ケアする人も楽になる
マインドフルネス&スキーマ療法 BOOK1
マインドフルネスで「感じる力」を戻し、スキーマ療法で「生きづらさ」を乗り越える。
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認知行動療法を超えて効果がある2つのアプローチ——「マインドフルネス」と「スキーマ療法」をカウンセリング体験できます。BOOK1はマインドフルネスが中心、BOOK2 はスキーマ療法が中心。読み進めていけば、これらの技法が自然に理解できます。トラウマなどにより「感じる心」を閉ざしてしまった人、ネガティブな思考によって日常のささいな出来事でも極端に揺れてしまう人、そして日々感情を揺さぶられる援助専門職のあなたへ。
著 | 伊藤 絵美 |
---|---|
発行 | 2016年09月判型:A5頁:192 |
ISBN | 978-4-260-02840-0 |
定価 | 2,200円 (本体2,000円+税) |
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- 序文
- 目次
- 書評
序文
開く
はじめに
私はなぜこの本を書いたのか
みなさん、こんにちは。伊藤絵美と申します。『ケアする人も楽になる認知行動療法入門(BOOK 1 & 2 )』を読んでくださった方は、お久しぶりです。この本は、その続編という位置づけにあります。
あ、でも、まだ読んでいないという方も、あわてる必要はありません。本書はその続編ではありますが、それらを読んでいなくても、まったく問題なく、スムースに理解できるように構成してありますので、心配せずにこのまま読み進めてください。その場合は、「はじめまして」ですね。
はじめまして! どうぞよろしくお願いいたします。
本書をお読みになって、むしろ認知行動療法に関心を持った、という方は、ぜひ『ケアする人も楽になる認知行動療法入門』をお読みください(宣伝っぽいですね、すみません)。
さて、以下に本書の内容と特徴、および本書の使い方について簡単に述べますので、まずはお読みください。
本書の内容と特徴
マインドフルネスもスキーマ療法も、「認知行動療法 Cognitive Behavior Therapy:CBT」に属するアプローチです。認知行動療法とは、簡単に言うと、「自分のストレスと上手につきあったり、自分を上手に助けたりするための心理学的な手法」です。認知行動療法を身につけることによって、ストレスとうまくつきあい、上手に自分助けができるようになります。
ところで認知行動療法には、さまざまな理論やモデル、技法があります。『ケアする人も楽になる認知行動療法入門』では、認知行動療法の基本的な理論、モデル、そして主要な技法を幅広く紹介し、それらをストレスケアや自分助けに取り入れてもらおう、というのがその目的でした。〈広く、浅く〉というのがそのコンセプトでした。
それに対して、本書は認知行動療法のなかでも、特に現在、私自身が「ハマっている」2つのアプローチに焦点を絞り、その2つについて、〈深く、マニアックに〉紹介しようとするものです。もうおわかりのとおりその2つとは、「マインドフルネス」と「スキーマ療法」です。なぜこの2つなのでしょうか?
それは私自身が20年以上もの間、認知行動療法のさまざまな手法を実践し続けるなかで、このマインドフルネスとスキーマ療法が、際立って役に立つことを最近になって特に実感しているからです。
これはまさに「自分を丸ごと大事にする」ことにつながります。しかし自分のネガティブな体験にマインドフルに触れられるようになると、謎が生じてきます。
「なぜいつもこういうときに私はこんなにも悲しくなってしまうのだろう?」
「なぜいつもこういうタイミングでこんなにも強い怒りがわいてくるんだろう?」……というように。
自分の「今・ここ」での体験にそのまま触れられるようになると、その体験の良し悪しではなく、「その体験がどこから来るのか」という問いが生じてきます。その問いに答えてくれるのがスキーマ療法です。
スキーマ療法では、「今・ここ」にある自分の体験の根っこを理解し、その根っこを含めて最終的に自分を肯定できるようになるためにさまざまなワークを行います。なかでも「今・ここ」で自分が抱えている「生きづらさ」のようなものを扱うのが特徴的です。
誰でもその人なりの生きづらさがあります。それから目を背け、自分の生きづらさを見ないようにして生きていくという生き方ももちろんありますが、マインドフルに自分の体験に触れられるようになると、自分なりの生きづらさがおのずと見えてきます。そしてその生きづらさはたいてい、過去の体験、特に過去の傷つき体験に由来しています。
スキーマ療法ではそれらの過去体験に関連する現在の生きづらさを丸ごとひっくるめて理解し、最終的には傷つき体験や生きづらさを乗り越え、自分で自分をよりしっかりと支えられるようになることを目指します。
私自身マインドフルネスとスキーマ療法に出会って約10年、少しずつこの2つを学び、自分の生活や人生に取り入れ、活用してきました。この2つに自分自身がどれだけ助けられたかわかりません。
そして自分の臨床の場でも少しずつクライアントの方々に提供するようになり、やはりこの2つを通して多くのクライアントが回復することを目の当たりにしています。そこで今回、この2つに思い切り焦点を当てた本を書こうと思うに至ったのです。
一方、マインドフルネスとスキーマ療法は、長い歴史を持つ認知行動療法のなかでも、比較的最近になって構築された、若いアプローチです。共にこの10年ほどで急激に世界的に注目されるようになった手法で、今では世界中で多くの人びとがマインドフルネスとスキーマ療法を実践するようになっています。
では、なぜこの2つがここまで注目を集め、実践されるようになったのでしょうか?以下の4つの理由が考えられます。
1 効果が高い。エビデンスが示されている。
2 包括的である。この2つでいろいろカバーできてしまう。
3 体験的に効果を実感できる。
4 生活の仕方や生き方レベルに変化が起きる。
この4つについて、ここで説明を始めてしまうと、それだけで1冊の本になってしまうので、やめておきますね(笑)。
