観察による歩行分析

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リハビリテーション医療に関わる者にとって、歩行分析に関する知識は必要不可欠。原著者は臨床経験豊富な理学療法士であり、原書はJ. Perryの歩行理論に基づき歩行動作を運動学的、運動力学的側面からわかりやすくかつ実用的にまとめられている。本書は歩行動作を通して、患者を理論的、客観的に見るために有用な書籍である。理学療法士、義肢装具士、工学博士が学際的協力のもとに翻訳したテキストブック。
月城 慶一 / 山本 澄子 / 江原 義弘 / 盆子原 秀三
発行 2005年06月判型:B5頁:208
ISBN 978-4-260-24442-8
定価 5,500円 (本体5,000円+税)

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  • 目次
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1 冒険的進化-直立歩行の歴史
2 歩き方-ヒトの歩容の生理学
3 観察による歩行分析
4 計測装置を用いた歩行分析
5 病的歩行-逸脱運動の原因と影響
6 心と考え方-治療における考え方
7 歩行に対する心理的影響
8 さいごに
付録:O.G.I.G-歩行分析基本データ・フォーム
用語解説
文献
索引

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歩行分析における観察と記録方法を確立する
書評者: 磯邉 崇 (昭和大学病院リハビリテーションセンター・理学療法士)
 観察による歩行分析グループ(Observational Gait Instructor Group)の代表者であるKirsten Gotz - Neumannの『観察による歩行分析』の日本語訳が医学書院から出版された。観察による歩行分析とは「歩行の正常な機能を知り,患者の状態を検査し,確認した機能の逸脱に対し個々の治療プランを立案すること」である。そのためには,「健常歩行のメカニズム(運動学・運動力学)と病理に起因する起こりうる変化に関する正確な知識」と「国際的に活用されている用語の理解」に基づいた「スタンダード化された特別な観察能力の教育とトレーニング」が必要となる。

 臨床における歩行分析は,目による観察とその記録とで行われているが,標準化された方法は確立されていないのが現状である。どのように見るのか?どのように記録するのか?

 本書の中では,歩行分析シートに基づいた観察と記録を臨床の中で繰り返すことを勧めている。このシートは,歩行を2つの時期,3つの機能的役割,8つの相に細分化している。J. Perry博士の「ランチョ・ロス・アミーゴ歩行分析法」に基づく用語を用いて,各相における各関節の角度と動きを観察し,記録していく。観察結果に基づき,(1)問題の明確化と主たる問題点ならびに主たる逸脱運動の特定,(2)可能性のある主たる原因の特定,(3)治療と治療による成果をチェックし,問題解決のプロセスを進めていくのである。

 臨床においての観察は,見るだけにとどまらない。見て解り,記憶にとどめ,表現する(観る・見る・視る⇒解釈⇒記憶⇒表現)ことである。漠然と眺めていてもわかるようにはならない。よくみるためには,解釈の視点を明確にする必要がある。解釈の視点を明確にするためには,記録方法を確立する必要がある。そして,どう表現するのかである。Kirsten Gotz - Neumannのセミナーに参加すると,女史が歩容の特徴を非常に巧みに真似されていることに驚く。デジタルカメラやビデオに頼るのではなく,そこだけ,その時だけ,そのものだけが持つ情報を体感することにより,否応なしに対象に対して,集中せざるを得ない。そうすることには「感情移入の能力,鋭い感受性,客観的に医学と生体力学の絶対的な基礎を理解できる創造力」が要求される。そのような歩行分析は「先入観や固定観念,偏った治療技術に制約されることはない」。

 今後は「データに基づいて信頼できる判断と個々のケースに即した効果的な治療戦略を立てること」,「オープンで事実に即していて,具体的な客観的事実に基づいた判断と実証ずみの治療法を駆使できる理学療法士だけが,患者の望みをかなえることができる」。歩行分析は,理学療法士にとってさまざまなことを要求するのである。

(臨床歩行分析研究会ニューズレター[第53号]より転載)

“観察による歩行分析”をわかりやすく解説
書評者: 石井 美和子 (フィジオセンター)
 本書の著者であるNeumann氏は,これまでに日本で計7回,「観察による歩行分析」をテーマにセミナーを開催している。私はそのうち2回ほど参加したが,セミナーは系統立ててまとめられ,非常にわかりやすく,興味深い内容であった。それと同時に,受講者側が終始講師であるNeumann氏の気迫に少々押され気味になるほど情熱的にセミナーが進められたことも印象的であった。本書は,同氏がセミナーで熱く語った「観察による歩行分析」への思いが丸々詰まっている。

 第1章は直立歩行の歴史が記載され,ヒトがどのような過程を経て現在の歩容に至ったかを知ることで,歩行機能の必要性・必然性を考えるところから始まっている。第2章は歩行に関する基礎的事項の確認と歩行の解釈について,本書に推薦の言葉を寄せているPerry博士を中心としたメンバーが築いた「ランチョ・ロス・アミーゴ分析法」をもとに述べられている。第3章では,観察による歩行分析を遂行するにあたってのポイントが記述されている。歩行分析を実施する際の手がかりのみでなく,システマティックに分析し解釈を統合するために重要と筆者が判断したクリニカルテストの他,歩行分析シートの利用方法も記載されている。第4章で計測機器を用いた歩行分析の概要が述べられ,第5章がいよいよ本書の主要部分「病的歩行-逸脱運動の原因と影響」である。

 第5章は,身体部位別に計43の逸脱運動とそれに影響を及ぼすと考えられる要素が,わかりやすい図を用いて解説されている。臨床場面で歩行を観察し,問題を捉え,介入へと治療戦略を展開するにあたって参考となる有益な情報が満載である。記載されている内容を臨床で観察した現象と照らし合わせて考えることもできるし,さらに本章では臨床的推論の組み立て方も学ぶことができる。臨床的推論の展開には,やはり多くの知識と経験が役に立ち,優れた臨床家であればその展開が早く,そして明快かつ的確である。しかし,積んだ経験が浅ければ,うまくいかないことも少なくない。ましてや臨床実習中の学生など「経験をもとに考える」ことなど到底できないのだから,さらにつまずくことも多いはずである。実際,私も,私の周囲もそうであった。いったん迷路にはまってしまうと,その後どうやって思考を修正していけばよいかわからなくなる。特に,歩行や動作で観察された現象がどのように身体各部位の機能と関連しているのかについて整理できなくなってしまうことが多い。しかしながら本書の第5章の解説を読み進めると,そこで紹介されている現象がたとえ自分の観察したものと異なっていたとしても,現象を捉える思考過程を学ぶことができるので,大いに役立つのではないかと考える。

 さらに所々に盛り込まれている「注目」と「臨床におけるヒント」にはNeumann氏が臨床経験で得た知見が記載されており,これもまた本書の魅力の1つであろう。また,歩行や動作といった動きには心理的因子も大きく関わってくる。本書では,後半の第6章・第7章でその点についても触れている。

 観察による歩行や動作の分析の重要性はこれまでにも十分認識されてきている。しかし,その方法と解釈を丁寧に説いている書籍は見当たらなかったように思う。本書は理学療法士のみならず,観察による歩行分析に携わる職域の方すべてにお薦めしたい。

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