てんかんとその境界領域
鑑別診断のためのガイドブック
てんかん鑑別診断とてんかん併発疾患に関する最新かつ唯一のガイドブック
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てんかん診療に携わる医師の悩みは、てんかん発作と非てんかん性発作の鑑別。本書は、てんかんとその周辺病態の鑑別点を呈示し、明確な鑑別診断へと導く1冊。具体的な症例が多数紹介され、てんかんと境界領域への理解を助ける。
編集 | Markus Reuber / Steven Schachter |
---|---|
監訳 | 吉野 相英 |
発行 | 2017年06月判型:B5頁:344 |
ISBN | 978-4-260-03023-6 |
定価 | 11,000円 (本体10,000円+税) |
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- 目次
- 書評
序文
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訳者まえがき/序/はじめに
訳者まえがき
本書は2013年にOxford University Pressから出版された“Borderland of Epilepsy Revisited”の全訳である.原著はGowersが1907年に出版した“Border-land of Epilepsy”の「再訪」版の形式をとっている.てんかん学の礎を築いた先駆者のひとりであるGowersがBorder-landのなかで取り上げたのは,てんかんと見誤りやすい疾患,てんかん発作を続発する疾患,てんかんに続発する疾患など,間違いなく診断に困難を伴うものばかりだった.
本書を一言で表すとすれば,てんかん鑑別診断とてんかん併発疾患に関する最新かつ唯一のガイドブックということになるだろう.また,てんかん発作とは思えない奇抜なてんかん症候群として,一過性てんかん性健忘,夜間前頭葉てんかん,自己免疫介在性てんかん,非けいれん性てんかん重積なども取り上げている.こうしたてんかん症候群も境界領域に属すといえるだろう.
7年前になるが,Peter KaplanとRobert Fisherによる “Imitators of Epilepsy” を翻訳し,医学書院から「てんかん鑑別診断学」として出版した.本書がこの「てんかん鑑別診断学」と大きく異なるのは,てんかんと鑑別すべき疾患だけでなく,てんかんの周辺症状として生じるさまざまな医学的問題も取り上げている点にある.言い換えれば,てんかん境界領域の外縁だけでなく,内縁についても詳しく解説している.鑑別診断に取り上げられている疾患には神経調節性失神,心原性失神,心因性発作,パニック発作,めまい,発作性運動失調症,片頭痛,一過性脳虚血,一過性全健忘,睡眠時随伴症,ミオクローヌス,チック症,発作性ジスキネジア,過剰驚愕症,非てんかん性脳症,小児の非てんかん性発作エピソード,常同症など,ほぼ考えうるすべての非てんかん性発作が網羅されている.そして,てんかん発作との類似点と相違点について図表を多用し,詳細な解説を加えている.アルコール関連のてんかん発作についてもここまで体系的にまとめられているものはほかに目にしたことがない.日常診療においてはてんかんに併発する疾患への対応に苦慮することが多いが,本書ではてんかん性脳症,間欠爆発症,自閉症,うつ病,精神病,パーソナリティ障害を取り上げていて,てんかん併発疾患もほぼ網羅されている.また,てんかん発作の予知に関する取り組みの現状についても一章を割いている.症例も豊富であり,ほとんどの章で紹介されていて,その総数は実に51例に及ぶ.具体的な症例に触れることによって,各疾患の理解が深まるに違いない.
編者のMarkus ReuberとSteven Schachterはそれぞれ “Seizure” と “Epilepsy & Behavior” の編集主幹を務める言わずと知れた臨床てんかん学の重鎮である.また,本書に序を寄せているのはFreie Universität Berlinの元教授であり,1957年に若年ミオクロニーてんかんを脳波・臨床症候群として独立させたDieter Janzである.
てんかんの発作症状,病態,治療に焦点を当てた教科書であれば,巷に溢れていて,どれを選べばよいのか迷うほどである.ところが,本書のようなてんかんの境界領域に着目した教科書はほとんど存在しない.神経内科,小児科,脳神経外科,精神科,どの分野の専門医にとっても満足のいくガイドブックに仕上がっていることは間違いないだろう.実地のてんかん臨床における手引きとして本書を活用していただければと思う.
2017年5月
訳者を代表して 吉野相英
序
1907年,William Gowersによるてんかん境界領域への旅は大成功を収めた.この旅はてんかん発作に似たエピソードを示す類縁疾患の実症例と症候学からごく自然に始められたものだった.今日,てんかん発作と非てんかん性発作の境界線は引き直され,この新たな境界領域を改めて旅することが求められている.本書でガイドを務めるのは各分野で活躍している研究者と臨床経験豊富な専門家ばかりなので,読者はこの周遊旅行に胸踊らせ,満喫するに違いない.
実際,てんかんの「領土」とその隣接領域は拡大の一途にあり,かつてないほど詳細な地図がつくられている.その結果,この新しいガイドブックはかなり厚くなり,神経科医と小児神経科医のみならず,すべての臨床医向けの内容となっている.
本書に登場する疾患はすべて,てんかん発作に似た様式で症状や徴候が生じるという共通点を有している.その起始と終結は明確であり,症状が突然生じることもあれば,漸増漸減の経過を示すこともある.患者が体験する感覚,運動,意識,自律神経の症状があまりにも似ているので,読者はてんかんの境界線がどこで終わるのか,非てんかん性疾患の境界線がどこから始まるのか戸惑うかもしれない.各発作には独自の激しさや同期性があり,チックやミオクロニー発作のようにその「時間構造Zeitgestalt」や時間経過が診断に必須となるものもある.
本書の執筆者が一貫して指摘しているように,こうした発作性エピソードの診断には詳細な病歴聴取が欠かせない.というのも,多くの場合,診察に訪れたときには症状は消え失せていて,検査をしても所見は得られない.現代医療のさまざまな領域で活用されはじめている携帯電話によるビデオ録画が診断に役立つこともあるが,患者の訴えに注意深く耳を傾けることによって得られる情報にまさるものはない.実際,Gowersの時代と同じく,現代においても問診に代わるものはない.
てんかん境界領域へのこの新たな旅は診断と治療だけでなく,神経学と精神科学の統合に向けた現代の趨勢を幸先よく織り込んでもいる.われわれの時代,患者の信頼を得るということは,問題となっている発作症状が歴史的に「身体因性」であろうと「心因性」であろうと治療に責任をもつことにほかならない.病歴を聴取し,身体診察を終えたあとに患者を別の医師に回すことなどできるはずがない.この卓越した旅行ガイドを携えて現代のてんかん境界領域に踏み入ったのであれば,真にその患者の治療者になることができるだろう.そして,診断と治療にとどまらず,健康と安寧を取り戻すための架け橋となりうる関係性を築き上げることができるに違いない.
Dieter Janz, MD, PhD
はじめに
本書は簡潔にして核心をついたGowersの “Border-land of Epilepsy” の「再訪」版である.本書では鑑別すべき発作性エピソードの診たてと治療方針をできるかぎり症例を通じて呈示することを目指した.そして,さまざまな発作性疾患について,症例を交えながらその病因と病態について第一人者による最新の解説を加えてある.こうした発作性疾患のなかにはてんかんと見誤りやすいものばかりでなく,てんかんと密接に関係しているものもあれば,てんかんに続発したり,あるいはてんかんを続発するものもある.本書ではてんかん学,神経学,精神科学,小児科学の境界領域の内外に現れる珍しい疾患だけでなく,各分野の専門医が臨床現場で日常的に遭遇する病態にも焦点を当てた.そして,その詳細な解説を通じて,各病態の輪郭が背景からくっきりと浮かび上がるように工夫してある.