本書は学問的な専門書ではないので、1については詳しく説明しません。2、3、4については、実際に本書を読み進めることでおわかりいただけることでしょう。そしてもちろんこの2、3、4は、私自身がこの10年ほど、マインドフルネスとスキーマ療法に取り組むなかで、強く感じるようになったことでもあります。
要するにマインドフルネスとスキーマ療法の効果は、広くて、深くて、強くて、継続的なのです。これらは他の認知行動療法の手法と同様、練習をし、身につけて、自分のものにしていく必要があり、そうなるためにはそれなりの時間と手間をかける必要がありますが、そうする価値が十分にあると、エビデンス的にも、私自身の体験からも断言ができます。
だからこそ本書では、〈広く、浅く〉ではなく、マインドフルネスとスキーマ療法という2つの手法に限って、〈深く、マニアックに〉みなさんに紹介することにしました。みなさんが本書を読み進め、種々のワークに取り組むなかで、マインドフルネスとスキーマ療法をしっかりと身につけ、最終的にはみなさんの生活や人生にうんと役立ててもらいたいと強く願っています。
本書の使い方
料理のレシピ本や英会話の教材とまったく同じです。レシピ本をいくら読んでも、そこで紹介されている数々の料理を作れるようにはなりませんよね。英会話の教材を何度黙読しても、英会話は上達しませんよね。本書もまったく同じです。マインドフルネスとスキーマ療法を自分のものにするには、本書をただ読むだけではなく、使ってもらう必要があります。
本書の構成とその使い方について、以下に示します。
BOOK1では大雑把な基礎知識をお伝えした後に、マミコさんの体験を通して、認知行動療法とマインドフルネスについて説明していきます。マインドフルネスのエクササイズによって、「今・ここ」を感じられるようになったマミコさんですが、逆に自分がいかに「人が怖い、信じられない」という問題を抱えているのかがわかってきます。
BOOK2では、マミコさんがいよいよ問題の「根っこ」をつかむためにスキーマ療法の世界に入ります。マミコさんはセラピストとのやりとりのなかで何を体験し、どう回復していったのか―その道筋をできるだけリアルに、セラピーの具体的な中味にも触れながら、ご紹介していきたいと思います。
次の第1章は「マインドフルネス超入門」、第2章は「スキーマ療法超入門」です。“入門”ではなく“超入門”というタイトルからもわかるように、マインドフルネスとスキーマ療法のほんの入り口をさらっと紹介するのが目的です。そこではごく簡単に、この2つの手法についての理論やモデルや方法を紹介します。
第3章以降に続くマミコさんの事例が本書のメインです。みなさんには、ここからはじっくりと腰を据え、時間をかけて読んでもらいたいと、著者の私としては切に願っています。
プライバシー保護のため実際の事例をそのまま出すわけにはいかず、マミコさんの事例は私が創作したものです。しかし、これまで臨床現場で実際に出会ったさまざまなケースを複合して書き上げたもので、私にとっては非常にリアリティがあります。
マミコさんは、私と一緒にマインドフルネスやスキーマ療法に取り組み、時間をかけて回復していきます。みなさんもマミコさんになったつもりで、数々のマインドフルネスやスキーマ療法のワークをシミュレーションしてください。
そしてマミコさんの事例を終えたら、もう一度、BOOK1の第1章と第2章に戻ってみましょう。最初に読んだときは「なんとなくわかった」程度だったのが、「なるほど! こういうことだったのか!」というふうに、これらの章に書いてあることを自分自身がすでにしっかりと理解できるようになっていることに気がつくことでしょう。
「はじめに」は以上です。うんと簡単に言うと、マインドフルネスは「毎日の生活を自分の心身を使って主体的に、かつ新鮮に生きる技術」で、スキーマ療法は「自らの生き方を振り返り、自分の価値に沿って、さらに自分を大切にする生き方を新たに選び取る営み」です。
読者のみなさんが、本書を読むことで、このような生活や生き方を実現されることを切に願っています。
私はなぜこの本を書いたのか
みなさん、こんにちは。伊藤絵美と申します。『ケアする人も楽になる認知行動療法入門(BOOK 1 & 2 )』を読んでくださった方は、お久しぶりです。この本は、その続編という位置づけにあります。
あ、でも、まだ読んでいないという方も、あわてる必要はありません。本書はその続編ではありますが、それらを読んでいなくても、まったく問題なく、スムースに理解できるように構成してありますので、心配せずにこのまま読み進めてください。その場合は、「はじめまして」ですね。
はじめまして! どうぞよろしくお願いいたします。
本書をお読みになって、むしろ認知行動療法に関心を持った、という方は、ぜひ『ケアする人も楽になる認知行動療法入門』をお読みください(宣伝っぽいですね、すみません)。
さて、以下に本書の内容と特徴、および本書の使い方について簡単に述べますので、まずはお読みください。
本書の内容と特徴
◎ 際立って役に立つ2つのアプローチ
タイトルにもあるとおり、「マインドフルネス」と「スキーマ療法」が本書のテーマです。詳しい内容は本文で述べますので、ここではざっくりと概要だけ示します。マインドフルネスもスキーマ療法も、「認知行動療法 Cognitive Behavior Therapy:CBT」に属するアプローチです。認知行動療法とは、簡単に言うと、「自分のストレスと上手につきあったり、自分を上手に助けたりするための心理学的な手法」です。認知行動療法を身につけることによって、ストレスとうまくつきあい、上手に自分助けができるようになります。
ところで認知行動療法には、さまざまな理論やモデル、技法があります。『ケアする人も楽になる認知行動療法入門』では、認知行動療法の基本的な理論、モデル、そして主要な技法を幅広く紹介し、それらをストレスケアや自分助けに取り入れてもらおう、というのがその目的でした。〈広く、浅く〉というのがそのコンセプトでした。
それに対して、本書は認知行動療法のなかでも、特に現在、私自身が「ハマっている」2つのアプローチに焦点を絞り、その2つについて、〈深く、マニアックに〉紹介しようとするものです。もうおわかりのとおりその2つとは、「マインドフルネス」と「スキーマ療法」です。なぜこの2つなのでしょうか?
