医療者のための結核の知識 第5版
わかりやすく実践的と定評のある、結核とNTM(非結核性抗酸菌)症の本
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実践的でわかりやすい記述に定評があるロングセラー書籍の待望の改訂第5版。結核の疫学、病態生理、検査、治療、感染対策、発病予防に必要な知識がコンパクトにまとめられている。今改訂により非結核性抗酸菌症(NTM症)が増ページとなり充実した。感染症診療・管理の必携書。加えて、結核感染・発病リスクの高い免疫不全患者、高齢者、がん患者等の医療、ケア、リハビリテーションにかかわるすべての職種にも有用な1冊。
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- 序文
- 目次
- 書評
序文
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第5版 序
20世紀末に提唱されたエビデンスに基づく医療(EBM)の概念は大きな潮流となり,これをもとに各種疾患の診療“ガイドライン”が相次いで作成されている。膨大な各種の情報を理解し吸収することは容易ではないが,“ガイドライン”は診療現場で広く活用され,これに基づく診療が一般化してきている。ところが,わが国のある医療分野で,以前からこのような様式のさきがけともいうべきものがあった。それは「結核予防法」に基づく医療である。
周知のように近代日本において結核は「国民病」と称された難病で,その克服は,国家にとっては興隆を,個人にとっては存否をかけた重大な問題であった。そのような状況下に策定されたのが「結核予防法」である。第二次世界大戦後に改定された同法では,結核撲滅作戦として以下のような方策が示された。それらは,BCG接種による免疫力の構築,ツベルクリン反応(ツ反)による感染者の把握,健康診断の胸部X線写真による発病者の早期発見であった。のちにランダム化比較試験の成績に基づく抗結核薬の治療レジメンが加えられ,内容が拡充された。戦後50年かけて結核の死亡率・罹患率は著明に低下したが,この改善の両輪は生活水準の向上と「結核予防法」の普及であった。一方,BCG接種により付与される免疫力は十分ではなく,ツ反にはBCGによる偽陽性の問題があった。また,結核菌の培養検査では結果が判明するまでに月単位の時間を要するので,ときに診断が遅れ,さらに半年以上に及ぶ長期間の治療を最後まで続けられず脱落する者もあり,それは耐性結核の発生という難題を生みだした。
時代は進み,特異的抗原による末梢血リンパ球の刺激で産生されるインターフェロンγ量を測定する手法が開発されて結核感染の正確な把握が可能になり,また,核酸増幅法で結核菌の遺伝子を短時間で検出できるようになり,診断率の上昇と迅速化が図られた。さらに服薬支援の工夫や新規抗結核薬の開発など,治療の分野での前進もみられた。この間,「結核予防法」は「感染症法」に包摂され結核は特殊な感染症とみなされなくなったが,現在大多数を占める高齢者からの結核発生は当分の間続くであろうし,若年層にも外国からの長期滞在者などの発病が増加することが危惧される。わが国では結核はいつなんどき遭遇するかわからない疾患であり続けるであろう。
本書は結核および非結核性抗酸菌症のコンパクトな解説書として広く受け入れられてきた。今回の改訂では,全般的事項についての解説を拡充するとともに,結核関連の法令を含む最近の動向を示し,新たに開発された抗結核薬や検査法について紹介した。本書が抗酸菌症のわかりやすい解説書として今後も医療現場で広く活用されることを願っている。
2019年5月
四元 秀毅
山岸 文雄
永井 英明
長谷川直樹
20世紀末に提唱されたエビデンスに基づく医療(EBM)の概念は大きな潮流となり,これをもとに各種疾患の診療“ガイドライン”が相次いで作成されている。膨大な各種の情報を理解し吸収することは容易ではないが,“ガイドライン”は診療現場で広く活用され,これに基づく診療が一般化してきている。ところが,わが国のある医療分野で,以前からこのような様式のさきがけともいうべきものがあった。それは「結核予防法」に基づく医療である。
