一歩先のCOPDケア
さあ始めよう,患者のための集学的アプローチ

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「地上で溺れるような」「もっとも苦しい人生の最終段階」と世界中の医療者が嘆き、苦慮する現代の病COPD(慢性閉塞性肺疾患)。超高齢社会のわが国で、500万人超の潜在患者層を来たるべき悲劇から救うため、最前線から集学的ケアチームが駆けつけた! 「牛乳瓶1本ぶんの酸素」でよみがえる笑顔のため、患者の人生をより良く支えるTips(現場のコツ)を詰め込んだ、臨床ですぐに役立つガイドブック。
編集 河内 文雄 / 巽 浩一郎 / 長谷川 智子
発行 2016年10月判型:B5頁:240
ISBN 978-4-260-02839-4
定価 2,970円 (本体2,700円+税)

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まえがき

 病院,診療所などの医療機関を受診するCOPD患者さんは多様性に富んでいる.医師・看護師・理学療法士・臨床工学技士・栄養士など多職種の医療関係者が,それぞれの分野でCOPD患者さんの診療の,それぞれ一部に対応している.そう,一人の医療関係者が診られるのは,(例えばCOPDと診断が付いている)患者さんのごくごく一部なのである.筆者は大学病院での診療に従事して久しいが,それでも自分が診た患者さんが,本当にCOPDの全体像を表しているのかは,何とも自信が持てない.その道のプロと言われる方々は,さもすべてを知っているように講演をして論文執筆をする.しかし,謙虚にならないといけない.異なる職種の方々,同じ職種でも違う立場の方々の意見に耳を傾けるべきである.本書は,もしかしたら,読んで頂いた方々に新しい息吹を与えるかもしれない,いや与えるに違いない.

 をみていただきたい.中心に位置する患者さんは,多くの悩みを抱えている.それらに適切に,親切に対応するためには,多職種集団での情報交換が必要になる.COPD患者さんの呼吸管理(呼吸ケア)・リハビリテーションは,地域基幹病院で実施するだけでは不十分であり,地域医療の中でどのように継続していくかが問題になる.患者さん中心の医療を考えるとき,専門医はむしろ蚊帳の外かもしれない.患者さんのそばに,より近くにいるのは看護師さんであり,理学療法士さんである.かかりつけ医も同じように近くにいる存在である.
図
 本書のメインタイトルに,「一歩先」と謳おうと提案したのは筆者である.より良い明日を目指してという気持ちからである.編集には,本企画のしかけ人であり千葉の地域医療をともに支える盟友である河内文雄先生,福井県にあってわが国の慢性呼吸器疾患看護認定看護師の育成を率いられる長谷川智子先生のトリオを組むことができた.また医学書院の編集担当の青木大祐氏と制作担当の川口純子氏とともに,日本で最高のチームが組めたと自負している.またサブタイトルに「さあ始めよう,患者のための集学的アプローチ」とポジティブなメッセージを発するにあたっては,長谷川先生を中心に,編者たちと出版社とで何度となく議論をくり返した.

 本書は,医書専門出版社の老舗からの出版物であるにもかかわらず,何とくだけた内容か,何と読みやすい内容かと思う.ともすれば難解と思われているCOPDケアに対して,多方面から集学的なアプローチを試みている.執筆者がそれぞれの立場で,自分の信じる道を描いている.そのゆく先には患者を中心とする新時代の医療のかたちがある.
 この本を手にとっていただいたあなたが,COPD患者さんのケアにより関心を抱いていただき,患者さんを励ましながら,より良い明日の日本をつくっていっていただければ幸いである.

