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あなたの患者さん,認知症かもしれません
急性期・一般病院におけるアセスメントからBPSD・せん妄の予防,意思決定・退院支援まで

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身体治療を提供する急性期病院で、認知症をもつ患者がどのような体験をするのか、どのような支援が望まれるのかをまとめた書。今まであまり触れられてこなかった認知症の当事者の体験、意思決定支援、心理的な苦痛についても取り上げた。特に意思決定支援は、患者の権利の擁護を考えるうえでも、もはや避けられないperson centered careの中心である。超高齢化社会の今こそ多くの医療関係者に読んでほしい書。
小川 朝生
発行 2017年10月判型:A5頁:192
ISBN 978-4-260-02852-3
定価 3,850円 (本体3,500円+税)

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 急性期病院,一般病院において,認知症をもつ患者さんに対応する必要が認識されてきました。それぞれの施設や病棟でも,認知症の研修を受けに行かなければならない,施設のマニュアルを作らなければいけないと頭を悩ませているスタッフの方も多くおられるのではないでしょうか。看護雑誌でも認知症ケア加算の取り方についての特集が組まれていますし,加算の要点をまとめた書籍も出てきました。
 しかし,現場で意見を伺うと,
 「認知症ってもの忘れですよね。もの忘れは忘れたら繰り返し言うしかないのでは?」
 「認知症ケアとは言うけれども,何をしてよいかわからない」
 「マニュアルを読んでも,やはり何をしてよいのかわからない。何が必要なのかもわからない」
と悩む声も聞こえてきます。
 認知症ケアというと,徘徊のケアや帰宅要求への対応のイメージが強くあり,業務に追われている中でとてもできない,とか,通常のケアとどのような点が異なるのかがイメージがわかない,との意見も伺います。どうも,認知症のケアというと,在宅や介護施設に関する情報はあるものの,一般病院において何が問題なのかはっきりしない,どのような対応をすればよいのかわからない,ということで戸惑っているようです。
 どうしてそのように考えるのか,背景を伺いますと
 「認知症をもつ人がどのような体験をしているのか想像がつかない」
 「認知症の人が何を考えているのかわからない」
 「認知症の人にどのように接すればよいのか,考えることが難しい」ということがあるようです。
 海外においても「急性期病院の認知症ケア」は,在宅や施設における認知症ケアとは異なること,そのため在宅とは異なる教育プログラムが求められることが提案されています。それは,急性期病院では,身体治療を進めることが目標となっている環境であり,そのため注意すべき問題も,いわゆる認知症に関する行動心理症状だけではなく,身体管理上の問題にも注意を払う必要があり,在宅や施設とは大きく条件が異なるからです。

 逆に言えば,急性期病院で,認知症をもつ人がどのような体験をするのか,がわかれば,自ずと求められるケアは見えてきます。
 本書は,急性期病院のような,身体治療を提供する場面で,認知症をもつ人がどのような体験をするのか,どのような支援が望まれるのかをまとめたものです。とくに,「認知症をもつ人がどのような体験をするのか」を解説することを通して,患者の目線から求められる支援を一緒に考えることを意識しました。加えて,わが国の認知症ケアの解説書ではほとんど触れられていない,「当事者の体験」と意思決定支援,心理的な苦痛についても,触れるようにいたしました。特に意思決定支援は,急性期病院における認知症をもつ人の権利の擁護を考えるうえで避けられない課題であり,person centeredな,緩和ケア的アプローチの中心になります。
 本書が急性期病院での認知症ケアを考える人の一助になりましたら,これに勝る喜びはありません。
 最後になりましたが,本書が出版に至るまで丁寧にご支援をいただきました医学書院の安藤恵さん,後藤エリカさんに厚く御礼申し上げます。

 2017年9月
 小川朝生

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序章 今急性期病院で起きていること

1章 一般病院における認知症の問題 認知症は意外なところに潜んでいる
 1.はじめに
 2.認知症は,どのような症状を伴うのでしょうか
 3.軽度の認知症とは
 4.認知症とは何でしょう