周知のように近代日本において結核は「国民病」と称された難病で,その克服は,国家にとっては興隆を,個人にとっては存否をかけた重大な問題であった。そのような状況下に策定されたのが「結核予防法」である。第二次世界大戦後に改定された同法では,結核撲滅作戦として以下のような方策が示された。それらは,BCG接種による免疫力の構築,ツベルクリン反応(ツ反)による感染者の把握,健康診断の胸部X線写真による発病者の早期発見であった。のちにランダム化比較試験の成績に基づく抗結核薬の治療レジメンが加えられ,内容が拡充された。戦後50年かけて結核の死亡率・罹患率は著明に低下したが,この改善の両輪は生活水準の向上と「結核予防法」の普及であった。一方,BCG接種により付与される免疫力は十分ではなく,ツ反にはBCGによる偽陽性の問題があった。また,結核菌の培養検査では結果が判明するまでに月単位の時間を要するので,ときに診断が遅れ,さらに半年以上に及ぶ長期間の治療を最後まで続けられず脱落する者もあり,それは耐性結核の発生という難題を生みだした。
時代は進み,特異的抗原による末梢血リンパ球の刺激で産生されるインターフェロンγ量を測定する手法が開発されて結核感染の正確な把握が可能になり,また,核酸増幅法で結核菌の遺伝子を短時間で検出できるようになり,診断率の上昇と迅速化が図られた。さらに服薬支援の工夫や新規抗結核薬の開発など,治療の分野での前進もみられた。この間,「結核予防法」は「感染症法」に包摂され結核は特殊な感染症とみなされなくなったが,現在大多数を占める高齢者からの結核発生は当分の間続くであろうし,若年層にも外国からの長期滞在者などの発病が増加することが危惧される。わが国では結核はいつなんどき遭遇するかわからない疾患であり続けるであろう。
本書は結核および非結核性抗酸菌症のコンパクトな解説書として広く受け入れられてきた。今回の改訂では,全般的事項についての解説を拡充するとともに,結核関連の法令を含む最近の動向を示し,新たに開発された抗結核薬や検査法について紹介した。本書が抗酸菌症のわかりやすい解説書として今後も医療現場で広く活用されることを願っている。
2019年5月
四元 秀毅
山岸 文雄
永井 英明
長谷川直樹
目次
開く
I 結核の今と昔
A 世界と日本の結核の現状
1.世界の結核の現状
2.日本の結核の現状
B 結核の歴史と現在の課題
1.ミイラにみる古代の結核
2.人口の密集化で増加した中世の結核
3.産業革命に伴い世界各地でまん延した近代の結核
4.まん延から衰退へ――しぶとく残る現代の結核
C 疫学的観点からみた結核の特徴と根絶への道程
1.結核疫学の指標――死亡率・罹患率と背景にある感染率
2.結核は大都市圏で多く発生する――罹患率の国内地域差
3.結核の発病には種々の因子が影響する――個体の抵抗力が重要
4.結核は若年者疾患として始まり高齢者疾患へ移行する
5.人口流動化は結核発生を増加させる――外国人結核の関与
6.結核の根絶には感染率の徹底低下が必要
D 結核の分子疫学
1.結核菌の遺伝子タイピング法
2.分子疫学で得られた知見
II 結核はどんな病気か
A 結核の起こり方――結核菌と結核
B 結核菌の特徴
C 結核の感染と発病
1.感染の成立
2.結核の感染から発病へ
3.感染に連続的に起こる発病(一次結核)と間をおいて起こる発病(二次結核)
D 結核の病理所見
1.滲出性反応
2.繁殖性反応
3.増殖性反応
4.硬化性反応
5.空洞病変
E 結核はどんなときに起こりやすいか
1.結核感染が起こりやすい環境
2.結核の発病に関与する因子
F 結核の臨床像
1.慢性の経過をとり,時に致死的となる結核
2.肺結核の広がり方
3.肺結核の症状
4.肺外結核の症状
G 肺結核後遺症
III 結核の検査のすすめ方
A どんなときに結核を疑い,どのように検査をすすめるか
1.肺結核の診断
2.肺外結核の診断
B 肺および胸郭内結核の画像所見
1.結核病理像の画像イメージ
2.結核の肺病変はどのように広がるか
3.結核の病理はどのように画像に反映されるか
4.肺結核でどのような画像パターンがみられるか
5.結核の胸部画像所見はどのように分類され用いられるか
C 結核菌の検査法
1.検体
2.塗抹検査
3.培養検査
4.同定検査
5.薬剤感受性検査
D 生検法
1.経気管支肺生検
2.リンパ節生検
