認知症疾患診療ガイドライン2017
“認知症の時代”の診療スタンダード、待望の改訂!
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認知症に関する情報を網羅した診療ガイドラインに待望の改訂版。定義や疫学、診断、治療、社会資源などの総論的な内容から、アルツハイマー型認知症やレビー小体型認知症など原因疾患ごとの具体的な特徴や診断・治療法といった各論的な内容までを幅広く網羅。全編クリニカル・クエスチョン形式で、読者の疑問にダイレクトかつわかりやすく答える内容となっている。
シリーズ | 日本神経学会監修ガイドラインシリーズ |
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監修 | 日本神経学会 |
編集 | 「認知症疾患診療ガイドライン」作成委員会 |
発行 | 2017年08月判型:B5頁:384 |
ISBN | 978-4-260-02858-5 |
定価 | 5,940円 (本体5,400円+税) |
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- 目次
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神経疾患診療ガイドラインの発行にあたって/序
神経疾患診療ガイドラインの発行にあたって
日本神経学会では,2001年に当時の柳澤信夫理事長の提唱に基づき,理事会で主要な神経疾患について治療ガイドラインを作成することを決定し,2002年に「慢性頭痛」,「パーキンソン病」,「てんかん」,「筋萎縮性側索硬化症」,「痴呆性疾患」,「脳卒中」の6疾患についての「治療ガイドライン2002」を発行しました.
「治療ガイドライン2002」の発行から時間が経過し,新しい知見も著しく増加したため,2008年の理事会(葛原茂樹前代表理事)で改訂を行うことを決定し,「治療ガイドライン2010」では,「慢性頭痛」(2013年発行),「認知症」(2010年発行),「てんかん」(2010年発行),「多発性硬化症」(2010年発行),「パーキンソン病」(2011年発行),「脳卒中」(2009年発行)の6疾患の治療ガイドライン作成委員会,および「遺伝子診断」(2009年発行)のガイドライン作成委員会が発足しました.
「治療ガイドライン2010」の作成にあたっては,本学会としてすべての治療ガイドラインについて一貫性のある作成委員会構成を行いました.利益相反に関して,このガイドライン作成に携わる作成委員会委員は,「日本神経学会利益相反自己申告書」を代表理事に提出し,日本神経学会による「利益相反状態についての承認」を得ました.また,代表理事のもとに統括委員会を置き,その下に各治療ガイドライン作成委員会を設置しました.この改訂治療ガイドラインでは,パーキンソン病を除く全疾患について,他学会との合同委員会で作成されました.
2009年から2011年にかけて発行された治療ガイドラインは,代表的な神経疾患に関するものでした.しかしその他の神経疾患でも治療ガイドラインの必要性が高まり,2011年の理事会で新たに6神経疾患の診療ガイドライン(ギラン・バレー症候群・フィッシャー症候群,慢性炎症性脱髄性多発根ニューロパチー・多巣性運動ニューロパチー,筋萎縮性側索硬化症,細菌性髄膜炎,デュシェンヌ型筋ジストロフィー,重症筋無力症)を,診断・検査を含めた「診療ガイドライン」として作成することが決定されました.これらは2013~2014年に発行され,「ガイドライン2013」として広く活用されています.
今回のガイドライン改訂・作成は2013年の理事会で,「遺伝子診断」(2009年発行),「てんかん」(2010年発行),「認知症疾患」(2010年発行),「多発性硬化症」(2010年発行),「パーキンソン病」(2011年発行)の改訂,「単純ヘルペス脳炎」と「ジストニア」の作成,2014年の理事会で「脊髄小脳変性症・多系統萎縮症診療ガイドライン」の作成が承認されたのを受けたものです.
これらのガイドライン改訂は従来同様,根拠に基づく医療(evidence-based medicine:EBM)の考え方に従い,「Minds診療ガイドライン作成の手引き」2007年版,および2014年版が作成に利用できたものに関しては2014年版に準拠して作成されました(2014年版準拠は多発性硬化症・視神経脊髄炎,パーキンソン病,てんかんの診療ガイドラインなど).2014年版では患者やメディカルスタッフもクリニカルクエスチョン作成に参加するGRADEシステムの導入を推奨しており,GRADEシステムは新しいガイドラインの一部にも導入されています.
診療ガイドラインは,画一的な診療を強制するものではありません.最も適切な診療は患者さんごとに異なり,医師の経験や考え方によっても診療内容は異なるかもしれません.診療ガイドラインは,医師がベストの診療方針を決定するうえでの参考としていただけるように,あくまで標準的な診療を科学的根拠に基づいて提示したものです.
神経疾患の治療も日進月歩で発展しており,診療ガイドラインは今後も定期的な改訂が必要となります.新しい診療ガイドラインが,学会員の皆様の日常診療の一助になることを心から願いますとともに,次期改訂に向けて,診療ガイドラインをさらによいものにするためのご評価,ご意見をお待ちしております.
2017年5月
日本神経学会
前代表理事 水澤 英洋
代表理事 高橋 良輔
前ガイドライン統括委員長 祖父江 元
ガイドライン統括委員長 亀井 聡
序
2002年に『痴呆疾患治療ガイドライン』が公開され,2010年に日本神経学会,日本神経治療学会,日本精神神経学会,日本認知症学会,日本老年医学会,日本老年精神医学会の6学会が協力して合同でclinical question(CQ)を用いた『認知症疾患治療ガイドライン2010』が作成された.その後,若干の新たな知見も加えて2012年に『認知症疾患治療ガイドライン2010 コンパクト版2012』を発刊した.その後も,ガイドラインの改訂について日本神経学会ガイドライン統括委員会において議論され,2014年に認知症ガイドラインを改訂することが決定された.
本ガイドラインの対象読者について
『認知症疾患診療ガイドライン2017』(以下,本ガイドライン)の読者対象は,2002年版,2010年版のガイドラインと同様に,原則として一般の医師を想定して作成した.ただし,医師以外の方々にも読まれることも念頭において作成作業を行った.
本ガイドラインの改訂作業の流れ
2014年に改訂が決定されて委員長が選出され,委員長所属施設に本ガイドライン作成事務局を設置した.前回のガイドラインと同様に上記の認知症関連6学会合同による改訂作業を行うこととして5学会に対して参加・協力の呼びかけを行い,6学会の会員からなる委員,研究協力者,評価・調整委員を選出した.本ガイドライン改訂作業の進め方などについても本委員会で協議して決定し,各委員がそれぞれの所属学会にも経過を還流しながら進めていくこととした.また,前回のガイドラインも「治療ガイドライン」ではあったが内容は診断も含んでいた.今回も前回と同様に治療に限定することなく,診断から治療まで認知症疾患の診療全体についてのガイドラインを作成することになり,「診療ガイドライン」として作成した.
日本神経学会ガイドライン統括委員会において,今回の改訂作業は,原則としてMinds 2014の方針に従って作成することとなったが,適宜,現状を踏まえた対応を行う方針とし,作成の具体的な方針は認知症疾患診療ガイドライン作成委員会での討議により決定して進めることとした.
上記の方針により本ガイドラインは,(1)CQ形式を用い,(2)ガイドライン作成の資金源を確認し,委員のCOIをマネジメントし,(3)文献検索を統一した方法で行い,(4)エビデンスレベルや推奨の強さを,Minds 2014を参考に議論し,(5)患者団体からの意見も聴取し,(6)推奨度の決定が困難で「推奨文」の作成がしにくいCQについては推奨度を記載しない「回答文」を作成することとし,(7)ガイドライン案については評価・調整委員や外部委員による査読を受けて意見を聴取し,(8)作成したガイドライン案を公開してパブリックコメントを求めた.そのうえで認知症疾患診療ガイドラインを最終化した.
資金源及び利益相反(conflict of interest:COI)
本ガイドライン作成に必要な資金は,日本神経学会の負担で行った.委員会開催の会議室経費や委員会出席のための交通費などの費用を負担し,原稿作成や会議参加などについての委員・研究協力者への報酬は支給しなかった.
「一般社団法人日本神経学会診療ガイドライン作成に関する規程」,「一般社団法人日本神経学会診療ガイドライン作成指針」,および「一般社団法人日本神経学会利益相反に係る委員会の設置および運用に関する規程」に基づき,適切なCOIマネジメントのもとに本ガイドラインの作成を行った.毎年,委員,研究協力者,評価・調整委員は以下の基準でCOI申告を日本神経学会代表理事に提出した.すなわち,役員報酬など(100万円以上),株式など(100万円以上,あるいは当該全株式の5パーセント以上),特許権使用料(100万円以上),講演料など(50万円以上),原稿料など(50万円以上),受託研究費,共同研究費など(200万円以上,2015年度分報告は100万円以上),奨学(奨励)寄付金など(200万円以上,2015年度分報告は100万円以上),寄付講座への所属,旅行・贈答品などの提供(5万円以上)の基準で申告した.
なお,申告対象とした企業などの団体に関しては,上記の規程にあるように,「医学研究に関連する企業・法人組織,営利を目的とした団体」のすべてとして申告した.
提出された申告書は日本神経学会COI委員会で審査され,一定以上のCOIが存在すると判断された場合には,日本神経学会代表理事から認知症疾患診療ガイドライン作成委員会委員長にその旨の連絡がなされた.該当した委員については,日本神経学会のCOI対応方針に基づいて,担当領域を配慮するとともに,関連領域の推奨度決定の判定に加わらないように配慮するなどの“COIマネジメント”を行った.COIで申告された企業等を以下に示す.
味の素株式会社,アステラス製薬株式会社,アストラゼネカ株式会社,株式会社医学書院,イセット株式会社,エーザイ株式会社,MSD株式会社,大塚製薬株式会社,小野薬品工業株式会社,協和発酵キリン株式会社,グラクソ・スミスクライン株式会社,興和創薬株式会社,社会医療法人康和会札幌しらかば台病院,医療法人社団誠仁会,第一三共株式会社,大日本住友製薬株式会社,武田薬品工業株式会社,中外製薬株式会社,日本ベーリンガーインゲルハイム株式会社,日本メジフィジックス株式会社,ノバルティスファーマ株式会社,バイエル薬品株式会社,ファイザー株式会社,持田製薬株式会社,株式会社モリモト医薬,ヤンセンファーマ株式会社
本ガイドラインの改訂作業経過,エビデンスレベル,推奨グレードの決定
第1回委員会を2014年9月に開催し,作成作業を開始した.まず,Mindsからの講師を迎えてガイドライン作成についてのMindsの作成方針を確認し,外部委員にも参加していただいて,委員会構成,作成方針やスケジュール,項目を決定し,分担などを決めた.SCOPEについて討議し,本ガイドラインがカバーする範囲は,認知症疾患の診断から治療・介護までとし,CQは医師がベストの診療方法を決定するうえでの参考資料となるように配慮して作成し,解説的な事項の記載はSCOPEで総論的事項として作成していくこととし,PICOを参考にCQを作成した.
