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マークス臨床生化学


原著:Michael Lieberman /Alisa Peet 
訳:横溝 岳彦

  • 判型 A4
  • 頁 654
  • 発行 2020年09月
  • 定価 9,350円 (本体8,500円+税10%)
  • ISBN978-4-260-04139-3
臨床志向の学生に完全にマッチした生化学テキストの決定版
他科目と比べて臨床との関連が遠く感じられる、多くの化学反応を覚えなくてはならない、など生化学を「かったるい」と思う学生も多いかもしれない。諦めてしまったり、嫌いになってしまったりする前に、是非本書を手にとって欲しい。すべての章で症例が提示され、あらゆる解説が臨床的コンテクストで語られており、医学生・医療系学生のために編まれた、まさに類を見ない生化学テキストである。単訳のため読みやすさも極上である。
序 文
訳者の序

 長らく生化学の教官として,医学生の生化学教育に携わってきた.近年,臨床実習重視の米国型医学教育へのシフトに伴って基礎医学系の講義時間は圧縮され,体系的な生化学教育がますます難しくなってきている.生化学を体系的に理解するためには,大学での講義に加えて医学生が自主的に教科...
訳者の序

 長らく生化学の教官として,医学生の生化学教育に携わってきた.近年,臨床実習重視の米国型医学教育へのシフトに伴って基礎医学系の講義時間は圧縮され,体系的な生化学教育がますます難しくなってきている.生化学を体系的に理解するためには,大学での講義に加えて医学生が自主的に教科書で勉強することが必須だと思われる.しかしながら,現代の医学生は臨床医志向が強く,デジタル教材の入手が容易になったこともあって,化学式が並ぶ生化学の教科書を通読しようとする医学生は皆無である.また,生化学の教科書には疾患とのかかわりがほとんど記述されておらず,臨床医に必要な生化学の知識を体系的に記述している日本語の教科書は存在しないのが現状である.
 2011年に私は,当時在籍していた九州大学医学部の学生たちとともに,臨床医学と生化学のかかわりを重視する問題集を翻訳し,出版した(『生化学実践問題─基礎と臨床をつなぐ420題』,南江堂).この問題集の親本にあたる教科書が本書である.
 この教科書に出会ったときの衝撃は今でも忘れられない.これまでに見たことのない構成の教科書だったからである.各章の導入部分には“waiting room(待合室)”というコラムがあり,ここで数人の患者が病院を受診することになったエピソードが紹介される.糖尿病,痛風,動脈硬化症,アルコール中毒,白血病をはじめとしたさまざまな患者が登場する.引き続き,この患者たちの疾患の発症を理解するのに必要な生化学的な知識が記載されるが,この記載自体は極めてオーソドックスな生化学である.しかしながらほとんどすべてのページのサイドカラムに「臨床ノート」が配置され,本文の生化学的な記載と患者の症状や疾患発症の原因の関連が解説されている.また,サイドカラムの「メソッドノート」では,患者の検査値の意味やその検出法の原理が記載されている.つまり,読者は常に患者の症状や臨床検査との関連を意識しながら,生化学の教科書を読み進めることになる.また,本文中の図表は,ほとんどすべてが書き下ろしで,記載されている本文に合致したものである(多くの生化学の教科書の図表は使い回しされており,本文に合っていない図表が掲載されていることも多い).各章は「臨床コメント」と「生化学コメント」で締めくくられる.「臨床コメント」では,それぞれの患者の疾患の理解に最低限必要な生化学の知識が短くまとめられ,どの点が重要だったのかを振り返ることができる.「生化学コメント」では,まだ不明な点や将来の研究への展望が述べられ,研究志向の読者の興味を駆りたててくれる.
 この教科書のもう1つの特徴は,複数の臓器をまたぐ代謝経路の記載が優れている点である.解糖,脂肪酸とアミノ酸代謝,リポタンパク質などの代謝経路は,細胞内では完結せず,分子の受け渡しを介した臓器間連携の理解が重要である.肝臓を中心とした代謝の全身的な理解と,摂食後,絶食時,運動時,そしてインスリンの作用が失われる糖尿病患者で生じる,臓器間の物質のやり取りを理解することは,臨床医学に直結する生化学である.これまでにも,代謝の臓器連関を記載した教科書は存在したが,各論と臓器連関を記載した執筆者が異なるためか,その内容が食い違って記載され,混乱を招くことも多かった.本教科書では,それぞれの代謝経路とその臓器連関が,ブレのない統一した視点で記載されており,読者は臓器を超えた代謝の美しい流れを理解することができるだろう.
 この教科書に出会ってから,私の研究室の大学院生たちは,自主的な勉強会のテキストとしてこの教科書を使用してきた.英語で生化学を学ぶことが必要な研究者の卵たちにとって,訳本が存在しないこの教科書は貴重な教材でもあった.しかしながら,「この教科書を翻訳できれば,臨床医志向の強い日本の医学生がもう少し生化学に興味をもってくれるのではないか?」という思いが,私の心の中に燻っていた.たまたま,医学部学生をこの勉強会に誘う目的で流したSNSへの投稿に反応したのが医学書院の本田崇氏であった.本田氏は,かねてより本書の価値を見いだしてはいたものの,訳者を見つけることができなかったこと,この教科書をぜひとも日本語に訳し医学生の生化学教育に役立てたいこと,を熱く語ってくださった.また,本書のような650ページを超える大判の教科書は複数の訳者で翻訳されることが多いが,その場合,訳者間の文体や翻訳方針に違いが大きいため,読みにくい訳書となることが多い,という認識を2人が共通してもっていることもわかった.そこで,本書の翻訳は私1人で行い全体の統一を図ること,読みやすさを優先させるため大胆な意訳も可とすること,の方針を確認し,翻訳へと舵を切ることができた.650ページを超える教科書を1人で翻訳するのは大変な作業ではあったが,生化学の教官である私にとっても新しい気づきがいくつも存在し,実に楽しい時間であった.可能な限り直訳を避け,読みやすさを重視した日本語を使用することを心がけて翻訳作業を行った.2020年春のCOVID-19による研究室の一時閉鎖の期間,この教科書の校正に没頭することができたのは不幸中の幸いであった.
 「臨床医志向の医学生が通読できる生化学の教科書」を目標とする本書は,また,薬学,臨床検査医学,看護学などの医学関連領域の学生や大学院生にとっても有用な教科書になってくれるものと期待している.なお,出版社との調整の結果,原著の10・11・17・18章と最後のVII編は訳出していないことを申し添える.
 最後に,本書の出版を可能にしてくれた,本田崇氏をはじめとする医学書院のスタッフの皆様に心から感謝申し上げたい.