 2016年9月
 編者を代表して 巽 浩一郎

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第Ⅰ章 呼吸サポートチームで共有するCOPDのおさらい
 1 宝の山は語る-定義
 2 外来実況中継-疫学と予防
 3 サインは「咳ばらい」-症状経過
 4 真犯人の正体は-病因
 5 スパイロメトリー現場術-生理検査
 6 COPDの栄養療法
 7 画像検査から読み解く3つの病変
 8 難民問題としてみるCOPD-診断基準

第Ⅱ章 看護でここまで支援できる
 1 COPD看護のいまとその先
 2 慢性疾患としてのCOPDを理解する
 3 人の可能性を引き出す-患者教育
 4 対象者に寄り添うテーラーメイド看護
 5 症状別アセスメントとマネジメント
 6 疾患の経過とQOLのアセスメント
 7 心理・社会・スピリチュアル面のアセスメント
 8 身体活動性の向上のための技術
 9 家族・介護者の支援向上

第Ⅲ章 外来で-通院治療そこが知りたい
 1 何を目標とするか?-QOLと並ぶもの
 2 COPDのクスリ-内服薬と吸入薬
 3 COPDと空気-HOTとCPAP
 4 合併症のtips (1)気管支喘息
 5 合併症のtips (2)骨粗鬆症
 6 合併症のtips (3)サルコペニア
 7 合併症のtips (4)不眠症
 8 合併症のtips (5)循環器疾患
 9 合併症のtips (6)糖尿病

第Ⅳ章 地域で-在宅ケアそこが知りたい
 1 在宅医のtips 訪問診療とケア連携
 2 在宅ケアのtips (1)自己効力感向上の支援
 3 在宅ケアのtips (2)アクションプラン
 4 在宅ケアのtips (3)社会福祉サービス
 5 在宅ケアのtips (4)在宅酸素療法の導入支援
 6 在宅ケアのtips (5)NPPVの活用
 7 在宅ケアのtips (6)感染防止とトラブル対処
 8 在宅ケアのtips (7)ストレスマネジメント

第Ⅴ章 病院で-入院治療そこが知りたい
 1 入院は死と隣り合わせなのか-死因
 2 入院が必要になる状況とは-入院事情
 3 入院のタイミング判断-時期と時機
 4 入院中の感染症治療-ABCアプローチ
 5 急性増悪での入院から-退院の目安

第Ⅵ章 みんなで支える総合ケア・リハのしかけ
 1 底上げ実践! 呼吸リハビリテーション
 2 医師が勧める 包括的呼吸リハビリテーション
 3 成果を上げる禁煙外来のしかけ
 4 終末期のケアサポート-倫理的課題と家族ケア
 5 呼吸療法サポートチーム(RST)ができること-多職種連携

あとがき
索引

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呼吸ケア・リハ関係者が膝を打つ これからの医療者のための名著
書評者: 千住 秀明 (公益財団法人結核予防会複十字病院 呼吸ケアリハビリセンター付部長)
 本書は,医師・看護師・理学療法士(PT)などCOPD(慢性閉塞性肺疾患)の医療とケアに関わる人々のために2016年10月に上梓された入門書であり,専門書でもある。その特徴は,執筆者のラインナップが,医師だけをとっても現場の第一線で活躍されるクリニック院長から,大学病院での専門研究に携わる教授(巽浩一郎先生)までが協働されて,多方面からの「集学的なCOPDケア」を語られている点にある。特に,編者の一人河内文雄氏は,その日常診療の中から溢れる患者への思いをも実地の診療録を通して記載されており,医療者としてケア・キュアがどうあるべきか,その哲学を語られていることに筆者は感銘を受けた。医師だけにとどまるものではない。施設・地域の看護師やPT,これから臨床現場へ向かう学生たちのため,単なる知識だけではなく,医療人としてのアイデンティティーを養うための参考書としても有用である。その理由は多様な著者たちがそれぞれの職種からの視点ではなく,あくまで患者の視点からの呼吸ケアが語られていることにある。

 こうした本書の特徴は,章立てをみてもよく理解できる。「第Ⅰ章 呼吸サポートチームで共有するCOPDのおさらい」「第Ⅱ章 看護でここまで支援できる」「第Ⅲ章 外来で——通院治療そこが知りたい」「第Ⅳ章 地域で——在宅ケアそこが知りたい」「第Ⅴ章 病院で——入院治療でそこが知りたい」「第Ⅵ章 みんなで支える総合ケア・リハのしかけ」で構成されている。特に,看護師としてCOPD患者のために,「看護でここまでできること」と同僚のナースたちへの強いメッセージを込めて記載している編者(長谷川智子先生)の姿勢も印象的であった。