その後,ガイドライン統括委員会において,今回のガイドラインの作成にあたっても簡潔な記載かつ日常診療の支援になるような内容であることが期待される旨が議論された.それを受けて,目次から読みたい内容に容易にたどり着けるような使いやすさといった従来型のガイドラインの利便性にも配慮することとした.当初,CQは重要臨床課題に限定し,臨床的特徴や疫学的特徴などは各項における序文的な扱いで記載する予定を考えた.しかし,それらについても読みたい記載箇所が容易にわかる従来の記載様式に準じて作成することになり,CQに準拠して項目立てをする方針に変更され,前回のガイドラインの書式に類似することになった.このため,総論的事項として記載した項・疾患と,総論的事項としての記載をせずすべてCQとして作成した項・疾患とが混在する形になった.今回は,前回版との連続性も考慮してこのようなガイドラインの記載様式になったが,次回のガイドライン改訂においては検討しなおす必要もあろうと思われる.
CQについてkey words(KW)を作成し,阿部信一先生(東京慈恵会医科大学学術情報センター)に依頼して文献検索を行った.文献検索は,前回のガイドラインが2008年までを行ったところから,今回の検索範囲は原則として2009年以降の文献を検索することとし,2015年5月~7月にかけて2015年4月までの文献について行った.このようにして得られた文献リストから,本小委員会委員・研究協力者のみならず,各委員から推薦された協力者の協力により評価シートが作成され,各アウトカムについてのエビデンス総体のエビデンスレベルを評価した.その過程で必ずしも十分な文献検索ができていないCQについては,KWの変更などにより必要に応じて再度の文献検索も適宜実施した.なお,ハンドサーチによる追加も委員会で必要と認めた文献については可とした.
システマティックレビューについて,定量的なシステマティックレビューを行う体制はいまだ十分でないところから,日本神経学会ガイドライン統括委員会の方針に従って,定量的なシステマティックレビューは努力目標として各委員の判断にて可能な範囲で実施することとし,系統的な文献検索を実施したうえで,これまでのガイドライン作成と同様に定性的なシステマティックレビューを主体に作業を進めることとした.そのシステマティックレビュー作業の協力者を,協力者一覧に示して感謝する.
エビデンスレベル評価については,個々の文献についてではなく,アウトカムごとにランダム化比較試験・観察研究などの研究デザインごとに,バイアスリスク,非直接性,非一貫性,不精確,出版バイアス等を考慮してエビデンス総体に対する評価を実施した.次回の改訂においては定量的なシステマティックレビューの実施を含めたシステマティックレビューの実施方法を十分に検討したうえで進められていくものと考える.なお,ガイドライン作成グループとは独立したシステマティックレビューチームの設立は現状では困難と考えられ,その設立は見送った.委員・研究協力者の担当領域を決め,CQ,推奨文や解説・エビデンス文の案を作成し,その案を委員会全体で議論して決定することにより作成作業を進めた.
エビデンスレベル,推奨グレードを表1に示す.推奨グレードとエビデンスレベルの組み合わせにより,「1A」=強い推奨,強い根拠,「1B」=強い推奨,中程度の根拠,「2C」=弱い推奨,弱い根拠,「2D」=弱い推奨,とても弱い根拠,といった表現で示した.また,推奨グレードを記載しないCQでもエビデンスレベルが記載できる場合には,エビデンスレベルを表示した.
このようにして作成した原稿について,評価・調整委員による査読を受けた.また,外部委員や患者会関係者にも原稿の査読を行っていただき,本ガイドライン作成委員会にも参加してもらい意見をいただいた.
2016年8月1~21日にパブリックコメントを求め,寄せられた意見について検討して修正を行った.それらの意見には,本ガイドラインの文献検索対象期間後となる2015年4月以後の文献,特にわが国からの文献に関する指摘もあり,本作成委員会で討議し,必要に応じてハンドサーチとして検索を追加して採用した.
本ガイドラインの内容・項目
今回のガイドラインにおいては継続性も重視し,前回の『認知症疾患治療ガイドライン2010』にほぼ準拠した.総論的な事項として,定義,疫学,症候,評価尺度,診断,検査,非薬物・薬物治療,せん妄・合併症への対応,危険因子,予防,軽度認知障害,重症度と重症度別対応,介護,社会資源,地域連携,倫理・法律的諸問題を取りあげた.また,認知症の原因疾患としての各論的事項としては,Alzheimer型認知症,Lewy小体型認知症,前頭側頭葉変性症(frontotemporal lobar degeneration;FTLD),進行性核上性麻痺(progressive supranuclear palsy;PSP),大脳皮質基底核変性症(corticobasal degeneration;CBD),嗜銀顆粒性認知症,神経原線維変化型老年期認知症,血管性認知症,プリオン病,内科的疾患を対象とした.
PSPやCBD,Huntington病については,運動症状などの管理も重要であるが,それらをすべて含めると本ガイドラインがさらに大部になるところから,前回と同様に認知機能障害に限定することとした.なお,運動症状などの認知機能以外の疾患全体としてのガイドラインは別に作成される予定で,2017年7月現在,作成作業が進行中である.
なお,分子病理学的な分類としてFTLDのなかにPSPやCBDを含めたものも示されているが,臨床症状などから臨床的には分けて捉える考え方もされており,また,指定難病としては前頭側頭葉変性症(FTLD),進行性核上性麻痺(PSP),大脳皮質基底核変性症(CBD)がそれぞれ別個に認定されているところから,本診療ガイドラインではこれらを類縁疾患として扱ってそれぞれ別項として記載した.一方,FTLDと前頭側頭型認知症(frontotemporal dementia;FTD),CBDと大脳皮質基底核症候群(corticobasal syndrome;CBS)との用語の問題などについては,それぞれの項の記載を参照いただきたい.
一方,プリオン病に関しても,『プリオン病診療ガイドライン2014』が別に作成されているところから,本ガイドラインでは『プリオン病診療ガイドライン2014』を引用しながら記載するに留めた.
前回のガイドライン発行後の評価に関するアンケートにおいて,ビタミン欠乏などによる内科的疾患についても取りあげてほしいとの意見もあったため,今回は,ビタミン欠乏症,甲状腺機能低下症,神経梅毒,肝性脳症,特発性正常圧水頭症(iNPH)を取りあげた.本ガイドラインにおいてこれらの疾患・項目を含めるべきかという点も含めて,次回の改訂の際には対象疾患について検討しなおす必要があろうと思われた.
治療薬,用語の記載について
用語については,基本的には前回の『認知症疾患治療ガイドライン2010』に従って使用した.
治療薬の記載
わが国で認知症診療において使用が認められている薬品や,わが国では認知症診療において保険使用が認められていなくても使用されている薬剤の薬品名はカタカナで記載した.海外でのみ使用されているがわが国では使用されていない薬品については英語表記とした.
「認知機能障害」,「認知症の行動・心理症状(BPSD)」
認知症の「中核症状」は「認知機能障害」とし,「周辺症状」は用いずに認知症に伴う行動異常および精神症状を「認知症の行動・心理症状(BPSD)」と呼ぶこととした.認知機能障害とBPSDを合わせたものを「認知症症状」とした.
重症度の記載
認知症の重症度についても,進行期の用語として「重度」と「高度」がほぼ同義に用いられている.『認知症疾患治療ガイドライン』2002年版,2010年版で「重度」が用いられていたこともあり,それらを踏襲して本ガイドラインでも「重度」を使用した.
発症時期に関する分類:「若年性認知症」
発症時期により若年期認知症,初老期認知症,老年期認知症や,若年性認知症,老人性認知症といった用語が使用されている.同じ用語が異なる年齢層を対象としている場合があるため,「若年性認知症」といった用語は用いないほうが望ましいとの指摘もある(日本認知症学会編:認知症テキストブック,2008).しかし,厚生労働省からの「若年性認知症施策」(2009年)やオレンジプラン・新オレンジプランなど,「若年性認知症」の用語が行政においても使用されている.これらの動きを受け,本ガイドラインでも65歳未満の発症例を若年性認知症と呼ぶこととした(「第5章:認知症の本人や家族を支えるための諸制度と社会資源C.若年性認知症」参照).
「Alzheimer病」,「Alzheimer型認知症」
「Alzheimer病」という用語はその病理学的状態を指したり,「Alzheimer病」による認知症症状が明らかになった段階での臨床症候群に対して用いられたりする.2011年,National Institute on AgingとAlzheimer’s Associationにより「Alzheimer病」は根底にある病態生理学的過程を包含する用語として定義され,「Alzheimer病」による認知症を示す臨床状態を「Alzheimer病認知症(Alzheimer Disease dementia)」として「Alzheimer病」とは区別する考えも示された.わが国では,以前から「Alzheimer病」によると考えられる認知症状態について「Alzheimer型認知症」が用いられている.そこで本ガイドラインでは,「Alzheimer病」という病理学的背景に基づいて生じたと考えられる認知症について「Alzheimer型認知症」の用語を用いた.なお,「Alzheimer病」によって生じたエビデンスが明らかにされた「Alzheimer病によるAlzheimer型認知症」と,臨床的特徴から診断された「Alzheimer型認知症」との使い分けについては,まだ臨床においては有用性が少ないと考えられ,今回は区別しないこととした.
Diagnostic and statistical manual of mental disorders, Fifth Edition(DSM-5)
2013年にはAmerican Psychiatric AssociationによりDSM-5が示され,「神経認知障害neurocognitive disorder」という表現が用いられるようになった.これには,「せん妄」や「major and mild neurocognitive disorder」が含まれる.この「major and mild neurocognitive disorder」の日本語訳としては,それぞれ,「認知症(DSM-5)」と「軽度認知障害(DSM-5)」を用いた.
「軽度認知障害」・「MCI」
本ガイドラインでは,「軽度認知障害」・「MCI」は「軽度認知障害」の用語を用いることとした.「MCI」については,現在,広く一般に使用されているところから,「軽度認知障害(MCI)」としてその記載も併記することとした.