3.胸膜生検
E 感染の検査法
1.ツベルクリン反応(ツ反)
2.インターフェロンγ遊離試験(IGRA)
IV 結核をどのように治すか
A 結核治療の流れ
1.結核治療薬発見の歴史
2.リファンピシン(RFP)を中心とする化学療法の確立
3.結核治療と感染症法
B 治療を始める前の手続き
1.結核患者の発生届
2.感染症法による公費負担制度
3.指定医療機関への入院
C 治療を始めるにあたって――「結核医療の基準」に関連した一般的事項
1.治療の際に行う検査
2.治療の基本方針
3.患者指導
D 化学療法の一般的事項
1.抗結核薬
2.副腎皮質ステロイド
E 化学療法の実際
1.抗結核薬の細菌学的因子
2.結核の治療に多剤投与が必要な理由
3.治療のすすめ方
4.ピラジナミド(PZA)の特徴
5.ピラジナミド(PZA)を含む治療法の利点
6.初回標準治療法
7.ピラジナミド(PZA)の使用頻度
8.再治療
9.抗結核薬の副作用
10.多剤耐性結核の治療
11.超多剤耐性結核の治療
12.抗結核薬のこれまでとこれから
F 治療を成功させるためのDOTS
1.DOTSとは
2.都市部における結核対策の強化――日本版21世紀型DOTS戦略から
3.日本版21世紀型DOTS戦略とこれを推進する体系図
4.DOTSの位置づけ
5.感染症法におけるDOTS
G 入・退院基準
1.感染症法による結核患者の管理
2.入院基準
3.退院基準
H クリティカルパス
V 結核の広がりをどのように抑えるか
A 結核の発病をどのように抑えるか
1.BCG接種の効果と限界
2.結核感染者の発病を抑えるための治療
3.結核発病のリスクファクターとその対処法
4.接触者健診
5.結核ワクチン
B 医療従事者の結核集団感染防止のために
1.院内感染対策の必要性
2.集団発生と集団感染
C 患者の早期発見と院内感染対策
1.結核患者をどのようにして発見するか
2.施設内の結核感染対策
3.結核患者が発生したときの処置
4.職員の健康管理
5.院内感染対策委員会の役割
D 感染症法に結核予防はどのように位置づけられているか
1.感染症分類
2.感染症法における結核対策
3.感染症の診査に関する協議会
VI 免疫不全と結核
A 免疫不全に合併する結核の特徴
B 免疫不全に合併する結核の診断
C 免疫不全に合併する結核の治療
1.HIV感染症合併結核の治療
2.腎障害時の結核の治療
3.悪性腫瘍に合併する結核の治療
4.糖尿病合併結核の治療
5.副腎皮質ステロイド投与中の結核の治療
D 免疫不全における結核の発病予防
VII さまざまな結核――症例提示
症例 1 腰背部痛を主訴に長期間整体に通った女性
──結核性脊椎炎,流注膿瘍,肺結核
症例 2 咳,食欲低下,体重減少とびまん性の小粒状影をみた高齢の男性
──気道散布型病変
症例 3 発熱が初発症状の東南アジア出身の女性──粟粒結核
症例 4 喘息として治療されていた女性──気管・気管支結核
症例 5 市中肺炎と診断された高齢の男性──結核性肺炎
症例 6 誤嚥性肺炎として治療が続けられていた高齢の男性──高齢者結核
症例 7 5か月間嗄声が続いた女性──喉頭結核
症例 8 呼吸困難,発熱で発症した高齢の男性──肺気腫に合併した肺結核
症例 9 手関節と足関節の腫脹,疼痛がみられた男性──骨関節結核
症例 10 膝関節結核,粟粒結核の治療中に頭痛・悪心が出現した男性──脳結核
症例 11 視力障害のため眼科受診した男性──脳結核,粟粒結核,副腎結核
VIII 非結核性抗酸菌症
A 非結核性抗酸菌とは
B 非結核性抗酸菌症の起こり方と臨床像
1.NTM症の発症機序
2.NTM症の臨床像
C 疫学と診断基準
D 主な肺非結核性抗酸菌症の治療
1.化学療法
2.外科治療
症例 1 少量の喀血を繰り返す中年の女性──肺MAC症
症例 2 手術療法にて排菌が陰性化した女性──肺MAC症
付録 参考資料
A 結核発生届(記入例)
B 入退院結核患者届出票
C 入院勧告書
D 入院延長勧告書
E 医療費公費負担申請書①(感染症法第37条)
F 医療費公費負担申請書②(感染症法第37条の2)
G 結核入院患者調査書
●参考文献
●索引
コラム
・結核病棟は不採算
・治療による悪化,治療中断後の治療期間
・人権への配慮は適正か?
