実践にいかす歩行分析
明日から使える観察・計測のポイント

もっと見る

J. Perryの 『歩行分析-正常歩行と異常歩行』、K. Neumannの 『観察による歩行分析』 の2大名著を踏まえ、ドイツ人でバイオメカニクス専門家O. Ludwigが歩行と走行のビデオ解析、インソール型・ペドバログラフィーを用いた足底圧分布計測により、正常とその逸脱を明確に定義。イニシャルコンタクト、ターミナルスタンスなど理学療法士が使い慣れた歩行相を用いて異常歩行へのコンサルテーションがなされている。
原著 Oliver Ludwig
月城 慶一 / ハーゲン 愛美
発行 2016年10月判型:B5頁:260
ISBN 978-4-260-02805-9
定価 5,500円 (本体5,000円+税)

お近くの取り扱い書店を探す

  • 更新情報はありません。
    お気に入り商品に追加すると、この商品の更新情報や関連情報などをマイページでお知らせいたします。

  • 序文
  • 目次
  • 書評

開く

訳者序

訳者序
 本書の著者,Oliver Ludwigはドイツ人の生物学博士であり,ヒューマンバイオロジーとバイオメカニクスの専門家として20数年来,姿勢と運動分析を専門に研究に取り組んでいる.そのかたわらドイツのザールラント大学で教鞭をとり,また整形外科靴技術の臨床応用と技術開発,整形外科靴技術者のためのセミナー開催に精力的に取り組んでいる.本書は,多様な診断と治療の評価において歩行分析が必須手法であるという観点に立ちながら,大規模な機材を使用した方法には焦点をあてず,また,肉眼によるヒトの歩行の観察と評価の重要性を認めつつ,その中間点にあるビデオ解析や動的負荷圧測定装置のサポートを用いた手法の利点を紹介している.これらは,とりわけ歩行分析に取り組み始めて間もない分析者には取り組みやすい方法である.そのような簡易的な装置を使用した測定方法であっても,歩容の評価と歩容変化の認識,計測の質の向上,歩行分析の有用性を獲得することに大いに貢献することを本書は説明している.
 本書を日本に紹介するきっかけとなったのは,2014年8月に東京都八王子市で開催されたセミナーでOliver Ludwigが講演したことである.このセミナーは,本書の翻訳者であるハーゲン愛美の夫のクレメンス・ハーゲン氏(オーストリア出身,整形外科靴マイスター,長野県在住)によって企画されたもので,全国から医師,整形外科靴技術者,シューフィッター,義肢装具士が参加者として集まり,2日にわたって行われた.その際に紹介された本書の原書は,Oliver Ludwig自身により,姿勢と歩行の観察と計測のエッセンスがまとめられたものであり,セミナー内容に感銘を受けた受講者の多くから翻訳出版が強く望まれた.原著はドイツ語で書かれていたため,和訳は,ドイツ語が堪能で,これまでドイツ語圏からのエキスパートによるセミナー資料の翻訳を手掛けていたハーゲン愛美が担当している.そのうえで私が 『観察による歩行分析』(医学書院,2005年初版)の翻訳経験と教育の経験をもとに推敲し,さらにハーゲン愛美が原著の内容と照らし合わせて,訳文に間違いがないか入念にチェックしながら仕上げたのが本書である.
 本書によって,歩行分析をこれから始めようとする方から,すでに多くの経験をもつ方まで,実践の場で明日からいかせる知識を得てもらえれば幸いである.
 本書の出版実現のために大きな牽引力を果たした医学書院の大野智志氏にこの場をお借りして深く感謝する.

