プリセプターシップを変える 新人看護師への学習サポート
プリセプターシップを成功へ導く発想の転換!“何を教えるか”から“どのように学習を支援するか”へ
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プリセプターに期待される役割は“スーパー教師”ではなく、新人育成の目標も“一人前の速成”ではない。本書はプリセプターシップの原点「プリセプティが学び、成長すること」に立ち返り、プリセプターのみならず周囲の看護メンバー全員が適切な学習サポート行動を実践するための具体的なヒントを満載。“承認”と“基本的信頼関係”をキーワードに、各時期の特徴を踏まえた効果的なサポート方法とその根拠をわかりやすく提示。
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はじめに 新人看護師教育をめぐる状況
プリセプティの学習サポートのためのプリセプターシップ実現に向けて
2月・3月 新しいプリセプティを迎えるための準備をする時期
4月 プリセプターシップの土台をつくる時期
5月・6月 すべてが初めての経験という時期
7月・8月 ロールモデルであることに直面し戸惑い始める時期
9月・10月 経験の内容が広がってくる時期の学習サポート
11月・12月 経験の内容と役割期待が変化してくる時期の学習サポート
1月・2月 評価に追われる時期の学習サポート
2月・3月 看護メンバー全員が新たな学習サポートを創造する時期
おわりに 看護をともに支える人材を育てるために
索引
プリセプティの学習サポートのためのプリセプターシップ実現に向けて
2月・3月 新しいプリセプティを迎えるための準備をする時期
4月 プリセプターシップの土台をつくる時期
5月・6月 すべてが初めての経験という時期
7月・8月 ロールモデルであることに直面し戸惑い始める時期
9月・10月 経験の内容が広がってくる時期の学習サポート
11月・12月 経験の内容と役割期待が変化してくる時期の学習サポート
1月・2月 評価に追われる時期の学習サポート
2月・3月 看護メンバー全員が新たな学習サポートを創造する時期
おわりに 看護をともに支える人材を育てるために
索引
書評
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魅力的な職場づくりの第一歩は新人のサポート体制の見直しから (雑誌『看護管理』より)
書評者: 成田 康子 (兵庫県立加古川病院看護部次長)
◆新卒看護職とプリセプターの共倒れを防ごう
日本看護協会の「新卒看護職員の早期離職等実態調査」の結果,2003(平成15)年度新卒看護職員の入職後1年以内の離職率は全体平均で8.5%,離職理由として「健康上の理由(精神的)によるものが増加する傾向にある」とした病院は29.1%,「職場不適応によるものが増加する傾向にある」とした病院は36.8%である。新卒看護職員の精神的サポートをしながら職場適応を促すことが看護現場には求められ,プリセプター制をとる病院が85.6%にのぼっているが,新人・プリセプターともに疲れ果て,退職者が増加しているのが現状である。
本書は,プリセプターシップを効果的に実施しながら新卒看護職員の職場適応をいかに促すかという観点から,プリセプターの事前研修をどうしようかと悩む教育担当者,プリセプター任せにせず全員で新卒看護師を育成する環境をつくる努力をしている看護師長,次年度のプリセプターを任命され不安に思っている看護職の皆様に,ぜひ読んでいただきたい1冊である。
著者が述べる「『何を教えるか』から『どのように学習を支援するか』」「周囲のすべての看護師が参加する新人看護師育成とは」という提案は,従来のプリセプターシップについて書かれた本とは一味違う内容で,筆者自身も目からうろこが落ちた。早く一人前にしなければという周囲の焦りが,新人の技術習得度や気持ちを無視した教育になり,新人を萎縮させ追い込む結果になったり,教えても教えても成長しない新人を前に,自分の指導方法が悪いと一人で責任を背負い込みバーンアウトになるプリセプターがいる。そのような現状を打開するために,今までと少し視点を変えて取り組むための示唆が,本書には満載されている。
◆根拠が明確でわかりやすい実践例