A 世界と日本の結核の現状
1.世界の結核の現状
2.日本の結核の現状
B 結核の歴史と現在の課題
1.ミイラにみる古代の結核
2.人口の密集化で増加した中世の結核
3.産業革命に伴い世界各地でまん延した近代の結核
4.まん延から衰退へ――しぶとく残る現代の結核
C 疫学的観点からみた結核の特徴と根絶への道程
1.結核疫学の指標――死亡率・罹患率と背景にある感染率
2.結核は大都市圏で多く発生する――罹患率の国内地域差
3.結核の発病には種々の因子が影響する――個体の抵抗力が重要
4.結核は若年者疾患として始まり高齢者疾患へ移行する
5.人口流動化は結核発生を増加させる――外国人結核の関与
6.結核の根絶には感染率の徹底低下が必要
D 結核の分子疫学
1.結核菌の遺伝子タイピング法
2.分子疫学で得られた知見
II 結核はどんな病気か
A 結核の起こり方――結核菌と結核
B 結核菌の特徴
C 結核の感染と発病
1.感染の成立
2.結核の感染から発病へ
3.感染に連続的に起こる発病(一次結核)と間をおいて起こる発病(二次結核)
D 結核の病理所見
1.滲出性反応
2.繁殖性反応
3.増殖性反応
4.硬化性反応
5.空洞病変
E 結核はどんなときに起こりやすいか
1.結核感染が起こりやすい環境
2.結核の発病に関与する因子
F 結核の臨床像
1.慢性の経過をとり,時に致死的となる結核
2.肺結核の広がり方
3.肺結核の症状
4.肺外結核の症状
G 肺結核後遺症
III 結核の検査のすすめ方
A どんなときに結核を疑い,どのように検査をすすめるか
1.肺結核の診断
2.肺外結核の診断
B 肺および胸郭内結核の画像所見
1.結核病理像の画像イメージ
2.結核の肺病変はどのように広がるか
3.結核の病理はどのように画像に反映されるか
4.肺結核でどのような画像パターンがみられるか
5.結核の胸部画像所見はどのように分類され用いられるか
C 結核菌の検査法
1.検体
2.塗抹検査
3.培養検査
4.同定検査
5.薬剤感受性検査
D 生検法
1.経気管支肺生検
2.リンパ節生検
3.胸膜生検
E 感染の検査法
1.ツベルクリン反応(ツ反)
2.インターフェロンγ遊離試験(IGRA)
IV 結核をどのように治すか
A 結核治療の流れ
1.結核治療薬発見の歴史
2.リファンピシン(RFP)を中心とする化学療法の確立
3.結核治療と感染症法
B 治療を始める前の手続き
1.結核患者の発生届
2.感染症法による公費負担制度
3.指定医療機関への入院
C 治療を始めるにあたって――「結核医療の基準」に関連した一般的事項
1.治療の際に行う検査
2.治療の基本方針
3.患者指導
D 化学療法の一般的事項
1.抗結核薬
2.副腎皮質ステロイド
E 化学療法の実際
1.抗結核薬の細菌学的因子
2.結核の治療に多剤投与が必要な理由
3.治療のすすめ方
4.ピラジナミド(PZA)の特徴
5.ピラジナミド(PZA)を含む治療法の利点
6.初回標準治療法
7.ピラジナミド(PZA)の使用頻度
8.再治療
9.抗結核薬の副作用
10.多剤耐性結核の治療
11.超多剤耐性結核の治療
12.抗結核薬のこれまでとこれから