各章ではGowersの記述を医学史における重要な起点として引用しているが,てんかん境界領域へのこの新たな旅は単なる歴史書ではない.本書が目指したのは全くその逆である.発作症状を訴えるものの,その発作がてんかんによるものではない,あるいは症状のすべてがてんかんによるものではない症例に遭遇した際に必要となる診断と治療方針に関する最新の情報を提供することが本書の目的である.とはいっても,第1章では本企画の契機となったWilliam Gowersの略歴と業績に焦点を当て,その足跡をたどっている.
てんかんに似ていたり,あるいは区別のつかない発作性疾患の鑑別診断の解説に症例を多用することはGowersにとって大きな意味があった.Gowersの “Border-land of Epilepsy” は自ら経験した症例に基づくものであり,その症状はGowersが長年築き上げてきた診断図式に対決を挑む難敵ばかりだった.Gowersは “Epilepsy and Other Chronic Convulsive Diseases” や “Manual of Diseases of the Nervous System” ではかなり平易に解説した疾患についてあえて疑問を投げかけ,自分自身の理解の限界を示すことによって,今後の医学的思考と疾患分類の進歩を促そうとしたのだろう.おそらくこれはGowersの真実を探求する謙虚で無欲な姿勢を反映している.
こうした手ごわい症例が存在しなければ,Gowersが,そして次の世代が時代を超えて治療選択の基本となる疾患分類を明確化し,改善することはできなかっただろう.そして,てんかんの国境線はさらに明確なものとなった.たとえば,第6章ではてんかん発作とめまいの原因となるさまざまな疾患を確実に鑑別するための診察法と簡単な検査手技を取り上げている.心電図と心エコーを利用すれば,心原性失神をはるかに正確に診断することができる(第3章).本書を通読すれば,診断に必要な臨床指針を身に付けていくことができるだろう.脳波計の発明,最近ではビデオ脳波同時記録の導入によって,てんかん発作と心因性発作もかなり鑑別できるようになった.Gowersが「ヒステリー発作」とよんでいた心因性発作は第4章に登場する.循環器系の制御機構に関する理解が深まり,頭位挙上試験の導入によってパニック発作(Gowersは迷走神経発作とよんでいた)と失神の間にも多少なりとも明確な境界線を引くことができるようになった(第5章).また,ほとんどの失神発作やパニック発作のトリガーとなる反射メカニズムの神経生物学的基礎と両疾患における情動,情動調節,自律神経系の相互作用についても多くを学べるようになっている(第2章).神経生理学の発展によっててんかん性ミオクローヌスと非てんかん性ミオクローヌスもかなり鑑別できるようになった(第12章).てんかん性活動によって脳の正常機能,特に認知機能が損なわれることがあるが,それはどのようにして,いつ,どの程度生じるのかについては不明な点が多い.とはいえ,非てんかん性脳症(第16章)とてんかん性脳症(第17章)の鑑別にも脳波は欠かせない.
技術の進歩とともに,発作の症候学や疾患の外見上の特徴だけから病因の境界線が見つかるとはかぎらないこともわかってきた.そうした例は第18章で紹介する新生児や小児の発作性疾患にみることができる.とはいえ,こうした現象が最もはっきりと現れるのは,おびただしい数の単一遺伝子がさまざまな表現型をマップしている領域だろう.こうした原因遺伝子の多様性は,3 Hz棘徐波群発を伴う小児欠神てんかんのようにその疾患独立性に議論の余地がないようにみえるてんかん症候群だけでなく,第14章で触れる過剰驚愕症や発作性ジスキネジアの特徴でもある.
したがって,境界線を引くことはGowersの時代に比べるとますます複雑になり,現在の境界は地図に描かれている疾患の性質によって変わってくる.とはいえ,新たに得られた科学的知見と新たに開発された検査法によっててんかんの境界領域はさらに精緻なものとなった.一過性全健忘と一過性てんかん性健忘(第9章)という比較的新しい概念や最近発見されたミトコンドリア病(第7,12章)がその好例である.症例によっては検査技術の発展に伴って,以前であれば鑑別診断が難しいことにすら気づかれていなかった表現型を同定できるようにもなった.たとえば,現在であれば肢振戦を伴う一過性脳虚血(第8章)を診断し,来たるべき脳卒中に備えることもできるし,顔面上肢ジストニア発作(第15章)に気づき,免疫抑制療法を始めることも可能となった.
てんかん境界領域の1つである発作前駆状態については,現在のテクノロジーをもってしても明らかにすることはできていない.神経生理学とコンピュータ技術が進歩したにもかかわらず,発作がいつ始まり,いつ終わるのかを予測することが以前にも増して難しくなっていることに反論する向きもあるかもしれない.多くの患者と家族が訴え,Gowersも気づいていた発作前駆状態の神経生物学的基盤の探索はいまのところ,納得のいく結論には至っていない.実際,現在までに実施されてきた研究からは,そもそも発作前駆状態というものが存在しうるのか,存在するとしたらその出現頻度はどの程度なのか,という疑問が投げかけられている(第22章).
精神障害や知的障害などのてんかん境界領域もGowersの時代に気づいておくべきだったが, “Border-land of Epilepsy” では取り上げられていない.おそらくこれは診療が外来中心だったために,こうした障害のある患者を診察する機会が単に少なかったからなのかもしれない.あるいは,この境界領域はGowersの神経学の世界観では暗点に映っていたのかもしれない.どちらにせよ,現在のボーダーランドでは常同症(第19章),発作性爆発(第20章),自閉症(第21章)とてんかんとのつながり,重複,相違についても触れておく必要がある.てんかんと抑うつ(第23章)が双方向性に結びついていることを示す膨大なエビデンスが疫学,動物研究,薬理学の各分野から報告されているが,こうした相互関係性に気づく準備ができていなかったGowersの時代の臨床家にとっては見せかけにすぎなかったことだろう.そして,抑うつだけでなく,てんかんと精神病の複雑な関係性(第24章)も現在のてんかん境界領域に間違いなく属している.
本書で議論している病態のなかにはてんかん学の外縁ではなく,伝統的に「身体因性」と考えられてきた状態と「心因性」と考えられてきた疾患の境界に位置するものもある.第25章ではパーソナリティ障害を例にあげて脳と精神を分けて考える二元論的発想の限界を指摘している.
症例呈示を “Border-land of Epilepsy” の根幹としたGowersの判断は現在でも理に適っている.過去1世紀にわたって発作性疾患の病態生理に関する理解は進んだが,分類図式もかなり複雑なものとなってしまった.こうした軌跡からは「継ぎ目で自然を切り分ける」時期にはまだまだほど遠いことがわかる.本書で呈示した症例は疫学でも臨床でも動物研究でもいまだに答えの得られていない疑問を投げかけている.第5章では不安,過換気,てんかんのつながりを詳細に分析することによって,そうした到達点に達しうるかどうかを試みている.今日利用可能な検査の多く(脳画像,機能的脳画像,高密度脳波計,脳磁図,おそらく疾患感受性遺伝子がこのあとに続くだろう)は臨床的に明らかな異常に対して感度は高いものの,特異度は低い.患者の訴えを引き出し解釈する技法や臨床判断に代わって,検査を重視する傾向は今後も続くだろうが,さまざまな病態が幅広い表現型を示すことやその境界領域について精通していないかぎり,こうした検査を適切に使いこなすことはできない.
