COPDの教科書
呼吸器専門医が教える診療の鉄則

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COPD(慢性閉塞性肺疾患)のすべてがわかる読み物的な要素の詰まったテキスト。COPDは、日本でも500万人以上が罹患していると言われている呼吸器疾患のcommon disease。本書はCOPDに携わる医療従事者向けに、新進気鋭の呼吸器専門医の視点からできる限りわかりやすく、かつ楽しく読み進められるようにまとめられている。また、治療に重きが置かれ、COPD診療はこの1冊で完結できる。
監修 林 清二
倉原 優
発行 2016年04月判型:A5頁:348
ISBN 978-4-260-02429-7
定価 4,620円 (本体4,200円+税)

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 「楽しく読めるCOPDの本って,ないですかね?」

 私が本書を執筆する動機になったのは,とある学会で偶然再会したクリニックを経営している知り合いの医師からのそんな一言でした。私も呼吸器内科医を10年近くやっていますが,持っているCOPDの本は分厚い辞書みたいな本ばかり。読み物として書かれた本は記憶にありませんでした。モグモグと弁当を食べながら,「じゃあ自分で書いてみようかな」と頭の中に思い描いたのが2015年の春のことでした。

 それからというもの,車を運転しているときもCOPDのことを考えるくらい猛烈に勉強しました。子どもと遊んでいるときにもCOPDのことが頭から離れず,吸入薬の見本を持って帰っては子どもに遊ばせたり…。しまいには,夢にもCOPDが出てきました。いかん,このままではCOPD中毒になってしまう! そう思い始めた矢先,漸く本書の原稿を書き終えることができました。

 皆さんご存じのとおり,COPDは呼吸器疾患で最も多いcommon diseaseです。「たばこによって起こった病気なんだから自業自得でしょ」なんて厳しいご意見もあるかもしれません。しかし,COPDには根本的な治療法はなく,不可逆性のとてもつらい病気です。目の前で「呼吸が苦しい」と言っている患者さんに対して,何かできないかと考え続けることに,私は呼吸器内科医としての生きがいを感じます。

 代表的な慢性呼吸器疾患であるCOPDの書籍を出版することができ,呼吸器内科医として心から幸せに思います。日本全国のCOPD診療のボトムアップに,この書籍が少しでも貢献できますように。

 本書の刊行にあたり,監修を引き受けてくださった当院院長の林清二先生に心より御礼申し上げます。また,出版に尽力いただいた医学書院の北條立人氏,在宅酸素療法全般の執筆にあたり,ご協力いただいた帝人在宅医療株式会社の乾昌靖氏に深く感謝申し上げます。そしてたくさんの質問に答えてくれた,私の外来に通院しているCOPD患者の皆さん,ありがとうございました。明日からの皆さんの外来に還元できるよう,日々精進します。毎晩私のための時間を作ってくれる妻の実佳子,長男の直人,次男の恵太にも感謝しています。

 2016年3月
 近畿中央胸部疾患センター 内科
 倉原 優

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第I部 COPD概論
 わかりやすいCOPDの本に
  1 COPDのいろは
  2 COPDの歴史 ~フレッチャー医師の貢献~
  3 COPDの原因とBrinkman Index
  4 ちょっと難しい2つの不均衡説
  5 COPDに必要な検査 ~三種の神器~
  6 COPDで最低限必要なスパイロの知識 ~逃げちゃダメだ!~
  7 COPDの診断基準,言えますか
  8 COPDの病期分類・重症度分類,言えますか
  9 知っておきたいCOPD+αの病態 ~ACOS,CPFE~
  10 COPDの症状
  11 COPDの身体所見
  12 COPDの画像所見はムズカシイ
  13 COPDの予後は?