それは私自身が20年以上もの間、認知行動療法のさまざまな手法を実践し続けるなかで、このマインドフルネスとスキーマ療法が、際立って役に立つことを最近になって特に実感しているからです。
◎ 「今・ここ」を知ると(=マインドフルネス)、
「根っこ」を知りたくなる(=スキーマ療法)
これはまさに「自分を丸ごと大事にする」ことにつながります。しかし自分のネガティブな体験にマインドフルに触れられるようになると、謎が生じてきます。
「なぜいつもこういうときに私はこんなにも悲しくなってしまうのだろう?」
「なぜいつもこういうタイミングでこんなにも強い怒りがわいてくるんだろう?」……というように。
自分の「今・ここ」での体験にそのまま触れられるようになると、その体験の良し悪しではなく、「その体験がどこから来るのか」という問いが生じてきます。その問いに答えてくれるのがスキーマ療法です。
スキーマ療法では、「今・ここ」にある自分の体験の根っこを理解し、その根っこを含めて最終的に自分を肯定できるようになるためにさまざまなワークを行います。なかでも「今・ここ」で自分が抱えている「生きづらさ」のようなものを扱うのが特徴的です。
誰でもその人なりの生きづらさがあります。それから目を背け、自分の生きづらさを見ないようにして生きていくという生き方ももちろんありますが、マインドフルに自分の体験に触れられるようになると、自分なりの生きづらさがおのずと見えてきます。そしてその生きづらさはたいてい、過去の体験、特に過去の傷つき体験に由来しています。
スキーマ療法ではそれらの過去体験に関連する現在の生きづらさを丸ごとひっくるめて理解し、最終的には傷つき体験や生きづらさを乗り越え、自分で自分をよりしっかりと支えられるようになることを目指します。
私自身マインドフルネスとスキーマ療法に出会って約10年、少しずつこの2つを学び、自分の生活や人生に取り入れ、活用してきました。この2つに自分自身がどれだけ助けられたかわかりません。
そして自分の臨床の場でも少しずつクライアントの方々に提供するようになり、やはりこの2つを通して多くのクライアントが回復することを目の当たりにしています。そこで今回、この2つに思い切り焦点を当てた本を書こうと思うに至ったのです。
◎ 広くて、深くて、強くて、継続的な効果がある!
もちろん認知行動療法のその他の手法(たとえば、コーピングレパートリー、セルフモニタリング、認知再構成法、問題解決法、リラクセーション法など)も、それぞれ非常に助けになります。これらの手法は約50年かけて認知行動療法が発展するなかで構築され、長い期間にわたって世界中で活用されています。もちろん私も愛用者の1人です。これらの手法については、私自身の著書を含め、さまざまな著作やワークブックで紹介されています。一方、マインドフルネスとスキーマ療法は、長い歴史を持つ認知行動療法のなかでも、比較的最近になって構築された、若いアプローチです。共にこの10年ほどで急激に世界的に注目されるようになった手法で、今では世界中で多くの人びとがマインドフルネスとスキーマ療法を実践するようになっています。
では、なぜこの2つがここまで注目を集め、実践されるようになったのでしょうか?以下の4つの理由が考えられます。
1 効果が高い。エビデンスが示されている。
2 包括的である。この2つでいろいろカバーできてしまう。
3 体験的に効果を実感できる。
4 生活の仕方や生き方レベルに変化が起きる。
この4つについて、ここで説明を始めてしまうと、それだけで1冊の本になってしまうので、やめておきますね(笑)。
本書は学問的な専門書ではないので、1については詳しく説明しません。2、3、4については、実際に本書を読み進めることでおわかりいただけることでしょう。そしてもちろんこの2、3、4は、私自身がこの10年ほど、マインドフルネスとスキーマ療法に取り組むなかで、強く感じるようになったことでもあります。
要するにマインドフルネスとスキーマ療法の効果は、広くて、深くて、強くて、継続的なのです。これらは他の認知行動療法の手法と同様、練習をし、身につけて、自分のものにしていく必要があり、そうなるためにはそれなりの時間と手間をかける必要がありますが、そうする価値が十分にあると、エビデンス的にも、私自身の体験からも断言ができます。
だからこそ本書では、〈広く、浅く〉ではなく、マインドフルネスとスキーマ療法という2つの手法に限って、〈深く、マニアックに〉みなさんに紹介することにしました。みなさんが本書を読み進め、種々のワークに取り組むなかで、マインドフルネスとスキーマ療法をしっかりと身につけ、最終的にはみなさんの生活や人生にうんと役立ててもらいたいと強く願っています。
本書の使い方
◎ 使ってナンボの実用書!
本書は単なる「読み物」ではありません。「使ってもらう本」、つまりは実用書です。料理のレシピ本や英会話の教材とまったく同じです。レシピ本をいくら読んでも、そこで紹介されている数々の料理を作れるようにはなりませんよね。英会話の教材を何度黙読しても、英会話は上達しませんよね。本書もまったく同じです。マインドフルネスとスキーマ療法を自分のものにするには、本書をただ読むだけではなく、使ってもらう必要があります。
本書の構成とその使い方について、以下に示します。
◎ BOOK1とBOOK2
本書は『ケアする人も楽になる認知行動療法入門』と同様、事例を通してマインドフルネスとスキーマ療法を学んでいきます。今回登場するのはマミコさんという1人の魅力的な、しかし根っこに大きな生きづらさを抱えた看護師さんです。BOOK1では大雑把な基礎知識をお伝えした後に、マミコさんの体験を通して、認知行動療法とマインドフルネスについて説明していきます。マインドフルネスのエクササイズによって、「今・ここ」を感じられるようになったマミコさんですが、逆に自分がいかに「人が怖い、信じられない」という問題を抱えているのかがわかってきます。
BOOK2では、マミコさんがいよいよ問題の「根っこ」をつかむためにスキーマ療法の世界に入ります。マミコさんはセラピストとのやりとりのなかで何を体験し、どう回復していったのか―その道筋をできるだけリアルに、セラピーの具体的な中味にも触れながら、ご紹介していきたいと思います。
◎ 基礎知識について(BOOK1の序章、第1章、第2章)
BOOK1の序章は「認知行動療法の基礎知識」です。すでに書いたとおり、マインドフルネスもスキーマ療法も認知行動療法に属するアプローチです。認知行動療法が発展するなかで構築された新たなアプローチと言うほうが正確かもしれません。ということは、やはり基礎知識として、認知行動療法についてある程度知っておいたほうが、マインドフルネスやスキーマ療法を学びやすくなることは間違いありません。したがって、認知行動療法についてこれまでほとんど学んだことのないという人は、一度はじっくりと目を通してください。次の第1章は「マインドフルネス超入門」、第2章は「スキーマ療法超入門」です。“入門”ではなく“超入門”というタイトルからもわかるように、マインドフルネスとスキーマ療法のほんの入り口をさらっと紹介するのが目的です。そこではごく簡単に、この2つの手法についての理論やモデルや方法を紹介します。
◎ マミコさんの事例について(BOOK1第3章~BOOK2)