2章 急性期病院における認知症の問題の現れ方
 1.急性期病院における認知症
 2.一般病院で認知症を疑うきっかけ
 3.まとめ

3章 認知症を知る
 1.認知症を理解する3つのレベル
 2.認知症を引き起こす疾患を知る
 3.認知機能障害を知る
 4.社会生活・日常生活への影響
 5.IADL,ADLの低下

4章 認知症の人が入院時に体験する苦痛・困難とは
 1.認知症の人が一般病院に入院すると

5章 急性期・一般病院で求められる認知症ケアとは
 1.一般病院におけるケアと在宅・施設における認知症ケアとの違いは

6章 認知症・認知機能障害をアセスメントする
 1.治療とあわせてアセスメントを実施する
 2.認知症に気づく
 3.認知症・認知機能障害を見落とさないために
 4.認知機能のアセスメントを進める(重症度を評価する)
 5.病期を評価する(ステージ評価)
 6.身体機能を見落とさない

7章 認知機能障害に配慮したコミュニケーション
 1.認知症がコミュニケーションに与える影響
 2.コミュニケーション能力の低下が引き起こすこと
 3.認知症の人とコミュニケーションをとるちょっとしたコツ
 4.ケアをするときの工夫
 5.まとめ

8章 認知症の人の痛みを評価する
 1.高齢者の苦痛の評価
 2.急性痛と慢性痛
 3.認知症の人の痛みの評価

9章 食事の問題 食欲不振に見える背景にある摂食困難を見落とさない
 1.認知症と摂食困難
 2.「食べない」理由をさぐる
 3.認知症の人の食事の支援で知っておくと役立つこと
 4.具体的な食事の支援方法

10章 行動心理症状(BPSD)の予防と対応
 1.BPSDとは
 2.BPSDの疫学
 3.BPSDの影響
 4.BPSDの意味するところは
 5.BPSDの病態
 6.BPSDに対応する
 7.BPSDの個々の症状への対応と工夫
 8.薬物療法

11章 認知症の人の治療方針を考える(意思決定支援)
 1.認知症の人の治療をめぐって
 2.高齢者の意思決定支援のプロセス
 3.認知症と意思決定能力
 4.意思決定能力
 5.意思決定能力の構成要素
 6.意思決定能力が低下している場合に考えること
 7.意思決定能力の評価
 8.意思決定能力が低下している場合の対応
 9.認知症の人の意思決定をいかに支援するか
 10.意思決定が困難な場合の対応

12章 せん妄を予防しよう
 1.せん妄とは
 2.せん妄と認知症
 3.せん妄の病態
 4.せん妄が与える影響
 5.せん妄が与える苦痛
 6.マネジメント
 7.せん妄の非薬物療法
 8.周術期における予防的介入(周術期)
 9.非薬物療法の今後の課題
 10.薬物療法

13章 認知症の退院支援:ケアの場の移行を支える
 1.退院時の問題とは
 2.認知症の人の退院は大変
 3.退院支援とは何か
 4.退院計画の要素
 5.退院を計画するときに
 6.具体的に何をするのか(退院支援の構成要素)
 7.まとめ

14章 患者・家族への心のサポート,社会的支援を提供する
 1.心のケアの必要性-一般病院が対応する心理社会的支援とは
 2.認知症の可能性を伝える
 3.認知症の可能性を告げる
 4.身体疾患についての告知はどうするか
 5.伝えても記憶障害で覚えていられない場合
 6.家族への支援

索引

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組織全体で認知症ケアに取り組む時代が到来した
書評者: 桑田 美代子 (青梅慶友病院/よみうりランド慶友病院看護介護開発室長)
 「桑田さんから紹介された小川先生の本,面白くてもう2回も読んだわ。認知症のことわかっていると思っていたけど,改めて勉強になった! すごく読みやすいのよ」と,当法人の看護部長が意気揚々と語ってくれた。面白かったという点は以下の通りである。認知症に関する知識の整理につながった。随所に「ポイント」として,重要な点が簡潔にまとめてあるのも理解の助けになった。そして,皆が疑問に思うことに答えるような書き方になっている。急性期・一般病院で日常起こっている現象だから,「ある・ある」と自然に頭に入る。小川先生の講義を聞いている印象さえすると語っていた。