最後になったが,本書で呈示した症例はGowersの症例と同じように,医師がいかに不確実な事象を扱わなくてはならないかを示している.われわれの理解の限界を試している症例がその問題について多少は理解が進んでいるであろう一世代か二世代あとまで待ってくれることなどありえない.検査法を近代化するだけでなく,ますます複雑化する可能性を見込んだうえで診断するのであれば,発作性疾患の理解も前進するにちがいない.Gowersが “Border-land of Epilepsy” を出版して1世紀が過ぎたとはいえ,地図が欠けていたり,道標が間違っている領域に足を踏み入れるには患者と医師のコミュニケーションが欠かせないことに変わりはない.今から100年後にはてんかんの境界領域もかなり違って見えるようになっているだろうが,こうしたことはすぐには変わらないだろう.
Markus Reuber, MD, PhD, FRCP
Steven Schachter, MD
訳者まえがき
本書は2013年にOxford University Pressから出版された“Borderland of Epilepsy Revisited”の全訳である.原著はGowersが1907年に出版した“Border-land of Epilepsy”の「再訪」版の形式をとっている.てんかん学の礎を築いた先駆者のひとりであるGowersがBorder-landのなかで取り上げたのは,てんかんと見誤りやすい疾患,てんかん発作を続発する疾患,てんかんに続発する疾患など,間違いなく診断に困難を伴うものばかりだった.
本書を一言で表すとすれば,てんかん鑑別診断とてんかん併発疾患に関する最新かつ唯一のガイドブックということになるだろう.また,てんかん発作とは思えない奇抜なてんかん症候群として,一過性てんかん性健忘,夜間前頭葉てんかん,自己免疫介在性てんかん,非けいれん性てんかん重積なども取り上げている.こうしたてんかん症候群も境界領域に属すといえるだろう.
7年前になるが,Peter KaplanとRobert Fisherによる “Imitators of Epilepsy” を翻訳し,医学書院から「てんかん鑑別診断学」として出版した.本書がこの「てんかん鑑別診断学」と大きく異なるのは,てんかんと鑑別すべき疾患だけでなく,てんかんの周辺症状として生じるさまざまな医学的問題も取り上げている点にある.言い換えれば,てんかん境界領域の外縁だけでなく,内縁についても詳しく解説している.鑑別診断に取り上げられている疾患には神経調節性失神,心原性失神,心因性発作,パニック発作,めまい,発作性運動失調症,片頭痛,一過性脳虚血,一過性全健忘,睡眠時随伴症,ミオクローヌス,チック症,発作性ジスキネジア,過剰驚愕症,非てんかん性脳症,小児の非てんかん性発作エピソード,常同症など,ほぼ考えうるすべての非てんかん性発作が網羅されている.そして,てんかん発作との類似点と相違点について図表を多用し,詳細な解説を加えている.アルコール関連のてんかん発作についてもここまで体系的にまとめられているものはほかに目にしたことがない.日常診療においてはてんかんに併発する疾患への対応に苦慮することが多いが,本書ではてんかん性脳症,間欠爆発症,自閉症,うつ病,精神病,パーソナリティ障害を取り上げていて,てんかん併発疾患もほぼ網羅されている.また,てんかん発作の予知に関する取り組みの現状についても一章を割いている.症例も豊富であり,ほとんどの章で紹介されていて,その総数は実に51例に及ぶ.具体的な症例に触れることによって,各疾患の理解が深まるに違いない.
編者のMarkus ReuberとSteven Schachterはそれぞれ “Seizure” と “Epilepsy & Behavior” の編集主幹を務める言わずと知れた臨床てんかん学の重鎮である.また,本書に序を寄せているのはFreie Universität Berlinの元教授であり,1957年に若年ミオクロニーてんかんを脳波・臨床症候群として独立させたDieter Janzである.
てんかんの発作症状,病態,治療に焦点を当てた教科書であれば,巷に溢れていて,どれを選べばよいのか迷うほどである.ところが,本書のようなてんかんの境界領域に着目した教科書はほとんど存在しない.神経内科,小児科,脳神経外科,精神科,どの分野の専門医にとっても満足のいくガイドブックに仕上がっていることは間違いないだろう.実地のてんかん臨床における手引きとして本書を活用していただければと思う.
2017年5月
訳者を代表して 吉野相英
序
1907年,William Gowersによるてんかん境界領域への旅は大成功を収めた.この旅はてんかん発作に似たエピソードを示す類縁疾患の実症例と症候学からごく自然に始められたものだった.今日,てんかん発作と非てんかん性発作の境界線は引き直され,この新たな境界領域を改めて旅することが求められている.本書でガイドを務めるのは各分野で活躍している研究者と臨床経験豊富な専門家ばかりなので,読者はこの周遊旅行に胸踊らせ,満喫するに違いない.
実際,てんかんの「領土」とその隣接領域は拡大の一途にあり,かつてないほど詳細な地図がつくられている.その結果,この新しいガイドブックはかなり厚くなり,神経科医と小児神経科医のみならず,すべての臨床医向けの内容となっている.
本書に登場する疾患はすべて,てんかん発作に似た様式で症状や徴候が生じるという共通点を有している.その起始と終結は明確であり,症状が突然生じることもあれば,漸増漸減の経過を示すこともある.患者が体験する感覚,運動,意識,自律神経の症状があまりにも似ているので,読者はてんかんの境界線がどこで終わるのか,非てんかん性疾患の境界線がどこから始まるのか戸惑うかもしれない.各発作には独自の激しさや同期性があり,チックやミオクロニー発作のようにその「時間構造Zeitgestalt」や時間経過が診断に必須となるものもある.
本書の執筆者が一貫して指摘しているように,こうした発作性エピソードの診断には詳細な病歴聴取が欠かせない.というのも,多くの場合,診察に訪れたときには症状は消え失せていて,検査をしても所見は得られない.現代医療のさまざまな領域で活用されはじめている携帯電話によるビデオ録画が診断に役立つこともあるが,患者の訴えに注意深く耳を傾けることによって得られる情報にまさるものはない.実際,Gowersの時代と同じく,現代においても問診に代わるものはない.
てんかん境界領域へのこの新たな旅は診断と治療だけでなく,神経学と精神科学の統合に向けた現代の趨勢を幸先よく織り込んでもいる.われわれの時代,患者の信頼を得るということは,問題となっている発作症状が歴史的に「身体因性」であろうと「心因性」であろうと治療に責任をもつことにほかならない.病歴を聴取し,身体診察を終えたあとに患者を別の医師に回すことなどできるはずがない.この卓越した旅行ガイドを携えて現代のてんかん境界領域に踏み入ったのであれば,真にその患者の治療者になることができるだろう.そして,診断と治療にとどまらず,健康と安寧を取り戻すための架け橋となりうる関係性を築き上げることができるに違いない.
