今日から使う
看護現場の基本交渉術

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「患者さんにベッド移動をお願いしなければ……」「急遽、夜勤の交代要員が必要……」などよくある場面でうまく頼めず、自分が我慢したり言いやすい人にばかり頼んだりしていないだろうか? 本書を読んですぐに交渉上手とはならないものの、本書には交渉力をつけるために必要なことが具体的にわかりやすく書かれている。今日から少しずつ知識とスキルを積み重ねることで、悩んでいたあのコンフリクトも解消できるかもしれない。
北浦 暁子 / 渡辺 徹
発行 2015年09月判型:A5頁:128
ISBN 978-4-260-02205-7
定価 1,980円 (本体1,800円+税)

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はじめに

 私たちは職場でもプライベートでも,ほとんどの活動において他人とのやりとりを避けることができません。看護職であれば,患者,医師などの他職種,同僚や部下などを相手に,病室を移ってもらいたいとか,勤務時間内にオーダーを出してほしいと伝えたり,機材購入を申請したり,シフトや予定の変更をお願いしたりしています。そのようなときにちょっと頼んでみて,相手がYesと言ってくれないと,「いつもそうだから仕方がない」とあきらめていませんか? あるいは,気づくと,「なぜいつも人に言われるままにやっているのだろう…」と納得できない思いがこみあげてきませんか? その一方で,職場の同僚のなかには,自分の要求を声高に叫んで周りを不快にしながらも自分の思うままに行動する人もいます。仕方がないと思いつつ,割り切れない気持ちはたまり続けていきます。
 看護現場で交渉への苦手意識をもっている人は少なくありません。そして,相手にYes と言ってもらうにはどうすればいいのか,たぶんそれに役立つ方法を「交渉」という言葉で漠然とイメージしつつ,「自分も苦手意識をもたずに交渉ができるようになりたい」と思っている人は多いと思います。しかし,ただでさえ新しい知識や多くの情報を得ることが必要である看護職は,交渉だけに時間をかけて学ぶことは現実的ではありません。私たちは交渉の専門家になりたいわけではなく,仕事でうまく活用できる程度の基本的な交渉術を無理なく身につけたいだけなのです。
 どうやったら「心構え」や「言い方」,「気合」だけでなく,総合的な視点に立った使える交渉力を身につけられるのか? その思いからスタートしました。そして,幅広く交渉に携わっている渡辺徹氏の協力を得て,総合的な視点からの本物の交渉術を学ぶことにしたのです。その取り組み内容は,雑誌 『看護管理』 の21巻1号(2011年)より,「実践交渉力講座 渡辺ゼミ基礎編」と題して12回にわたって連載されました。本書はその連載を再構成し,加筆・修正を加えたものです。連載では対話形式でしたが,書籍としてまとめるにあたり,要点をより簡潔に示す形に再整理し,交渉の基礎知識にZOPAなどの新たな考え方を加えてより実践的なものにしました。
 交渉の基本的な知識とスキルを身につけることで,相手のYesを引き出すことができ,その結果,仕事や人間関係がよりよい方向に変化する可能性が高くなります。本書では,「交渉」と聞くと尻込みして,苦手意識のかたまりになってしまう人に活用していただけるよう,交渉について実践的に理解し身につけるコツが示されています。
 完璧な交渉を目指す必要はありません。今日からすぐに活用できる身近なことから,少しずつ実践することが最も着実な成功への道になります。臆せず一歩を踏み出してみましょう。

 2015年6月
 北浦暁子

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はじめに

第1部 交渉ってこういうことです-交渉の基本を学ぶ
 Lesson 1 交渉は特別なことではない
 Lesson 2 交渉にはいろいろな形がある
 Lesson 3 交渉の背景に作用する力
 Lesson 4 交渉には人間的な「クセ」が出る
 Lesson 5 交渉にはスタイルがある
 Lesson 6 交渉のスタイルを比較する
 Lesson 7 交渉には「敗者がいない」ことがある
 Lesson 8 交渉には終わりがある

第2部 交渉をうまく進めるための知恵-交渉の技術を学ぶ
 Lesson 1 これが交渉時の余裕をつくる-BATNA
 Lesson 2 ジャンケンも交渉も後出しが有利-ZOPA
 Lesson 3 コミュニケーション力が大事-論理と感情
 Lesson 4 交渉時の人間の傾向を知る-心理的要因
 Lesson 5 とりあえず話してくるではダメ-事前準備の重要性
 Lesson 6 交渉の進め方を工夫する-実践上の心得

第3部 交渉本番に役立つ3つの心得-戦略的に交渉に取り組む
 戦略的にやってみよう
 戦略1 本音をさぐる-状況分析と情報収集
 戦略2 絆をたもつ-交渉の基本姿勢
 戦略3 投げ出さない-交渉プロセスのマネジメント
 交渉戦略を事例で考える

参考文献一覧
おわりに
索引

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難しくとらえがちな交渉のハードルを下げてくれる一冊
書評者: 増野 園惠 (兵庫県立大教授・看護管理学)
 誰しも一度は,「うまく交渉ができるようになりたい」と思ったことがあるのではないだろうか。「交渉は難しい」と苦手意識を持っている人も多い。一方で,交渉に対する誤解から「交渉なんてしたくない」と思っている人もいるかもしれない。本書は,仕事でも私生活でも,好むと好まざるとにかかわらず常につきまとう交渉に前向きに取り組むことができるようになる手引き書である。

