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帰してはいけない小児外来患者2 子どもの症状別 診断へのアプローチ

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『帰してはいけない小児外来患者』に続編が登場! 泣き止まない、哺乳不良、発熱、嘔吐、下痢、腹痛、頭痛、咳、咽頭痛、歩行障害……、多様な主訴で外来を訪れる患者の中に、帰してはいけない子どもが紛れていないか? 判断に悩みがちな17症状のレッド&イエローフラッグ、診断へのアプローチ、そして帰宅の判断(グリーンフラッグ)をまとめた。臨場感あふれる症例も掲載。危ない症状に気づけるようになる、実践的な1冊。
編集 東京都立小児総合医療センター
編集代表 本田 雅敬 / 三浦 大 / 長谷川 行洋 / 幡谷 浩史 / 萩原 佑亮
発行 2018年03月判型:A5頁:272
ISBN 978-4-260-03592-7
定価 4,180円 (本体3,800円+税)

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まえがき

 皆様,この本を読んでいただきありがとうございます.
 2015年4月に『帰してはいけない小児外来患者』を出版して3年が経ちました.前作は崎山小児科院長の崎山弘先生からご提案いただき,東京都立小児総合医療センター(以下,当院)の医師らと協力して上梓いたしました.小児科の医師のみならず,他診療科の医師や,多職種の方からも興味をもって読んでもらい,ご好評もいただきありがとうございます.少しでも診療の役に立っていれば幸いです.
 その後,当院内外の医師から「帰してはいけない患者」がもう少し系統的にわかるようなものが作成できないかという意見をいただいており,今回『帰してはいけない小児外来患者2 子どもの症状別 診断へのアプローチ』を作成することとしました.本著では当院のERを担当する救命救急科や総合診療科の医師を中心に各症候へのアプローチをまとめてもらい,前作と同様に多数の診療科の医師に症例を書いてもらいました.症候から理解できる,さらに診療に役立つものになったと思っています.
 具体的には17の症候について,red flag,yellow flagをつけて説明し,red flagなら「帰してはいけない」ことをわかりやすく示しました.またそれと症例を関連させ,それぞれのred flagに該当する箇所がわかるようにしました.症例は前作と同様に,診断名そのものではなく,診断に至るプロセスを大切にしています.
 前作では50近い症例,本著では30近い症例を解説しました.一部に重複する診断名もありますが,すべて異なった症例ですので,同時に前作も読みながら検討していただくと,より「帰してはいけない患者」とred flagの関係やピットフォールを理解していただけると思います.
 いずれにしても,この患者は「どこかおかしい」と気づくことができれば,その後はさまざまな手段をとることができます.気づくための重要な点として,前作では「問診を確実に取る.診察を的確にする.バイタルサインの異常を見逃さない.検査は適切に行い,検査結果だけを信用しない」ことが随所に書かれていました.特に問診や家族の様子からかなりのことがわかり,それを見落としている可能性が最も多く指摘されていましたので,患者の訴えをきちんと聞く必要性と心構えを本著の第1章で書かせていただきました.
 また「帰してはいけない患者」の多くは緊急性のある疾患で,バイタルサインとABCD(気道,呼吸,循環,意識)や見た目から判断し,対応できることがわかります(本著の第2章に挙げた症候のred flagを見ていただいてもわかるでしょう).そこでこれらの重要性も第1章で記載させていただきました.特にバイタルサインの異常は極めて重要ですので,基準値は診察台の前にでも貼っておいていただくとよいでしょう.当院では,外来で看護師が全患者をトリアージしており,その点の見逃しは少ないと思いますが,すべての読者がそのような環境にはないでしょう.ぜひバイタルサインとABCD,および見た目の異常のチェックは覚えていただければと思います.
 いずれにしても重要なのは「帰してはいけない患者」に医師が気づくことです.すべての疾患を経験し,理解することは困難です.そこで本著のred flagの記載がお役に立てるかと思います.
 「帰してはいけない患者を帰さないこと」は診療経験の多い医師でも永遠のテーマであり,特に夜間1人で救急に携わる医師は不安なものです.誰もが不安を感じるこのテーマですが,本著と前作を合わせて読んでいただくことで,少しでも不安解消につながればと思います.
 最後に,多忙な中で本著を書き上げた著者の方々,および医学書院の関係者に深謝いたします.