 2016年8月
 訳者を代表して 月城慶一



 歩行分析は,多種多様な臨床的実践のための幅広い上位概念であり,診断と評価,治療または理学療法を実施するために必要である.歩行分析は,臨床現場におけるさまざまな疑問に対し,答えを導き出す手助けとなるため,さまざまな歩行分析の種類が導入されている(表1).スポーツ医学や整形外科に特化した分野における運動解析活用はますます増えており,運動時に発生する問題の原因を特定するのに役立っている(Jöllenbeck, 2012).そこでは,歩行分析がX線画像やCT,MRIといった静的な解析方法の補完的役割を果たしている.なぜなら,運動解析が,逸脱運動や,それによる組織への過負荷の危険性となる原因の特定を可能にするからである.また,スポーツ傷害の後に行う歩行分析は,たとえば再びスポーツ選手として活動が可能かどうかといった重要な判断にも役立つ.
表1 歩行分析の種類とそれぞれの適応
分析方法適応分野目的方法例
科学的歩行分析
  • 科学分野
  • 医療関係
  • 科学的基礎研究
  • 応用研究
  • 医学的診断
  • 運動の3次元録画
  • 筋電計測
  • 運動学的+運動力学的分析
  • シミュレーション
医学的歩行分析
  • 整形靴
  • 義肢装具
  • 理学療法
  • 歩行障害の分析
  • 義肢装具デザインと療法の決定
  • 治療結果の評価
  • 運動の2次元録画
  • ソフトを用いた角度解析
  • 運動力学的分析
    (ペドバログラフィー)
記録的歩行分析
  • 理学療法
  • スポーツシューズ
  • 歩容の変化の確認
  • スポーツシューズの推奨
  • 2次元ビデオ記録
  • 目視による分析
 科学的研究において実施されている解析方法は,実に大規模で包括的である(Nüesch et al, 2010).さらに医学的研究においては,歩行に関与する構造(筋,腱,靭帯,関節,骨,神経系)の連携はとても重要である.そのために用いる研究方法は,歩行分析全体のトップに位置するような高度なものである.
 しかし,本書ではそのような大規模な機材を使用した方法に焦点をあてていない.大規模な機材は価格が桁違いで,日常的に医療に従事している者にとっては手の届かないものである.たとえ使用する機会があったとしても,操作や評価には長時間の作業を要する.対極に位置する方法として肉眼による歩行の観察と評価があるが,これを過小評価することはできない.経験豊かな歩行観察者が一定の基準に従って歩容を評価すれば,多くの場合に優れた成果をもたらすからである.しかしながら,豊富な経験を積み重ね,診察の信頼性と再現性を保証する“完全な観察力”を獲得するまでの道のりはとても長い.
 これらの両極の中間的な位置付けとして,ビデオ解析や動的負荷圧計測の助けを借りて,医学的歩行診断を容易にするという選択肢がある.手の届かない高度で複雑な方法と,信頼性と再現性を有する経験豊かな観察力の狭間で一定の評価を得られている(Chambers & Sutherland, 2002).特に歩行分析に取り組み始めて間もない分析者にとって,手軽な装置を使用した計測方法は,歩容の評価と歩容の変化の認識,そしてそれらの質的向上と歩行分析の有用性に対する確信を得ることに有効である(Wren et al, 2011).

 本書が活用されるべき場面について説明する.著者は今まで自ら講師を務める数多くの歩行分析に関するセミナーにおいて,歩行分析への簡単な入門方法を探している数多くの意欲的な専門家と知り合った.しかし,数多くのセミナーや講習を受講したにもかかわらず,歩行分析の実践を躊躇することが多いのが現状である.それは歩行運動の複雑さゆえに,ステップバイステップで順を追って歩行分析を習得するための,とりわけ実践にいかす手がかりがみつからなかったからではないだろうか.
 それゆえ,本書執筆にあたって,読者にとっての導入口となるテーマ選びはとても重要であった.第一に,無数の運動パターンの大いなる複雑さのなかで学習ポイントを見失わないように,重要な観察ポイントのみを選んで紹介した.最初の一歩を勇気をもって踏み出せば,実践者の分析アプローチは磨かれていく.専門家であっても常に学習は必要である.本書で述べたことを理解し,実践した後は,さらに理解を深めるために,複数の優れた書籍を一読することを推奨する.
 最もお薦めするのは,“バイブル”と呼ばれるJacquelin Perry博士の歩行分析に関する数々の著書である.彼女の著書 『Ganganalyse』 (日本語版: 『歩行分析——正常歩行と異常歩行 原著第2版』,医歯薬出版,2012)では,包括的なバイオメカニクス的背景の知識の紹介と標準的な歩行のバリエーションが論述されている.他に,非常に素晴らしい著書としては,Perryの教え子であったKirsten Götz-Neumannの 『Gehen verstehen』 (日本語版: 『観察による歩行分析』,医学書院,2005)がある.観察による歩行分析を行う方法について,とても理解しやすい形で根拠を明確にしながらまとめられている.英語が堪能な方なら,Chris Kirtleyの 『Clinical Gait Analysis』 を読むことで,幅広い歩行分析分野を体系的に理解し,全体像をつかめる.さらに深く掘り進めたい場合は,Verne Inmansが基礎部分を執筆し,Jessica RoseやJames Gambleによってヒトの歩行のすべての重要な要素が追述された 『Human Walking』 がお薦めである.ランニングスポーツに焦点を絞っている方には,Marquardtの著書 『Laufen und Laufanalyse』 によって,ランナーのケアに関する重要な情報が得られる.