Dieter Janz, MD, PhD
はじめに
本書は簡潔にして核心をついたGowersの “Border-land of Epilepsy” の「再訪」版である.本書では鑑別すべき発作性エピソードの診たてと治療方針をできるかぎり症例を通じて呈示することを目指した.そして,さまざまな発作性疾患について,症例を交えながらその病因と病態について第一人者による最新の解説を加えてある.こうした発作性疾患のなかにはてんかんと見誤りやすいものばかりでなく,てんかんと密接に関係しているものもあれば,てんかんに続発したり,あるいはてんかんを続発するものもある.本書ではてんかん学,神経学,精神科学,小児科学の境界領域の内外に現れる珍しい疾患だけでなく,各分野の専門医が臨床現場で日常的に遭遇する病態にも焦点を当てた.そして,その詳細な解説を通じて,各病態の輪郭が背景からくっきりと浮かび上がるように工夫してある.
各章ではGowersの記述を医学史における重要な起点として引用しているが,てんかん境界領域へのこの新たな旅は単なる歴史書ではない.本書が目指したのは全くその逆である.発作症状を訴えるものの,その発作がてんかんによるものではない,あるいは症状のすべてがてんかんによるものではない症例に遭遇した際に必要となる診断と治療方針に関する最新の情報を提供することが本書の目的である.とはいっても,第1章では本企画の契機となったWilliam Gowersの略歴と業績に焦点を当て,その足跡をたどっている.
てんかんに似ていたり,あるいは区別のつかない発作性疾患の鑑別診断の解説に症例を多用することはGowersにとって大きな意味があった.Gowersの “Border-land of Epilepsy” は自ら経験した症例に基づくものであり,その症状はGowersが長年築き上げてきた診断図式に対決を挑む難敵ばかりだった.Gowersは “Epilepsy and Other Chronic Convulsive Diseases” や “Manual of Diseases of the Nervous System” ではかなり平易に解説した疾患についてあえて疑問を投げかけ,自分自身の理解の限界を示すことによって,今後の医学的思考と疾患分類の進歩を促そうとしたのだろう.おそらくこれはGowersの真実を探求する謙虚で無欲な姿勢を反映している.
こうした手ごわい症例が存在しなければ,Gowersが,そして次の世代が時代を超えて治療選択の基本となる疾患分類を明確化し,改善することはできなかっただろう.そして,てんかんの国境線はさらに明確なものとなった.たとえば,第6章ではてんかん発作とめまいの原因となるさまざまな疾患を確実に鑑別するための診察法と簡単な検査手技を取り上げている.心電図と心エコーを利用すれば,心原性失神をはるかに正確に診断することができる(第3章).本書を通読すれば,診断に必要な臨床指針を身に付けていくことができるだろう.脳波計の発明,最近ではビデオ脳波同時記録の導入によって,てんかん発作と心因性発作もかなり鑑別できるようになった.Gowersが「ヒステリー発作」とよんでいた心因性発作は第4章に登場する.循環器系の制御機構に関する理解が深まり,頭位挙上試験の導入によってパニック発作(Gowersは迷走神経発作とよんでいた)と失神の間にも多少なりとも明確な境界線を引くことができるようになった(第5章).また,ほとんどの失神発作やパニック発作のトリガーとなる反射メカニズムの神経生物学的基礎と両疾患における情動,情動調節,自律神経系の相互作用についても多くを学べるようになっている(第2章).神経生理学の発展によっててんかん性ミオクローヌスと非てんかん性ミオクローヌスもかなり鑑別できるようになった(第12章).てんかん性活動によって脳の正常機能,特に認知機能が損なわれることがあるが,それはどのようにして,いつ,どの程度生じるのかについては不明な点が多い.とはいえ,非てんかん性脳症(第16章)とてんかん性脳症(第17章)の鑑別にも脳波は欠かせない.
技術の進歩とともに,発作の症候学や疾患の外見上の特徴だけから病因の境界線が見つかるとはかぎらないこともわかってきた.そうした例は第18章で紹介する新生児や小児の発作性疾患にみることができる.とはいえ,こうした現象が最もはっきりと現れるのは,おびただしい数の単一遺伝子がさまざまな表現型をマップしている領域だろう.こうした原因遺伝子の多様性は,3 Hz棘徐波群発を伴う小児欠神てんかんのようにその疾患独立性に議論の余地がないようにみえるてんかん症候群だけでなく,第14章で触れる過剰驚愕症や発作性ジスキネジアの特徴でもある.
したがって,境界線を引くことはGowersの時代に比べるとますます複雑になり,現在の境界は地図に描かれている疾患の性質によって変わってくる.とはいえ,新たに得られた科学的知見と新たに開発された検査法によっててんかんの境界領域はさらに精緻なものとなった.一過性全健忘と一過性てんかん性健忘(第9章)という比較的新しい概念や最近発見されたミトコンドリア病(第7,12章)がその好例である.症例によっては検査技術の発展に伴って,以前であれば鑑別診断が難しいことにすら気づかれていなかった表現型を同定できるようにもなった.たとえば,現在であれば肢振戦を伴う一過性脳虚血(第8章)を診断し,来たるべき脳卒中に備えることもできるし,顔面上肢ジストニア発作(第15章)に気づき,免疫抑制療法を始めることも可能となった.
てんかん境界領域の1つである発作前駆状態については,現在のテクノロジーをもってしても明らかにすることはできていない.神経生理学とコンピュータ技術が進歩したにもかかわらず,発作がいつ始まり,いつ終わるのかを予測することが以前にも増して難しくなっていることに反論する向きもあるかもしれない.多くの患者と家族が訴え,Gowersも気づいていた発作前駆状態の神経生物学的基盤の探索はいまのところ,納得のいく結論には至っていない.実際,現在までに実施されてきた研究からは,そもそも発作前駆状態というものが存在しうるのか,存在するとしたらその出現頻度はどの程度なのか,という疑問が投げかけられている(第22章).
精神障害や知的障害などのてんかん境界領域もGowersの時代に気づいておくべきだったが, “Border-land of Epilepsy” では取り上げられていない.おそらくこれは診療が外来中心だったために,こうした障害のある患者を診察する機会が単に少なかったからなのかもしれない.あるいは,この境界領域はGowersの神経学の世界観では暗点に映っていたのかもしれない.どちらにせよ,現在のボーダーランドでは常同症(第19章),発作性爆発(第20章),自閉症(第21章)とてんかんとのつながり,重複,相違についても触れておく必要がある.てんかんと抑うつ(第23章)が双方向性に結びついていることを示す膨大なエビデンスが疫学,動物研究,薬理学の各分野から報告されているが,こうした相互関係性に気づく準備ができていなかったGowersの時代の臨床家にとっては見せかけにすぎなかったことだろう.そして,抑うつだけでなく,てんかんと精神病の複雑な関係性(第24章)も現在のてんかん境界領域に間違いなく属している.
本書で議論している病態のなかにはてんかん学の外縁ではなく,伝統的に「身体因性」と考えられてきた状態と「心因性」と考えられてきた疾患の境界に位置するものもある.第25章ではパーソナリティ障害を例にあげて脳と精神を分けて考える二元論的発想の限界を指摘している.
