• HOME
  • 書籍
  • 呼吸器診療 ここが「分かれ道」


呼吸器診療 ここが「分かれ道」

もっと見る

日常の呼吸器臨床の場で、疾患の診断や鑑別、薬剤の選択、さらには患者からの訴えへの対処法といった様々な岐路に遭遇した場合、臨床経験が豊富な医師はどのような思考回路で、数ある選択肢の中から自分なりに最適な解を導き、診療するのか、その頭の中を解き明かす。エビデンスに基づいた記載が基本となるが、終末期医療などの意見が分かれるゾーンについても知識やデータを示す。呼吸器科領域への興味が湧くコラムも多数収録。
倉原 優
発行 2015年04月判型:A5頁:260
ISBN 978-4-260-02135-7
定価 4,400円 (本体4,000円+税)

お近くの取り扱い書店を探す

  • 更新情報はありません。
    お気に入り商品に追加すると、この商品の更新情報や関連情報などをマイページでお知らせいたします。

  • 序文
  • 目次
  • 書評

開く



 私はブログ「呼吸器内科医」(http://pulmonary.exblog.jp/)で論文の和訳・紹介やコラム・エッセイなどを書いています。主に医師向けのブログですが,当院にローテートしてきた研修医の方々も「ブログ,見ています」と声をかけてくれることが多くなりました。「医療従事者が患者さんに幸せを還元できるようなブログでありたい」という思いで,できるだけ毎日更新するよう心がけています。本書も,決して医療従事者のためだけに書いたのではなく,目の前の患者さんによりよい医療を提供できればという思いで筆を執りました。

 私が研修医の頃,「エビデンスは教科書に書いてあるけど結局のところ指導医はどうしているの?」と悩む場面がたくさんありました。リサーチクエスチョンというほど崇高なものではなく,日常臨床に遭遇する素朴な疑問です。もちろん,この本を読んでいる方々のなかにもそういう疑問を抱いている人がいるかもしれません。日常臨床には,無数に「分かれ道」が存在します。医療とは,その決定の連続です。その分かれ道のいずれかが正解かもしれない,あるいは両方とも正解かもしれない。進んでみないとその先が見えない道だってあります。私もこれまでにたくさんの分かれ道を経験してきましたが,その全てが正解だったとは思いません。本書で紹介する分かれ道は,呼吸器臨床でよく遭遇する,ありふれたものです。状況によってはどちらの選択肢も正解かもしれませんが,ここでは私の個人的な見解に基づいて,その思いを書き綴っています。

 本書の刊行にあたり,出版に尽力いただいた医学書院の北條立人氏に心より感謝申し上げます。原稿は,妻の里帰り出産中に書き上げることができました。妻の実佳子,長男の直人,次男の恵太にも感謝しています。ありがとう。

 2015年2月
 近畿中央胸部疾患センター 内科
 倉原 優

開く

第1章 徴候・身体所見
 1 呼吸困難感を指導医に伝えるためには?
 2 呼吸困難感を和らげる薬剤を求められた!
 3 咳嗽の特徴から疾患を鑑別するには?
 4 これは咳喘息ですか?アトピー咳嗽ですか?
 5 咳嗽を和らげる薬剤を求められた!
 6 大量の喀痰,鑑別診断は?
 7 喀痰を和らげる薬剤を求められた!
 8 血痰が出た!
 9 喀痰抗酸菌塗抹が陽性に! すぐに結核病棟のある病院へ紹介するべきか?
 10 慢性呼吸器疾患の患者さんのSpO2が低下してきた!
 11 縦隔リンパ節が腫大していた!
 12 腫瘍熱か,感染症か?
 13 聴診でfine cracklesを聴取したら考えるべき疾患は?