 本書は,歩行分析活動に深く関わる前の道のりがどこから始まるのかについて,明確なスタート地点を示している.繰り返しになるが,歩行に限らず,第一歩を踏み出すのは最も困難なことである.今がその第一歩を踏み出すときである.

 Oliver Ludwig(オリバー・ルードヴィッヒ)


文献
Chambers, H.G., Sutherland, D.H. (2002): A practical guide to gait analysis. J Am Acad Orthop Surg 10(3): 222-231
Götz-Neumann, K. (2011): Gehen verstehen. Ganganalyse in der Physiotherapie. 3. Aufl., Georg Thieme Verlag, Stuttgart, New York
Jöllenbeck, T. (2012): Bewegungsanalyse - wesentliches Element moderner sportmedizinischer Diagnostik. Deutsche Zeitschrift für Sportmedizin 63(3): 59-60
Kirtley, C. (2006): Clinical gait analysis. Theory and practice. 2nd edition, Elsevier Churchill Livingstone, Edinburgh, London, New York
Marquart, M. (2012): Laufen und Laufanalyse. 1. Aufl., Thieme, Stuttgart
Nüesch, C., Huber, C., Romkes, J., Göpfert, B., Camathias, C. (2010): Anwendungsmöglichkeiten der instrumentierten Gang- und Bewegungsanalyse in der Klinik, der Forschung und im Sport. Sport Ortho Trauma 26:158-164
Perry, J. (2003): Ganganalyse - Norm und Pathologie des Gehens. 1. Aufl. Urban & Fischer, München, Jena
Rose J., Gamble, J.G. (2006): Human walking. 3rd edition, Lippincott, Williams & Wilkins, Philadelphia, Baltimore, New York
Wren, T.A.L., Gorton, G.E., Ounpuu, S., Tucker, C.A. (2011): Efficiacy of clinical gait analysis: a systematic review. Gait & Posture 34(2): 149-153

開く

  訳者序
  謝辞
  序

第1章 歩行 学習と変化のプロセス
 A 位置と運動制御のセンサー
 B さまざまな要因による運動パターンの変化
 C 自然に備わった衝撃緩衝機能

第2章 スタティックの理解は,ダイナミックの理解を深める
 A 静的な検査と筋のテスト
 B バイオメカニクス的関節間連携
 C 「静」の変化が「動」に及ぼす効果

第3章 歩行分析の方法論
 A ペドバログラフィーの基本原理
 B ペドバログラフィーの使用上の注意点
 C ペドバログラフィーによる計測値の正確性
 D 足底圧計測結果の解釈
 E ペドバログラフィーで計測できるアライメントと運動の異常
 F ビデオ解析
 G トレッドミル
 H 歩行路
 I その他の分析方法との併用
 J 歩行分析における標準値
 K 歩行分析のプロセス
 L 小児の歩行分析

第4章 歩行相に基づく分析法
 A 歩行相の概要
 B バイオメカニクス的観点からみた安定歩行のメカニズム
 C 歩行のクリティカルフェーズ
 D 各歩行相の歩行分析

第5章 走行の分析
 A 走行分析のために必要となる機器
 B 走行スタイル:足部接地
 C 走行分析結果の評価

第6章 典型的な愁訴とその原因の分析
 A 中足趾節関節-中足骨痛症
 B 趾騎乗症
 C 強剛母趾(第1趾の拘縮)
 D 尋常性疣贅(いぼ)
 E 中足部の愁訴
 F 踵骨棘
 G 足底腱膜炎
 H 距腿関節
 I アキレス腱
 J 後脛骨筋症候群
 K 脛骨内側症候群/シンスプリント
 L 膝の愁訴
 M 膝蓋軟骨軟化症-膝蓋大腿疼痛症候群
 N 腸脛靭帯炎-“Runner's knee,ランナーズニー”
 O 腓骨頭(腓骨近位端)
 P 鼠径部痛症候群
 Q 外転筋筋力低下
 R 大腿筋膜張筋の炎症-“Runner's hip,ランナーズヒップ”
 S 仙腸関節のロッキング
 T 腰痛
 U 関節リウマチ
 V 糖尿病足
 W 転倒予防

第7章 ランニングシューズの機能と評価
 A 衝撃緩衝
 B サポート
 C 誘導
 D 自然な運動が可能か
 E ランニングシューズの構造特性と歩行分析における評価

第8章 トレッドミル解析を用いた足底板の最適化
 A 足底板の構成要素(エレメント)がバイオメカニクスに与える影響
 B 足部のポジションと足底板構成
 C 足底板による矯正と近位関節への影響