ここまでは、さらっと目を通してもらうだけで構いません。「ふーん、そういうものなのかな」ぐらいにざっくりと理解してもらえれば十分です。事例を読み込むためのお膳立てだとお考えください。第3章以降に続くマミコさんの事例が本書のメインです。みなさんには、ここからはじっくりと腰を据え、時間をかけて読んでもらいたいと、著者の私としては切に願っています。
プライバシー保護のため実際の事例をそのまま出すわけにはいかず、マミコさんの事例は私が創作したものです。しかし、これまで臨床現場で実際に出会ったさまざまなケースを複合して書き上げたもので、私にとっては非常にリアリティがあります。
マミコさんは、私と一緒にマインドフルネスやスキーマ療法に取り組み、時間をかけて回復していきます。みなさんもマミコさんになったつもりで、数々のマインドフルネスやスキーマ療法のワークをシミュレーションしてください。
そしてマミコさんの事例を終えたら、もう一度、BOOK1の第1章と第2章に戻ってみましょう。最初に読んだときは「なんとなくわかった」程度だったのが、「なるほど! こういうことだったのか!」というふうに、これらの章に書いてあることを自分自身がすでにしっかりと理解できるようになっていることに気がつくことでしょう。
「はじめに」は以上です。うんと簡単に言うと、マインドフルネスは「毎日の生活を自分の心身を使って主体的に、かつ新鮮に生きる技術」で、スキーマ療法は「自らの生き方を振り返り、自分の価値に沿って、さらに自分を大切にする生き方を新たに選び取る営み」です。
読者のみなさんが、本書を読むことで、このような生活や生き方を実現されることを切に願っています。
目次
開く
はじめに 私はなぜこの本を書いたのか
序章 認知行動療法の基礎知識
ストレスとは
ストレスコーピングとは
認知行動療法とは-基本モデルを理解しよう
なんで「認知行動療法」と呼ぶの?
第1章 マインドフルネス超入門
受け止め、味わい、手放す
セルフモニタリングとは
マインドフルネスとは
第2章 スキーマ療法超入門
スキーマとは
スキーマ療法とは
オリジナルモデルのスキーマ療法-「早期不適応的スキーマ」の理解
モードモデルのスキーマ療法-「スキーマモード」という新たなアプローチ
第3章 マミコさん、認知行動療法を開始する
3-1 マミコさんとの出会い
3-2 「応急処置」でとにかくしのぐ
3-3 セルフモニタリングの練習とその行き詰まり
第4章 マミコさん、マインドフルネスのワークに取り組む
4-1 マインドフルネスの導入
4-2 「体験系」のワークの実践
4-3 「思考/感情系」のワークの実践
4-4 その他のワーク-他者にサポートを求める
4-5 「それを私はやりたかった!」-スキーマ療法の紹介
BOOK2はこうなります
著者紹介
索引
序章 認知行動療法の基礎知識
ストレスとは
ストレスコーピングとは
認知行動療法とは-基本モデルを理解しよう
なんで「認知行動療法」と呼ぶの?
第1章 マインドフルネス超入門
受け止め、味わい、手放す
セルフモニタリングとは
マインドフルネスとは
第2章 スキーマ療法超入門
スキーマとは
スキーマ療法とは
オリジナルモデルのスキーマ療法-「早期不適応的スキーマ」の理解
モードモデルのスキーマ療法-「スキーマモード」という新たなアプローチ
第3章 マミコさん、認知行動療法を開始する
3-1 マミコさんとの出会い
3-2 「応急処置」でとにかくしのぐ
3-3 セルフモニタリングの練習とその行き詰まり
第4章 マミコさん、マインドフルネスのワークに取り組む
4-1 マインドフルネスの導入
4-2 「体験系」のワークの実践
4-3 「思考/感情系」のワークの実践
4-4 その他のワーク-他者にサポートを求める
4-5 「それを私はやりたかった!」-スキーマ療法の紹介
BOOK2はこうなります
著者紹介
索引
書評
開く
もしもSMAPのマネージャーが伊藤絵美の『ケアする人も楽になるマインドフルネス&スキーマ療法』を読んだら (雑誌『精神看護』より)
書評者: 東畑 開人 (臨床心理士/十文字学園女子大学・講師)
◆ポサルとマインドフルネス
マインドフルネスのことが気になっていた。仏教の瞑想由来だとか、Googleの社員が「心を鍛える」ためにやっているとか、ヨガ・スタジオで流行っているとか、入ってくる断片的な情報から、意識高い系の人がハマっている新手の怪しげな癒しではないかと疑っていたのだ。
「怪しげ」となると、私は俄然、心を奪われてしまう。この前も、家族で済州島に旅行に行っていたのだが、気づけば家族からはぐれて、地元のまじない師「ポサル」の小屋に入り浸っていた。「ポサル」は「菩薩」から転じた名前らしく、ピンク色の照明の下には謎の仏像や神像がいっぱい飾られていたので、あまりに怪しくてゾクゾクした。細木数子に激似のポサルに怪しい占いをしてもらって、そのあと世間話に興じていたら、あっという間に帰りの飛行機の時間になった。
話が完全にそれた。マインドフルネスのことだ。聞けばマインドフルネスって、認知行動療法の最新成果だという。「科学的」を標榜している認知行動療法が、なんで仏教とくっつくんだ! と余計に意味がわからない。
マインドフルネス、そして認知行動療法って一体なんなんだ? そう思っていた時に、認知行動療法の「臨床達人」と呼ばれる伊藤絵美さんが書いた本を手に入れたので、さっそく読んでみる。謎は解けるのだろうか。
◆ハイチュウと感情労働……マインドフルネス超解釈
この本で伊藤さんは、「超入門」と称して、わずか13ページでマインドフルネスを説明しきるという偉業を成し遂げた後、マミコさんという生きづらさをかかえた看護師さんとのセラピーを丁寧に描いている。そこで私も「超解釈」させてもらおうと思う。
伊藤さん曰く、マインドフルネスとはつまるところ「セルフモニタリング」の方法で、やわらかくいうと「自分で自分を観察すること」だ。
そのことをよく表しているのが、マミコさんも挑戦していたレーズン・エクセサイズだ。読者の皆さんも手元にレーズンがあればやってみてほしい。私の周りにはレーズンなんて気の利いたものはないので、ハイチュウでやってみる(ちなみに、伊藤さんはなぜかクサヤでやっていた、変な人だ)。
ハイチュウを食べる時に、食べている自分の体験に注意を向けてみるのだ。
「ハイチュウって白いな……口に入れると最初は固いな……あ、歯に絡みついた……うわぁ、甘ぁい……グニョッてするぅ」
そう、一瞬一瞬の自分をひたすら観察するのがマインドフルネスで、そうやって注意を維持できている時をマインドフルな状態という。
「唾が出てきたなぁ……うーん、うまぁい……あれ? ……やべ! ……ハイチュウが……ない!」
最後、私はつい「マインドレス」になって、ハイチュウを飲みこんでしまっていたのだ。これはいけない。ハイチュウを食べているのは自分なのに、自分が勝手に作動してしまっているのだ。
マミコさんの苦しさもそういうところにあった。気づけば怒っていたり、自分を責めていたり、マインドレスに自分と周りを傷つけていたのだ。だから、マミコさんはマインドフルネスによって、そういう自分を観察し、しっかり見てみようとする。
すると不思議なことに、そうやって自分を振り回している自分と距離がとれる。そして、そういう自分を受け止める余裕が生まれてくる。
「なるほど! 自分を見ることは、自分を制御することでもあるわけだ!」と得心がいって、私はハイチュウをマインドフルにねぶる修行を続けていた。すると、ふと思い当った。マインドフルネスがこれだけウケているのは、それだけ私たちの毎日がマインドレスだからではないだろうか?