症例呈示を “Border-land of Epilepsy” の根幹としたGowersの判断は現在でも理に適っている.過去1世紀にわたって発作性疾患の病態生理に関する理解は進んだが,分類図式もかなり複雑なものとなってしまった.こうした軌跡からは「継ぎ目で自然を切り分ける」時期にはまだまだほど遠いことがわかる.本書で呈示した症例は疫学でも臨床でも動物研究でもいまだに答えの得られていない疑問を投げかけている.第5章では不安,過換気,てんかんのつながりを詳細に分析することによって,そうした到達点に達しうるかどうかを試みている.今日利用可能な検査の多く(脳画像,機能的脳画像,高密度脳波計,脳磁図,おそらく疾患感受性遺伝子がこのあとに続くだろう)は臨床的に明らかな異常に対して感度は高いものの,特異度は低い.患者の訴えを引き出し解釈する技法や臨床判断に代わって,検査を重視する傾向は今後も続くだろうが,さまざまな病態が幅広い表現型を示すことやその境界領域について精通していないかぎり,こうした検査を適切に使いこなすことはできない.
最後になったが,本書で呈示した症例はGowersの症例と同じように,医師がいかに不確実な事象を扱わなくてはならないかを示している.われわれの理解の限界を試している症例がその問題について多少は理解が進んでいるであろう一世代か二世代あとまで待ってくれることなどありえない.検査法を近代化するだけでなく,ますます複雑化する可能性を見込んだうえで診断するのであれば,発作性疾患の理解も前進するにちがいない.Gowersが “Border-land of Epilepsy” を出版して1世紀が過ぎたとはいえ,地図が欠けていたり,道標が間違っている領域に足を踏み入れるには患者と医師のコミュニケーションが欠かせないことに変わりはない.今から100年後にはてんかんの境界領域もかなり違って見えるようになっているだろうが,こうしたことはすぐには変わらないだろう.
Markus Reuber, MD, PhD, FRCP
Steven Schachter, MD
目次
開く
1 William Gowers
1.生い立ち
2.医学者として
3.研究姿勢
4.National Hospital for the Paralysed and Epileptic
5.鍍銀染色をめぐって
6.てんかんをめぐって
まとめ
2 反射性失神
はじめに
1.反射性失神
2.反射性失神の病態生理
3.失神とてんかん発作の相互作用
4.反射性失神の治療
まとめ
3 心原性失神
はじめに
1.心原性失神の疫学
2.鑑別に役立つ症状と経過
3.原因
4.精査
5.治療
6.注意すべき現象
まとめ
4 心因性発作
はじめに
1.心因性発作の臨床症状
2.心因性発作の原因
3.てんかんに併発する心因性発作
4.心因性発作の治療
まとめ
5 パニック発作と過換気
はじめに
1.過換気
2.パニック発作と発作時恐怖
3.症例検討
4.上手な問診の進め方
5.病態生理
6.てんかん,パニック,過換気の併発と移行
7.治療の進め方
8.薬物治療
まとめ
6 めまいと発作性運動失調症
はじめに
1.末梢性前庭疾患
2.中枢性前庭疾患
まとめ
7 片頭痛
はじめに
1.片頭痛とてんかんの疫学
2.臨床症状
3.片頭痛の病態生理
4.治療抵抗性局在関連てんかんと頭痛,片頭痛
5.片頭痛の急性期治療と予防
6.てんかんと発作周辺期頭痛
7.片頭痛を伴うてんかん症候群
まとめ
8 一過性脳虚血
はじめに
1.てんかんと見誤りやすいTIA
2.病態生理
3.リスク管理
4.治療
まとめ
9 一過性全健忘と一過性てんかん性健忘
はじめに
1.一過性全健忘
2.一過性てんかん性健忘
まとめ
10 睡眠障害と夜間前頭葉てんかん
はじめに
1.睡眠時随伴症と夜間前頭葉てんかん
2.睡眠時随伴症と夜間前頭葉てんかんの奇妙な関係
3.治療
4.ナルコレプシー
まとめ
11 アルコールとてんかん発作
はじめに
1.アルコール離脱発作
2.急性アルコール中毒によって生じる発作
3.長期大量飲酒によって生じるてんかん
4.鑑別診断
まとめ
12 ミオクローヌス
はじめに
1.てんかん性ミオクローヌスの歴史
2.てんかん性ミオクローヌス
3.非てんかん性ミオクローヌス
まとめ
13 チック症とTourette症候群
はじめに
1.チック症の症状,疫学,診断
2.チック症の自然経過
3.チック症の原因
4.てんかん発作と見誤りやすいチック症状
5.チック症の治療
まとめ
14 発作性ジスキネジアと過剰驚愕症
はじめに
1.発作性運動誘発性ジスキネジア
2.発作性非運動誘発性ジスキネジア
3.発作性労作誘発性ジスキネジア
4.過剰驚愕症
まとめ
15 自己免疫介在性てんかん
はじめに
1.自己抗体とてんかん
2.病態生理
3.治療
まとめ
16 非てんかん性脳症と非けいれん性てんかん重積
はじめに
1.臨床症状
2.検査所見
3.病態生理
4.非けいれん性てんかん重積との鑑別
5.治療
まとめ
17 てんかん性脳症
はじめに
1.てんかん性脳症
2.てんかん性脳症の病態生理
まとめ
18 小児の非てんかん性発作エピソード
はじめに
1.発作性運動現象
2.発作性行動異常
3.睡眠中の非てんかん性発作
4.分類不能のエピソード
まとめ
19 常同症
はじめに
1.常同症状の特徴
2.常同症状のみられる疾患
3.常同症状の原因
4.常同症とてんかんの鑑別
まとめ
20 発作性爆発
はじめに
1.有病率
2.攻撃性の神経生物学
3.その他の特徴
4.医原性要因
5.治療法
まとめ
21 自閉症
はじめに
1.自閉症の臨床症候学
2.自閉症の病態生理と病因
3.自閉症の神経解剖学的基盤
4.自閉症とてんかんの関連性
5.薬物療法
まとめ
22 てんかん発作の前駆現象
はじめに
1.発作前駆現象
2.脳波による発作予知は可能か
まとめ
23 てんかんと抑うつ
はじめに
1.てんかんと抑うつの双方向性の関係
2.発作周辺期の抑うつ症状
3.てんかん患者のうつ病治療
まとめ
24 てんかんと精神病
はじめに
1.疫学
2.てんかん精神病の診断
3.発作時精神病
4.発作後精神病
5.発作間欠期精神病
6.術後精神病
7.抗てんかん薬による精神病
8.病態生理
9.脳波所見
10.治療
まとめ
25 てんかんとパーソナリティ
はじめに
1.パーソナリティ障害とは
2.器質性パーソナリティ障害とは
3.パーソナリティ障害と器質性パーソナリティ障害の違い
4.境界性パーソナリティ障害の神経生物学
5.てんかんとパーソナリティ障害
6.てんかんと情緒不安定性パーソナリティ障害
7.ローカルエリア・ネットワーク抑制仮説
8.パーソナリティ障害と前頭葉機能
まとめ
索引
1.生い立ち
2.医学者として
3.研究姿勢
4.National Hospital for the Paralysed and Epileptic
5.鍍銀染色をめぐって
6.てんかんをめぐって
まとめ
2 反射性失神
はじめに
1.反射性失神
2.反射性失神の病態生理
3.失神とてんかん発作の相互作用
4.反射性失神の治療
まとめ
3 心原性失神
はじめに
1.心原性失神の疫学
2.鑑別に役立つ症状と経過
3.原因
4.精査
5.治療
6.注意すべき現象
まとめ
4 心因性発作