その他
Senile dementia of the NFT type(SD-NFT)は神経原線維変化型老年期認知症,tangle-predominant senile dementia/NFT-predominant form of senile dementiaは神経原線維変化優位型老年期認知症,tangle only dementiaは神経原線維変化型認知症,primary age-related tauopathy(PART)は原発性年齢関連タウオパチーといった訳語を用いることとした.
一方,「遂行機能」と「実行機能」については,「遂行機能」に統一した.
なお,本ガイドラインの中で用いられる略語については351頁に略語表を掲載したので,そちらを参照いただきたい.
認知症診療における本診療ガイドラインの使用にあたって
本ガイドラインは,認知症診療の向上を目的として認知症の診療・ケアなどを支援するための参考資料を提供するものであり,現場の認知症診療を制約するものではない.今後の診療や研究の発展・変化,認知症者や認知症者を取り巻く環境は多様であり,それらは刻々と変わっていくと考えられる.本ガイドラインは臨床家の治療の裁量を制約するものではなく,診療現場における変化に対応した診療を規定するものでもない.時には本ガイドラインの推奨が該当しない場合もありうる.治療を担当する医師は本ガイドラインの記載から逸脱した治療を行うこともありうるし,その逸脱が妥当と考えられる場合もありうる.実際の治療にあたっては,本ガイドラインの記載内容に縛られることなく,1人ひとりの認知症者に合った個別的な対応の工夫が重要である.また,本ガイドラインの記載内容は医療訴訟などの根拠となるものでもない.
本ガイドラインの活用促進,次回改訂を含む今後の予定,評価について
本ガイドラインの活用促進に向けて,本ガイドライン作成に参加した各学会ホームページへの掲載,各学会の学術大会やその他の集会における講演,学術雑誌などによる記載により本ガイドラインの紹介や周知を行う予定である.
認知症疾患治療ガイドラインに関して,読者の利便性のために2002年版,2010年版についてコンパクト版が発行された.今回もこれまでと同様にコンパクト版の発行も検討されると思われる.また,日本神経学会では,他の診療ガイドラインの英語版も発行しており,認知症疾患診療ガイドラインについても英語版の発行について,その是非も含めて本ガイドライン作成委員会において今後議論されるものと考える.
今回のガイドライン発行後も新知見が報告されて追加や修正が必要と考えられた場合には,追加・修正CQについて追補版として作成し,学会ホームページに掲載される予定である.さらに,日本神経学会では診療ガイドラインを5年ごとに改訂する方針になっている.本ガイドライン作成委員会において次回の改訂や次期作成委員会について検討され,その検討結果について日本神経学会ガイドライン統括委員会に諮られる予定になるものと考える.
『認知症疾患治療ガイドライン』2002年版,2010年版については,日本神経学会に評価委員会が設けられてその評価を受けた.今回の『認知症疾患診療ガイドライン2017』についても,評価委員会による評価を受けることになると思われる.
本委員会委員,研究協力者への謝辞
今回のガイドライン改訂・作成作業は認知症関連6学会が合同で協力して進めた.本委員会に参加し,多忙ななか多大なご努力をいただいた本委員会委員・研究協力者の方々に感謝したい.本ガイドライン作成は,評価・調整委員や外部委員,協力者など,多くの協力者の方の支援により作業が進められた.これらの方々の協力にも,あらためて感謝する.また,本ガイドラインの作成にあたり,意見をいただいた認知症の人と家族の会東京支部の大野教子氏,松下より子氏に感謝する.さらに,パブリックコメントにおいて多くの貴重なコメントを寄せていただいた方々に深謝する次第である.作成にあたって,助言をいただいたMindsの方々にも深謝する.
2017年7月
日本神経学会認知症疾患診療ガイドライン作成委員会
委員長 中島健二
表1│エビデンスレベル・推奨グレード
神経疾患診療ガイドラインの発行にあたって
日本神経学会では,2001年に当時の柳澤信夫理事長の提唱に基づき,理事会で主要な神経疾患について治療ガイドラインを作成することを決定し,2002年に「慢性頭痛」,「パーキンソン病」,「てんかん」,「筋萎縮性側索硬化症」,「痴呆性疾患」,「脳卒中」の6疾患についての「治療ガイドライン2002」を発行しました.
「治療ガイドライン2002」の発行から時間が経過し,新しい知見も著しく増加したため,2008年の理事会(葛原茂樹前代表理事)で改訂を行うことを決定し,「治療ガイドライン2010」では,「慢性頭痛」(2013年発行),「認知症」(2010年発行),「てんかん」(2010年発行),「多発性硬化症」(2010年発行),「パーキンソン病」(2011年発行),「脳卒中」(2009年発行)の6疾患の治療ガイドライン作成委員会,および「遺伝子診断」(2009年発行)のガイドライン作成委員会が発足しました.
「治療ガイドライン2010」の作成にあたっては,本学会としてすべての治療ガイドラインについて一貫性のある作成委員会構成を行いました.利益相反に関して,このガイドライン作成に携わる作成委員会委員は,「日本神経学会利益相反自己申告書」を代表理事に提出し,日本神経学会による「利益相反状態についての承認」を得ました.また,代表理事のもとに統括委員会を置き,その下に各治療ガイドライン作成委員会を設置しました.この改訂治療ガイドラインでは,パーキンソン病を除く全疾患について,他学会との合同委員会で作成されました.
2009年から2011年にかけて発行された治療ガイドラインは,代表的な神経疾患に関するものでした.しかしその他の神経疾患でも治療ガイドラインの必要性が高まり,2011年の理事会で新たに6神経疾患の診療ガイドライン(ギラン・バレー症候群・フィッシャー症候群,慢性炎症性脱髄性多発根ニューロパチー・多巣性運動ニューロパチー,筋萎縮性側索硬化症,細菌性髄膜炎,デュシェンヌ型筋ジストロフィー,重症筋無力症)を,診断・検査を含めた「診療ガイドライン」として作成することが決定されました.これらは2013~2014年に発行され,「ガイドライン2013」として広く活用されています.
今回のガイドライン改訂・作成は2013年の理事会で,「遺伝子診断」(2009年発行),「てんかん」(2010年発行),「認知症疾患」(2010年発行),「多発性硬化症」(2010年発行),「パーキンソン病」(2011年発行)の改訂,「単純ヘルペス脳炎」と「ジストニア」の作成,2014年の理事会で「脊髄小脳変性症・多系統萎縮症診療ガイドライン」の作成が承認されたのを受けたものです.
これらのガイドライン改訂は従来同様,根拠に基づく医療(evidence-based medicine:EBM)の考え方に従い,「Minds診療ガイドライン作成の手引き」2007年版,および2014年版が作成に利用できたものに関しては2014年版に準拠して作成されました(2014年版準拠は多発性硬化症・視神経脊髄炎,パーキンソン病,てんかんの診療ガイドラインなど).2014年版では患者やメディカルスタッフもクリニカルクエスチョン作成に参加するGRADEシステムの導入を推奨しており,GRADEシステムは新しいガイドラインの一部にも導入されています.
診療ガイドラインは,画一的な診療を強制するものではありません.最も適切な診療は患者さんごとに異なり,医師の経験や考え方によっても診療内容は異なるかもしれません.診療ガイドラインは,医師がベストの診療方針を決定するうえでの参考としていただけるように,あくまで標準的な診療を科学的根拠に基づいて提示したものです.
神経疾患の治療も日進月歩で発展しており,診療ガイドラインは今後も定期的な改訂が必要となります.新しい診療ガイドラインが,学会員の皆様の日常診療の一助になることを心から願いますとともに,次期改訂に向けて,診療ガイドラインをさらによいものにするためのご評価,ご意見をお待ちしております.
2017年5月
日本神経学会
前代表理事 水澤 英洋
代表理事 高橋 良輔
前ガイドライン統括委員長 祖父江 元
ガイドライン統括委員長 亀井 聡
序
2002年に『痴呆疾患治療ガイドライン』が公開され,2010年に日本神経学会,日本神経治療学会,日本精神神経学会,日本認知症学会,日本老年医学会,日本老年精神医学会の6学会が協力して合同でclinical question(CQ)を用いた『認知症疾患治療ガイドライン2010』が作成された.その後,若干の新たな知見も加えて2012年に『認知症疾患治療ガイドライン2010 コンパクト版2012』を発刊した.その後も,ガイドラインの改訂について日本神経学会ガイドライン統括委員会において議論され,2014年に認知症ガイドラインを改訂することが決定された.
本ガイドラインの対象読者について
『認知症疾患診療ガイドライン2017』(以下,本ガイドライン)の読者対象は,2002年版,2010年版のガイドラインと同様に,原則として一般の医師を想定して作成した.ただし,医師以外の方々にも読まれることも念頭において作成作業を行った.
本ガイドラインの改訂作業の流れ
2014年に改訂が決定されて委員長が選出され,委員長所属施設に本ガイドライン作成事務局を設置した.前回のガイドラインと同様に上記の認知症関連6学会合同による改訂作業を行うこととして5学会に対して参加・協力の呼びかけを行い,6学会の会員からなる委員,研究協力者,評価・調整委員を選出した.本ガイドライン改訂作業の進め方などについても本委員会で協議して決定し,各委員がそれぞれの所属学会にも経過を還流しながら進めていくこととした.また,前回のガイドラインも「治療ガイドライン」ではあったが内容は診断も含んでいた.今回も前回と同様に治療に限定することなく,診断から治療まで認知症疾患の診療全体についてのガイドラインを作成することになり,「診療ガイドライン」として作成した.
日本神経学会ガイドライン統括委員会において,今回の改訂作業は,原則としてMinds 2014の方針に従って作成することとなったが,適宜,現状を踏まえた対応を行う方針とし,作成の具体的な方針は認知症疾患診療ガイドライン作成委員会での討議により決定して進めることとした.
上記の方針により本ガイドラインは,(1)CQ形式を用い,(2)ガイドライン作成の資金源を確認し,委員のCOIをマネジメントし,(3)文献検索を統一した方法で行い,(4)エビデンスレベルや推奨の強さを,Minds 2014を参考に議論し,(5)患者団体からの意見も聴取し,(6)推奨度の決定が困難で「推奨文」の作成がしにくいCQについては推奨度を記載しない「回答文」を作成することとし,(7)ガイドライン案については評価・調整委員や外部委員による査読を受けて意見を聴取し,(8)作成したガイドライン案を公開してパブリックコメントを求めた.そのうえで認知症疾患診療ガイドラインを最終化した.