本書に出てくる事例を読むと,「ある!ある!こんな場面」と臨場感を覚え親しみが湧き,さらにそれらの事例に対する対策が,すぐにでも取り組めるよう具体的かつ平易に書かれてあり,「私も明日からやってみよう」と元気がでてくる。そして,その対策の理論的根拠も示されており,自信をもって指導できる構成になっている。もう少し理解を深めたい人には参考文献も紹介され,それぞれの学習ニーズに合わせて,理論を習得しながら指導にあたれるようになっている。特にコーチング的な関わりは,プリセプターの支援者のみならず,すべての看護師に非常に参考になるだろう。
「失敗の乗り越え方」の指導,「あるべき論からの脱却」,最近の新人はやる気がないとあきらめるのではなく,「やる気を育てる関わり」などの本書の主張は,当院の新プリセプター事前研修で活用しようと考えている。このような内容が年間プログラムとして掲載されているのもユニークで,各章の扉には「プリセプティの学習に対するサポートの基本計画」として,時期ごとの課題,学習サポート活動,キーワードが記載されている。短時間でポイントを学習できる構成になっている点は,忙しい現場で考えながら走り回って指導している看護職には非常にありがたい1冊である。
(『看護管理』2007年3月号掲載)
書評 (雑誌『看護教育』より)
書評者: 佐々木 幾美 (日本赤十字看護大学助教授・看護教育学)
就職先を決めた学生たちに「なぜその病院に決めたのか」と尋ねると,ほとんどの学生が「プリセプターシップをとっていて,新人教育が充実していそうだから」と答える。そこには学生たちの職場への適応に対する不安が強く表われており,それゆえプリセプターシップという言葉に大きな期待を抱いていることがうかがえる。
それに応えるべく,多くの施設ではプリセプターシップを実施しているが,プリセプター自身が重圧を感じたり,その効果を感じられなかったりといった問題が生じている。また,新人看護師の離職率の高さが大きな問題として取り上げられ,あらためて効果的なプリセプターシップとはどういったものなのだろうかという問題にわれわれは直面している。
◆「主体的に学習する新人」を支える視点
まず最初に目を引くのが,「教える」という発想から「学習を支援しサポートする」という発想への転換である。「教える」ことにとらわれると,どうしても教える側であるプリセプター自身の視点で物事をとらえやすい。
本書では,そうではなく,プリセプティである新人看護師の学習を中心に考え,新人看護師の視点に立って現象を捉えることを提案している。すなわち,プリセプターシップにおいては,新人看護師が主役であるという発想である。これにより,教えられることを身につけていくという受け身の学習ではなく,自ら必要なことを学びとっていくという主体的な学習を促進することが可能となるのではないだろうか。
また,年間計画にもとづいて各月に取り組むべき課題が具体的に書かれている点がとてもユニークである。たとえば,「2月・3月:新しいプリセプティを迎えるための準備をする時期」「4月:プリセプターシップの土台をつくる時期」「5月・6月:すべてが初めての経験という時期」といった目次が並ぶ。特に,年度初めである4月からの計画ではなく,2・3月という準備期間から提示している点は,4月からプリセプターとして役割を果たさなければならないと不安を感じている看護師たちにとって,現実的な支援となるであろう。
◆具体的な内容ですぐ実践に移せる構成
本書はまた堅苦しい理論書ではなく,典型的な事例を取り上げて学習が進められている点,要点をわかりやすく解説している点も,臨床現場のニーズに沿うものだと考える。したがって,実際にプリセプターとしてその活躍が期待されている看護師だけではなく,今後,プリセプターシップを導入したり,その見直しをしようとしている施設の教育担当者にとっても有用な1冊である。学生を送り出す立場としても,このような考え方にもとづいて新人を慈しみ育ててもらえたらどんなにうれしいだろう。
親しみやすい記述の一方で,コラムのなかでは裏づけとなる学問的な内容を取り入れ,多くの参考文献も紹介しており,知的好奇心を喚起する内容が盛り込まれている。
本書の構成そのものがプリセプターシップに関する「学習を支援しサポートする」姿勢が貫かれていて,ぜひ活用したい魅力的な1冊である。
(『看護教育』2007年4月号掲載)
従来の「業務を教えこむ」方法から「学習サポート」という視点へ
書評者: 西海 真理 (国立成育医療センター/小児看護専門看護師)
◆教える側も教わる側も「つらい」だけ?