 2018年2月
 本田雅敬

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第1章 外来で帰してはいけない子ども
 「帰してはいけない小児外来患者」を見逃さないための心構え
  問診を確実に行う 患者の訴えを聞く必要性
  患者の話を聞く心構え 10のコツ
 小児科外来での見逃しを防ぐために
  見逃しを完全になくすことは可能か
  患児のいまを把握する
  時間を味方につける
  「子どもだから」で過小評価しやすいポイントをおさえる

第2章 症状別 帰してはいけない子どもの見つけ方
 症状総論(1)泣き止まない
  症例1 10か月男児 小児科外来にも外傷はやってくる!
  症例2 2か月女児 小児科外来にも外傷はやってくる!
  症例3 日齢19男児 機嫌が悪い新生児の診断は?
 症状総論(2)哺乳不良
  症例4 5か月男児 心雑音もチアノーゼもないけれど
 症状総論(3)意識障害・けいれん
  症例5 7か月男児 “頭部打撲後の意識障害”の診察
  症例6 4歳男児 主訴から膀胱直腸障害と歩行障害に気づけるか?
  症例7 1歳4か月男児 “たった1錠”なら帰してよい?
 症状総論(4)失神
  症例8 9歳女児 来院時の心電図だけでは除外できないことがある
 症状総論(5)発熱
  症例9 7歳男児 “4日目の発熱”が分かれ目
  症例10 6か月男児 嘔吐は胃腸炎だけとは限らない
  症例11 5歳女児 本当に胃腸炎ですか?
 症状総論(6)嘔吐
  症例12 13歳女子 子どもの“痛い”をどこまで信じられるか
  症例13 3歳男児 短時間で悪化する嘔吐は胃腸炎以外の状態を考える
 症状総論(7)下痢
  症例14 11歳女児 胃腸炎の診断で思考を止めない
 症状総論(8)腹痛
  症例15 7歳男児 “飲める”胃腸炎にご用心
  症例16 9歳男児 どこまでが“腹痛”?
 症状総論(9)頭痛
  症例17 9歳女児 頭部打撲後の混乱した会話は経過観察できるか
  症例18 1歳5か月男児 抗菌薬を服薬しない重症急性中耳炎のゆくえ
 症状総論(10)胸痛
  症例19 13歳男子 “運動時の胸痛”は要注意
 症状総論(11)咳・喘鳴
  症例20 2歳男児 “左呼吸音の減弱”がポイント
  症例21 6か月男児 すべては疑うことから始まる
 症状総論(12)咽頭痛
  症例22 14歳女子 急速に進行した咽頭痛は?
 症状総論(13)頸部痛
  症例23 7歳男児 気道閉塞症状に気をつけて
 症状総論(14)浮腫
  症例24 3歳女児 むくみは強くないけれど
 症状総論(15)皮疹
  症例25 3歳女児 具合の悪くなる皮疹
  症例26 7歳男児 まれなSOSを見逃さないように!
 症状総論(16)血尿
  症例27 11歳男児 頭痛や嘔気には要注意
 症状総論(17)歩行障害
  症例28 1歳11か月男児 家族も医師も気づきにくい
  症例29 9歳男児 子どもの跛行や歩行障害で疑うことは?

第2章 診断名一覧
索引

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知的に美しく小児科医を育てる本
書評者: 崎山 弘 (崎山小児科院長)
 小児科外来を訪れる患者の多くは自然治癒します。おおむね間違いではない診断を付けて投薬をしながら経過を診れば,医療によって症状が多少早く落ち着くかもしれませんが,多くの場合で治癒に至る道筋を付けたというほどの貢献はしていません。しかし,この本に出てくる疾患は,直ちに確定診断することは難しくても診断が曖昧なままに診療を終わらせてはいけない(帰してはいけない)ものばかりです。病気の診断,特に重篤な疾病の診断を一瞬にして成し遂げられる人はそうはいません。「何かおかしい」「どこか説明が付かない」など紆余曲折しながら診断に至ることが大部分です。前作の『帰してはいけない小児外来患者』では,主訴と所見をどのように結び付けるか,単なるひらめきに終わらせることなく,診断に至る思考の組み立て方を中心に症例の診断経過が記載されていました。第2弾となる本書では,この症状では具体的にどのような点に注意するべきかが丁寧に解説されています。診断の筋は良かったけれど最後の決め手に欠けたという苦い経験に至ることを防ぐ判断力が養われます。この本で類似の書籍との違いとして特筆すべきは,以下の3点です。