第II部 COPDの治療
 A COPDの安定期治療
  1 ガイドライン上の治療手順を知っておこう
  2 禁煙と禁煙補助薬
  3 吸入薬まとめ ~まずはどんな薬剤があるのか知っておこう~
  4 吸入治療 ~長時間作用性抗コリン薬(LAMA)~
  5 吸入治療 ~長時間作用性β2 刺激薬(LABA)~
  6 吸入治療 ~長時間作用性抗コリン薬/長時間作用性β2 刺激薬(LAMA/LABA)~
  7 吸入治療 ~吸入ステロイド薬(ICS)~
  8 吸入治療 ~吸入ステロイド薬/長時間作用性β2 刺激薬(ICS/LABA)~
  9 吸入治療 トリプル吸入療法 ~長時間作用性抗コリン薬/
   長時間作用性β2 刺激薬/吸入ステロイド薬(LAMA/LABA/ICS)~
  10 結局,COPDにはどの吸入薬を使っているのか ~筆者の個人的見解~
  11 非吸入治療 ~テオフィリン,アミノフィリン~
  12 非吸入治療 ~長時間作用性β2 刺激薬貼付剤~
  13 非吸入治療 ~去痰薬~
  14 非吸入治療 ~マクロライド系抗菌薬~
  15 COPDの外科治療 ~肺容量減量術~
  16 オピオイド
  17 呼吸リハビリテーション
  18 栄養療法
  19 ワクチン
  20 新しいCOPD治療薬 ~ロフルミラスト~
 B 在宅酸素療法
  1 在宅酸素療法
  2 在宅酸素療法の実際
  3 在宅酸素療法の注意点
  4 在宅酸素療法中のCOPD患者さんは飛行機旅行ができない?
 C COPD急性増悪の治療
  1 COPD急性増悪って何?
  2 具体的な初期対応 ~エビデンスは後回し?~
  3 短時間作用性β2 刺激薬(SABA),短時間作用性抗コリン薬(SAMA)
  4 COPD急性増悪に対する抗菌薬
  5 COPD急性増悪に対する全身性ステロイド
  6 COPD急性増悪に対する酸素療法 ~SpO2 はどのくらいを目安に?~
  7 COPD急性増悪に対する非侵襲的陽圧換気療法

第III部 ちょっと知りたいCOPDの実臨床
  1 COPD急性増悪と喘息発作の鑑別をどうする?
  2 在宅酸素療法が必要だが,禁煙できない
  3 不整脈のあるCOPD患者さんにβ2 刺激薬を処方してもよいか
  4 COPDにβ遮断薬を処方してもよいか
  5 自分で診るか,専門医に診てもらうか
  6 高齢者の吸入療法がうまくいかない
  7 COPDにおいて吸気流速は重要か
  8 巨大気腫性肺嚢胞をどう扱うか
  9 終末期について患者さんと話し合っておく
  10 COPDにハイフロー酸素療法は禁忌?
  11 前立腺肥大症のあるCOPD患者さんに吸入抗コリン薬は処方してよい?

ステップアップCOPD
・たばこ? タバコ?
・COPDにも可逆性はある?
・調理で起こるCOPD
・COPDの病態生理(補足)
・%FEV1とFEV1
・慢性気管支炎や肺気腫のすべてがCOPDではない
・CATスコアとmMRC
・太極拳がCOPDに効果的?
・電子たばこで禁煙できる?
・息止めは5秒? 10秒?
・たばこの起源
・MABA,それはLAMAとLABAのハーフ
・免疫抑制状態の患者さんに対するICSはリスキー?
・SMART療法ってなぁに?
・GOLDってなぁに?
・COPDに対する肺移植
・呼吸同調器とは
・COPD急性増悪は冬に多い
・COPD急性増悪では便秘に注意?
・アルコール摂取によってCOPD急性増悪は増えるか
・テオフィリンや吸入ステロイド薬も不整脈のリスク?
・アドヒアランスとコンプライアンスの違いって?
・ブラとブレブ
・日々の外来でCOPD患者さんに笑いを
・緑内障のある患者さんはどうか?