文献
付録
 1 歩行分析において確認するべきポイント
 2 歩行周期の各相と正常から逸脱した動き
 3-1 歩行分析シート1
 3-2 歩行分析シート2-1
 3-3 歩行分析シート2-2
 3-4 歩行分析シート2-3
 3-5 歩行分析シート2-4
 3-6 歩行分析シート2-5
索引

開く

歩行分析を臨床の場で実践するために
書評者: 山本 澄子 (国際医療福祉大教授・福祉支援工学)
 現在,歩行分析に関連する多くの書籍のうち,国内で最も販売実績があるのは 『観察による歩行分析』(医学書院,2005年)であろう。評者が行っている医療関係者を対象とした講習会では,参加者が講習会にこの本を持参されることが多い。評者はこの本の訳を担当した関係でサインを頼まれることがあるが,ほとんどの場合に持参された本が使い込まれていることに驚いている。『観察による歩行分析』は購入しただけでなく,実際に活用されている本なのだと実感する。

 今回紹介する『実践にいかす歩行分析』は,『観察による歩行分析』の次のステップに読まれるべき書籍である。原著者はドイツ人の生物学博士であり,整形外科靴技術の臨床応用と技術開発に取り組んでこられたOliver Ludwig氏,訳者は『観察による歩行分析』の訳で中心的役割を果たされた月城慶一氏と,多くのドイツ語の専門資料翻訳の経験をお持ちのハーゲン愛美氏である。

 本書の特徴は以下の2点である。1つはタイトルの通り,非常に実践的であること,2つめは比較的簡便な計測器を使用した計測を対象としていることである。従来,計測器を使用した歩行計測は3次元モーションキャプチュアと床反力計といった高価で大掛かりな装置を用いたものであり,結果は正確で情報量が多いが,実施できる施設が限られているため研究目的に使用される場合がほとんどであった。これに対して,臨床の現場ではまさに“観察による歩行分析”が行われている。目視による観察は重要であるが,正確性や情報量において不足している点は否めない。本書の原著者が提唱するのは,上記2つの歩行分析の中間に位置する比較的簡便な計測器を使用した歩行分析である。具体的にはペドバログラフィーと呼ばれる動作中の足底圧分布を測定する装置とビデオカメラを使用した2次元の分析について,機器の原理から実際の使用方法,データの読み方までが詳しく紹介されている。いずれも原著者の豊富な臨床経験に基づいて,多くの症例データの提示とともにデータの読み方が紹介され,まさに実践的な内容といえよう。さらに,本書では歩行だけでなく走行の分析やランニングシューズの評価や足底板の最適化の手法についても述べられている。特に,目で見ただけではわからない動作中の足圧分布のデータを治療につなげる点は秀逸である。

 このように本書は非常に多くの内容が盛り込まれ,200ページを超える書籍である。教科書のように初めから通して読むというよりも,臨床の場で疑問に思ったことを解決するため,あるいは問題点解決のために計測器の導入を考えている方が自分の知りたいことを見つけるために事典のような使い方をするのに適しているかもしれない。巻末付録の歩行分析シートを使ってみて,わからない点を本文で読み込んでいくという使い方もあるであろう。いずれにしても歩行分析を臨床の場で“実践”するための入門書として,本書を活用することをお薦めしたい。
経験豊かな観察者の論理的な歩行分析が学べる本
書評者: 山本 敬三 (北翔大教授・生涯スポーツ学部・スポーツ教育学科/大学院生涯スポーツ学研究科)
 「経験豊かな歩行観察者が一定の基準に従って歩容を評価すれば,多くの場合に優れた効果をもたらす。しかしながら,豊富な経験を積み重ね,診察の信頼性と再現性を保証する“完全な観察力”を獲得するまでの道のりはとても長い」(p.vii)

 本書の“序”に述べられたこの言葉に,まさしくその通りだと,感服させられました。本書は“完全な観察力”を養うために,十分な観察方法や分析ポイントのエッセンスが詰め込まれた理想的な教科書です。

 「歩行分析は,誰のために,何のために行うのだろうか?」

 本書を読み進めるうちに,自分自身にそのような原初的な問いかけを投げかけていました。近年の動作分析の研究では高価で大規模な装置を使った分析が当たり前になりつつあり,大学や専門学校などでは最新の高度な計測機器を用いて授業や研究を行うことが多くなってきました。そのため,研究者や学生の多くは,計測原理や精度,信号処理・統計処理方法,数式・物理式などの理解に多くの時間と労力を費やしてきました。