 まずは東京都立小児総合医療センターならではの豊富な症例と専門家集団の適切な診断に基づいた貴重な教訓,多くの示唆が得られることです。症例のカラー写真,X線写真,超音波画像など,教科書に掲載されてもおかしくない典型的な資料が示されています。多施設から症例を寄せ集める形式での分担執筆の書籍は,個々の著者の癖が出るために読みにくいことがありますが,この本は外来受診から診断までが一連の流れとなって一つの医療機関で完結するために統一感があって読みやすくなっています。

 二つ目は,育成する教育という視点が明確になっていることです。「泣き止まない」「嘔吐」「皮疹」など17種類の症状について概略を記載した後にいくつかの症例を示すという流れの中で,総論,各論の実践形式で読み進めることができます。重篤な疾患は,診断に当たり同じ間違いを二度としないと肝に銘じても,同じ疾患に遭遇することがほとんどないようなまれな疾患ばかりです。他人の誤診を指摘してこれを正す教育は,診断要素の一部分を強調するだけで,丁寧に育成する教育とはなりません。初めて経験するまれで重篤な疾患を適切に診断する能力をつけるためには最適の書です。

 そして三つ目は,書籍ならではの力です。インターネットで検索すれば疾病の知識を情報として取り出すことは可能です。しかし,見開きのページに効果的に図や表が配置されていて視認性がよいので紙面上の配置とともに文字の情報が頭に素直に入ってきて,理解を助けてくれます。この編集の美しさという感覚はパソコンなどの画面では得られません。

 小児科医を育てるという観点からは前作よりはるかに優れており,子どもの診療に携わる医師にぜひお勧めする一冊です。
若手小児科医や総合診療医・内科医にお勧めしたい一冊
書評者: 松裏 裕行 (東邦大医療センター大森病院教授・小児科)
 本書は,前作が好評であったことを受け,東京都立小児総合医療センターのスタッフが日々の診療と研究の合間を縫って完成させたシリーズ2冊目の単行本である。A5判で約270ページとコンパクトにまとめられ,気軽に手に取りたくなる装丁であるだけでなく,文章はこなれていて読みやすく,画像や図表が多いので視覚的にも印象深いというのが素直な感想である。構成は第1章の総説と,第2章の症状別17の総論およびそれに対応する29症例の提示からなる。書名からもわかるように,ややもするとつい軽視したり誤診したりして苦い思いをする症状・病態をわかりやすく解説した書籍で,小児科専門医をめざす若手医師の他,小児の診療に携わる初期研修医,総合診療医,内科医,救急医などにぜひ一読をお勧めしたい。外来診療でのピットフォールを具体的かつ簡明に概説していて,最初から最後まで比較的手軽に読破することもできるし,あるいはパラパラとページをめくって興味を持った項目から順不同に読んでもよいであろう。

 第1章は見逃しをしないための心構えとその要点が記載されていて,私自身も普段の診療で心掛けていることや,研修医や病棟実習の医学生に繰り返し指導している内容が要領よくまとめられている。特に患者の話を聞くための10のコツ,バイタルサインを的確に把握することの重要性(Pediatric Early Warning Score:PEWS),症状の経時的変化を短期~長期的視点で把握する意義(「時間を味方につける」)などはベテラン医師も再認識したい内容といえよう。

