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医療者のための喘息とCOPDの知識

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喘息--世界で3億人の患者を擁し、呼吸困難の代名詞ですらある。90年代にステロイド吸入という画期的な治療戦略が確立されるまで、長い歳月ひとびとはその治療に苦慮してきた。COPD--WHO統計で世界の死亡要因の第4位に挙げられる現代の脅威。治癒せざる病いとして、その早期診断こそ急務である。本書では臨床での鑑別がなお困難なケースが多いこの2大呼吸器疾患に対する最新知見をまとめた。
編集 泉 孝英 / 中山 昌彦 / 西村 浩一
発行 2007年10月判型:B5頁:288
ISBN 978-4-260-00391-9
定価 4,180円 (本体3,800円+税)

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泉 孝英(編者を代表して)

 「医療者のための喘息・COPDの知識」と題した本書は,喘息,COPDをめぐる以下の三つの基本知識を,より普及させることを目的として編集,刊行されたものである。

1. 喘息,COPD(慢性閉塞性肺疾患)は,共に気道閉塞による症状を主徴とする疾患であるが,喘息における気道閉塞は可逆性であり,COPDに見られる気道閉塞は非可逆性であるという基本的に明確な違いがある。しかし,喘息かあるいはCOPDかの鑑別の困難な患者が時には見られる。
2. 喘息の基本病態は気道の慢性炎症によってもたらされた気道過敏性亢進を前提とする気道閉塞であり,治療(発作の改善)には気管支拡張薬が,管理(発作の予防)には抗炎症薬である吸入ステロイド薬が必要である。
3. COPD(慢性閉塞性肺疾患)は慢性気管支炎と肺気腫を合わせた病名で,気道に対する外的刺激によって引き起こされた炎症性疾患であるが,最大の外的刺激は慢性喫煙である。症状の改善・進展防止には気管支拡張薬が用いられるが,喘息の場合のような有効性は認められていない。呼吸困難を主徴とする症状の改善には酸素療法が有効である。
加えて,喘息,COPD共に有効な薬剤は吸入薬である。