 本書は,雑誌 『看護管理』 に連載された「実践交渉力講座 渡辺ゼミ基礎編」をまとめたものである。雑誌の連載では,交渉の達人である渡辺氏とガイド役の北浦氏が対話する形式で,交渉とはどういうことかや,実際の交渉の進め方が具体的な場面を例に解説されていた。看護現場で交渉に苦慮している人の多くがこの連載から交渉のためのヒントを得たのではないだろうか。

 このたびの書籍化では,連載のテイストは残しつつ,要点を整理する形で再構成され,三部構成となっている。第1部は交渉の基本的事項,第2部は交渉を成功させるための技術,第3部は交渉に役立つ3つの戦略が解説されている。「総合的な視点に立った使える交渉力を身につける」という連載で大切にしていた基本姿勢を受け継ぎ,第1・2部はLesson形式で書かれて,第3部では看護現場でよく遭遇する交渉場面を事例に3つの戦略の具体的活用法が解説されている。

 本書は,「交渉がうまくなりたい」と思っている人にも,「自分はそこそこうまく交渉できている」と思っている人にも,交渉力を高める新たな示唆を与えてくれる本である。交渉とは,「複数の当事者が共同して行う,問題解決に向けた合意を形成するコミュニケーションプロセス」(p.5)であると書かれている。一方的に相手に解決策を求めることや,一方的に自分の言い分を相手に主張すること,あるいは意見を出し合うだけの単なる意見交換は交渉ではないと,何が交渉であるかを明確にしている。取り組むべきターゲットを絞り込むことで混沌とした現場の問題解決のプロセスをすっきりさせてくれる。

 とかく難しく考えてしまう交渉術であるが,とにかく本書は読みやすく,わかりやすい。著者らは「料理のレシピ本のような本」を目指したようである。レシピとなる交渉の「理屈」「ワザ」「コツ」を,具体例を挟みながら解説している。日頃,私たちが交渉に臨む際に困難に感じていることや悩んでいることが投げかけられ,困難や悩みの裏にあるものが理論などを用いて解説される。そして,交渉プロセスで使えるコツやワザが紹介されている。

 本書を読みながら,これまで自分が行ってきた交渉場面を振り返ってみると,ハッとさせられる。しかし,そこで自分のこれまでの交渉のまずさに落ち込むわけではない。次の交渉場面では「こうしよう」と,本書に記されている「理屈」「ワザ」「コツ」を使って具体的なアプローチを計画している自分に気付く。まさしく,今日から使え,交渉力が身につく本である。
看護管理者の成長を引き出す「交渉術」 (雑誌『看護管理』より)
書評者: 川崎 つま子 (東京医科歯科大学医学部附属病院 看護部長)
◆交渉に対する苦手意識

 私はこれまで,看護管理者として実に多くの交渉の場面を体験してきました。交渉がうまくいき,自分の進めたい方向にいったときには気持ちも高揚しますが,失敗に終わったときには落胆し,やりきれない気持ちになり,時には相手の理解のなさや環境のせいにしてしまいます。私の場合は,交渉を数多く体験する中から,少しずつ「交渉術」を学んでいきましたが,本書のような交渉について分かりやすく解説してある書物があったら,もっと楽しく交渉に臨めたのではないかと思います。

 看護管理者が日々体験する交渉は,職位や置かれている立場によっても違いますが,その仕事の大半が交渉であると言っても過言ではありません。

 しかし看護管理者の中には,交渉に対して苦手意識を持っている人も多くいます。特に他職種や権威のある人との交渉は,初めから避けたい気持ちが働いています。例えば,「それは看護部長から言ってください」「先生方には,院長から言っていただかないと困ります」など,困難が予測される交渉についてはできるだけ避けたい気持ちが働いているのが分かります。逆に弱い立場の人との交渉は,一方的に推し進めてしまい,後にコンフリクトの原因になることもあります。

◆技術としての「交渉」

 本書は「交渉術」について分かりやすく解説しており,ここから交渉の基本を学ぶことで,交渉に対して苦手意識を持っている看護管理者にとって複雑に見える交渉場面がクリアになり,自分自身の交渉の癖をも知ることができます。逆に,交渉に対して自信を持っている方も,ご自身の交渉スタイルを振り返り,さらによりよい交渉となるように成長してもらえると考えます。

 本書は3部から構成されており,第1部は実際の交渉のプロセスを理解するための基本的な仕組みについて解説しています。第2部では実際の交渉に欠かせない実践ポイントが書かれています。そして第3部では交渉本番での心得について,実際の交渉の場でどのように行動すればよいのかを分かりやすく解説しています。

 私はできるだけ看護管理者の皆様には,書物の力を借りながら数多くの交渉を経験していただき,ご自身のビジョンの実現に向かって一歩ずつ進んでいって欲しいと願っています。

◆「交渉術」と共に成長する

 管理者の業務の中でとても大きな要素を占める交渉について,技術として整理された本はこれまでなかったと思います。看護管理者が「交渉術」を身に付けることによって,交渉相手と互いにWin-Winの関係を築き,組織の発展につながることを期待しています。

 看護師が専門性を発揮してチーム医療の中で活躍するためにも,自分の考えを主張し他者に理解してもらうことは重要です。また,交渉を受ける側の場合においても,相手の立場を尊重して,冷静に対応できるよう交渉力を高めてほしいと思います。

 看護管理者の皆様が,積極的に交渉の場に臨み,交渉を通じて管理者として成長してほしいと願っています。

(『看護管理』2015年12月号掲載)

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