F 治療を成功させるためのDOTS
1.DOTSとは
2.都市部における結核対策の強化――日本版21世紀型DOTS戦略から
3.日本版21世紀型DOTS戦略とこれを推進する体系図
4.DOTSの位置づけ
5.感染症法におけるDOTS
G 入・退院基準
1.感染症法による結核患者の管理
2.入院基準
3.退院基準
H クリティカルパス
V 結核の広がりをどのように抑えるか
A 結核の発病をどのように抑えるか
1.BCG接種の効果と限界
2.結核感染者の発病を抑えるための治療
3.結核発病のリスクファクターとその対処法
4.接触者健診
5.結核ワクチン
B 医療従事者の結核集団感染防止のために
1.院内感染対策の必要性
2.集団発生と集団感染
C 患者の早期発見と院内感染対策
1.結核患者をどのようにして発見するか
2.施設内の結核感染対策
3.結核患者が発生したときの処置
4.職員の健康管理
5.院内感染対策委員会の役割
D 感染症法に結核予防はどのように位置づけられているか
1.感染症分類
2.感染症法における結核対策
3.感染症の診査に関する協議会
VI 免疫不全と結核
A 免疫不全に合併する結核の特徴
B 免疫不全に合併する結核の診断
C 免疫不全に合併する結核の治療
1.HIV感染症合併結核の治療
2.腎障害時の結核の治療
3.悪性腫瘍に合併する結核の治療
4.糖尿病合併結核の治療
5.副腎皮質ステロイド投与中の結核の治療
D 免疫不全における結核の発病予防
VII さまざまな結核――症例提示
症例 1 腰背部痛を主訴に長期間整体に通った女性
──結核性脊椎炎,流注膿瘍,肺結核
症例 2 咳,食欲低下,体重減少とびまん性の小粒状影をみた高齢の男性
──気道散布型病変
症例 3 発熱が初発症状の東南アジア出身の女性──粟粒結核
症例 4 喘息として治療されていた女性──気管・気管支結核
症例 5 市中肺炎と診断された高齢の男性──結核性肺炎
症例 6 誤嚥性肺炎として治療が続けられていた高齢の男性──高齢者結核
症例 7 5か月間嗄声が続いた女性──喉頭結核
症例 8 呼吸困難,発熱で発症した高齢の男性──肺気腫に合併した肺結核
症例 9 手関節と足関節の腫脹,疼痛がみられた男性──骨関節結核
症例 10 膝関節結核,粟粒結核の治療中に頭痛・悪心が出現した男性──脳結核
症例 11 視力障害のため眼科受診した男性──脳結核,粟粒結核,副腎結核
VIII 非結核性抗酸菌症
A 非結核性抗酸菌とは
B 非結核性抗酸菌症の起こり方と臨床像
1.NTM症の発症機序
2.NTM症の臨床像
C 疫学と診断基準
D 主な肺非結核性抗酸菌症の治療
1.化学療法
2.外科治療
症例 1 少量の喀血を繰り返す中年の女性──肺MAC症
症例 2 手術療法にて排菌が陰性化した女性──肺MAC症
付録 参考資料
A 結核発生届(記入例)
B 入退院結核患者届出票
C 入院勧告書
D 入院延長勧告書
E 医療費公費負担申請書①(感染症法第37条)
F 医療費公費負担申請書②(感染症法第37条の2)
G 結核入院患者調査書
●参考文献
●索引
コラム
・結核病棟は不採算
・治療による悪化,治療中断後の治療期間
・人権への配慮は適正か?