第2章 閉塞性肺疾患
 1 救急搬送された患者にwheezesを聴取。喘息発作? COPD急性増悪?
 2 喫煙は寿命を短くするか?
 3 コンプライアンスの維持にはどの吸入ステロイド薬がよいか?
 4 気管支喘息の吸入薬は合剤でよいか?
 5 喘息発作時に使用するSABAの製剤はどれがよい?
 6 吸入薬はpMDIとDPIのどちらがよいか?
 7 ICSはステップダウンしてもよいのか?
 8 喘息発作・COPD急性増悪のときの全身性ステロイドは全例リンデロン®が正しい?
 9 COPDに吸入ステロイド薬は有効なのか?
 10 ロイコトリエン拮抗薬の使い方とは?
 11 COPDにおけるテオフィリンの使い方とは?

第3章 間質性肺疾患
 1 間質性肺疾患の急性期と慢性期を分けて考える!
 2 特発性肺線維症の治療は?
 3 CTで間質性肺炎像アリと言われたら?
 4 特発性肺線維症の急性増悪に対してステロイドパルスを投与するべきか?
 5 呼吸器内科でステロイドパルスを用いるタイミングは?
 6 慢性間質性肺疾患の鑑別は可能?
 7 間質性肺疾患におけるステロイドの減量方法は?
 8 KL-6が上がっていたら間質性肺疾患?

第4章 肺がん
 1 間質性肺疾患を合併した肺腺がんの治療は?
 2 肺がんが確定した後に禁煙しても無駄?
 3 下顎呼吸から死期を推定できるか?

第5章 その他の分かれ道
 1 気管支鏡後の気胸に対して胸腔ドレナージは必要か?
 2 胸水は全部抜く?
 3 穿刺困難な少量胸水を抜くテクニック
 4 高齢者でQFTは役に立つのか?
 5 ステロイドを投与時にQFT陽性ならば,全例LTBIの治療適応か?
 6 スリガラス影と網状影,どっち?
 7 消えない緑膿菌
 8 じん肺? 非じん肺?
 9 胸部レントゲン写真を見たら,肺がんと結核を疑え!?
 10 若手医師が苦手な「小葉中心性」と「ランダム分布」
 11 医師が使う日本語は古風?
 12 医学論文はなぜ若手医師に嫌われるのか?

Column
 呼吸困難? 呼吸困難感? 呼吸苦?
 気道可逆性試験とは?
 咳喘息に対する吸入ステロイド薬(ICS)の投与期間
 隠れた鎮咳薬・ハチミツ
 桜の木が痰に効く
 塗抹陰性,PCR陽性
 wheezesの分類はマイナー?
 バランスのとれたICSとは?
 全ての吸入薬は5秒間息止めするものと覚えてよい
 4時間以内のコーヒー摂取歴には注意!
 癌という漢字の意味
 臨死体験
 Subpleural curvilinear shadow


本書に出てくる略語一覧
索引

開く

呼吸器診療において進むべき道のりを照らす暖かい光
書評者: 中島 啓 (亀田総合病院呼吸器内科医長)
 日常診療は常に悩みの連続である.呼吸器診療だけでなく,多くの診療科で共通することかもしれないが,医学においては,確立されたエビデンスが存在しない領域も多々ある.呼吸器内科専門医であっても,臨床の中では,「分かれ道」に立たされることは少なくない.呼吸器診療における「分かれ道」に遭遇した臨床医は,自分の臨床経験,教科書・文献データに基づき,悩みながらも「目の前の患者の幸福につながる」と信じる決断をしていくことになる.

 本書『呼吸器診療「ここが分かれ道」』は,呼吸器内科医から総合診療医まで,呼吸器診療に携わるものなら誰もが持つような設問に対して,著者の経験,現時点での最新文献に基づく答えと思考過程を,わかりやすく示してくれている.著者のブログ「呼吸器内科医」(http://pulmonary.exblog.jp/)は質の高い文献情報が豊富で,呼吸器内科医なら誰もが知る人気ブログとなっているが,本書籍も最新文献と臨床情報を読者に提供する期待通りの内容である.

 私が特に印象に残った設問とその答えを下記に記す.

「吸入薬はpMDIとDPIのどちらを使えばよいのか?」(p.99)
→ 若い患者さんはDPI,高齢者は使い勝手で好きなほうを.