今年も新人看護師を迎え入れる季節がやってきた.
安全な医療や質の高い看護など,看護師に対する社会の要求は高くなる一方で,病院では早期離職により看護師が定着せず,新人看護師の教育に多大なエネルギーを奪われている.この要因の上位には「看護基礎教育終了時点での能力と,看護現場で求められる能力のギャップ」があげられ,早期離職対策として,新人看護師が「学べる環境」としての病院の研修機能の強化,教育のための人員の配置が必要だと言われている.
現実には,患者の安全を守るため,またできるだけ均質な看護ケアを提供するために,先輩看護師が無理をして教育に時間を割くことのできる期間内になんとか「1人前」になってもらわなくては,という切迫した要求がある.「患者の安全を守ること」「質の高い看護ケアを効率よく提供すること」と「新人看護師が学習の主体となってのびのびと学ぶこと」は両立させにくい.実際に他職種の新採用職員への指導をみても,看護師の教育ほど殺伐としたものはない.看護師の新人教育は,業務のコピーやトレースとしてのトレーニングが中心であるだけでなく,どうも「経験がほんの数年違うだけの同じ道を行く仲間を支援している」という親密さが欠けているように感じられる.
◆「教える」を通して学びあう関係づくり
本書は,新人看護師が「基本的信頼関係」に裏うちされた人間関係の中で,周囲に存在を認められつつ学ぶことの重要性を説く.ただ「ほめる」のをよしとするのではなく,そのかかわりがなぜ教育的態度として推奨されるのか,根底にある「育てる視点」を明示し,理論に基づいた平易な言葉で具体的に解説している.また,時期ごとに直面する課題とそれに応じた支援行動が示されており,プリセプティを脅かすものや戸惑い,プリセプターの感じる重責や焦りを多角的に理解する手がかりとすることもできる.
プリセプターにとっても,「教える」ことを通して看護を伝える言葉を探し,何冊もの本を繙いたり,自分の経験と照らし合わせ,その意味を再び見出す過程で自分の看護を発展・深化させていく学びがあり,プリセプターシップは相互に「学びあう」過程であると述べる.このように書籍全体が,「できることから始める」「学びあうプリセプターシップ」といったポジティブなメッセージで貫かれており,著者らの教育に対する信念がうかがえる.
本書はプリセプターの指導教本ではなく,また現行の指導への単なる反駁でもなく,前向きで柔軟な「人を育てる」ことへの提案であり,その入門書である.春からプリセプターの役割をとる人のみでなく,プリセプターシップを支える管理者や周囲のスタッフにもぜひ手にとってもらいたい1冊である.
ほめるプリセプターシップがわかる
書評者: 竹股 喜代子 (亀田総合病院看護部長)
いつ頃からか,就職説明会の会場で学生さんから「プリセプター,やっていますか」と質問されることが多くなった。「どのような(内容の)新人教育をしていますか」ではなく,「どのように教えてくれるのですか」ということのほうが関心事なのだなと当初思った覚えがある。新人のナースは不安でたまらない。臨床に立った時,自分が何もできないことを知っているからだろう。それにしてもそのような認識を持つのはある意味エライと思う。自分のことを振り返ると,「できなくて当たり前」と思っていた。いや,もしかしたら,「何かはできる」と信じていたフシがある。
この根拠もなき自信がどこから出てきたのかわからないが,学生時代,あるいは新人時代にあまり否定されないで過ごしてきたからかもしれない。このことがいいのか悪いのか,少なくとも自分の新人時代に「ナースの脱落」が問題になった覚えがない。今の新人が自分の現在の力に不安を感じ,必要以上に自信がない状態で初めての臨床の場で適応できずに脱落すること,それと同時に一生懸命「指導した」先輩ナースがこの「失敗」に責任を感じ自信を失ってしまうこと。この両方共が理不尽に思う。