書評
開く
結核患者の管理に必要な知識がコンパクトにまとめられた良書
書評者: 永田 容子 (結核予防会結核研究所対策支援部副部長/保健看護学科長)
結核の専門書は多くありますが,専門的すぎて難しさを感じる方はたくさんおられると思います。本書を読ませていただき,浅すぎず,深すぎず,初めて結核を担当される医療関係者に向けたちょうど良い入門書のように思いました。
本書は結核の臨床経験豊富な医師によって書かれています。例えば,結核の胸部X線写真やCT像が多数掲載されていますが,画像イメージのスケッチや臨床像を使って丁寧に解説してくれています。画像を読むのは難しくても,このように提示してあると,医師以外の職種であっても結核の病態をすっと理解できるように感じます。
さまざまな結核について症例集としてまとめた章では写真とスケッチのほかに,臨床的な症状や経過がかなり詳しく書かれています。これを読めば,結核対策を担う保健所職員にとって有用ではないでしょうか。また,経口投与の抗結核薬の解説には製剤のカラー写真が付いているなど,わかりやすさ,臨床的な使いやすさが本書の最大の特徴でしょう。
結核対策には結核菌の特徴を理解することは最も重要です。解説の合間にポイント,コラムがちりばめられており読みやすく,疫学,病態生理,検査,治療,感染対策,発病予防の知識がコンパクトにまとめられています。結核診療に必要な患者発生届や入退院基準,医療費負担区分など,医療機関との連携に必要不可欠な内容も見通せる構成です。
今改訂では非結核性抗酸菌症(NTM症)の章が拡充されました。NTMは人から人への感染がない菌ではありますが,NTMの知識は有用です。同じ抗酸菌として判定され,結核かNTM症か診断がつくまで,またその後の治療においても患者さんの相談対応が必要だからです。
臨床的な専門用語がやさしい言葉に置き換えてあるなど,総じて平易な文章で,大変興味深く読むことができました。広く結核医療の全体を網羅するには最適な入門書といえるでしょう。院内感染対策を担う感染管理担当者には最新の知識を補うために,結核に遭遇する可能性のある臨床現場のあらゆる職種にはわかりやすい有用な一冊として,お薦めします。
現在の結核診療を見通せるロングセラー
書評者: 門田 淳一 (大分大教授・呼吸器・感染症内科学)
『医療者のための結核の知識 第5版』を手にとって読んでみた。本書は初版が2001年に発刊されて以来,実践的でわかりやすい記述に定評があるロングセラー書籍である。数年ごとに改訂され今回で第5版となるが,改訂ごとに新しい知識が各章に盛り込まれており,今版も実践的でわかりやすく記述され読み応えのある内容となっている。
結核の歴史・疫学から始まり,病態生理などの基礎知識,検査・画像・診断,治療,感染対策,発病予防,免疫不全と結核,および潜在性結核感染症など,医療従事者にとって必要な知識がコンパクトにまとめられている。特に各項目の冒頭にはポイントが記述され,加えて図表や画像,フローチャートが随所に配置されており,また抗結核薬の薬剤見本の記載もあり,視覚的に理解しやすい配慮がなされている。結核患者の入院から退院までのクリティカルパスも紹介されており医療従事者にとっては非常に有用である。さらに,コラムにも結核診療の問題点について興味深いエキスパートオピニオンが記載されている。一方,最近では非結核性抗酸菌症の罹患率が上昇し結核を凌駕するようになってきている背景もあり,今回の改訂では非結核性抗酸菌症の章が充実している。最後にはさまざまな場面での結核あるいは非結核性抗酸菌症の症例を提示することで本書で学んだ知識を再確認できる構成となっている。付章には感染症法関連の届出書式の例が参考資料として示されており,結核診療にまつわる諸手続きに関しても見通せる内容である。
わが国では結核罹患率の減少に伴って結核病床を持つ医療機関数が減少する一方で,身体合併症を有する高齢者,医療の進歩に伴う免疫不全患者やがん患者などにおける結核の発病リスクが高くなっているため,一般の医療施設や介護施設など,幅広い診療科・部門のスタッフが結核患者と遭遇する機会が増加している。このことから結核医療の専門施設・専門医だけでなく医療に携わるスタッフ全員が適切に結核対応ができるように知識を持つことが大切である。本書は,その意味において初学者から若手医師,感染症診療・管理全般に携わる医師,および看護師や保健師などを含め,結核感染・発病リスクの高い免疫不全患者,高齢者,がん患者等の医療,ケア,リハビリテーションにかかわる全ての職種に有用な書籍である。結核は空気感染で伝播する公衆衛生上極めて重要な疾患であるため,ぜひ本書を日常診療の必携書として活用していただきたい。