資金源及び利益相反(conflict of interest:COI)
本ガイドライン作成に必要な資金は,日本神経学会の負担で行った.委員会開催の会議室経費や委員会出席のための交通費などの費用を負担し,原稿作成や会議参加などについての委員・研究協力者への報酬は支給しなかった.
「一般社団法人日本神経学会診療ガイドライン作成に関する規程」,「一般社団法人日本神経学会診療ガイドライン作成指針」,および「一般社団法人日本神経学会利益相反に係る委員会の設置および運用に関する規程」に基づき,適切なCOIマネジメントのもとに本ガイドラインの作成を行った.毎年,委員,研究協力者,評価・調整委員は以下の基準でCOI申告を日本神経学会代表理事に提出した.すなわち,役員報酬など(100万円以上),株式など(100万円以上,あるいは当該全株式の5パーセント以上),特許権使用料(100万円以上),講演料など(50万円以上),原稿料など(50万円以上),受託研究費,共同研究費など(200万円以上,2015年度分報告は100万円以上),奨学(奨励)寄付金など(200万円以上,2015年度分報告は100万円以上),寄付講座への所属,旅行・贈答品などの提供(5万円以上)の基準で申告した.
なお,申告対象とした企業などの団体に関しては,上記の規程にあるように,「医学研究に関連する企業・法人組織,営利を目的とした団体」のすべてとして申告した.
提出された申告書は日本神経学会COI委員会で審査され,一定以上のCOIが存在すると判断された場合には,日本神経学会代表理事から認知症疾患診療ガイドライン作成委員会委員長にその旨の連絡がなされた.該当した委員については,日本神経学会のCOI対応方針に基づいて,担当領域を配慮するとともに,関連領域の推奨度決定の判定に加わらないように配慮するなどの“COIマネジメント”を行った.COIで申告された企業等を以下に示す.
味の素株式会社,アステラス製薬株式会社,アストラゼネカ株式会社,株式会社医学書院,イセット株式会社,エーザイ株式会社,MSD株式会社,大塚製薬株式会社,小野薬品工業株式会社,協和発酵キリン株式会社,グラクソ・スミスクライン株式会社,興和創薬株式会社,社会医療法人康和会札幌しらかば台病院,医療法人社団誠仁会,第一三共株式会社,大日本住友製薬株式会社,武田薬品工業株式会社,中外製薬株式会社,日本ベーリンガーインゲルハイム株式会社,日本メジフィジックス株式会社,ノバルティスファーマ株式会社,バイエル薬品株式会社,ファイザー株式会社,持田製薬株式会社,株式会社モリモト医薬,ヤンセンファーマ株式会社
本ガイドラインの改訂作業経過,エビデンスレベル,推奨グレードの決定
第1回委員会を2014年9月に開催し,作成作業を開始した.まず,Mindsからの講師を迎えてガイドライン作成についてのMindsの作成方針を確認し,外部委員にも参加していただいて,委員会構成,作成方針やスケジュール,項目を決定し,分担などを決めた.SCOPEについて討議し,本ガイドラインがカバーする範囲は,認知症疾患の診断から治療・介護までとし,CQは医師がベストの診療方法を決定するうえでの参考資料となるように配慮して作成し,解説的な事項の記載はSCOPEで総論的事項として作成していくこととし,PICOを参考にCQを作成した.
その後,ガイドライン統括委員会において,今回のガイドラインの作成にあたっても簡潔な記載かつ日常診療の支援になるような内容であることが期待される旨が議論された.それを受けて,目次から読みたい内容に容易にたどり着けるような使いやすさといった従来型のガイドラインの利便性にも配慮することとした.当初,CQは重要臨床課題に限定し,臨床的特徴や疫学的特徴などは各項における序文的な扱いで記載する予定を考えた.しかし,それらについても読みたい記載箇所が容易にわかる従来の記載様式に準じて作成することになり,CQに準拠して項目立てをする方針に変更され,前回のガイドラインの書式に類似することになった.このため,総論的事項として記載した項・疾患と,総論的事項としての記載をせずすべてCQとして作成した項・疾患とが混在する形になった.今回は,前回版との連続性も考慮してこのようなガイドラインの記載様式になったが,次回のガイドライン改訂においては検討しなおす必要もあろうと思われる.
CQについてkey words(KW)を作成し,阿部信一先生(東京慈恵会医科大学学術情報センター)に依頼して文献検索を行った.文献検索は,前回のガイドラインが2008年までを行ったところから,今回の検索範囲は原則として2009年以降の文献を検索することとし,2015年5月~7月にかけて2015年4月までの文献について行った.このようにして得られた文献リストから,本小委員会委員・研究協力者のみならず,各委員から推薦された協力者の協力により評価シートが作成され,各アウトカムについてのエビデンス総体のエビデンスレベルを評価した.その過程で必ずしも十分な文献検索ができていないCQについては,KWの変更などにより必要に応じて再度の文献検索も適宜実施した.なお,ハンドサーチによる追加も委員会で必要と認めた文献については可とした.
システマティックレビューについて,定量的なシステマティックレビューを行う体制はいまだ十分でないところから,日本神経学会ガイドライン統括委員会の方針に従って,定量的なシステマティックレビューは努力目標として各委員の判断にて可能な範囲で実施することとし,系統的な文献検索を実施したうえで,これまでのガイドライン作成と同様に定性的なシステマティックレビューを主体に作業を進めることとした.そのシステマティックレビュー作業の協力者を,協力者一覧に示して感謝する.
エビデンスレベル評価については,個々の文献についてではなく,アウトカムごとにランダム化比較試験・観察研究などの研究デザインごとに,バイアスリスク,非直接性,非一貫性,不精確,出版バイアス等を考慮してエビデンス総体に対する評価を実施した.次回の改訂においては定量的なシステマティックレビューの実施を含めたシステマティックレビューの実施方法を十分に検討したうえで進められていくものと考える.なお,ガイドライン作成グループとは独立したシステマティックレビューチームの設立は現状では困難と考えられ,その設立は見送った.委員・研究協力者の担当領域を決め,CQ,推奨文や解説・エビデンス文の案を作成し,その案を委員会全体で議論して決定することにより作成作業を進めた.
エビデンスレベル,推奨グレードを表1に示す.推奨グレードとエビデンスレベルの組み合わせにより,「1A」=強い推奨,強い根拠,「1B」=強い推奨,中程度の根拠,「2C」=弱い推奨,弱い根拠,「2D」=弱い推奨,とても弱い根拠,といった表現で示した.また,推奨グレードを記載しないCQでもエビデンスレベルが記載できる場合には,エビデンスレベルを表示した.
このようにして作成した原稿について,評価・調整委員による査読を受けた.また,外部委員や患者会関係者にも原稿の査読を行っていただき,本ガイドライン作成委員会にも参加してもらい意見をいただいた.
2016年8月1~21日にパブリックコメントを求め,寄せられた意見について検討して修正を行った.それらの意見には,本ガイドラインの文献検索対象期間後となる2015年4月以後の文献,特にわが国からの文献に関する指摘もあり,本作成委員会で討議し,必要に応じてハンドサーチとして検索を追加して採用した.
本ガイドラインの内容・項目
今回のガイドラインにおいては継続性も重視し,前回の『認知症疾患治療ガイドライン2010』にほぼ準拠した.総論的な事項として,定義,疫学,症候,評価尺度,診断,検査,非薬物・薬物治療,せん妄・合併症への対応,危険因子,予防,軽度認知障害,重症度と重症度別対応,介護,社会資源,地域連携,倫理・法律的諸問題を取りあげた.また,認知症の原因疾患としての各論的事項としては,Alzheimer型認知症,Lewy小体型認知症,前頭側頭葉変性症(frontotemporal lobar degeneration;FTLD),進行性核上性麻痺(progressive supranuclear palsy;PSP),大脳皮質基底核変性症(corticobasal degeneration;CBD),嗜銀顆粒性認知症,神経原線維変化型老年期認知症,血管性認知症,プリオン病,内科的疾患を対象とした.
PSPやCBD,Huntington病については,運動症状などの管理も重要であるが,それらをすべて含めると本ガイドラインがさらに大部になるところから,前回と同様に認知機能障害に限定することとした.なお,運動症状などの認知機能以外の疾患全体としてのガイドラインは別に作成される予定で,2017年7月現在,作成作業が進行中である.
なお,分子病理学的な分類としてFTLDのなかにPSPやCBDを含めたものも示されているが,臨床症状などから臨床的には分けて捉える考え方もされており,また,指定難病としては前頭側頭葉変性症(FTLD),進行性核上性麻痺(PSP),大脳皮質基底核変性症(CBD)がそれぞれ別個に認定されているところから,本診療ガイドラインではこれらを類縁疾患として扱ってそれぞれ別項として記載した.一方,FTLDと前頭側頭型認知症(frontotemporal dementia;FTD),CBDと大脳皮質基底核症候群(corticobasal syndrome;CBS)との用語の問題などについては,それぞれの項の記載を参照いただきたい.
一方,プリオン病に関しても,『プリオン病診療ガイドライン2014』が別に作成されているところから,本ガイドラインでは『プリオン病診療ガイドライン2014』を引用しながら記載するに留めた.
前回のガイドライン発行後の評価に関するアンケートにおいて,ビタミン欠乏などによる内科的疾患についても取りあげてほしいとの意見もあったため,今回は,ビタミン欠乏症,甲状腺機能低下症,神経梅毒,肝性脳症,特発性正常圧水頭症(iNPH)を取りあげた.本ガイドラインにおいてこれらの疾患・項目を含めるべきかという点も含めて,次回の改訂の際には対象疾患について検討しなおす必要があろうと思われた.
治療薬,用語の記載について
用語については,基本的には前回の『認知症疾患治療ガイドライン2010』に従って使用した.
治療薬の記載
わが国で認知症診療において使用が認められている薬品や,わが国では認知症診療において保険使用が認められていなくても使用されている薬剤の薬品名はカタカナで記載した.海外でのみ使用されているがわが国では使用されていない薬品については英語表記とした.
「認知機能障害」,「認知症の行動・心理症状(BPSD)」
認知症の「中核症状」は「認知機能障害」とし,「周辺症状」は用いずに認知症に伴う行動異常および精神症状を「認知症の行動・心理症状(BPSD)」と呼ぶこととした.認知機能障害とBPSDを合わせたものを「認知症症状」とした.