 これらの知識は,現在では常識とも言うべきものであるが,10年ばかり前,1995年頃までは,わが国では,「常識ではなく異説」扱いされていた。欧米の常識に10年遅れであった。本書において,わが国と欧米ではどのような事由からこの違いが生じたかについて処々に記載しているが,ここでは,まとめとも言うべきことについて記しておきたい。
 喘息は,欧米においてもわが国においても古くより知られた疾病である。しかし,1940年代までは,治療は発作寛解を目的とする対症療法に限られ,管理(発作抑制)の手段は存在しなかった。1950年頃からステロイド薬(注射・経口)が用いられるようになり,喘息の治療・管理にきわめて有効なことが示されたが,同時に大きな副作用のあることも明らかになり,ステロイド薬は止むを得ない場合にのみ,躊躇しながら使用する状況に留まっていた。「ステロイド恐怖症」の言葉が生まれた。1967年,喘息発作抑制の吸入薬「クロモリン」が英国で開発された。クロモリン吸入による発作抑制は小児喘息には有効であったが,成人喘息には大きな有効性は認められなかった。しかし,わが国ではクロモリン類似の経口薬「抗アレルギー薬」の開発が盛んに行われるようになり,1972年のトラニラスト以後,1995年までの間に12種類の抗アレルギー薬が開発され,わが国の喘息治療は抗アレルギー薬中心の状況となった。一方,欧米では,この時期,副作用の少ない吸入ステロイド薬の開発が進められ,1968年のベクロメタゾン以来,数種類の吸入ステロイド薬が開発された。そして,吸入ステロイド薬は副作用なく喘息の管理(発作抑制)にきわめて有効であることが次第に明らかになり,1990年代の半ば以降,吸入ステロイド薬は急速に普及し,2000年前後からは,吸入ステロイド薬療法を喘息の治療・管理の基本とするガイドラインが続々と刊行されるようになった。わが国においても,1978年にベクロメタゾン吸入薬が市販されたが,喘息専門家の関心を招かなかった。ステロイド恐怖症と喘息には抗アレルギー薬との了解が浸透していたことが理由である。わが国で吸入ステロイド薬の普及が始まったのは1995年以降のことである。現在においても,抗喘息薬として吸入ステロイド薬よりも他の経口抗喘息薬が広範に用いられている。本書刊行に必要な事由である。なお,吸入ステロイド薬は他の抗喘息薬よりはるかに廉価であると強調しておかねばならない。
 COPDという用語が慢性気管支炎と肺気腫を合わせた病名として英米で登場したのは1964年である。わが国の学会においても,COPDの訳語「慢性閉塞性肺疾患」は1968年に登場しているが,当時,わが国では慢性気管支炎は慢性の気道感染症,肺気腫は当時広範に行われていた肺結核に対する肺切除後の残存肺の過膨張を意味する用語として汎用されていたので,英米のCOPDの構成疾患としての慢性気管支炎,肺気腫の用語を理解することは困難であった。加えて,当時のわが国は高齢者が少なく,従前の経済力の弱さから喫煙量の少ない状況が続いていたので,「喫煙者のCOPD」を経験することがまれであったことがCOPDの理解を困難にした決定的理由である。結果として,欧米ではCOPDは病名であるが,わが国では慢性閉塞性肺疾患は「気道の慢性的な持続する閉塞性障害を主徴とする症候群に名付けられた症候的な診断名」として肺生理学的定義のもとに症候群的な病名として取り扱われるようになった。慢性閉塞性肺疾患には,慢性気管支炎,喘息,肺気腫の3疾患を中心に,small airways disease,びまん性汎細気管支炎,さらにはびまん性過誤腫性脈管筋腫症(LAM)も含められていた。しかし,1960年頃から,高度経済成長による個人所得の増加を背景とした喫煙量の増加,また人口の高齢化が始まり,1980年以降,欧米のCOPD該当患者の増加が始まり,結果として,1995年から慢性閉塞性肺疾患の病名は疾患統計,死亡統計などの政府統計に用いられる用語として認められるようになった。COPDの主なる病因は慢性喫煙刺激であるとの理解が欧米で確定された1984年からみても11年後のことである。しかし,わが国では1980年以降の喫煙人口,喫煙量の減少,フィルタータバコの普及,タバコのタール含量,ニコチン含量の減少によって,COPD患者の減少傾向が見られはじめている。禁煙運動の成果である。このまま禁煙運動が続き,COPDの病名がわが国では不要になることを期待したい。
 本書は喘息,COPDへの対応に一定の見解がない時期から,患者を見続けてきた中山昌彦,西村浩一,泉 孝英の3名が,喘息,COPDをめぐる三つの基本知識のわが国におけるさらなる普及を目指して,友人達に執筆を依頼,編集したものである。執筆者各位に感謝する。本書が,わが国における喘息,COPDの管理・治療の向上に少しでも役立てば幸いである。
 本書刊行にあたっては,医学書院書籍編集部青木大祐氏に大変な御手数をいただいた。記して感謝の意を表したい。
 2007年 9月

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I. 喘息
 喘息の病態
 喘息の疫学
 喘息の診断
 喘息の管理・治療
 喘息の治療薬
 喘息の長期管理
 喘息発作への対応
 特殊な喘息と対応
 小児喘息
 喘息の経過・予後
 喘息の患者教育
II. COPD
 COPDの概念・病態・疫学
 COPDの症状・検査・診断
 COPDの管理・治療
 COPDの経過・予後・合併症
 COPDの患者教育
III. 喘息とCOPD
 吸入療法の基礎知識
 吸入療法薬
 吸入療法の実技
 喘息とCOPDの医療経済
参考文献
索引