 各章の中には日常臨床でよくみられる事例を数多く取り上げられており,多くの点で読者が共感することができるだろう。「すべてのCOPD患者さんに(中略)アスリートを支えるコーチ陣のように,励まし,支え,寄り添って」(p.200)。これこそ,すべての呼吸ケアやリハビリテーションに関わる者にチーム医療者として共通する視点であり,日常臨床に関わっている医療関係者は,本書を読み進むと思わす「その通り」と声を上げたくなると思う。また,「呼吸器疾患において積極的治療を行わないことは禁忌です。標準的な薬物療法や呼吸リハ,在宅酸素療法やNPPVや,急性増悪の予防といった疾患管理そのものが,呼吸苦の症状緩和やQOLに関係します」(p.195)との記載には,呼吸ケアに関わる医療関係者への強いメッセージが込められている。

 一方,随所に記載された「コラム」は,ややもすると難解で堅くるしい専門書を,物語のように読者を夢中にさせる効果がある。本書を読み,著者はまだ面識がない前述の河内氏——「町医者」としてまい進されるため,開業の際に一切の学会活動から離脱されて,在野で過ごされてきたご経歴だと伺った——に会ってみたいと思わせられたほどインパクトの強い書である。単なるCOPDのガイドブックではない。医療人として,診療とはどうあるべきかを読み手に問いただす名著であり,これからの呼吸ケアや呼吸リハビリテーションを担う若い看護師,理学療法士,作業療法士や学生たちにぜひとも読んでいただきたい。
地域包括ケアの時代の「一歩先」を追求する患者ファーストに貫かれたチーム医療の実用書
書評者: 亀井 智子 (聖路加国際大大学院教授・老年看護学)
 医療や看護の領域で,「一歩先」とはどのくらい先を示しているのだろうか――。筆者は慢性呼吸不全患者の在宅ケアに長く取り組んできた者として,この標題から強いメッセージを感じながら,期待を持って本書のページを開いた。

 COPD(慢性閉塞性肺疾患)は非可逆的・進行性の疾患で,“地上で溺れるような”症状を伴う。そのような患者の苦しみを目の前にしたとき,患者にそのライフヒストリーを取り入れた人生の意味づけを促進しながらスピリチュアルペインを緩和し,吸入薬剤の種類も患者に合ったものとそれに適切な使用方法を患者とともに見つけることや,栄養の摂取方法の見直しに至るまで,まさに多職種による集学的アプローチが不可欠となる。

 本書のユニークさとして,患者の“生活の場”を念頭に置き,家庭医(本書では「町医者」),呼吸器専門医,専門/認定看護師,理学療法士などによって,それぞれ外来,在宅,入院という患者の生活場面,言い換えるとケアを提供する場に沿っての内容構成がなされている点がある。これら別個の専門職による「団体戦による精神的総合格闘技」(p.27)と本書で表現されるCOPDのチーム医療の真髄が,ユニークでわかりやすい表現を随所に交えながら記されている。例えば筆者の目を引いたひとつに,慢性呼吸器疾患看護認定看護師の上田真弓さんが,患者に生体の難解なしくみを説明するため,肺胞でのガス交換を一目でイメージできるようにと作成されたイラストがある。患者教育はCOPDの包括的リハビリテーションの中でも重視されているが,労作性呼吸困難を経験している患者の肺の奥で何が起こっているのかをわかりやすく説明することは現場ではなかなか難しい。本書では,いかに患者自身が理解できるように説明するか,患者をケアの中心に置くかという「患者ファースト」の視点が貫かれているように思う。