重症度の記載
認知症の重症度についても,進行期の用語として「重度」と「高度」がほぼ同義に用いられている.『認知症疾患治療ガイドライン』2002年版,2010年版で「重度」が用いられていたこともあり,それらを踏襲して本ガイドラインでも「重度」を使用した.
発症時期に関する分類:「若年性認知症」
発症時期により若年期認知症,初老期認知症,老年期認知症や,若年性認知症,老人性認知症といった用語が使用されている.同じ用語が異なる年齢層を対象としている場合があるため,「若年性認知症」といった用語は用いないほうが望ましいとの指摘もある(日本認知症学会編:認知症テキストブック,2008).しかし,厚生労働省からの「若年性認知症施策」(2009年)やオレンジプラン・新オレンジプランなど,「若年性認知症」の用語が行政においても使用されている.これらの動きを受け,本ガイドラインでも65歳未満の発症例を若年性認知症と呼ぶこととした(「第5章:認知症の本人や家族を支えるための諸制度と社会資源C.若年性認知症」参照).
「Alzheimer病」,「Alzheimer型認知症」
「Alzheimer病」という用語はその病理学的状態を指したり,「Alzheimer病」による認知症症状が明らかになった段階での臨床症候群に対して用いられたりする.2011年,National Institute on AgingとAlzheimer’s Associationにより「Alzheimer病」は根底にある病態生理学的過程を包含する用語として定義され,「Alzheimer病」による認知症を示す臨床状態を「Alzheimer病認知症(Alzheimer Disease dementia)」として「Alzheimer病」とは区別する考えも示された.わが国では,以前から「Alzheimer病」によると考えられる認知症状態について「Alzheimer型認知症」が用いられている.そこで本ガイドラインでは,「Alzheimer病」という病理学的背景に基づいて生じたと考えられる認知症について「Alzheimer型認知症」の用語を用いた.なお,「Alzheimer病」によって生じたエビデンスが明らかにされた「Alzheimer病によるAlzheimer型認知症」と,臨床的特徴から診断された「Alzheimer型認知症」との使い分けについては,まだ臨床においては有用性が少ないと考えられ,今回は区別しないこととした.
Diagnostic and statistical manual of mental disorders, Fifth Edition(DSM-5)
2013年にはAmerican Psychiatric AssociationによりDSM-5が示され,「神経認知障害neurocognitive disorder」という表現が用いられるようになった.これには,「せん妄」や「major and mild neurocognitive disorder」が含まれる.この「major and mild neurocognitive disorder」の日本語訳としては,それぞれ,「認知症(DSM-5)」と「軽度認知障害(DSM-5)」を用いた.
「軽度認知障害」・「MCI」
本ガイドラインでは,「軽度認知障害」・「MCI」は「軽度認知障害」の用語を用いることとした.「MCI」については,現在,広く一般に使用されているところから,「軽度認知障害(MCI)」としてその記載も併記することとした.
その他
Senile dementia of the NFT type(SD-NFT)は神経原線維変化型老年期認知症,tangle-predominant senile dementia/NFT-predominant form of senile dementiaは神経原線維変化優位型老年期認知症,tangle only dementiaは神経原線維変化型認知症,primary age-related tauopathy(PART)は原発性年齢関連タウオパチーといった訳語を用いることとした.
一方,「遂行機能」と「実行機能」については,「遂行機能」に統一した.
なお,本ガイドラインの中で用いられる略語については351頁に略語表を掲載したので,そちらを参照いただきたい.
認知症診療における本診療ガイドラインの使用にあたって
本ガイドラインは,認知症診療の向上を目的として認知症の診療・ケアなどを支援するための参考資料を提供するものであり,現場の認知症診療を制約するものではない.今後の診療や研究の発展・変化,認知症者や認知症者を取り巻く環境は多様であり,それらは刻々と変わっていくと考えられる.本ガイドラインは臨床家の治療の裁量を制約するものではなく,診療現場における変化に対応した診療を規定するものでもない.時には本ガイドラインの推奨が該当しない場合もありうる.治療を担当する医師は本ガイドラインの記載から逸脱した治療を行うこともありうるし,その逸脱が妥当と考えられる場合もありうる.実際の治療にあたっては,本ガイドラインの記載内容に縛られることなく,1人ひとりの認知症者に合った個別的な対応の工夫が重要である.また,本ガイドラインの記載内容は医療訴訟などの根拠となるものでもない.
本ガイドラインの活用促進,次回改訂を含む今後の予定,評価について
本ガイドラインの活用促進に向けて,本ガイドライン作成に参加した各学会ホームページへの掲載,各学会の学術大会やその他の集会における講演,学術雑誌などによる記載により本ガイドラインの紹介や周知を行う予定である.
認知症疾患治療ガイドラインに関して,読者の利便性のために2002年版,2010年版についてコンパクト版が発行された.今回もこれまでと同様にコンパクト版の発行も検討されると思われる.また,日本神経学会では,他の診療ガイドラインの英語版も発行しており,認知症疾患診療ガイドラインについても英語版の発行について,その是非も含めて本ガイドライン作成委員会において今後議論されるものと考える.
今回のガイドライン発行後も新知見が報告されて追加や修正が必要と考えられた場合には,追加・修正CQについて追補版として作成し,学会ホームページに掲載される予定である.さらに,日本神経学会では診療ガイドラインを5年ごとに改訂する方針になっている.本ガイドライン作成委員会において次回の改訂や次期作成委員会について検討され,その検討結果について日本神経学会ガイドライン統括委員会に諮られる予定になるものと考える.
『認知症疾患治療ガイドライン』2002年版,2010年版については,日本神経学会に評価委員会が設けられてその評価を受けた.今回の『認知症疾患診療ガイドライン2017』についても,評価委員会による評価を受けることになると思われる.
本委員会委員,研究協力者への謝辞
今回のガイドライン改訂・作成作業は認知症関連6学会が合同で協力して進めた.本委員会に参加し,多忙ななか多大なご努力をいただいた本委員会委員・研究協力者の方々に感謝したい.本ガイドライン作成は,評価・調整委員や外部委員,協力者など,多くの協力者の方の支援により作業が進められた.これらの方々の協力にも,あらためて感謝する.また,本ガイドラインの作成にあたり,意見をいただいた認知症の人と家族の会東京支部の大野教子氏,松下より子氏に感謝する.さらに,パブリックコメントにおいて多くの貴重なコメントを寄せていただいた方々に深謝する次第である.作成にあたって,助言をいただいたMindsの方々にも深謝する.
2017年7月
日本神経学会認知症疾患診療ガイドライン作成委員会
委員長 中島健二
表1│エビデンスレベル・推奨グレード
推奨グレード | |
1(強い) | 「実施する」,または,「実施しない」ことを推奨する |
2(弱い) | 「実施する」,または,「実施しない」ことを提案する |
エビデンス総体としての強さ | |
A | 強 |
B | 中 |
C | 弱 |
D | とても弱い |
目次
開く
神経疾患診療ガイドラインの発行にあたって
序
総論
第1章 認知症全般:疫学,定義,用語
[CQ1-1]認知症の診断基準にはどのようなものがあるか
[CQ1-2]認知症に関連する用語にはどのようなものがあるか
[CQ1-3]認知症の原因にはどのようなものがあり,どのように分類するか
[CQ1-4]認知症と区別すべき病態にはどのようなものがあるか
[CQ1-5]わが国における認知症の有病率はどの程度か
[CQ1-6]認知症の病型による割合は変化しているか
[CQ1-7]認知症の罹病期間は伸びているか
[CQ1-8]認知症の病理学的背景にはどのようなものがあるか
第2章 症候,評価尺度,診断,検査
[CQ2-1]認知症で認められる認知機能障害にはどのようなものがあるか
[CQ2-2]認知症の行動・心理症状(BPSD)にはどのようなものがあるか
[CQ2-3]認知症の認知機能障害を評価する際に有用な評価尺度と
実施上の注意点は何か
[CQ2-4]認知症の行動・心理症状(BPSD),日常生活動作(ADL),
全般的重症度を評価する際に有用な評価尺度と実施上の注意点は何か
[CQ2-5]認知症者のQOLはどのようにして評価されるか
[CQ2-6]原発性進行性失語(PPA)の分類と評価はどのように行うか
[CQ2-7]認知症の診断と鑑別はどのように行うか
[CQ2-8]認知症の画像検査はどのように進めるか
[CQ2-9]認知症の診断に有用な血液・脳脊髄液検査は何か
[CQ2-10]認知症の診断の際に留意すべき身体的・神経学的所見は何か
[CQ2-11]認知症の診断に影響を及ぼす薬剤はどのようなものがあるか
[CQ2-12]認知症の診断に有用な遺伝子検査はあるか
第3章 治療
A.治療総論
[CQ3A-1]認知症診断後の介入,サポートはどうあるべきか
[CQ3A-2]認知症の治療の際には薬物療法・非薬物療法・ケアを
どのように施行するか
[CQ3A-3]高齢の認知症者への薬物療法の注意点と原則は何か
[CQ3A-4]向精神薬による治療の有害事象〔転倒,日常生活動作(ADL)低下,
認知機能低下,誤嚥性肺炎など〕には何があるか
[CQ3A-5]認知症の薬物療法にはどのような治療の手順があるか
[CQ3A-6]コリンエステラーゼ阻害薬,NMDA受容体拮抗薬の有害事象と
それに対する対応はどのように行うか
[CQ3A-7-1]認知症の非薬物療法にはどのようなものがあるか