このような現実の問題を前にして,本書は「どう行動したらよいか」というきわめて実践的な「解答」を示してくれた。著者が看護管理・継続教育研修などでインストラクターとしてあるいはコンサルタントとして関わった経験から,プリセプターシップの実践現場での実際の悩み,問題をとりあげて,「どう考えるか」からさらに「どう行動するか」というところまで示しているところが本書の特徴だ。悩めるプリセプターを支援しながらプリセプティを職場に適応させるプロセスを具体的な事例を通して考えさせてくれる。「信頼関係」と「承認」という,いかなるサポーターが普遍的に必要とする条件は簡単な実践ではない。しかし,これらの事例を読み込んでゆくとそれがどのような言動で培われるのかが自然にわかってくる。実践を裏付ける根拠・理論がコラム欄に解説されていたり,文献を紹介してくれたりと,理解を深めるための情報が付け加えられているのもありがたい。臨床で学習サポートに悩むナースたちに読んでもらう価値がある。
全編を通じて,プリセプティに対してこんなに「ほめること」が必要なのかと思ったが,新人ができないことを1日10回指摘されると,始めの6か月の間に「あなたは……できない」と1200回も繰り返し言われることになる,との指摘に妙に納得してしまった。1200回以上もほめることはないだろうから。
書評者: 成田 康子 (兵庫県立加古川病院看護部次長)
◆新卒看護職とプリセプターの共倒れを防ごう
日本看護協会の「新卒看護職員の早期離職等実態調査」の結果,2003(平成15)年度新卒看護職員の入職後1年以内の離職率は全体平均で8.5%,離職理由として「健康上の理由(精神的)によるものが増加する傾向にある」とした病院は29.1%,「職場不適応によるものが増加する傾向にある」とした病院は36.8%である。新卒看護職員の精神的サポートをしながら職場適応を促すことが看護現場には求められ,プリセプター制をとる病院が85.6%にのぼっているが,新人・プリセプターともに疲れ果て,退職者が増加しているのが現状である。
本書は,プリセプターシップを効果的に実施しながら新卒看護職員の職場適応をいかに促すかという観点から,プリセプターの事前研修をどうしようかと悩む教育担当者,プリセプター任せにせず全員で新卒看護師を育成する環境をつくる努力をしている看護師長,次年度のプリセプターを任命され不安に思っている看護職の皆様に,ぜひ読んでいただきたい1冊である。
著者が述べる「『何を教えるか』から『どのように学習を支援するか』」「周囲のすべての看護師が参加する新人看護師育成とは」という提案は,従来のプリセプターシップについて書かれた本とは一味違う内容で,筆者自身も目からうろこが落ちた。早く一人前にしなければという周囲の焦りが,新人の技術習得度や気持ちを無視した教育になり,新人を萎縮させ追い込む結果になったり,教えても教えても成長しない新人を前に,自分の指導方法が悪いと一人で責任を背負い込みバーンアウトになるプリセプターがいる。そのような現状を打開するために,今までと少し視点を変えて取り組むための示唆が,本書には満載されている。
◆根拠が明確でわかりやすい実践例
本書に出てくる事例を読むと,「ある!ある!こんな場面」と臨場感を覚え親しみが湧き,さらにそれらの事例に対する対策が,すぐにでも取り組めるよう具体的かつ平易に書かれてあり,「私も明日からやってみよう」と元気がでてくる。そして,その対策の理論的根拠も示されており,自信をもって指導できる構成になっている。もう少し理解を深めたい人には参考文献も紹介され,それぞれの学習ニーズに合わせて,理論を習得しながら指導にあたれるようになっている。特にコーチング的な関わりは,プリセプターの支援者のみならず,すべての看護師に非常に参考になるだろう。
「失敗の乗り越え方」の指導,「あるべき論からの脱却」,最近の新人はやる気がないとあきらめるのではなく,「やる気を育てる関わり」などの本書の主張は,当院の新プリセプター事前研修で活用しようと考えている。このような内容が年間プログラムとして掲載されているのもユニークで,各章の扉には「プリセプティの学習に対するサポートの基本計画」として,時期ごとの課題,学習サポート活動,キーワードが記載されている。短時間でポイントを学習できる構成になっている点は,忙しい現場で考えながら走り回って指導している看護職には非常にありがたい1冊である。
(『看護管理』2007年3月号掲載)
書評 (雑誌『看護教育』より)
書評者: 佐々木 幾美 (日本赤十字看護大学助教授・看護教育学)