そう、私たちはふだん自分の気持ちを押し殺して仕事をしている。看護師さんなんて特にそうだ。恋人や家族とうまいこといかなくて悲しい時でも、患者さんに会えば「だいぶ、元気になってきましたね!」と笑顔で声をかける。
そういう働き方を、社会学では「感情労働」という。私たちは日々、親切な自分、元気な自分をつくり出し、それを消費者に提供しているということだ。ウラの感情をどこかに押しやり、オモテに適切な感情をつくり出し、自分を装わなくてはならない。
そういうことを続けているうちに、ウラにあったはずの感情は無視され、省みられなくなりがちだ。つまり、マインドレスになる。それがいつか逆襲に転じる。オモテの笑顔が、傷つき苦しんでいるけど気づかれないウラに食い破られてしまうのだ。SMAPみたいなものだ。
オモテ向き「笑顔で元気」という感情を提供してくれていたSMAPは、ウラに深刻な傷つきをかかえていた。それがあのお通夜のような謝罪放送で噴出して、SMAPを壊してしまった。酷使された感情は、ケアされないでいるうちに疲弊しきって、うつになり、暴走してしまうのだ。
だから、マインドフルネスなのだろう。マインドフルネスは、オモテを装う感情労働の時代に、無視されやすいウラに注意を向け、ケアする方法だからこそ、これだけ流行しているのではないだろうか。
一瞬、答えが出かかった気がしたのだけど、マインドフルにページをめくっていると、この本に続きがあることに気がついた。主人公であるマミコさんは、マインドフルネスでは十分に癒されず、さらなる癒しに挑戦するのだ。そう、なんとこの本にはBOOK2があった(なんだか村上春樹みたいだ)。
◆心のマネージャー……スキーマ療法超解釈
マミコさんの「人とまともにかかわれない」という生きづらさは、マインドフルネスだけでは解消されなかった。マミコさんは「感情を遮断する」ことで自分を守ってきた人だったから、自分の深い部分に触れることが難しかったのだ。そこで、伊藤さんはスキーマ療法を導入する。それは認知行動療法の「進化系」だという。おお! また新しい癒しが現れた!
超解説しよう。スキーマ療法とは、幼少期に身についた自分の偏ったものの見方=スキーマ(「見捨てられる」「自分はダメなやつだ」など)を観察して手放し、その代わりにヘルシーな大人スキーマを手に入れようとする治療法だ。この時、カウンセラーがそういうヘルシーな大人スキーマを体現していて、それが徐々にマミコさんに移植されていく。だから、治療場面では濃厚な疑似的親子関係がつくられる。伊藤さんがママ代わりになって、マミコさんの傷ついた子どもの心を癒すのだ。
こう書くと、かなり強烈だ。これはちょっと洗脳なんじゃないの? と思えるかもしれない。だけど、ここに伊藤さんの臨床達人ぶりがある。伊藤さんはそういう強烈な治療に持ち込むまでに、認知行動療法やマインドフルネスで丹念に仕込みを行い、その治療を行えるだけのマミコさんの力を育てていた。普通の治療者だと、疑似的親子関係になるとちょっとおかしくなるかもしれないけど、伊藤さんはスキーマ療法にあっても絶対に現実を見失わない。実はこの本の一番の読みどころは、ここだと思う。伊藤さんは、丁寧に丁寧に治療をマネジメントしていくのだ。
そう、伊藤さんはきわめて有能なマネージャーなのだ。そしてそれこそがヘルシーな大人スキーマの特徴でもある。自分をよく観察していて、苦しいことがあったらきちんとコーピングする。偏ったスキーマが出てきても、きめ細やかな注意を向けて、その偏りが少しでも楽になるように助力する。それだけじゃない。ヘルシーな大人スキーマは、マミコさんの「ママ」になる。マミコさんを心底心配し、得られなかった愛情体験を充てんする。超有能にして、愛情深いマネージャー。どこかで聞いたことがある。
あ! SMAPのマネージャーI女史ではないか! 彼女は仕事を仕切り、SMAPのオモテを輝かせると同時に、SMAPの母親代わりとしてウラを支えていたのだ(全部ワイドショー情報ですが)。
ここに私の超解釈が生まれる。マインドフルネスもスキーマ療法も、自分で自分を見て、そしてうまくマネジメントをしていこうとする治療法だ。だから、それはセルフモニタリングを重視する認知行動療法の進化系なのだろう。ということは、認知行動療法って、心の中に自分のためのマネージャーを育てる治療法なのではないだろうか?