[CQ3A-7-2]認知症の非薬物療法はどのような症状に効果があるか
B.認知症の行動・心理症状(BPSD)の治療
[CQ3B-1]不安に有効な非薬物療法・薬物療法は何か
[CQ3B-2]焦燥性興奮に有効な非薬物療法・薬物療法は何か
[CQ3B-3]幻覚・妄想に有効な非薬物療法・薬物療法は何か
[CQ3B-4]うつ症状に有効な非薬物療法・薬物療法は何か
[CQ3B-5]徘徊,性的逸脱行動,暴力,不穏に有効な非薬物療法・薬物療法は何か
[CQ3B-6](レム期睡眠行動異常症を除く)睡眠障害に有効な
非薬物療法・薬物療法は何か
[CQ3B-7]アパシーに有効な非薬物療法・薬物療法は何か
C.合併症への対応
[CQ3C-1]せん妄の治療はどのように行うか
[CQ3C-2]認知症者のけいれんを含めたてんかんの対応はどのように行うか
[CQ3C-3]嚥下障害の対応(誤嚥性肺炎の予防を含む)はどのように行うか
[CQ3C-4]摂食障害・低栄養の対応はどのように行うか
[CQ3C-5]サルコペニア,フレイルの対応はどのように行うか
[CQ3C-6]転倒・骨折の対応・予防はどのように行うか
[CQ3C-7]褥瘡への対応はどのように行うか
[CQ3C-8]急性の身体疾患では,どのような点に注意するか
[CQ3C-9]透析・歯科治療など侵襲的な検査・治療はどのように判断するか
[CQ3C-10]浮腫の対応はどのように行うか
[CQ3C-11]排尿障害の対応はどのように行うか
[CQ3C-12]便秘の対応はどのように行うか
[CQ3C-13]糖尿病,高血圧など生活習慣病をどう管理するか
第4章 経過と治療
A.認知症の危険因子・防御因子
[CQ4A-1]認知症の危険因子・防御因子にはどのようなものがあるか
[CQ4A-2]高血圧の管理,降圧薬は認知症予防に有効か
[CQ4A-3]糖尿病のコントロールは認知症予防に有効か
[CQ4A-4]脂質異常症治療は認知症予防に有効か
[CQ4A-5]メタボリック症候群は認知症を増悪させるか
[CQ4A-6]喫煙は認知症を増悪させるか
[CQ4A-7]運動は認知症予防に有効か
[CQ4A-8]余暇活動・社会的参加・精神活動・認知機能訓練・音楽など
芸術活動は認知症の予防や高齢者の認知機能低下の予防に有効か
[CQ4A-9]認知症と関連する食事因子はあるか
[CQ4A-10]適度な飲酒は認知機能の低下や認知症の予防に有効か
[CQ4A-11]睡眠時無呼吸症候群は認知機能を悪化させるか
[CQ4A-12]うつ病と双極性障害は認知症の危険因子か
B.軽度認知障害
[CQ4B-1]軽度認知障害(MCI)の有病率および罹患率はどのようなものか
[CQ4B-2]軽度認知障害(MCI)から認知症へのコンバート率
およびリバート率はどのようなものか
[CQ4B-3]軽度認知障害(MCI)のコンバート予測に有用な
バイオマーカーは何か
[CQ4B-4]軽度認知障害(MCI)を疑う場合にはどのような
評価尺度が推奨されるか
[CQ4B-5]軽度認知障害(MCI)の診断はどう行うか
[CQ4B-6]軽度認知障害(MCI)から認知症への進行を予防する方法はあるか
[CQ4B-7]軽度認知障害(MCI)者に対する指導・支援には
どのようなものがあるか
C.重症度と重症度別対応
[CQ4C-1]軽度・中等度認知症者への指導・支援にはどのようなものがあるか
[CQ4C-2]軽度・中等度認知症者の介護者への指導・支援には
どのようなものがあるか
[CQ4C-3]重度認知症者への指導・支援にはどのようなものがあるか
[CQ4C-4]重度認知症者の介護者への指導・支援にはどのようなものがあるか
[CQ4C-5]認知症者の終末期の医療およびケアはどうあるべきか
第5章 認知症の本人や家族を支えるための諸制度と社会資源
A.認知症者の医療・介護を支えるための諸制度と社会資源
[CQ5A-1]認知症疾患医療センターの機能と役割は何か
[CQ5A-2]認知症サポート医の役割は何か
[CQ5A-3]介護保険制度の認知症者,介護者への役割は何か
[CQ5A-4]地域包括支援センターの機能と役割は何か
[CQ5A-5]認知症初期集中支援チームの機能と役割は何か
B.認知症者の権利擁護
[CQ5B-1]認知症者の判断能力や意思決定能力を評価することは可能か
[CQ5B-2]成年後見制度は,認知症者の権利擁護にどのように活用されているか
[CQ5B-3]高齢者虐待防止法は,認知症者の虐待防止にどのように
役立てられているか
C.若年性認知症
[CQ5C-1]若年性認知症とは何か
[CQ5C-2]若年性認知症者の経済的課題についての支援制度には
どのようなものがあるか
[CQ5C-3]若年性認知症者の生活支援に利用できる制度には
どのようなものがあるか
[CQ5C-4]若年性認知症者の相談支援にはどのようなものがあるか
D.道路交通法
[CQ5D-1]認知症と診断された人が自動車免許を保持し,
現在も自動車運転をしていることが明らかになった場合には,
どのような対応が望ましいか
各論
第6章 Alzheimer型認知症
[CQ6-1]Alzheimer型認知症の精神神経症候の特徴と診断のポイントは何か
[CQ6-2]Alzheimer型認知症の診断基準は何か
[CQ6-3]Alzheimer型認知症の画像所見の特徴は何か
[CQ6-4]Alzheimer型認知症の診断にAPOE遺伝子検査は有用か
[CQ6-5]Alzheimer型認知症の診断に有用なバイオマーカーは何か
[CQ6-6]Alzheimer型認知症の診断にアミロイドPET検査は有用か
[CQ6-7]Alzheimer型認知症の薬物療法と治療アルゴリズムは何か
[CQ6-8]Alzheimer型認知症の非薬物療法の効果は
[CQ6-9]Alzheimer型認知症のケアのポイントは何か
[CQ6-10]Alzheimer型認知症の社会的支援にはどのようなものがあるか
第7章 Lewy小体型認知症
[CQ7-1]Lewy小体型認知症(DLB)の診断基準と早期診断のポイントは何か
[CQ7-2]Lewy小体型認知症(DLB)と認知症を伴う
Parkinson病(PDD)の臨床・病理学的異同は何か
[CQ7-3]Lewy小体型認知症(DLB)の検査・画像所見の特徴は何か
[CQ7-4]Lewy小体型認知症(DLB)の経過と予後はどのようなものか
[CQ7-5]Lewy小体型認知症(DLB)に対する治療方針はどのように立てるか
[CQ7-6]Lewy小体型認知症(DLB)の認知機能障害の薬物療法はあるか
[CQ7-7]Lewy小体型認知症(DLB)の行動・心理症状(BPSD),
レム期睡眠行動異常症(RBD)に対する治療はあるか
[CQ7-8]Lewy小体型認知症(DLB)の自律神経症状(起立性低血圧,
便秘,発汗,排尿障害など)の治療はあるか
[CQ7-9]Lewy小体型認知症(DLB)のパーキンソニズムの治療は
どのようなものか
[CQ7-10]Lewy小体型認知症(DLB)の非薬物的介入には
どのようなものがあるか
第8章 前頭側頭葉変性症
[CQ8-1]前頭側頭葉変性症(FTLD)の診断のポイントと診断基準は何か
[CQ8-2]前頭側頭葉変性症(FTLD)の画像所見の特徴は何か
[CQ8-3]前頭側頭葉変性症(FTLD)に対する有効な薬物療法はあるか
[CQ8-4]前頭側頭葉変性症(FTLD)に対する有効な非薬物療法はあるか
[CQ8-5]前頭側頭葉変性症(FTLD)患者の家族や介護者に対して
どう指導したらよいか
第9章 進行性核上性麻痺
[CQ9-1]進行性核上性麻痺(PSP)の認知症症状の特徴は何か
[CQ9-2]進行性核上性麻痺(PSP)の認知機能障害に有用な治療法はあるか
第10章 大脳皮質基底核変性症
[CQ10-1]大脳皮質基底核変性症(CBD)の認知機能障害の特徴と検査法は何か
[CQ10-2]大脳皮質基底核変性症(CBD)の認知機能障害に対する
有効な薬物療法・非薬物療法はあるか
第11章 嗜銀顆粒性認知症
[CQ11-1]嗜銀顆粒病(AGD)の頻度はどのようなものか
[CQ11-2]嗜銀顆粒性認知症の臨床的診断はどのようにして行うか
[CQ11-3]嗜銀顆粒性認知症の治療法はどのようなものか
第12章 神経原線維変化型老年期認知症
[CQ12-1]神経原線維変化型老年期認知症(SD-NFT)とはどのような疾患か
第13章 Huntington病
[CQ13-1]Huntington病の認知症症状の特徴と診断は何か
第14章 血管性認知症
[CQ14-1]血管性認知症(VaD)の診断基準はどのようなものか
[CQ14-2]血管性認知症(VaD)のタイプ別分類はどのようなものか
[CQ14-3]血管性認知症(VaD)の画像所見の特徴は何か
[CQ14-4]血管性認知症(VaD)とAlzheimer型認知症の合併はどのようなものか
[CQ14-5]血管性認知症(VaD)の経過と予後はどのようなものか
[CQ14-6]血管性認知症(VaD)の全身性合併症・随伴症状には
どのようなものがあるか
[CQ14-7]血管性認知症(VaD)の危険因子とその管理はどのようなものか
[CQ14-8]血管性認知症(VaD)における抗血栓療法はどのようなものか
[CQ14-9]血管性認知症(VaD)の認知機能障害に有効な薬物はあるか
[CQ14-10]脳アミロイド血管症(CAA)の位置づけはどのようなものか
第15章 プリオン病
[CQ15-1]孤発性Creutzfeldt-Jakob病(CJD)の臨床的特徴は何か
[CQ15-2]孤発性Creutzfeldt-Jakob病(CJD)の脳波,脳脊髄液,
MRI所見はどのようなものか
[CQ15-3]わが国に多い遺伝性プリオン病の種類と特徴は何か
[CQ15-4]わが国に多い獲得性(感染性)プリオン病の種類と特徴は何か
[CQ15-5]プリオン病の感染対策と有効な滅菌方法は何か
第16章 内科的疾患等
[CQ16-1]ビタミン欠乏症による認知機能低下の特徴は何か
[CQ16-2]甲状腺機能低下症による認知機能低下の特徴は何か
[CQ16-3]神経梅毒による認知機能低下の特徴は何か
[CQ16-4]肝性脳症(HE)による認知機能低下の特徴は何か
[CQ16-5]特発性正常圧水頭症(iNPH)の認知症症状の特徴と
診断および治療方針はどのようなものか
略語一覧
索引
序
総論
第1章 認知症全般:疫学,定義,用語