 しかし,歩行分析の真の主役は毎日多くの患者さんを担当する臨床家であり,彼らが担当する患者さん自身であるべきです。目の前の患者さんに寄り添い,一緒に問題を解決し,QOL(Quality of Life;生活の質)を向上させるためのツールの一つが歩行分析と言えるでしょう。臨床現場に本当に必要なものは,コストパフォーマンスの良い,簡便に利用できる歩行分析ツールであり,なおかつ臨床家や患者さんが理解しやすいデータ表現や解釈方法です。

 本書は,そのような現場の要望に見事に応えてくれています。臨床現場で役立つ分析手法が紹介され,255点のフルカラーの写真やイラストによって,計測や分析のイメージがつかみやすいよう工夫されています。また,本書のサブタイトルである「明日から使える観察・計測のポイント」の通り,「実践のためのヒント」が41点,巻末の付録には6ページにわたる「歩行分析シート」が掲載されており,明日からではなく,今すぐ使いたくなる情報が満載です。

 最も多くの紙面が割かれている第3章「歩行分析の方法論」では,臨床現場で比較的安価に取りそろえることができるビデオ解析や足底圧分布計測装置を用いて,姿勢,歩行,走行の計測・評価方法が紹介されています。ビデオ計測時に役立つマーキング位置も詳しい写真付きで解説されており,計測時のポイントやデータの着目箇所や解釈方法などが大変わかりやすく説明されています。また,足底圧分布計測についてもデータの見方や解釈方法が詳しく記載され,圧力分布図から多くの情報が得られることに驚かされました。

 さらに,参考文献が337編も取り上げられるなど,研究者にとっても貴重な資料と言えるでしょう。巻末付録の「歩行分析シート」は授業や臨床現場ですぐに使えます。

 本書は,理学療法士やトレーナーをめざす学生に最適です。また,現在臨床を行っている方で,歩行分析能力をブラッシュアップさせたい方にも最良の書です。
初心者向けだがベテランも納得の一冊
書評者: 畠中 泰彦 (鈴鹿医療科学大教授・理学療法学)
 本書は主に義肢装具士,靴製作者をはじめ,足病に関わる医療従事者,スポーツ科学者を対象にしたテキストである。まず第1,2章では歩行の生理学を体系的に解説している。本書の特徴でもある第3章では,ペドバログラフィー(足圧分布計測)について26ページを割き,計測原理から異常歩行計測時のチェックポイントまで丁寧に教示している。

 近年の健康志向を背景にウォーキングシューズ,ランニングシューズ,インソールの種類,販売数は格段に増えている。巷の販売店でも足圧計測を行っている風景をしばしば見かけるようになった。しかし,立位での静的な計測のみにとどまっていることが多く見受けられる。ヨーロッパではごく普通に行われている足圧分布計測は,わが国においてはまだ知識と経験が十分に蓄積されていない。健常者と考えられている人々の中には,既に何らかの問題を抱えていたり,外傷の既往を持った人がいることは自明である。静的な条件である立位以外にも動的な条件である歩行時の計測が必要である。歩行計測の結果を病態運動学に基づいてシューズ,インソールの適合を行うことには意義がある。

 さらに第3章の後半以降は,ビデオ解析の方法論と正常歩行(第4章)と走行(第5章)のキネマティクスを解説している。下腿,足関節,足部に疼痛が発生する疾患の原因は同部位にあるとは限らない。また,下腿,足関節,足部に原因があり,他の部位に痛みが生じるといった逆の現象もある。動作中,全身の挙動を観察することの意義はこの点にある。第6章では「ポイント」「実践のためのヒント」として青色の背景で強調しており,筆者の経験と文献により裏付けられ,ポイントを明確にしていて,理解しやすい。

 第5章の走行で解説した走法と対応させ,第7章ではランニングシューズに求められる機能,さらにシューズの構造と歩行分析の関連にも触れている。

 今やビデオカメラの性能は2世代前のプロ仕様に近づき,スマートフォンのカメラですらフルハイビジョンとなっており,臨床での計測にも十分使用できる。一方,分析技術を初心者が学ぶには用語から全て敷居が高い分野でもある。本書は歩行計測,分析の敷居を下げ,臨床家の視点で学ぶプロセスを示している。ビデオや観察による2次元映像情報から得られる評価パラメータ,足圧分布計測から得られる荷重パターンやCOP情報によって多くの患者評価が可能となることを示している。

 本書は初心者向けのテキストだが,特に第3,6章は臨床的に充実した内容で,足底板療法に興味を持つベテランの医師・理学療法士も納得の一冊である。

タグキーワード

  • 更新情報はありません。
    お気に入り商品に追加すると、この商品の更新情報や関連情報などをマイページでお知らせいたします。