 また,COPDの診断にまつわる章では,検査値という数値だけが診断基準とされることへの警鐘が,医師サイドから鳴らされている(p.36)。一律の長さであるひとつの定規による「線引き」だけでなく,患者の自覚症状こそ重視するという医療の本分の「復権」について,ここでは,「穴のあいた定規」も時として必要であると説かれていることが,筆者自身も忘れかけていた“呼吸の状態を一番よく知っているのは患者自身である”というケアの原点を思い起こさせてくれた。

 事例を用いて紹介しているケア展開の章では,診察室やベッドサイド,呼吸ケアチームとしてのラウンド,また訪問看護などの場で対峙した例がリアリティに富んで解説されている。ところどころに挿入されているコラムでは,日常の診療室で生じているさまざまな出来事の単なる紹介にとどまらず,心を打たれる医療者と患者とのやり取りが描かれていて,患者から学ぶことの大切さがここでも強調されている。

 地域包括ケアの時代である現在,COPDを伴う高齢者が住み慣れた地域・家庭で最期まで暮らすことを支えるため,家庭医,専門医,医療機関の看護師や訪問看護師,理学療法士,栄養士,薬剤師などによる,患者と家族を中心に置いた切れ目のない専門性の高いケアこそが,本書のうたう「一歩先」のチーム医療なのではないだろうか。

 実践・実用の書として示唆に富み,手元に置きたい一冊である。
超高齢社会で重要な知見に富む集学的チームによるガイドブック
書評者: 山岸 文雄 (旭硝子千葉工場健康管理センター所長)
 COPD(慢性閉塞性肺疾患)は2015年の日本人の死因ランキングの第10位,男性では第8位となっており,超高齢社会において健康寿命を維持するうえで,非常に重要な疾患である。しかしわが国でCOPDという病名を知っている人は30%にも満たず,極めて認知度が低い現状である。また,最近の疫学調査では,わが国のCOPD患者数は約700万人,COPD治療者数は約50万人,無治療者数は約650万人とされており,診断されて治療を受けている患者よりも,症状があるのに医療機関を受診していない,あるいは受診しても正しく診断されずに無治療で放置されている患者のほうが圧倒的に多い。

 本書のタイトルは『一歩先のCOPDケア』である。一歩先,としたのはより良い明日をめざしてという気持ちからであると,「まえがき」に記載されている(P.Ⅵ)。重症化したCOPD患者は「地上で溺れるような苦しい状況」を経験することになる。しかし,そうならないように,サブタイトルの「患者のための集学的アプローチ」にあるように,地域基幹病院の専門医だけでなく,看護師,理学療法士,かかりつけ医などの,多職種の医療関係者がチームを組んでCOPD患者を励まし,支え,ケアを行っていただきたいと述べられている。そして本書の中で繰り返し記載されているのが,今からでも遅くないので,禁煙してほしいということである。長年タバコを吸ってきても禁煙すれば,不可逆性であるCOPDは改善しないまでもCOPDの進行を止めることができ,何歳であっても禁煙により肺のダメージを減らすことが期待できると前向きなメッセージが明確に呈示されている。栄養療法,運動療法,肺理学療法,薬物療法なども同様に,病気の進行を遅らせ,症状を軽減することが可能となる。

 本書は,長年地域医療に尽力し多くの患者の診療を行ってきた開業医,関連学会で指導的立場にある医学部教授,そして慢性呼吸器疾患看護認定看護師の育成に携わってきた看護学部教授という,まったく分野の異なった3人が協力し,編集して出来上がった大変ユニークなものである。その内容は,第Ⅰ~Ⅵ章にわたって構成されており,各項目に各々の分野の専門家がCOPDケアについて,大変わかりやすく記載している。また随所に散りばめられた16のコラムは,温かい気持ちにさせてくれるウィットに富んだ内容のものが多い。患者さんとの医療を介したほのぼのとした付き合いが垣間見られ,読者は思わずにんまりしてしまうこと請け合いである。

 本書は主に看護職を対象に平易に書かれたものであるが,実地医家や初期研修医にも役立つ内容となっており,ぜひ,お手元に置かれ,利用されることをお薦めしたい。

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