[CQ1-1]認知症の診断基準にはどのようなものがあるか
[CQ1-2]認知症に関連する用語にはどのようなものがあるか
[CQ1-3]認知症の原因にはどのようなものがあり,どのように分類するか
[CQ1-4]認知症と区別すべき病態にはどのようなものがあるか
[CQ1-5]わが国における認知症の有病率はどの程度か
[CQ1-6]認知症の病型による割合は変化しているか
[CQ1-7]認知症の罹病期間は伸びているか
[CQ1-8]認知症の病理学的背景にはどのようなものがあるか
第2章 症候,評価尺度,診断,検査
[CQ2-1]認知症で認められる認知機能障害にはどのようなものがあるか
[CQ2-2]認知症の行動・心理症状(BPSD)にはどのようなものがあるか
[CQ2-3]認知症の認知機能障害を評価する際に有用な評価尺度と
実施上の注意点は何か
[CQ2-4]認知症の行動・心理症状(BPSD),日常生活動作(ADL),
全般的重症度を評価する際に有用な評価尺度と実施上の注意点は何か
[CQ2-5]認知症者のQOLはどのようにして評価されるか
[CQ2-6]原発性進行性失語(PPA)の分類と評価はどのように行うか
[CQ2-7]認知症の診断と鑑別はどのように行うか
[CQ2-8]認知症の画像検査はどのように進めるか
[CQ2-9]認知症の診断に有用な血液・脳脊髄液検査は何か
[CQ2-10]認知症の診断の際に留意すべき身体的・神経学的所見は何か
[CQ2-11]認知症の診断に影響を及ぼす薬剤はどのようなものがあるか
[CQ2-12]認知症の診断に有用な遺伝子検査はあるか
第3章 治療
A.治療総論
[CQ3A-1]認知症診断後の介入,サポートはどうあるべきか
[CQ3A-2]認知症の治療の際には薬物療法・非薬物療法・ケアを
どのように施行するか
[CQ3A-3]高齢の認知症者への薬物療法の注意点と原則は何か
[CQ3A-4]向精神薬による治療の有害事象〔転倒,日常生活動作(ADL)低下,
認知機能低下,誤嚥性肺炎など〕には何があるか
[CQ3A-5]認知症の薬物療法にはどのような治療の手順があるか
[CQ3A-6]コリンエステラーゼ阻害薬,NMDA受容体拮抗薬の有害事象と
それに対する対応はどのように行うか
[CQ3A-7-1]認知症の非薬物療法にはどのようなものがあるか
[CQ3A-7-2]認知症の非薬物療法はどのような症状に効果があるか
B.認知症の行動・心理症状(BPSD)の治療
[CQ3B-1]不安に有効な非薬物療法・薬物療法は何か
[CQ3B-2]焦燥性興奮に有効な非薬物療法・薬物療法は何か
[CQ3B-3]幻覚・妄想に有効な非薬物療法・薬物療法は何か
[CQ3B-4]うつ症状に有効な非薬物療法・薬物療法は何か
[CQ3B-5]徘徊,性的逸脱行動,暴力,不穏に有効な非薬物療法・薬物療法は何か
[CQ3B-6](レム期睡眠行動異常症を除く)睡眠障害に有効な
非薬物療法・薬物療法は何か
[CQ3B-7]アパシーに有効な非薬物療法・薬物療法は何か
C.合併症への対応
[CQ3C-1]せん妄の治療はどのように行うか
[CQ3C-2]認知症者のけいれんを含めたてんかんの対応はどのように行うか
[CQ3C-3]嚥下障害の対応(誤嚥性肺炎の予防を含む)はどのように行うか
[CQ3C-4]摂食障害・低栄養の対応はどのように行うか
[CQ3C-5]サルコペニア,フレイルの対応はどのように行うか
[CQ3C-6]転倒・骨折の対応・予防はどのように行うか
[CQ3C-7]褥瘡への対応はどのように行うか
[CQ3C-8]急性の身体疾患では,どのような点に注意するか
[CQ3C-9]透析・歯科治療など侵襲的な検査・治療はどのように判断するか
[CQ3C-10]浮腫の対応はどのように行うか
[CQ3C-11]排尿障害の対応はどのように行うか
[CQ3C-12]便秘の対応はどのように行うか
[CQ3C-13]糖尿病,高血圧など生活習慣病をどう管理するか
第4章 経過と治療
A.認知症の危険因子・防御因子
[CQ4A-1]認知症の危険因子・防御因子にはどのようなものがあるか
[CQ4A-2]高血圧の管理,降圧薬は認知症予防に有効か
[CQ4A-3]糖尿病のコントロールは認知症予防に有効か
[CQ4A-4]脂質異常症治療は認知症予防に有効か
[CQ4A-5]メタボリック症候群は認知症を増悪させるか
[CQ4A-6]喫煙は認知症を増悪させるか
[CQ4A-7]運動は認知症予防に有効か
[CQ4A-8]余暇活動・社会的参加・精神活動・認知機能訓練・音楽など
芸術活動は認知症の予防や高齢者の認知機能低下の予防に有効か
[CQ4A-9]認知症と関連する食事因子はあるか
[CQ4A-10]適度な飲酒は認知機能の低下や認知症の予防に有効か
[CQ4A-11]睡眠時無呼吸症候群は認知機能を悪化させるか
[CQ4A-12]うつ病と双極性障害は認知症の危険因子か
B.軽度認知障害
[CQ4B-1]軽度認知障害(MCI)の有病率および罹患率はどのようなものか
[CQ4B-2]軽度認知障害(MCI)から認知症へのコンバート率
およびリバート率はどのようなものか
[CQ4B-3]軽度認知障害(MCI)のコンバート予測に有用な
バイオマーカーは何か
[CQ4B-4]軽度認知障害(MCI)を疑う場合にはどのような
評価尺度が推奨されるか
[CQ4B-5]軽度認知障害(MCI)の診断はどう行うか
[CQ4B-6]軽度認知障害(MCI)から認知症への進行を予防する方法はあるか
[CQ4B-7]軽度認知障害(MCI)者に対する指導・支援には
どのようなものがあるか
C.重症度と重症度別対応
[CQ4C-1]軽度・中等度認知症者への指導・支援にはどのようなものがあるか
[CQ4C-2]軽度・中等度認知症者の介護者への指導・支援には
どのようなものがあるか
[CQ4C-3]重度認知症者への指導・支援にはどのようなものがあるか
[CQ4C-4]重度認知症者の介護者への指導・支援にはどのようなものがあるか
[CQ4C-5]認知症者の終末期の医療およびケアはどうあるべきか
第5章 認知症の本人や家族を支えるための諸制度と社会資源
A.認知症者の医療・介護を支えるための諸制度と社会資源
[CQ5A-1]認知症疾患医療センターの機能と役割は何か
[CQ5A-2]認知症サポート医の役割は何か
[CQ5A-3]介護保険制度の認知症者,介護者への役割は何か
[CQ5A-4]地域包括支援センターの機能と役割は何か
[CQ5A-5]認知症初期集中支援チームの機能と役割は何か
B.認知症者の権利擁護
[CQ5B-1]認知症者の判断能力や意思決定能力を評価することは可能か
[CQ5B-2]成年後見制度は,認知症者の権利擁護にどのように活用されているか
[CQ5B-3]高齢者虐待防止法は,認知症者の虐待防止にどのように
役立てられているか
C.若年性認知症
[CQ5C-1]若年性認知症とは何か
[CQ5C-2]若年性認知症者の経済的課題についての支援制度には
どのようなものがあるか
[CQ5C-3]若年性認知症者の生活支援に利用できる制度には
どのようなものがあるか
[CQ5C-4]若年性認知症者の相談支援にはどのようなものがあるか
D.道路交通法
[CQ5D-1]認知症と診断された人が自動車免許を保持し,
現在も自動車運転をしていることが明らかになった場合には,
どのような対応が望ましいか
各論
第6章 Alzheimer型認知症
[CQ6-1]Alzheimer型認知症の精神神経症候の特徴と診断のポイントは何か
[CQ6-2]Alzheimer型認知症の診断基準は何か
[CQ6-3]Alzheimer型認知症の画像所見の特徴は何か
[CQ6-4]Alzheimer型認知症の診断にAPOE遺伝子検査は有用か
[CQ6-5]Alzheimer型認知症の診断に有用なバイオマーカーは何か
[CQ6-6]Alzheimer型認知症の診断にアミロイドPET検査は有用か
[CQ6-7]Alzheimer型認知症の薬物療法と治療アルゴリズムは何か
[CQ6-8]Alzheimer型認知症の非薬物療法の効果は
[CQ6-9]Alzheimer型認知症のケアのポイントは何か
[CQ6-10]Alzheimer型認知症の社会的支援にはどのようなものがあるか
第7章 Lewy小体型認知症
[CQ7-1]Lewy小体型認知症(DLB)の診断基準と早期診断のポイントは何か
[CQ7-2]Lewy小体型認知症(DLB)と認知症を伴う
Parkinson病(PDD)の臨床・病理学的異同は何か
[CQ7-3]Lewy小体型認知症(DLB)の検査・画像所見の特徴は何か
[CQ7-4]Lewy小体型認知症(DLB)の経過と予後はどのようなものか
[CQ7-5]Lewy小体型認知症(DLB)に対する治療方針はどのように立てるか
[CQ7-6]Lewy小体型認知症(DLB)の認知機能障害の薬物療法はあるか
[CQ7-7]Lewy小体型認知症(DLB)の行動・心理症状(BPSD),
レム期睡眠行動異常症(RBD)に対する治療はあるか
[CQ7-8]Lewy小体型認知症(DLB)の自律神経症状(起立性低血圧,
便秘,発汗,排尿障害など)の治療はあるか
[CQ7-9]Lewy小体型認知症(DLB)のパーキンソニズムの治療は
どのようなものか
[CQ7-10]Lewy小体型認知症(DLB)の非薬物的介入には
どのようなものがあるか
第8章 前頭側頭葉変性症
[CQ8-1]前頭側頭葉変性症(FTLD)の診断のポイントと診断基準は何か
[CQ8-2]前頭側頭葉変性症(FTLD)の画像所見の特徴は何か
[CQ8-3]前頭側頭葉変性症(FTLD)に対する有効な薬物療法はあるか
[CQ8-4]前頭側頭葉変性症(FTLD)に対する有効な非薬物療法はあるか
[CQ8-5]前頭側頭葉変性症(FTLD)患者の家族や介護者に対して
どう指導したらよいか
第9章 進行性核上性麻痺
[CQ9-1]進行性核上性麻痺(PSP)の認知症症状の特徴は何か
[CQ9-2]進行性核上性麻痺(PSP)の認知機能障害に有用な治療法はあるか
第10章 大脳皮質基底核変性症
[CQ10-1]大脳皮質基底核変性症(CBD)の認知機能障害の特徴と検査法は何か
[CQ10-2]大脳皮質基底核変性症(CBD)の認知機能障害に対する
有効な薬物療法・非薬物療法はあるか
第11章 嗜銀顆粒性認知症
[CQ11-1]嗜銀顆粒病(AGD)の頻度はどのようなものか