 一方,第2章で取り上げられている17の症状と29症例はどれをとっても示唆に富んでいて興味深く読めるし,何よりも短時間で把握できるのがよい。「泣き止まない」「意識障害」「発熱」「嘔吐」などは,本日の時間外にも必ず一人は受診するであろう,ごくありふれた主訴・症状である。現病歴を手際よく聴取し,不要な検査を避けつつ必要最小限の検査で的確に診断するのは,救急外来を含む日常診療で最も重要なことである。しかし,実はそれが一番難しいことは読者が日々実感しているとおりで,その要点を本書から教訓として読み取ることができると思う。一見軽症に思える臨床症状に惑わされ,重篤な病態を見落とさないようにするポイントとして,著者の一人は「日々のルーチンをコツコツ続けること」の重要性を強調しているが,まさに正鵠を射ていると思う。数々の教訓に富んだ症例をより印象深くしているのは,X線・超音波・CTなどの豊富な画像であり,図表もカラーを駆使して一目でわかりやすいように工夫されていて,本書の特筆すべき利点の一つである。

 本書の利用法を私なりに提案するならば,まず机の前に座り第1章を繰り返し熟読した後,第2章は当直の合間に気軽に順不同で読んではいかがだろうか。臨床の奥深さと楽しさを実感いただけることと思う。
帰してはいけない患者への気付きを高めるコツが満載
書評者: 高橋 孝雄 (慶大教授・小児科)
 われわれが外来診療や救急診療で診る患者の中には,ごくありふれた症状が主訴で一見軽症のようにも思われるが,実は緊急度が高く,家に帰してはいけないケースが存在する。帰してはいけないケースを帰しそうになったが思いとどまった経験や,見逃してしまった苦い経験の一つや二つは思い起こされるのではないかと思う。小児科医なら誰しも,発熱の患者で髄膜炎を見逃すな,腹痛の患者で虫垂炎や腸重積を見逃すな,というように,症状ごとにいくつかの見逃してはいけない疾患に注意して診療に臨むべきことを指導医から何度となく教えられてきたことだろう。しかし,どうすれば緊急度の高い疾患を見逃さなくなるか,ということまでは教わっていないのではないか。本書は,外来診療で家に帰してはいけない子どもを見逃さないようにするための“心構え”を教えてくれる。

 本書は2つの章によって構成される。第1章では,患者・保護者の訴えや話を聴く心構えと,帰してはいけない患者を見逃さないようにするための,診療の一般原則が解説されている。第2章では,小児の一般外来診療,救急診療でよくみられる17の症状別に診断へのアプローチが説明され,帰してはいけない症状や徴候(red flags),注意すべき症状や徴候(yellow flags)が明確に示されている。総論の後にはいくつかの症例が呈示され,臨床推論の過程が具体的に述べられており,診療の一般原則が個々の症例においてどのように実践されているかがわかる。取り上げられている29症例の中には読者が経験したことのない疾患があるかもしれないが,症例呈示と解説を読むと,たとえ未経験の疾患であってもその臨床像を把握することができるだろう。

 本書の優れているところは,帰してはいけない子どもを見逃さないために臨床検査や画像検査に走るのではなく,問診,バイタルサイン・生理学的徴候・外観の評価,身体診察,経時的変化の観察を丁寧に行うことが重要だという基本姿勢が貫かれている点である。帰してはいけない子どもを的確に見つけることは,裏を返せば,帰宅させてよい子どもを帰す判断ができるということにつながる。症状別の総論では,安易に帰してはいけないポイント(red flags, yellow flags)とともに,帰してよい子どもを見極めるポイントについても説明されている。加えて,保護者への説明の要点についても解説されており非常に実践的である。若手の小児科医が一人で外来診療や当直を任されるようになったとき,いま自分が診ている患者を帰宅させてよいと判断するためのヒントを,本書は教えてくれる。総論には,患者の全身状態を評価するために参照すべき,バイタルサインや血圧の年齢別基準値や,Glasgow Coma Scale, Japan Coma Scaleなどが掲載されており,臨床現場での使用にも堪え得る。

 このように,本書には帰してはいけない患者への気付きを高めるための要点が満載されている。学生や研修医,小児科専攻医にとっては,症候別の診断へのアプローチや臨床推論を学ぶ小児科診断学の指南書ともなるだろう。読者の皆さまには,自らの診療経験や診療姿勢を振り返りつつ,診療の質をさらに向上させ,診断の精度を高めることにおいて本書を活用していただきたいと思う。

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