 認知症患者は,“大変な患者”の一言で語られてしまう現状もある。スタッフは忙しいのに対応しきれない。そして,ケアする側が大変と受け取れば,それは“不穏”“問題”と表現され,その理由に目が向けられない。ケアする側が不安や混乱を増強させていることに気付いていない。だから,根本の原因解決となる対応にはつながらない。本書は,その根本原因の解決につながる知識,現象のみかたが書かれている。認知症をもつ人の生活のしづらさ,苦痛や不安に焦点をあて,認知症の知識に基づき,その原因がひもとかれている。だから,「なるほど,そうなんだ!」と合点がいくのである。みかたが変わると,現象の受け止め方も変わり,ケアする側の気持ちにも余裕が出てくる。

 本書の構成を紹介すると,序章「今急性期病院で起きていること」,1章「一般病院における認知症の問題」,2章「急性期病院における認知症の問題の現れ方」,3章「認知症を知る」,4章「認知症の人が入院時に体験する苦痛・困難とは」,5章「急性期・一般病院で求められる認知症ケアとは」,6章「認知症・認知機能障害をアセスメントする」,7章「認知機能障害に配慮したコミュニケーション」,8章「認知症の人の痛みを評価する」,9章「食事の問題」,10章「行動心理症状(BPSD)の予防と対応」,11章「認知症の人の治療方針を考える(意思決定支援)」,12章「せん妄を予防しよう」,13章「認知症の退院支援:ケアの場の移行を支える」,14章「患者・家族への心のサポート,社会的支援を提供する」,となっている。もちろん,序章から読むのもよいが,私はまず3章と4章を一読し,日頃の実践を想起しながら,最初から読み進めるとより理解が深まるように思う。また,最近「意思決定支援」に注目が集まっている。しかし,認知症患者の意思決定支援は,認知症の知識がなくて行えるわけがない。ケアする側が認知症のことを知って初めて支援できる。本書は,そのための基本的知識が系統的に書かれている。

 本書は,急性期・一般病院という「場」に関係なく,誰が手に取っても読む価値がある。その中で,私が最も読んでいただきたいのは,急性期病院の看護管理者の皆さんである。その理由は,看護管理者の方たちの認知症に対するケアの考え方が,スタッフに大きな影響を与えるからである。認知症患者の対応に,倫理的ジレンマを感じているスタッフも少なくない。組織全体で認知症ケアに取り組む時代が到来している。本書は必ず役立つ一冊である。
患者・家族の苦痛を軽減できるヒントが詰まった一冊
書評者: 渡邉 眞理 (横市大教授・がん看護学/がん看護専門看護師)
 日本は超高齢社会を迎えようとしており,医療の現場では既にその波が押し寄せ,高齢患者が急増しています。医療の現場では平均在院日数が短縮する中,時間に追われながら入院患者の対応をしているのが現状です。そのような状況で本書の『あなたの患者さん,認知症かもしれません』というタイトルは,とても気になりました。

 一般病院に入院中の2~6割の患者に認知症が疑われます(本書p.9より)。患者の入院生活を通じて「なにか変?」という違和感を抱きながらも高齢者だから……と認知症を見過ごすことも多くあると思います。

 本書は急性期・一般病院での認知症のアセスメント,BPSD(行動・心理症状),せん妄の予防,意思決定・退院指導まで丁寧にわかりやすく紹介されています。例の一つに認知症を知るための3つの段階が記載されています。この3つの中でも複数の認知機能障害を理解することで認知症(かもしれない)の患者が体験している症状を理解することができます。あわせて認知症(かもしれない)患者にかかわる際のポイントなど多くの示唆を得ることができ,患者・家族の苦痛を軽減できるヒントがたくさん詰まっています。

 本書を通じて,一人ひとりの患者の権利を尊重し,個別的なケアをするという基本について考える機会となりました。それは特に意思決定支援や認知症の告知の方法について記されている章でした(11章,14章)。また,タイトルと同様に語りかけるような文章であること,ポイントが要所に記されており,とても読みやすくわかりやすいのも本書の特徴です。

 今後さらに増加する認知症患者に適切な医療が提供できるように,急性期・一般病院に勤務する医療関係者のみならず,多くの医療機関の,看護職や医療スタッフに活用していただきたい1冊です。

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