これは突飛な超解釈なのだと思うけど、図らずもマミコさんの癒され方はそれを支持してくれる。
◆「もしエミ」……認知行動療法の癒し
さまざまな心の治療はそれぞれ効果的だけど、私はそれぞれに違う治癒をもたらすと考えている。心の治癒は、体の治癒とは違って、生き方とかかわるからだ。
たとえばポサルだ。済州島のポサルはもともと心身を深く病んでいたのだが、別のポサルから治療を受けて、癒された。すると、彼女はポサルとして生きていくことになった。心の治療は、その人の生き方にたしかに痕跡を残すのだ。
マミコさんの場合、伊藤さんの心の治療でたしかに癒され、人生に希望を持つようになった。すると、彼女は他のナースを支える「主任」として頑張っていこうとする。それはマネージャーだ。心のマネージャーをつくる治療は、マネージャーとしての生き方をもたらしたのだ。そこにマミコさんの癒しがあった(精神分析だと親密な人間関係にもう少し価値を置くように思う)。
感情労働の時代、私たちはひとりひとりが自分の感情を売る小さな企業であり、小さなSMAPだ。その企業が生き延びていくためには、有能な管理職=マネージャーが必要だ。情勢を読んで判断し、士気が高まるようサポートし、自分をマネジメントしていくのだ。
だからこそ、認知行動療法は今、社会から注目を浴びているのだろう。そういうキビシイ時代に生き延びていくために、私たちは自分のための心のマネージャーを必要としているということだ。
だから、こういう本を書いたら超売れるのではないかと思う。伊藤さんに便乗してやろうと思いついた。
『もしもSMAPのマネージャーが伊藤絵美の「ケアする人も楽になるマインドフルネス&スキーマ療法」を読んだら』。
「もしエミ」、これはミリオンセラーだ、とニヤけながら、ハイチュウをマインドフルに噛んでいるのだけど、やっぱり途中でマインドレスになって飲みこんでしまった。
(『精神看護』2017年1月号掲載)
(この書評は,『ケアする人も楽になる マインドフルネス&スキーマ療法』 の BOOK1(本書) と BOOK2 の2冊について書かれたものです)
「モグラ叩き医療者」から脱するために
書評者: 松本 俊彦 (国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所)
◆30代前半看護師——抜群のキャラ設定
読みやすい本だ。カラー刷り,イラスト入り,平易な文章のおかげで,とにかくとっつきがよい。何よりも,架空クライエント「マミコさん」と著者とが繰り広げる「自分探し」の物語が,読む者をぐいぐい牽引する。
「マミコさん」のキャラ設定もいい。30代前半,痛みと寂しさに満ちた疾風怒濤の10代・20代を生き延び,現在は看護師としての職を得ている。ただ,仕事こそきちんとしているものの,傷つくことへの恐れから,周囲との感情的交流から距離を置いている。
当然,内面は穏やかではない。「助けてほしい,受け止めてほしい」と「しっかりしなきゃ,人に頼っちゃダメ」という矛盾する感情が激しく相克し,ときおり襲う強い感情を自傷や過食・嘔吐で抑えこみながら,なんとか心の均衡を保っている感じだ。
◆問題行動の根っこを丁寧に扱う
「マミコさん」のようなケースは,精神科臨床・心理臨床ではまったく珍しくないが,実は,私たちは往々にしてその扱いに失敗している。彼らの主訴は,「自分らしい,楽な生き方をしたい」「もっと自分を好きになりたい」なのに,なぜか援助者側の意識は,自傷のような目先の問題に集中し,問題解決志向的な治療を始めてしまうからだ。
そして案の定,「苦痛を緩和する対処行動」を取り除くだけの治療は,彼らの「生きづらさ」を強め,自傷が止まっても今度は過食・嘔吐が悪化する,といった「モグラ叩き」状態を招く。気づくと,「こじらせ系クライエント」の一丁上がり——悲劇だ。
著者イチオシのスキーマ療法は違う。さまざまな問題行動の根っこにあるもの,子ども時代からずっと疼いてきた問題を扱う治療法だ。
といっても,いきなり心の奥へと手を突っ込むのではない。まずは丁寧に信頼関係を構築し,本格的な治療に入る前に,当座の武器として,「応急処置」と名づけられた対処スキル,それからマインドフルネスを授ける。これらは,治療経過中の深刻な自傷からクライエントを守るためのものだ。
◆応急処置は全医療者必読!
本書は,「マインドフルネスって何?」,あるいは「スキーマ療法ってどんな治療法なの?」という疑問にドンピシャで応えてくれる。だが,「マインドフルネスにもスキーマ療法にもまったく関心がない」という方にも読んでほしいのだ。
特にBOOK1 「応急処置」のセクション(第3章-2)は全医療者必読だ。ただ「自傷をやめろ」と説教するのではなく,自傷衝動に対処し,被害を最小化する方策を考える(=個人レベルでの「ハームリダクション」といってよい),という医療者本来のスタンスを見直す機会となるはずだ。
ちなみに,本書の所どころで発揮される「笑い」がすごい。特にマインドフルネスの説明として,「トイレでうんこを流す」を例に挙げたくだりは,評者自身,腹筋崩壊的大爆笑に見舞われつつも,初めてマインドフルネスの何たるかを知ることができた。
いろいろな意味でありがたい本だ。
(この書評は,『ケアする人も楽になる マインドフルネス&スキーマ療法』 の BOOK1(本書) と BOOK2 の2冊について書かれたものです)
書評者: 東畑 開人 (臨床心理士/十文字学園女子大学・講師)
◆ポサルとマインドフルネス
マインドフルネスのことが気になっていた。仏教の瞑想由来だとか、Googleの社員が「心を鍛える」ためにやっているとか、ヨガ・スタジオで流行っているとか、入ってくる断片的な情報から、意識高い系の人がハマっている新手の怪しげな癒しではないかと疑っていたのだ。
「怪しげ」となると、私は俄然、心を奪われてしまう。この前も、家族で済州島に旅行に行っていたのだが、気づけば家族からはぐれて、地元のまじない師「ポサル」の小屋に入り浸っていた。「ポサル」は「菩薩」から転じた名前らしく、ピンク色の照明の下には謎の仏像や神像がいっぱい飾られていたので、あまりに怪しくてゾクゾクした。細木数子に激似のポサルに怪しい占いをしてもらって、そのあと世間話に興じていたら、あっという間に帰りの飛行機の時間になった。
話が完全にそれた。マインドフルネスのことだ。聞けばマインドフルネスって、認知行動療法の最新成果だという。「科学的」を標榜している認知行動療法が、なんで仏教とくっつくんだ! と余計に意味がわからない。
マインドフルネス、そして認知行動療法って一体なんなんだ? そう思っていた時に、認知行動療法の「臨床達人」と呼ばれる伊藤絵美さんが書いた本を手に入れたので、さっそく読んでみる。謎は解けるのだろうか。