はじめに
1.心因性発作の臨床症状
2.心因性発作の原因
3.てんかんに併発する心因性発作
4.心因性発作の治療
まとめ
5 パニック発作と過換気
はじめに
1.過換気
2.パニック発作と発作時恐怖
3.症例検討
4.上手な問診の進め方
5.病態生理
6.てんかん,パニック,過換気の併発と移行
7.治療の進め方
8.薬物治療
まとめ
6 めまいと発作性運動失調症
はじめに
1.末梢性前庭疾患
2.中枢性前庭疾患
まとめ
7 片頭痛
はじめに
1.片頭痛とてんかんの疫学
2.臨床症状
3.片頭痛の病態生理
4.治療抵抗性局在関連てんかんと頭痛,片頭痛
5.片頭痛の急性期治療と予防
6.てんかんと発作周辺期頭痛
7.片頭痛を伴うてんかん症候群
まとめ
8 一過性脳虚血
はじめに
1.てんかんと見誤りやすいTIA
2.病態生理
3.リスク管理
4.治療
まとめ
9 一過性全健忘と一過性てんかん性健忘
はじめに
1.一過性全健忘
2.一過性てんかん性健忘
まとめ
10 睡眠障害と夜間前頭葉てんかん
はじめに
1.睡眠時随伴症と夜間前頭葉てんかん
2.睡眠時随伴症と夜間前頭葉てんかんの奇妙な関係
3.治療
4.ナルコレプシー
まとめ
11 アルコールとてんかん発作
はじめに
1.アルコール離脱発作
2.急性アルコール中毒によって生じる発作
3.長期大量飲酒によって生じるてんかん
4.鑑別診断
まとめ
12 ミオクローヌス
はじめに
1.てんかん性ミオクローヌスの歴史
2.てんかん性ミオクローヌス
3.非てんかん性ミオクローヌス
まとめ
13 チック症とTourette症候群
はじめに
1.チック症の症状,疫学,診断
2.チック症の自然経過
3.チック症の原因
4.てんかん発作と見誤りやすいチック症状
5.チック症の治療
まとめ
14 発作性ジスキネジアと過剰驚愕症
はじめに
1.発作性運動誘発性ジスキネジア
2.発作性非運動誘発性ジスキネジア
3.発作性労作誘発性ジスキネジア
4.過剰驚愕症
まとめ
15 自己免疫介在性てんかん
はじめに
1.自己抗体とてんかん
2.病態生理
3.治療
まとめ
16 非てんかん性脳症と非けいれん性てんかん重積
はじめに
1.臨床症状
2.検査所見
3.病態生理
4.非けいれん性てんかん重積との鑑別
5.治療
まとめ
17 てんかん性脳症
はじめに
1.てんかん性脳症
2.てんかん性脳症の病態生理
まとめ
18 小児の非てんかん性発作エピソード
はじめに
1.発作性運動現象
2.発作性行動異常
3.睡眠中の非てんかん性発作
4.分類不能のエピソード
まとめ
19 常同症
はじめに
1.常同症状の特徴
2.常同症状のみられる疾患
3.常同症状の原因
4.常同症とてんかんの鑑別
まとめ
20 発作性爆発
はじめに
1.有病率
2.攻撃性の神経生物学
3.その他の特徴
4.医原性要因
5.治療法
まとめ
21 自閉症
はじめに
1.自閉症の臨床症候学
2.自閉症の病態生理と病因
3.自閉症の神経解剖学的基盤
4.自閉症とてんかんの関連性
5.薬物療法
まとめ
22 てんかん発作の前駆現象
はじめに
1.発作前駆現象
2.脳波による発作予知は可能か
まとめ
23 てんかんと抑うつ
はじめに
1.てんかんと抑うつの双方向性の関係
2.発作周辺期の抑うつ症状
3.てんかん患者のうつ病治療
まとめ
24 てんかんと精神病
はじめに
1.疫学
2.てんかん精神病の診断
3.発作時精神病
4.発作後精神病
5.発作間欠期精神病
6.術後精神病
7.抗てんかん薬による精神病
8.病態生理
9.脳波所見
10.治療
まとめ
25 てんかんとパーソナリティ
はじめに
1.パーソナリティ障害とは
2.器質性パーソナリティ障害とは
3.パーソナリティ障害と器質性パーソナリティ障害の違い
4.境界性パーソナリティ障害の神経生物学
5.てんかんとパーソナリティ障害
6.てんかんと情緒不安定性パーソナリティ障害
7.ローカルエリア・ネットワーク抑制仮説
8.パーソナリティ障害と前頭葉機能
まとめ
索引
書評
開く
境界不明瞭で不確かな疾患-てんかんに携わる医師,必携の書
書評者: 浜野 晋一郎 (埼玉県立小児医療センター神経科部長)
最近,書店で医学書を眺めていると,“するべきこと”と“してはいけないこと”,それだけが手っ取り早くわかるガイドライン・マニュアルの類いと,疾患単位ごとに病態と治療が詳細にまとめられた重厚な成書に二極化している感がある。長文を読まず最低限のことだけ,スマホ感覚で知っておきたい人種と,深く深く掘り下げたいオタク的な人種に帰因した二極化に思われる。その他に,買っただけで安心し,ほとんど読まず,読んでも拾い読みの私のような中途半端な人種も少なからずいるのだろう。
本書は,私のような中途半端な人種でも,一度眺めてみたら,第1章から読み進んでしまう不思議な本である。具体的な症例呈示が多いからかもしれない。ただし,第1章のWilliam Gowersはてんかん症例として記載されているわけではない。本書の表題が,1907年に出版された“Border-land of Epilepsy”というGowersの著作に由来しているためである。“Border-land of Epilepsy”は誤診されていた症例の臨床経験を基に,てんかんと見誤りやすい周辺疾患を解説した成書である。本書もその系譜を受け継ぎ,50以上の症例が提示されている。症例の具体的な記載により,目の前にいる患者として疾患の理解を深められる。Gowersの著作から100年間のてんかん学の進歩にも対応し,自己免疫介在性てんかん,片頭痛とmigralepsy,小児のてんかん性脳症,自閉症,チック,ならびにてんかん発作の前駆現象においてはてんかん発作の予知に関する取り組みも解説している。併存症としてうつ病,精神病,パーソナリティ障害を取り上げ,アルコールとの関連にも一章を割き,てんかん併発疾患がほとんど網羅されている。
本書を読んで痛感することは,100年前と変わらないてんかん診療における問診の重要性である。患者と観察者に注意深く耳を傾け,症状の本質を引き出す能動的な問診の大切さが,本書の柱になっている。まさにGowersから受け継いだ理念である。さらに,具体的な症例呈示もGowersから受け継がれており,患者から学ぶ,そのことをあらためて実感させられる本である。てんかんという境界不明瞭で不確かな疾患は,除外診断が重要で,ガイドラインとマニュアルが示す中核の病態とそれに基づく治療だけでは落とし穴だらけになる。だからこそ,本書はガイドライン・マニュアル派の医師にとっても必携の書と思われる。
最後に訳本である本書に関して一点付記したい。本書の監訳者の吉野相英 教授(防衛医大精神科),訳者の一人の立澤賢孝講師(防衛医大精神科)は,7年前にPeter W. KaplanとRobert S. Fisherによる“Imitators of Epilepsy”を翻訳し,『てんかん鑑別診断学』(医学書院,2010)として出版している。本書の翻訳に最適なお二人が参加していることも,本書をお薦めする要素の一つである。
明日からのてんかん診療に役立つ最新のガイドブック
書評者: 重藤 寛史 (福岡山王病院てんかん・すいみんセンター・センター長/国際医療福祉大福岡教授・看護学)