就職先を決めた学生たちに「なぜその病院に決めたのか」と尋ねると,ほとんどの学生が「プリセプターシップをとっていて,新人教育が充実していそうだから」と答える。そこには学生たちの職場への適応に対する不安が強く表われており,それゆえプリセプターシップという言葉に大きな期待を抱いていることがうかがえる。
それに応えるべく,多くの施設ではプリセプターシップを実施しているが,プリセプター自身が重圧を感じたり,その効果を感じられなかったりといった問題が生じている。また,新人看護師の離職率の高さが大きな問題として取り上げられ,あらためて効果的なプリセプターシップとはどういったものなのだろうかという問題にわれわれは直面している。
◆「主体的に学習する新人」を支える視点
まず最初に目を引くのが,「教える」という発想から「学習を支援しサポートする」という発想への転換である。「教える」ことにとらわれると,どうしても教える側であるプリセプター自身の視点で物事をとらえやすい。
本書では,そうではなく,プリセプティである新人看護師の学習を中心に考え,新人看護師の視点に立って現象を捉えることを提案している。すなわち,プリセプターシップにおいては,新人看護師が主役であるという発想である。これにより,教えられることを身につけていくという受け身の学習ではなく,自ら必要なことを学びとっていくという主体的な学習を促進することが可能となるのではないだろうか。
また,年間計画にもとづいて各月に取り組むべき課題が具体的に書かれている点がとてもユニークである。たとえば,「2月・3月:新しいプリセプティを迎えるための準備をする時期」「4月:プリセプターシップの土台をつくる時期」「5月・6月:すべてが初めての経験という時期」といった目次が並ぶ。特に,年度初めである4月からの計画ではなく,2・3月という準備期間から提示している点は,4月からプリセプターとして役割を果たさなければならないと不安を感じている看護師たちにとって,現実的な支援となるであろう。
◆具体的な内容ですぐ実践に移せる構成
本書はまた堅苦しい理論書ではなく,典型的な事例を取り上げて学習が進められている点,要点をわかりやすく解説している点も,臨床現場のニーズに沿うものだと考える。したがって,実際にプリセプターとしてその活躍が期待されている看護師だけではなく,今後,プリセプターシップを導入したり,その見直しをしようとしている施設の教育担当者にとっても有用な1冊である。学生を送り出す立場としても,このような考え方にもとづいて新人を慈しみ育ててもらえたらどんなにうれしいだろう。
親しみやすい記述の一方で,コラムのなかでは裏づけとなる学問的な内容を取り入れ,多くの参考文献も紹介しており,知的好奇心を喚起する内容が盛り込まれている。
本書の構成そのものがプリセプターシップに関する「学習を支援しサポートする」姿勢が貫かれていて,ぜひ活用したい魅力的な1冊である。
(『看護教育』2007年4月号掲載)
従来の「業務を教えこむ」方法から「学習サポート」という視点へ
書評者: 西海 真理 (国立成育医療センター/小児看護専門看護師)
◆教える側も教わる側も「つらい」だけ?
今年も新人看護師を迎え入れる季節がやってきた.
安全な医療や質の高い看護など,看護師に対する社会の要求は高くなる一方で,病院では早期離職により看護師が定着せず,新人看護師の教育に多大なエネルギーを奪われている.この要因の上位には「看護基礎教育終了時点での能力と,看護現場で求められる能力のギャップ」があげられ,早期離職対策として,新人看護師が「学べる環境」としての病院の研修機能の強化,教育のための人員の配置が必要だと言われている.
現実には,患者の安全を守るため,またできるだけ均質な看護ケアを提供するために,先輩看護師が無理をして教育に時間を割くことのできる期間内になんとか「1人前」になってもらわなくては,という切迫した要求がある.「患者の安全を守ること」「質の高い看護ケアを効率よく提供すること」と「新人看護師が学習の主体となってのびのびと学ぶこと」は両立させにくい.実際に他職種の新採用職員への指導をみても,看護師の教育ほど殺伐としたものはない.看護師の新人教育は,業務のコピーやトレースとしてのトレーニングが中心であるだけでなく,どうも「経験がほんの数年違うだけの同じ道を行く仲間を支援している」という親密さが欠けているように感じられる.