「喘息発作・COPD急性増悪に対する全身性ステロイドは
 全例リンデロン®でよい?」(p.110)
→ 答えはないが,プレドニン錠®でもよい.

「呼吸器内科におけるステロイドパルス療法のタイミングは?」(p.150)
→ エビデンスがないので経験則に基づいているのが現状である.

「肺がんが確定した後でも禁煙をすすめたほうがよい?」(p.180)
→ 生存期間を延長する可能性があるので,禁煙をすすめたほうがよい.

「喀痰から緑膿菌がずっと検出されている気管支拡張症に打つ手はあるか?」(p.217)
→ 現時点では根本的対策に乏しい.

 設問ごとに,最新の文献や著者の経験に基づく,コンパクトな解説が掲載されている.若手医師が確実に押さえておくべきところは太字で示され記憶にも残りやすく,明日からの実臨床に役立つ内容になっている.

 主な対象は初期研修医2年目から後期研修医までの若手医師と思われるが,呼吸器内科専門医が読んでも十分読み応えがあり,知識の整理に役立つと感じた.私は医師10年目の呼吸器内科専門医であるが,私自身も頭の中で何となく思っていたことが,わかりやすく整理され,シンプルな結論を導いており感動した.また,著者の「患者の幸福を実現したい」という思いが,ひしひしと伝わってきた.

 本書は,呼吸器内科を志す者,そして,悩ましい呼吸器診療の「分かれ道」に遭遇する若手医師にとって,進むべき道のりを照らす光になるであろう.また,著者の呼吸器診療にかける熱い思いは,呼吸器内科の面白さや魅力を私たちに教えてくれる.呼吸器診療に携わる若手医師にとって,必読の1冊と言える.
患者の目線に立った診療を意識できる良書
書評者: 長野 宏昭 (沖縄県立中部病院呼吸器内科)
 本書は,呼吸器分野の診療で遭遇する,素朴ではあるがよくある疑問に対して,エビデンスやガイドラインを紹介しながら,それらに対する筆者の見解を交えつつわかりやすく解説している。

 私たち臨床医は患者の診療を行うに当たって,さまざまな臨床データを参考にしながら行っている。いわゆるエビデンスに基づいた医療が現代医学の基本であることは言うまでもない。しかし,どのようなエビデンスを基に診療を行えば良いのか,あるいはエビデンスを目の前の患者にどの程度適応すれば良いのか,ふと立ち止まってしまう場面も多いのが現実である。

 例えば,中等症以上の気管支喘息と診断された患者に対して,ほとんどの内科医はコントローラーとして吸入ステロイドを処方することができるであろう。しかし,数ある多くの吸入デバイスの中からどの吸入器を選択すれば良いのか,LABAとの合剤にすべきかどうか,ステップダウンをどのようなタイミングで行うべきか,などに関しては,喘息診療を始めたばかりの研修医や呼吸器を専門にしていない内科医にとっては,ふと立ち止まって考えてしまう場面かもしれない。

 著者の倉原先生はこのような場面を「分かれ道」と表現し,道標となるエビデンスやガイドラインを紹介した上で,そのエビデンスを実際の日常臨床にどのように適用していくのか,その思考過程を明確に,わかりやすく示している。単に文献を紹介するだけではなく,患者の目線に立ち,サイエンスを「血の通った人間」に対して有機的に用いていく思考過程に好感が持てる。エビデンスを重視しながらも患者の心や個性を大切にしたいと願う,著者の内に秘めたる熱い想いがうかがえる。図表が多く用いられており,知識も整理しやすくなっている。

 あえて注文を付けるとすれば,肺がんと呼吸器感染症の分野が少なく,やや物足りなさを感じた程度である。

 本書は呼吸器診療に携わる多くの研修医,プライマリケア医,内科医,専門医にとって,今すぐ参考となる良書と言える。ひたむきに日々の診療に携わる多くの医師に一読して頂きたいと願う。

  • 更新情報はありません。
    お気に入り商品に追加すると、この商品の更新情報や関連情報などをマイページでお知らせいたします。