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ガイドラインに準じた治療・管理をするために
書評者: 土屋 智 (土屋内科医院院長)
 『医療者のための喘息とCOPDの知識』という新刊本は,近年増加している喘息とCOPDといった慢性の気道・肺病変,両方にスポットをあてて,標準的治療を中心に最新の知見をわかりやすく紹介,解説されている。筆者らの実際の豊富な臨床経験に基づくわかりやすい本であり,『喘息予防・管理ガイドライン』や『COPD(慢性閉塞性肺疾患)診断と治療のためのガイドライン』といったガイドライン本だけでは専門的になりすぎて,一般の医師が読むには意気込みが必要であるが,この本を読めば特に専門的な知識がなくともガイドラインに準じた治療や管理ができるようになっている。さらにこの本では,Q and A方式になっているので,辞書のように使用して必要なところだけ読めば,診断・治療の疑問に的確に答えを探せる工夫がされており,一般診療で呼吸器疾患を扱う医師,開業医が診察室の傍らに置いておく本としてうってつけである。

 特にすばらしいのは標準的治療の中心となる吸入療法の薬剤や吸入補助具(スペーサー)が図解入りで解説されている点である。吸入治療は吸入方法を正しく患者に説明し,患者もまたそれを守って初めて十分な効果が得られる治療である。せっかくよい治療がなされながら,うまく吸入ができずに効果がないと誤解する患者や,ステロイド吸入に拒否感のある患者に対して,数ある吸入薬を適切に選択し指導していくうえで非常に助けとなる内容となっている。これは日常診療の現場ですぐに役立つと思われる。

 もちろん治療だけではなく疾患の概念,診断,その他の最新の知見が網羅されており,フロントライン,さらにはこぼれ話的な歴史発掘,日本の先人研究者たちの紹介など,最後まで興味深く読める。

 一般診療で呼吸器疾患を扱う医師に,これから呼吸器専門医をめざす若い医師に,そして知識の整理,再確認の助けとして呼吸器専門医にも,ぜひお薦めしたい一冊である。
喘息・COPDの治療における『コツのコツ』が詰まった一冊
書評者: 久保田 公宣 (千藤了会理事長・院長)
 まずもって序から読んでほしい。喘息とCOPDの歴史,特にここ20年来の診断,治療の目覚ましい進歩が泉先生の自説とともに実に明快に書かれている。また歴史的発掘に記述されていることは,専門家にとっては知識の整理,呼吸器科以外の先生,コ・メディカルにとっても,現在の治療に関わるうえで大変役立つと思う。

 本書は,疾患の一般的知識はもちろんであるが,医療経済学から功労者の紹介に至るまで実に多彩な内容で,読者を飽きさせない。泉先生の真骨頂である。私も『日本の研究者』で,20年来直接的間接的に関わってきた先生方を懐かしい思いで読んだ。

 本文はQ&A方式で,かつ一項目が1―3ページと短く簡潔に書かれているので,従来の本のように最初の病態生理あたりで挫折してしまう事は避けられる。診療している時,疑問に思った事をQ&Aの項目から探してそこだけ見るというような診療マニュアル,辞書的な活用方法も出来るし,むろん教科書的に,最初から最後まで読破することは,望ましい事ではある。

 この本の特徴は,特に実際の診療,治療に即したマニュアルである点だ。例えばCOPDの診断方法では,「労作時息切れが存在し,十分な喫煙歴があれば,簡易肺機能検査を実施し,一秒量が低下(70%以下)していればCOPDと診断できる」と実に明快に書かれてあるし,喘息の長期管理の項目では,「症状悪化発作時の受診時は経口プレドニン20―40mg/日を3―5日間投与し……,吸入ステロイドの導入量は開始当初から比較的大量を用いたほうが効果的であり……,ガイドラインが示した吸入量は,治療を開始する場合の必要最小量を示していると考えるほうが理解しやすい」と言うように,専門家が実地医療で経験を重ねたうえでなくては言えない,『コツのコツ』が詰まっている。ステロイドの吸入療法の実際では吸入の仕方やスペーサーの使い方はもちろんであるが,剤形や噴霧器の構造まで詳しく記述され,薬剤師や看護師に大変参考になろう。

 蛇足ではあるが,この内容で本の値段が3800円と格安であるのは驚かせられた。ここにも泉先生の喘息とCOPDの知識の普及に対する並々ならぬ意欲を感じた。お勧めの一冊である。

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