てんかん診療を行っていて痛感するのが,いかに多くの“てんかんのようでてんかんでない疾患”がてんかんと診断され,治療されてしまっているか,ということである。てんかんと診断されることによって患者が被る社会的損失,そして抗てんかん薬治療によって生じる身体的損失を考えるとき,常に「てんかんではない」可能性を念頭に診断することは基本的かつ極めて重要な姿勢である。しかし,てんかん専門医にとっても「てんかん」と「非てんかん」の鑑別は困難なことが多い。本書はその鑑別に重点を置き,図や表を用いてわかりやすく解説した,最新かつ唯一のガイドブックであり,本邦の神経学の第一線で活躍する訳者らが,豊富な臨床経験に基づいて的確に訳した名著である。
本書は,神経学の父であり,てんかんを神経疾患として独立させようとしていたGowersが100年以上も前に記した「Borderland of Epilepsy」を原型とし,神経学の黎明期から存在する「てんかんとその境界領域」を,現代医療の知見をもって「再訪する」という形で構成されている。各章のはじめにある「要約」と「はじめに」には,各疾患に対するGowersの時代の理解と現代における理解との比較が記述してあり面白い。本文では,ビデオ脳波,筋電図,心電図,脳画像検査,超音波検査,遺伝子検査など新たなテクノロジーを得た現代の専門家によって,てんかんの境界領域である疾患の発症メカニズムと鑑別のロジックを詳細に解説していて,なるほど,とうなずいてしまう。失神,心因性発作,パニック発作,めまい,頭痛,一過性脳虚血,一過性健忘,睡眠関連の発作,アルコール関連の発作,不随意運動などのてんかんと鑑別を要する疾患に加え,自己免疫介在性てんかん,非けいれん性てんかん重積,自閉症,抑うつなど,現在のてんかん学でトピックになっている疾患にも多くのページを割いており最新の知見を得ることもできる。
単に教科書的で平板なガイドブックと異なり,Gowersが多大な症例観察に基づいた記述をしていたのと同様に,本書でも多くの具体的な症例を取り上げて,それらの症例を科学的に解説しているため,推理小説的な面白さも併せ持っている。また,てんかんの境界領域である疾患の治療を,最新の情報に基づいて総括的,具体的に提示している唯一のテキストであるので,明日からの臨床に,すぐにでも役立てることができる。てんかん学の初心者から専門家まで,小児科から成人科まで,てんかんと診断することの難しさ,てんかんの境界領域にある疾患の治療の困難さ,に直面している者が,常に傍らに備えておきたい一冊である。
臨床てんかん学を志すものにとって必携の一冊
書評者: 兼本 浩祐 (愛知医科大教授・精神科学)
どのような分野であれ,その分野についてよく知るには,その分野の境界に位置する対象を知る必要がある。そうでなくては結局は自身が取り組むべき対象の輪郭を鮮明には理解できないからである。そういう意味では臨床てんかん学を志す者にとって,てんかんと同様にてんかんとてんかんではない病態の境界に位置するさまざまの病態を知ることは,まさにてんかんとは何かを知るためには必須であるといえる。
本書の内容は極めて多岐にわたっていて,てんかん類似症状としては,失神,心因性発作,パニック発作,めまい,小児の非てんかん性発作エピソードが,てんかんとの境界に位置する疾患群としては片頭痛,一過性脳虚血発作,一過性全健忘,パラソムニアが,てんかん関連症状としてはミオクローヌス,チック,発作性ジスキネジア,てんかん発作の前駆症状が,特異なてんかんの原因としては,自己免疫介在性てんかん,自閉症が,てんかん専門医でなければてんかんとは考えないかもしれない特殊なてんかん症候群として,非けいれん性てんかん発作重積状態,てんかん性脳症が,てんかんに由来する精神症状として発作性爆発,てんかん発作の前駆症状,抑うつ,精神病,パーソナリティ障害が取り上げられている。てんかんのように見えててんかんではない,てんかんのようには見えないがてんかんと深く関連するという実践的なてんかん治療において常に問題となる病態が多岐にわたり博物学的に取り上げられていて,その多彩なにぎにぎしさは,さながらアジアの夜市の出店のようなわくわく感があるが,実際にはその一つひとつの専門性の高さを考えれば,むしろ東急ハンズの売り場のほうに近いのかもしれない。
原本の編者の1人,マルクス・ロイバーは現在ヨーロッパてんかん学会の機関誌である “Seizure” の編集委員長であり,もう1人スティーブン・シャハターは,精神症状や社会状況も含めてんかんを包括的に取り扱おうという趣旨の雑誌である “Epilepsy & Behavior” の編集委員長で,いずれもてんかん診療における境界領域と呼ばれている領域が,少なくとも臨床においては,中核領域と勝るとも劣らない重要性を持つことを熟知している人たちである。付け加えていうならば両者とも懐の深い編集方針を貫いていて,日は当たらないが重要な多くのトピックに関する論文を積極的に受理している。本書には先日亡くなったディーター・ヤンツの序文も添えられている。そこには私を含めヤンツに師事した全てのヤンツ・シューラー(弟子)の心に刻まれている教え,そしててんかんにおいてもてんかんの辺縁領域においても,最初に掲げられるべき指針が書かれている。「患者の訴えに注意深く耳を傾けることによって得られる情報にまさるものはない」という言葉がそれである(「序」より)。
本書は,てんかんに興味を持ち,とりあえずの診断ができるようになった後で,自らの臨床力を次のステップへ進めようと思う人には必須の本であるとともに,専門家が自らの知識を更新するにも欠かせない項目が多数含まれており,てんかん学を志す人には必携の一冊といえる。
書評者: 浜野 晋一郎 (埼玉県立小児医療センター神経科部長)
最近,書店で医学書を眺めていると,“するべきこと”と“してはいけないこと”,それだけが手っ取り早くわかるガイドライン・マニュアルの類いと,疾患単位ごとに病態と治療が詳細にまとめられた重厚な成書に二極化している感がある。長文を読まず最低限のことだけ,スマホ感覚で知っておきたい人種と,深く深く掘り下げたいオタク的な人種に帰因した二極化に思われる。その他に,買っただけで安心し,ほとんど読まず,読んでも拾い読みの私のような中途半端な人種も少なからずいるのだろう。
本書は,私のような中途半端な人種でも,一度眺めてみたら,第1章から読み進んでしまう不思議な本である。具体的な症例呈示が多いからかもしれない。ただし,第1章のWilliam Gowersはてんかん症例として記載されているわけではない。本書の表題が,1907年に出版された“Border-land of Epilepsy”というGowersの著作に由来しているためである。“Border-land of Epilepsy”は誤診されていた症例の臨床経験を基に,てんかんと見誤りやすい周辺疾患を解説した成書である。本書もその系譜を受け継ぎ,50以上の症例が提示されている。症例の具体的な記載により,目の前にいる患者として疾患の理解を深められる。Gowersの著作から100年間のてんかん学の進歩にも対応し,自己免疫介在性てんかん,片頭痛とmigralepsy,小児のてんかん性脳症,自閉症,チック,ならびにてんかん発作の前駆現象においてはてんかん発作の予知に関する取り組みも解説している。併存症としてうつ病,精神病,パーソナリティ障害を取り上げ,アルコールとの関連にも一章を割き,てんかん併発疾患がほとんど網羅されている。