索引
薬品名
臨床試験名

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COPD診療現場の悩みに応える臨床本
書評者: 川島 篤志 (福知山市民病院研究研修センター長/総合内科医長)
 著者の倉原優先生を紹介する際には,質の高い有名なブログから始まることが多い。隠れファンの1人である筆者も,「コストを意識した吸入薬の一覧表」がSNSでアップされていたことをきっかけにコンタクトを取らせてもらった。が,実はまだお会いしたことがない。しかし,そのアプローチが奏功したのか,今回,本書の書評を書かせていただく貴重な機会を頂戴した。医師不足・偏在の存在する地域基幹病院の病院総合内科医として勤務している立場からすると「呼吸器専門医が教える診療の鉄則」であるこの書籍の存在はとても心強い(呼吸器専門医の不足・偏在については日本呼吸器学会からも提言がなされている:一般社団法人日本呼吸器学会 「日本呼吸器学会将来計画委員会 報告書『呼吸器診療に携わる医師増加策の必要性』」 http://www.jrs.or.jp/modules/guidelines/index.php?content_id=58)。

 COPDのアウトラインについて,歴史や定義だけでなく+αの病態(話題のACOS/CPFE)にも触れておられ,さらには禁煙支援,リハビリテーション・栄養療法,そして人生の最終段階の医療の方法についても言及されているので,“疾患だけでなく,人を診る”ことを意識させてくれる。非呼吸器内科医が毛嫌いする可能性のある吸入薬についても,臨床試験結果をコンパクトにまとめながら,薬価や使い勝手についても併記されている。図表や写真が多用されているので,高い質で頭を整理するには最適の項目である。さらに第III部「ちょっと知りたいCOPDの実臨床」には,「前立腺肥大症の併存」など,現場の悩みを共感してくれている臨床的な書籍である。

 “わかりやすいCOPDの本に”とも表現されているように,軽いタッチで記載されているので多忙な医療従事者でも短時間で通読できる。随所に散りばめられている「ステップアップCOPD」というコラムも心を和ませてくれるが,お笑いセンスの質評価は直接お会いしたときの楽しみにしておこうと思う。強制的に出る息(強制呼気)が,「はーっ!」(失礼しました!)となるか,「ふぅ~」(……溜息)となるか,今後の臨床スタイルが変わるかも……しれない(詳しくは本書p.62参照)。

 最後に,この書籍は「COPDを診療するすべての医療従事者へ」とある(帯より)。“喫煙者”を診療しない内科医・かかりつけ医は皆無である。医療従事者としての矜持があれば,この書籍を手に取って自身のCOPD診療の質向上をめざすか,適切に対応してくれる医師との連携の必要性をCOPD患者さんに伝えてあげてほしい。この書籍の存在が,呼吸器内科医が不足・偏在している日本のCOPD診療の質向上に大きく寄与すると確信する。
クスリがもたらす「クスリの効能」
書評者: 河内 文雄 (稲毛サティクリニック理事長)
 長年にわたり,医療というものは医学だけで対処できるほど生やさしいものではない!と思ってきました。ことCOPDに関しては,その医療を総動員しても対応することが難しい,とても厄介な疾患であると感じています。ところがどっこい!医学だけでもここまでできるのだよ,と教えてくれたのは本書です。

 この本を豊かな名著ならしめているものは,著者である倉原先生の不断の努力の結晶である広い知識と,物事の本質に迫る深い洞察力,さらには患者さんを助けたいという高い志にあることは間違いありません。

 ちなみに,先生の日々の勉強の記録でもあるブログ「呼吸器内科医」のアクセスは1,000万!を超えています。純粋に学問的な内容でありながら,これだけ多くの方々が繰り返し先生の知的探索の後を追っているという事実は,すなわち先生の実践されている呼吸器病学の方向性が極めて妥当であることの証しでもあります。

 さらに言えば,本書の最大の特色は,思わずクスリ^^と笑ってしまう倉原先生のユーモアセンスにあります。ネタばらしとなりますのでここでは具体的な紹介を控えますが,そのおかしさは,ぜひ本書を手に取られる皆さまご自身でお確かめください。