◆ハイチュウと感情労働……マインドフルネス超解釈
この本で伊藤さんは、「超入門」と称して、わずか13ページでマインドフルネスを説明しきるという偉業を成し遂げた後、マミコさんという生きづらさをかかえた看護師さんとのセラピーを丁寧に描いている。そこで私も「超解釈」させてもらおうと思う。
伊藤さん曰く、マインドフルネスとはつまるところ「セルフモニタリング」の方法で、やわらかくいうと「自分で自分を観察すること」だ。
そのことをよく表しているのが、マミコさんも挑戦していたレーズン・エクセサイズだ。読者の皆さんも手元にレーズンがあればやってみてほしい。私の周りにはレーズンなんて気の利いたものはないので、ハイチュウでやってみる(ちなみに、伊藤さんはなぜかクサヤでやっていた、変な人だ)。
ハイチュウを食べる時に、食べている自分の体験に注意を向けてみるのだ。
「ハイチュウって白いな……口に入れると最初は固いな……あ、歯に絡みついた……うわぁ、甘ぁい……グニョッてするぅ」
そう、一瞬一瞬の自分をひたすら観察するのがマインドフルネスで、そうやって注意を維持できている時をマインドフルな状態という。
「唾が出てきたなぁ……うーん、うまぁい……あれ? ……やべ! ……ハイチュウが……ない!」
最後、私はつい「マインドレス」になって、ハイチュウを飲みこんでしまっていたのだ。これはいけない。ハイチュウを食べているのは自分なのに、自分が勝手に作動してしまっているのだ。
マミコさんの苦しさもそういうところにあった。気づけば怒っていたり、自分を責めていたり、マインドレスに自分と周りを傷つけていたのだ。だから、マミコさんはマインドフルネスによって、そういう自分を観察し、しっかり見てみようとする。
すると不思議なことに、そうやって自分を振り回している自分と距離がとれる。そして、そういう自分を受け止める余裕が生まれてくる。
「なるほど! 自分を見ることは、自分を制御することでもあるわけだ!」と得心がいって、私はハイチュウをマインドフルにねぶる修行を続けていた。すると、ふと思い当った。マインドフルネスがこれだけウケているのは、それだけ私たちの毎日がマインドレスだからではないだろうか?
そう、私たちはふだん自分の気持ちを押し殺して仕事をしている。看護師さんなんて特にそうだ。恋人や家族とうまいこといかなくて悲しい時でも、患者さんに会えば「だいぶ、元気になってきましたね!」と笑顔で声をかける。
そういう働き方を、社会学では「感情労働」という。私たちは日々、親切な自分、元気な自分をつくり出し、それを消費者に提供しているということだ。ウラの感情をどこかに押しやり、オモテに適切な感情をつくり出し、自分を装わなくてはならない。
そういうことを続けているうちに、ウラにあったはずの感情は無視され、省みられなくなりがちだ。つまり、マインドレスになる。それがいつか逆襲に転じる。オモテの笑顔が、傷つき苦しんでいるけど気づかれないウラに食い破られてしまうのだ。SMAPみたいなものだ。
オモテ向き「笑顔で元気」という感情を提供してくれていたSMAPは、ウラに深刻な傷つきをかかえていた。それがあのお通夜のような謝罪放送で噴出して、SMAPを壊してしまった。酷使された感情は、ケアされないでいるうちに疲弊しきって、うつになり、暴走してしまうのだ。
だから、マインドフルネスなのだろう。マインドフルネスは、オモテを装う感情労働の時代に、無視されやすいウラに注意を向け、ケアする方法だからこそ、これだけ流行しているのではないだろうか。
一瞬、答えが出かかった気がしたのだけど、マインドフルにページをめくっていると、この本に続きがあることに気がついた。主人公であるマミコさんは、マインドフルネスでは十分に癒されず、さらなる癒しに挑戦するのだ。そう、なんとこの本にはBOOK2があった(なんだか村上春樹みたいだ)。
◆心のマネージャー……スキーマ療法超解釈
マミコさんの「人とまともにかかわれない」という生きづらさは、マインドフルネスだけでは解消されなかった。マミコさんは「感情を遮断する」ことで自分を守ってきた人だったから、自分の深い部分に触れることが難しかったのだ。そこで、伊藤さんはスキーマ療法を導入する。それは認知行動療法の「進化系」だという。おお! また新しい癒しが現れた!
超解説しよう。スキーマ療法とは、幼少期に身についた自分の偏ったものの見方=スキーマ(「見捨てられる」「自分はダメなやつだ」など)を観察して手放し、その代わりにヘルシーな大人スキーマを手に入れようとする治療法だ。この時、カウンセラーがそういうヘルシーな大人スキーマを体現していて、それが徐々にマミコさんに移植されていく。だから、治療場面では濃厚な疑似的親子関係がつくられる。伊藤さんがママ代わりになって、マミコさんの傷ついた子どもの心を癒すのだ。
こう書くと、かなり強烈だ。これはちょっと洗脳なんじゃないの? と思えるかもしれない。だけど、ここに伊藤さんの臨床達人ぶりがある。伊藤さんはそういう強烈な治療に持ち込むまでに、認知行動療法やマインドフルネスで丹念に仕込みを行い、その治療を行えるだけのマミコさんの力を育てていた。普通の治療者だと、疑似的親子関係になるとちょっとおかしくなるかもしれないけど、伊藤さんはスキーマ療法にあっても絶対に現実を見失わない。実はこの本の一番の読みどころは、ここだと思う。伊藤さんは、丁寧に丁寧に治療をマネジメントしていくのだ。
そう、伊藤さんはきわめて有能なマネージャーなのだ。そしてそれこそがヘルシーな大人スキーマの特徴でもある。自分をよく観察していて、苦しいことがあったらきちんとコーピングする。偏ったスキーマが出てきても、きめ細やかな注意を向けて、その偏りが少しでも楽になるように助力する。それだけじゃない。ヘルシーな大人スキーマは、マミコさんの「ママ」になる。マミコさんを心底心配し、得られなかった愛情体験を充てんする。超有能にして、愛情深いマネージャー。どこかで聞いたことがある。
あ! SMAPのマネージャーI女史ではないか! 彼女は仕事を仕切り、SMAPのオモテを輝かせると同時に、SMAPの母親代わりとしてウラを支えていたのだ(全部ワイドショー情報ですが)。
ここに私の超解釈が生まれる。マインドフルネスもスキーマ療法も、自分で自分を見て、そしてうまくマネジメントをしていこうとする治療法だ。だから、それはセルフモニタリングを重視する認知行動療法の進化系なのだろう。ということは、認知行動療法って、心の中に自分のためのマネージャーを育てる治療法なのではないだろうか?