本書を読んで痛感することは,100年前と変わらないてんかん診療における問診の重要性である。患者と観察者に注意深く耳を傾け,症状の本質を引き出す能動的な問診の大切さが,本書の柱になっている。まさにGowersから受け継いだ理念である。さらに,具体的な症例呈示もGowersから受け継がれており,患者から学ぶ,そのことをあらためて実感させられる本である。てんかんという境界不明瞭で不確かな疾患は,除外診断が重要で,ガイドラインとマニュアルが示す中核の病態とそれに基づく治療だけでは落とし穴だらけになる。だからこそ,本書はガイドライン・マニュアル派の医師にとっても必携の書と思われる。
最後に訳本である本書に関して一点付記したい。本書の監訳者の吉野相英 教授(防衛医大精神科),訳者の一人の立澤賢孝講師(防衛医大精神科)は,7年前にPeter W. KaplanとRobert S. Fisherによる“Imitators of Epilepsy”を翻訳し,『てんかん鑑別診断学』(医学書院,2010)として出版している。本書の翻訳に最適なお二人が参加していることも,本書をお薦めする要素の一つである。
明日からのてんかん診療に役立つ最新のガイドブック
書評者: 重藤 寛史 (福岡山王病院てんかん・すいみんセンター・センター長/国際医療福祉大福岡教授・看護学)
てんかん診療を行っていて痛感するのが,いかに多くの“てんかんのようでてんかんでない疾患”がてんかんと診断され,治療されてしまっているか,ということである。てんかんと診断されることによって患者が被る社会的損失,そして抗てんかん薬治療によって生じる身体的損失を考えるとき,常に「てんかんではない」可能性を念頭に診断することは基本的かつ極めて重要な姿勢である。しかし,てんかん専門医にとっても「てんかん」と「非てんかん」の鑑別は困難なことが多い。本書はその鑑別に重点を置き,図や表を用いてわかりやすく解説した,最新かつ唯一のガイドブックであり,本邦の神経学の第一線で活躍する訳者らが,豊富な臨床経験に基づいて的確に訳した名著である。
本書は,神経学の父であり,てんかんを神経疾患として独立させようとしていたGowersが100年以上も前に記した「Borderland of Epilepsy」を原型とし,神経学の黎明期から存在する「てんかんとその境界領域」を,現代医療の知見をもって「再訪する」という形で構成されている。各章のはじめにある「要約」と「はじめに」には,各疾患に対するGowersの時代の理解と現代における理解との比較が記述してあり面白い。本文では,ビデオ脳波,筋電図,心電図,脳画像検査,超音波検査,遺伝子検査など新たなテクノロジーを得た現代の専門家によって,てんかんの境界領域である疾患の発症メカニズムと鑑別のロジックを詳細に解説していて,なるほど,とうなずいてしまう。失神,心因性発作,パニック発作,めまい,頭痛,一過性脳虚血,一過性健忘,睡眠関連の発作,アルコール関連の発作,不随意運動などのてんかんと鑑別を要する疾患に加え,自己免疫介在性てんかん,非けいれん性てんかん重積,自閉症,抑うつなど,現在のてんかん学でトピックになっている疾患にも多くのページを割いており最新の知見を得ることもできる。
単に教科書的で平板なガイドブックと異なり,Gowersが多大な症例観察に基づいた記述をしていたのと同様に,本書でも多くの具体的な症例を取り上げて,それらの症例を科学的に解説しているため,推理小説的な面白さも併せ持っている。また,てんかんの境界領域である疾患の治療を,最新の情報に基づいて総括的,具体的に提示している唯一のテキストであるので,明日からの臨床に,すぐにでも役立てることができる。てんかん学の初心者から専門家まで,小児科から成人科まで,てんかんと診断することの難しさ,てんかんの境界領域にある疾患の治療の困難さ,に直面している者が,常に傍らに備えておきたい一冊である。
臨床てんかん学を志すものにとって必携の一冊
書評者: 兼本 浩祐 (愛知医科大教授・精神科学)
どのような分野であれ,その分野についてよく知るには,その分野の境界に位置する対象を知る必要がある。そうでなくては結局は自身が取り組むべき対象の輪郭を鮮明には理解できないからである。そういう意味では臨床てんかん学を志す者にとって,てんかんと同様にてんかんとてんかんではない病態の境界に位置するさまざまの病態を知ることは,まさにてんかんとは何かを知るためには必須であるといえる。
本書の内容は極めて多岐にわたっていて,てんかん類似症状としては,失神,心因性発作,パニック発作,めまい,小児の非てんかん性発作エピソードが,てんかんとの境界に位置する疾患群としては片頭痛,一過性脳虚血発作,一過性全健忘,パラソムニアが,てんかん関連症状としてはミオクローヌス,チック,発作性ジスキネジア,てんかん発作の前駆症状が,特異なてんかんの原因としては,自己免疫介在性てんかん,自閉症が,てんかん専門医でなければてんかんとは考えないかもしれない特殊なてんかん症候群として,非けいれん性てんかん発作重積状態,てんかん性脳症が,てんかんに由来する精神症状として発作性爆発,てんかん発作の前駆症状,抑うつ,精神病,パーソナリティ障害が取り上げられている。てんかんのように見えててんかんではない,てんかんのようには見えないがてんかんと深く関連するという実践的なてんかん治療において常に問題となる病態が多岐にわたり博物学的に取り上げられていて,その多彩なにぎにぎしさは,さながらアジアの夜市の出店のようなわくわく感があるが,実際にはその一つひとつの専門性の高さを考えれば,むしろ東急ハンズの売り場のほうに近いのかもしれない。
原本の編者の1人,マルクス・ロイバーは現在ヨーロッパてんかん学会の機関誌である “Seizure” の編集委員長であり,もう1人スティーブン・シャハターは,精神症状や社会状況も含めてんかんを包括的に取り扱おうという趣旨の雑誌である “Epilepsy & Behavior” の編集委員長で,いずれもてんかん診療における境界領域と呼ばれている領域が,少なくとも臨床においては,中核領域と勝るとも劣らない重要性を持つことを熟知している人たちである。付け加えていうならば両者とも懐の深い編集方針を貫いていて,日は当たらないが重要な多くのトピックに関する論文を積極的に受理している。本書には先日亡くなったディーター・ヤンツの序文も添えられている。そこには私を含めヤンツに師事した全てのヤンツ・シューラー(弟子)の心に刻まれている教え,そしててんかんにおいてもてんかんの辺縁領域においても,最初に掲げられるべき指針が書かれている。「患者の訴えに注意深く耳を傾けることによって得られる情報にまさるものはない」という言葉がそれである(「序」より)。
本書は,てんかんに興味を持ち,とりあえずの診断ができるようになった後で,自らの臨床力を次のステップへ進めようと思う人には必須の本であるとともに,専門家が自らの知識を更新するにも欠かせない項目が多数含まれており,てんかん学を志す人には必携の一冊といえる。
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