◆「教える」を通して学びあう関係づくり
本書は,新人看護師が「基本的信頼関係」に裏うちされた人間関係の中で,周囲に存在を認められつつ学ぶことの重要性を説く.ただ「ほめる」のをよしとするのではなく,そのかかわりがなぜ教育的態度として推奨されるのか,根底にある「育てる視点」を明示し,理論に基づいた平易な言葉で具体的に解説している.また,時期ごとに直面する課題とそれに応じた支援行動が示されており,プリセプティを脅かすものや戸惑い,プリセプターの感じる重責や焦りを多角的に理解する手がかりとすることもできる.
プリセプターにとっても,「教える」ことを通して看護を伝える言葉を探し,何冊もの本を繙いたり,自分の経験と照らし合わせ,その意味を再び見出す過程で自分の看護を発展・深化させていく学びがあり,プリセプターシップは相互に「学びあう」過程であると述べる.このように書籍全体が,「できることから始める」「学びあうプリセプターシップ」といったポジティブなメッセージで貫かれており,著者らの教育に対する信念がうかがえる.
本書はプリセプターの指導教本ではなく,また現行の指導への単なる反駁でもなく,前向きで柔軟な「人を育てる」ことへの提案であり,その入門書である.春からプリセプターの役割をとる人のみでなく,プリセプターシップを支える管理者や周囲のスタッフにもぜひ手にとってもらいたい1冊である.
ほめるプリセプターシップがわかる
書評者: 竹股 喜代子 (亀田総合病院看護部長)
いつ頃からか,就職説明会の会場で学生さんから「プリセプター,やっていますか」と質問されることが多くなった。「どのような(内容の)新人教育をしていますか」ではなく,「どのように教えてくれるのですか」ということのほうが関心事なのだなと当初思った覚えがある。新人のナースは不安でたまらない。臨床に立った時,自分が何もできないことを知っているからだろう。それにしてもそのような認識を持つのはある意味エライと思う。自分のことを振り返ると,「できなくて当たり前」と思っていた。いや,もしかしたら,「何かはできる」と信じていたフシがある。
この根拠もなき自信がどこから出てきたのかわからないが,学生時代,あるいは新人時代にあまり否定されないで過ごしてきたからかもしれない。このことがいいのか悪いのか,少なくとも自分の新人時代に「ナースの脱落」が問題になった覚えがない。今の新人が自分の現在の力に不安を感じ,必要以上に自信がない状態で初めての臨床の場で適応できずに脱落すること,それと同時に一生懸命「指導した」先輩ナースがこの「失敗」に責任を感じ自信を失ってしまうこと。この両方共が理不尽に思う。
このような現実の問題を前にして,本書は「どう行動したらよいか」というきわめて実践的な「解答」を示してくれた。著者が看護管理・継続教育研修などでインストラクターとしてあるいはコンサルタントとして関わった経験から,プリセプターシップの実践現場での実際の悩み,問題をとりあげて,「どう考えるか」からさらに「どう行動するか」というところまで示しているところが本書の特徴だ。悩めるプリセプターを支援しながらプリセプティを職場に適応させるプロセスを具体的な事例を通して考えさせてくれる。「信頼関係」と「承認」という,いかなるサポーターが普遍的に必要とする条件は簡単な実践ではない。しかし,これらの事例を読み込んでゆくとそれがどのような言動で培われるのかが自然にわかってくる。実践を裏付ける根拠・理論がコラム欄に解説されていたり,文献を紹介してくれたりと,理解を深めるための情報が付け加えられているのもありがたい。臨床で学習サポートに悩むナースたちに読んでもらう価値がある。
全編を通じて,プリセプティに対してこんなに「ほめること」が必要なのかと思ったが,新人ができないことを1日10回指摘されると,始めの6か月の間に「あなたは……できない」と1200回も繰り返し言われることになる,との指摘に妙に納得してしまった。1200回以上もほめることはないだろうから。
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