これは突飛な超解釈なのだと思うけど、図らずもマミコさんの癒され方はそれを支持してくれる。
◆「もしエミ」……認知行動療法の癒し
さまざまな心の治療はそれぞれ効果的だけど、私はそれぞれに違う治癒をもたらすと考えている。心の治癒は、体の治癒とは違って、生き方とかかわるからだ。
たとえばポサルだ。済州島のポサルはもともと心身を深く病んでいたのだが、別のポサルから治療を受けて、癒された。すると、彼女はポサルとして生きていくことになった。心の治療は、その人の生き方にたしかに痕跡を残すのだ。
マミコさんの場合、伊藤さんの心の治療でたしかに癒され、人生に希望を持つようになった。すると、彼女は他のナースを支える「主任」として頑張っていこうとする。それはマネージャーだ。心のマネージャーをつくる治療は、マネージャーとしての生き方をもたらしたのだ。そこにマミコさんの癒しがあった(精神分析だと親密な人間関係にもう少し価値を置くように思う)。
感情労働の時代、私たちはひとりひとりが自分の感情を売る小さな企業であり、小さなSMAPだ。その企業が生き延びていくためには、有能な管理職=マネージャーが必要だ。情勢を読んで判断し、士気が高まるようサポートし、自分をマネジメントしていくのだ。
だからこそ、認知行動療法は今、社会から注目を浴びているのだろう。そういうキビシイ時代に生き延びていくために、私たちは自分のための心のマネージャーを必要としているということだ。
だから、こういう本を書いたら超売れるのではないかと思う。伊藤さんに便乗してやろうと思いついた。
『もしもSMAPのマネージャーが伊藤絵美の「ケアする人も楽になるマインドフルネス&スキーマ療法」を読んだら』。
「もしエミ」、これはミリオンセラーだ、とニヤけながら、ハイチュウをマインドフルに噛んでいるのだけど、やっぱり途中でマインドレスになって飲みこんでしまった。
(『精神看護』2017年1月号掲載)
(この書評は,『ケアする人も楽になる マインドフルネス&スキーマ療法』 の BOOK1(本書) と BOOK2 の2冊について書かれたものです)
「モグラ叩き医療者」から脱するために
書評者: 松本 俊彦 (国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所)
◆30代前半看護師——抜群のキャラ設定
読みやすい本だ。カラー刷り,イラスト入り,平易な文章のおかげで,とにかくとっつきがよい。何よりも,架空クライエント「マミコさん」と著者とが繰り広げる「自分探し」の物語が,読む者をぐいぐい牽引する。
「マミコさん」のキャラ設定もいい。30代前半,痛みと寂しさに満ちた疾風怒濤の10代・20代を生き延び,現在は看護師としての職を得ている。ただ,仕事こそきちんとしているものの,傷つくことへの恐れから,周囲との感情的交流から距離を置いている。
当然,内面は穏やかではない。「助けてほしい,受け止めてほしい」と「しっかりしなきゃ,人に頼っちゃダメ」という矛盾する感情が激しく相克し,ときおり襲う強い感情を自傷や過食・嘔吐で抑えこみながら,なんとか心の均衡を保っている感じだ。
◆問題行動の根っこを丁寧に扱う
「マミコさん」のようなケースは,精神科臨床・心理臨床ではまったく珍しくないが,実は,私たちは往々にしてその扱いに失敗している。彼らの主訴は,「自分らしい,楽な生き方をしたい」「もっと自分を好きになりたい」なのに,なぜか援助者側の意識は,自傷のような目先の問題に集中し,問題解決志向的な治療を始めてしまうからだ。
そして案の定,「苦痛を緩和する対処行動」を取り除くだけの治療は,彼らの「生きづらさ」を強め,自傷が止まっても今度は過食・嘔吐が悪化する,といった「モグラ叩き」状態を招く。気づくと,「こじらせ系クライエント」の一丁上がり——悲劇だ。
著者イチオシのスキーマ療法は違う。さまざまな問題行動の根っこにあるもの,子ども時代からずっと疼いてきた問題を扱う治療法だ。
といっても,いきなり心の奥へと手を突っ込むのではない。まずは丁寧に信頼関係を構築し,本格的な治療に入る前に,当座の武器として,「応急処置」と名づけられた対処スキル,それからマインドフルネスを授ける。これらは,治療経過中の深刻な自傷からクライエントを守るためのものだ。
◆応急処置は全医療者必読!
本書は,「マインドフルネスって何?」,あるいは「スキーマ療法ってどんな治療法なの?」という疑問にドンピシャで応えてくれる。だが,「マインドフルネスにもスキーマ療法にもまったく関心がない」という方にも読んでほしいのだ。
特にBOOK1 「応急処置」のセクション(第3章-2)は全医療者必読だ。ただ「自傷をやめろ」と説教するのではなく,自傷衝動に対処し,被害を最小化する方策を考える(=個人レベルでの「ハームリダクション」といってよい),という医療者本来のスタンスを見直す機会となるはずだ。
ちなみに,本書の所どころで発揮される「笑い」がすごい。特にマインドフルネスの説明として,「トイレでうんこを流す」を例に挙げたくだりは,評者自身,腹筋崩壊的大爆笑に見舞われつつも,初めてマインドフルネスの何たるかを知ることができた。
いろいろな意味でありがたい本だ。
(この書評は,『ケアする人も楽になる マインドフルネス&スキーマ療法』 の BOOK1(本書) と BOOK2 の2冊について書かれたものです)
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