 一般的なイメージの教科書に代表される,網羅的な知識をこまごまと積み重ねた文章を読む場合,目は文字を追っているのに,頭の中では別のことを考えている,というような状況になることがしばしばあります。しかし本書は『COPDの教科書』という書名でありながら,そのようなことはまったくありません。これはまさに“クスリの効能”です。文章のところどころに仕掛けられたクスリ^^が,ホッとした心のオアシスの役割を果たし,勉学の疲れを感じさせないのだと思います。

 さらにもう一つの“クスリの効能”は,そのタグ効果にあります。例えばCOPDの治療に関連して,LAMAはホンダ選手,LABAはカガワ選手という印象的な記述を覚えておくだけで,複雑な治療戦略がすっきりと見通せるだけではなく,その周辺の細かい知識も芋ヅル式に思い出すことができます。

 このように全体を俯瞰して見ると,本書の出版はまさに,教科書の概念を根底からひっくり返す,エポックメーキングな出来事なのだと思います。

 本書を読み終えた暁には,皆さまはCOPDの大家(たいか)となっていることでしょう。大家(おおや)になってはいけません。COPDは家賃を払いませんから……。
COPDのエビデンスと患者中心の医療が融合された理念の書
書評者: 早田 宏 (佐世保市総合医療センター呼吸器内科/副院長)
 倉原優先生のブログは,文献量とその質の高さから,呼吸器内科医では知らない人がいないくらいである。このたび,その倉原先生による『COPDの教科書——呼吸器専門医が教える診療の鉄則』が出版された。COPDの患者は重症度,呼吸困難感の訴え,合併症によってさまざまな臨床像を示し,診療に当たっては個別化が必要である。

 複雑なことを難しく書くことは誰にでもできるが,わかりやすく述べることは容易なことではない。多様なCOPDの診療を詳しく書けば書くほど,〈COPDの本質〉を見失いがちになる。一方,単なるガイドラインの解説だと実際の患者像から遠く離れてしまう。本書は,読み物という体裁を取ってはいるが,〈COPDの本質〉を極めている優れた医学書である。文献の英語原著論文の数からもわかるように,最新のエビデンスを基盤に,おそらく著者が出会った一人ひとりの患者から得られた実体験が,その内容に反映されている。

 特に,出色の出来栄えなのは,最近販売された数多くの吸入薬の説明である。臨床試験データとともに吸入器具の特性や患者の個別性を踏まえて,吸入治療薬の選択アルゴリズムが極めてわかりやすく提案されている。また,多くの呼吸器専門医が常々感じていることも解説されている。例えば,長時間作用性抗コリン薬(LAMA)と長時間作用性β2刺激薬(LABA)の選択順位,LAMAとLABAの心血管系合併症への懸念などである。また,各薬剤の治療効果の図が多く,LAMA単独では1秒量の約100 mLの上乗せ,LAMA/LABA合剤では約200mLの上乗せという日々の患者説明の再確認を評者はさせていただいた。

 一方,本書は単なる吸入薬のマニュアル書ではない。死亡減少効果が明らかな禁煙や在宅酸素療法(適用基準例)が治療の基本であることが詳しく述べられている。さらに,回復しても患者を階段状に悪化させてしまう急性増悪時の薬物療法やNPPV療法のポイントが説明されている。そして,重症COPD患者では避けては通れない緩和ケア(モルヒネ使用の課題)と人工呼吸器装着のAdvance Care Planningの話題へと展開していく。

 約330ページの中に〈COPD治療の神髄〉が全て書き込まれているのは感嘆の限りである。単なる読み物ではなく,エビデンスを重視しながらもそれを超えた,患者中心の医療の理念が軽妙な語りの中に込められている。本書を,COPD診療に関わる全ての医療職にぜひ読んでもらい,明日からの診療に役立てていただきたい。

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