[CQ11-2]嗜銀顆粒性認知症の臨床的診断はどのようにして行うか
[CQ11-3]嗜銀顆粒性認知症の治療法はどのようなものか
第12章 神経原線維変化型老年期認知症
[CQ12-1]神経原線維変化型老年期認知症(SD-NFT)とはどのような疾患か
第13章 Huntington病
[CQ13-1]Huntington病の認知症症状の特徴と診断は何か
第14章 血管性認知症
[CQ14-1]血管性認知症(VaD)の診断基準はどのようなものか
[CQ14-2]血管性認知症(VaD)のタイプ別分類はどのようなものか
[CQ14-3]血管性認知症(VaD)の画像所見の特徴は何か
[CQ14-4]血管性認知症(VaD)とAlzheimer型認知症の合併はどのようなものか
[CQ14-5]血管性認知症(VaD)の経過と予後はどのようなものか
[CQ14-6]血管性認知症(VaD)の全身性合併症・随伴症状には
どのようなものがあるか
[CQ14-7]血管性認知症(VaD)の危険因子とその管理はどのようなものか
[CQ14-8]血管性認知症(VaD)における抗血栓療法はどのようなものか
[CQ14-9]血管性認知症(VaD)の認知機能障害に有効な薬物はあるか
[CQ14-10]脳アミロイド血管症(CAA)の位置づけはどのようなものか
第15章 プリオン病
[CQ15-1]孤発性Creutzfeldt-Jakob病(CJD)の臨床的特徴は何か
[CQ15-2]孤発性Creutzfeldt-Jakob病(CJD)の脳波,脳脊髄液,
MRI所見はどのようなものか
[CQ15-3]わが国に多い遺伝性プリオン病の種類と特徴は何か
[CQ15-4]わが国に多い獲得性(感染性)プリオン病の種類と特徴は何か
[CQ15-5]プリオン病の感染対策と有効な滅菌方法は何か
第16章 内科的疾患等
[CQ16-1]ビタミン欠乏症による認知機能低下の特徴は何か
[CQ16-2]甲状腺機能低下症による認知機能低下の特徴は何か
[CQ16-3]神経梅毒による認知機能低下の特徴は何か
[CQ16-4]肝性脳症(HE)による認知機能低下の特徴は何か
[CQ16-5]特発性正常圧水頭症(iNPH)の認知症症状の特徴と
診断および治療方針はどのようなものか
略語一覧
索引
書評
開く
日常診療には欠かせない一冊
書評者: 小野 賢二郎 (昭和大教授・神経内科学)
わが国では,高齢者人口が未曾有の速さで増加し,それに伴い認知症を有する高齢者が増え,大きな医療・社会問題となっている。認知症高齢者の数は現在,全国に約462万人と推計されており,2025年には700万人を超えると推計され,これは,65歳以上の高齢者のうち,5人に1人が認知症に罹患する計算となる(厚生労働省,2015年1月)。
認知症の中でも最も頻度の高い疾患がAlzheimer型認知症であり,わが国では治療薬としてドネペジル,ガランタミン,リバスチグミン,メマンチンが用いられているが,これらの薬剤は投与を続けても認知機能低下の速度を低下させることができないため,認知機能低下の速度を低下させる薬剤,すなわち,早期投与によって進行そのものを修正できる疾患修飾薬(disease-modifying drug:DMT)の開発が活発に行われ,実際にわが国においてもDMTの臨床治験が増えてきている。
本書は日本神経学会が監修し,中島健二先生を中心とする「認知症疾患診療ガイドライン」委員会がまとめたガイドラインの力作である。認知症疾患に関するガイドラインとしては,まず2002年に『痴呆疾患治療ガイドライン』が公開され,2010年にclinical question(CQ)を用いた『認知症疾患治療ガイドライン2010』が作成された。その後,若干の新知見を加えて2012年に『認知症疾患治療ガイドライン2010 コンパクト版2012』が発刊され,そして,2014年にガイドラインの改訂が決まり,今回新たに『認知症疾患診療ガイドライン2017』として発刊されるに至った。
本書の構成は網羅的・系統的・実践的で,認知症の疫学・定義・用語に始まり,評価尺度,検査,治療,医療・介護制度や社会資源といった総論,そして各論では,Alzheimer型認知症やLewy小体型認知症(dementia with Lewy bodies:DLB),血管性認知症といった主要な認知症疾患から進行性核上性麻痺や大脳皮質基底核変性症,Huntington病といった認知症症状をきたしうる神経変性疾患,近年疾患概念が明確になってきて鑑別疾患として知っておきたい嗜銀顆粒性認知症,神経原線維変化型老年期認知症,プリオン病,さらにはtreatableな認知機能障害として見逃してはいけない疾患(ビタミン欠乏症,甲状腺機能低下症,肝性脳症,特発性正常圧水頭症など)まで網羅されている。
大枠は前回のガイドラインを踏襲しているが,前回と同様に各章はコンパクトで読みやすく,冒頭に1~2行にまとめられた「CQ」が置かれている。このCQに答える形で簡潔な「推奨」が続き,さらに図表も交えた「解説・エビデンス」と,文献や参考資料が記されている。
嬉しく思ったのは,DSM-5での位置づけが明記されていること,今年発表されたばかりの新たなDLB診断基準が盛り込まれていること,新オレンジプランでわれわれも知っておかなければならない認知症の本人や家族のための諸制度や社会資源,すなわち,認知症疾患医療センターや地域包括支援センター,認知症サポート医,今年3月に改正された改正道路交通法,若年性認知症支援制度などの詳細なポイントが明記されていることである。
さらには,認知症患者の診療を継続していく上で,避けては通れない課題である,不安,幻覚・妄想,徘徊,アパシーといった行動・心理症状(behavioral and psychology symptoms of dementia:BPSD)の診療に関する非薬物療法・薬物療法が丁寧に説明され,認知症で合併しやすいサルコペニア,フレイルの対応についても述べられている。
現代の高齢社会において日常診療にかかわる医師ならば,誰もが認知症疾患の診療に携わる可能性があり,これだけ全域にわたって網羅されたガイドラインは,臨床の場で重宝することは間違いなく,診療科を問わず,多くの医師,そしてメディカルスタッフの方々に手に取っていただきたい一冊である。
書評者: 小野 賢二郎 (昭和大教授・神経内科学)
わが国では,高齢者人口が未曾有の速さで増加し,それに伴い認知症を有する高齢者が増え,大きな医療・社会問題となっている。認知症高齢者の数は現在,全国に約462万人と推計されており,2025年には700万人を超えると推計され,これは,65歳以上の高齢者のうち,5人に1人が認知症に罹患する計算となる(厚生労働省,2015年1月)。
認知症の中でも最も頻度の高い疾患がAlzheimer型認知症であり,わが国では治療薬としてドネペジル,ガランタミン,リバスチグミン,メマンチンが用いられているが,これらの薬剤は投与を続けても認知機能低下の速度を低下させることができないため,認知機能低下の速度を低下させる薬剤,すなわち,早期投与によって進行そのものを修正できる疾患修飾薬(disease-modifying drug:DMT)の開発が活発に行われ,実際にわが国においてもDMTの臨床治験が増えてきている。
本書は日本神経学会が監修し,中島健二先生を中心とする「認知症疾患診療ガイドライン」委員会がまとめたガイドラインの力作である。認知症疾患に関するガイドラインとしては,まず2002年に『痴呆疾患治療ガイドライン』が公開され,2010年にclinical question(CQ)を用いた『認知症疾患治療ガイドライン2010』が作成された。その後,若干の新知見を加えて2012年に『認知症疾患治療ガイドライン2010 コンパクト版2012』が発刊され,そして,2014年にガイドラインの改訂が決まり,今回新たに『認知症疾患診療ガイドライン2017』として発刊されるに至った。
本書の構成は網羅的・系統的・実践的で,認知症の疫学・定義・用語に始まり,評価尺度,検査,治療,医療・介護制度や社会資源といった総論,そして各論では,Alzheimer型認知症やLewy小体型認知症(dementia with Lewy bodies:DLB),血管性認知症といった主要な認知症疾患から進行性核上性麻痺や大脳皮質基底核変性症,Huntington病といった認知症症状をきたしうる神経変性疾患,近年疾患概念が明確になってきて鑑別疾患として知っておきたい嗜銀顆粒性認知症,神経原線維変化型老年期認知症,プリオン病,さらにはtreatableな認知機能障害として見逃してはいけない疾患(ビタミン欠乏症,甲状腺機能低下症,肝性脳症,特発性正常圧水頭症など)まで網羅されている。
大枠は前回のガイドラインを踏襲しているが,前回と同様に各章はコンパクトで読みやすく,冒頭に1~2行にまとめられた「CQ」が置かれている。このCQに答える形で簡潔な「推奨」が続き,さらに図表も交えた「解説・エビデンス」と,文献や参考資料が記されている。
嬉しく思ったのは,DSM-5での位置づけが明記されていること,今年発表されたばかりの新たなDLB診断基準が盛り込まれていること,新オレンジプランでわれわれも知っておかなければならない認知症の本人や家族のための諸制度や社会資源,すなわち,認知症疾患医療センターや地域包括支援センター,認知症サポート医,今年3月に改正された改正道路交通法,若年性認知症支援制度などの詳細なポイントが明記されていることである。
さらには,認知症患者の診療を継続していく上で,避けては通れない課題である,不安,幻覚・妄想,徘徊,アパシーといった行動・心理症状(behavioral and psychology symptoms of dementia:BPSD)の診療に関する非薬物療法・薬物療法が丁寧に説明され,認知症で合併しやすいサルコペニア,フレイルの対応についても述べられている。
現代の高齢社会において日常診療にかかわる医師ならば,誰もが認知症疾患の診療に携わる可能性があり,これだけ全域にわたって網羅されたガイドラインは,臨床の場で重宝することは間違いなく,診療科を問わず,多くの医師,そしてメディカルスタッフの方々に手に取っていただきたい一冊である。
更新情報
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