官系病変の免疫組織化学的所見
 4 Follicular Cyst,Infundibular Type 毛包嚢腫,漏斗部型
 5 Dilated Pore 毛包開大腫
 6 Follicular Cyst,Isthmus-Catagen Type 毛包嚢腫,峡部-退縮期型
 7 Vellus Hair Cyst 軟毛嚢腫
 8 Hybrid Cysts ハイブリッド嚢腫
 9 Basaloid Follicular Hamartoma 基底細胞様毛包過誤腫
 10 Hair Follicle Nevus 毛包母斑
 11 Trichofolliculoma 毛包腫
 12 Folliculo-Sebaceous Cystic Hamartoma 毛包脂腺性嚢腫性過誤腫
 13 Nevus Comedonicus 面皰母斑
 14 Fibrous Papule 線維性丘疹
 15 Trichoblastoma 毛芽腫
 16 Panfolliculoma 汎毛包腫
 17 Pilomatricoma 毛母腫
 18 Trichilemmoma 外毛根鞘腫
 19 Proliferating Trichilemmal Tumors 増殖性外毛根鞘性腫瘍
 20 Keratoacanthoma and Its Malignant Forms
     ケラトアカントーマおよびその悪性型
 21 Tumor of Follicular Infundibulum 毛包漏斗部腫瘍
 22 Pilar Sheath Acanthoma 毛鞘棘細胞腫
 23 Trichoadenoma 毛包腺腫
 24 Inverted Follicular Keratosis 反転性毛包角化症
 25 Basal Cell Carcinoma 基底細胞癌
 26 Pilomatrical Carcinoma 毛母癌
 27 Trichilemmal Carcinoma 外毛根鞘癌
 28 Infundibular Squamous Cell Carcinoma 毛包漏斗部型有棘細胞癌

第3章 脂腺器官系病変
 1 脂腺器官の正常組織
 2 脂腺器官系病変の概要
 3 脂腺器官および脂腺器官系病変の免疫組織化学的所見
 4 Ectopic Sebaceous Glands 異所性脂腺
 5 Steatocystoma 脂腺嚢腫
 6 Sebaceous Gland Hyperplasia 脂腺増殖症
 7 Sebaceous Mantle Hyperplasia 脂腺マントル過形成
 8 Nevus Sebaceus 脂腺母斑
 9 Fibrofolliculoma/Trichodiscoma 線維毛包腫/毛盤腫
 10 Reticulated Acanthoma with Sebaceous Differentiation
     脂腺分化を伴う網状棘細胞腫
 11 Sebaceoma 脂腺腫
 12 Sebaceous Adenoma 脂腺腺腫
 13 Sebaceous Borderline Neoplasm 脂腺系境界悪性新生物
 14 Sebaceous Carcinoma 脂腺癌
 15 脂腺分化を伴うその他の腫瘍

第4章 皮膚付属器腫瘍の鑑別診断の要点
 1 皮膚付属器腫瘍 vs 転移性皮膚腫瘍
 2 Porocarcinoma vs Squamous Cell Carcinoma 汗孔癌 vs 有棘細胞癌
 3 Extramammary Paget’s Disease,Primary vs Secondary
     皮膚原発性乳房外Paget病 vs 二次性乳房外Paget病
 4 Microcystic Adnexal Carcinoma vs Desmoplastic Trichoepithelioma vs
     Morphoeic/Infiltrative Basal Cell Carcinoma
     微小嚢胞性付属器癌 vs 線維形成性毛包上皮腫 vs
     モルヘア/浸潤型基底細胞癌
 5 Trichoblastoma vs Basal Cell Carcinoma 毛芽腫 vs 基底細胞癌
 6 表皮内腫瘍胞巣をみたら
 7 真皮内に散在する管腔形成性腫瘍胞巣をみたら
 8 嚢腫構築をみたら
 9 クレーター状構築をみたら

あとがき
索引

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本書の記述の正確性につきましては最善の努力を払っておりますが、この度弊社の責任におきまして、下記のような誤りがございました。お詫び申し上げますとともに訂正させていただきます。

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