 2020年7月
 順天堂大学医学部 生化学第一講座 教授
 横溝岳彦
目 次
この教科書の使い方

I編 エネルギー源代謝
 1章 代謝のエネルギー源と食物の構成要素
 2章 摂食(吸収)状態
 3章 絶食

II編 生化学の化学的・生物学的基礎
 4章 水,酸・塩基,緩衝液
 5章 体内の主要な物質の構造
 6章 タンパク質のアミノ酸
 7章 タンパク質の構造・機能相関
 8章 触媒としての酵素
 9章 酵素の調節

III編 遺伝子発現とタンパク質合成
 10章 核酸の構造
 11章 DNA合成
 12章 転写:RNAの合成
 13章 翻訳:タンパク質合成
 14章 遺伝子発現の制御

IV編 炭水化物の代謝,エネルギー源の酸化,アデノシン三リン酸の生成
 15章 インスリン,グルカゴン,その他のホルモンによるエネルギー代謝制御の基本概念
 16章 細胞生体エネルギー論:ATPとO2
 17章 炭水化物の消化,吸収,輸送
 18章 解糖:グルコース,フルクトース,ガラクトースからのATP産生
 19章 トリカルボン酸回路
 20章 酸化的リン酸化とミトコンドリアの機能
 21章 酸素の毒性とフリーラジカル傷害
 22章 グリコーゲン合成と分解
 23章 ペントースリン酸経路とグリコシド・乳糖・糖タンパク質・糖脂質の合成
 24章 糖新生と血中グルコース濃度の維持

V編 脂質代謝
 25章 食事性脂質の消化と輸送
 26章 脂肪酸とケトン体の酸化
 27章 脂肪酸,トリアシルグリセロール,主な膜脂質の合成
 28章 コレステロールの吸収,合成,代謝,運命
 29章 エタノール代謝
 30章 糖代謝と脂質代謝の統合

VI編 窒素代謝
 31章 タンパク質の消化とアミノ酸の吸収
 32章 アミノ酸窒素の運命:尿素回路
 33章 アミノ酸の合成と分解
 34章 テトラヒドロ葉酸,ビタミンB12,S-アデノシルメチオニン
 35章 プリン・ピリミジン代謝
 36章 アミノ酸代謝の組織間の関係

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