書評者: 永田 容子 (結核予防会結核研究所対策支援部副部長/保健看護学科長)
結核の専門書は多くありますが,専門的すぎて難しさを感じる方はたくさんおられると思います。本書を読ませていただき,浅すぎず,深すぎず,初めて結核を担当される医療関係者に向けたちょうど良い入門書のように思いました。
本書は結核の臨床経験豊富な医師によって書かれています。例えば,結核の胸部X線写真やCT像が多数掲載されていますが,画像イメージのスケッチや臨床像を使って丁寧に解説してくれています。画像を読むのは難しくても,このように提示してあると,医師以外の職種であっても結核の病態をすっと理解できるように感じます。
さまざまな結核について症例集としてまとめた章では写真とスケッチのほかに,臨床的な症状や経過がかなり詳しく書かれています。これを読めば,結核対策を担う保健所職員にとって有用ではないでしょうか。また,経口投与の抗結核薬の解説には製剤のカラー写真が付いているなど,わかりやすさ,臨床的な使いやすさが本書の最大の特徴でしょう。
結核対策には結核菌の特徴を理解することは最も重要です。解説の合間にポイント,コラムがちりばめられており読みやすく,疫学,病態生理,検査,治療,感染対策,発病予防の知識がコンパクトにまとめられています。結核診療に必要な患者発生届や入退院基準,医療費負担区分など,医療機関との連携に必要不可欠な内容も見通せる構成です。
今改訂では非結核性抗酸菌症(NTM症)の章が拡充されました。NTMは人から人への感染がない菌ではありますが,NTMの知識は有用です。同じ抗酸菌として判定され,結核かNTM症か診断がつくまで,またその後の治療においても患者さんの相談対応が必要だからです。
臨床的な専門用語がやさしい言葉に置き換えてあるなど,総じて平易な文章で,大変興味深く読むことができました。広く結核医療の全体を網羅するには最適な入門書といえるでしょう。院内感染対策を担う感染管理担当者には最新の知識を補うために,結核に遭遇する可能性のある臨床現場のあらゆる職種にはわかりやすい有用な一冊として,お薦めします。
現在の結核診療を見通せるロングセラー
書評者: 門田 淳一 (大分大教授・呼吸器・感染症内科学)
『医療者のための結核の知識 第5版』を手にとって読んでみた。本書は初版が2001年に発刊されて以来,実践的でわかりやすい記述に定評があるロングセラー書籍である。数年ごとに改訂され今回で第5版となるが,改訂ごとに新しい知識が各章に盛り込まれており,今版も実践的でわかりやすく記述され読み応えのある内容となっている。
結核の歴史・疫学から始まり,病態生理などの基礎知識,検査・画像・診断,治療,感染対策,発病予防,免疫不全と結核,および潜在性結核感染症など,医療従事者にとって必要な知識がコンパクトにまとめられている。特に各項目の冒頭にはポイントが記述され,加えて図表や画像,フローチャートが随所に配置されており,また抗結核薬の薬剤見本の記載もあり,視覚的に理解しやすい配慮がなされている。結核患者の入院から退院までのクリティカルパスも紹介されており医療従事者にとっては非常に有用である。さらに,コラムにも結核診療の問題点について興味深いエキスパートオピニオンが記載されている。一方,最近では非結核性抗酸菌症の罹患率が上昇し結核を凌駕するようになってきている背景もあり,今回の改訂では非結核性抗酸菌症の章が充実している。最後にはさまざまな場面での結核あるいは非結核性抗酸菌症の症例を提示することで本書で学んだ知識を再確認できる構成となっている。付章には感染症法関連の届出書式の例が参考資料として示されており,結核診療にまつわる諸手続きに関しても見通せる内容である。
わが国では結核罹患率の減少に伴って結核病床を持つ医療機関数が減少する一方で,身体合併症を有する高齢者,医療の進歩に伴う免疫不全患者やがん患者などにおける結核の発病リスクが高くなっているため,一般の医療施設や介護施設など,幅広い診療科・部門のスタッフが結核患者と遭遇する機会が増加している。このことから結核医療の専門施設・専門医だけでなく医療に携わるスタッフ全員が適切に結核対応ができるように知識を持つことが大切である。本書は,その意味において初学者から若手医師,感染症診療・管理全般に携わる医師,および看護師や保健師などを含め,結核感染・発病リスクの高い免疫不全患者,高齢者,がん患者等の医療,ケア,リハビリテーションにかかわる全ての職種に有用な書籍である。結核は空気感染で伝播する公衆衛生上極めて重要な疾患であるため,ぜひ本書を日常診療の必携書として活用していただきたい。