肝の画像診断 第2版
画像の成り立ちと病理・病態
画像診断は単なる絵合わせであってはならない―画像に反映された病理・病態に迫る
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画像は病理・病態を反映し、また同一疾患でも病理・病態は多彩である―そのプリンシプルの下、画像の背景にある病理・病態の解析に精励された金沢大学・松井グループの集大成。検査機器・撮像法の原理から病変が描出されるメカニズムを解説し、画像所見が示唆する病理・病態を解き明かす。各論では疾患別に多数の症例を掲載。肝疾患の診かた・考えかたが確実に深まる画像診断の基本書。
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序文
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第2版 序
私が大学を卒業し放射線科医としてスタートした1972年は,英国で初めてCTの臨床応用がなされた年で,医療の一大革命といえる近代的な画像診断の幕開けの年であった.当時は知る由もなかったが,革命の第一世代としてその後の大きな渦に巻き込まれた.急速に臨床に導入される新しい画像診断技術・画像を前にして,それらがどのような病理・病態を反映しているのかを知ることは当然ながら喫緊の課題であった.病理とCTやMRI所見との対比,また当時私が専門としていた血管造影診断,特に肝細胞癌に対する血管造影診断での知見をCTやMRI診断に応用することなどでいくつかの新しい肝の画像診断の知見を得ることができ,それらをまとめて医学書院から1995年に本書の第1版を上梓した.第1版では創生期の四半世紀で得られた知見を,画像所見と病理・病態の対比を中心に,画像診断法の手技や画像解剖も含めて,当時の可能な範囲で記述した.しかしながら,その後の画像診断のさらなる進歩は大きく,改訂の勧めを多くの方々から受けながら,診療,研究や教育に忙殺され,機会を逸したままさらに四半世紀が経過した.2013年に金沢大学を退官したが,その後寄付講座で研究と教育を継続する機会に恵まれ,私にとっての長年の懸案であった改訂にようやくこぎつけることができた.この間の新しい知見や技術的進歩は大きく,全面的な改訂となり,新規の出版ともいえる.
今回の改訂では,“肝の画像診断”に“画像の成り立ちと病理・病態”という副題を加えた.思い起こせば,私たちのグループの画像診断における興味や研究のバックボーンはいつもこの点にあったように思う.CTやMRI診断に携わるようになった早い段階で,画像所見が異なるにも関わらず病理診断の病名が同一であることを多く経験し,一方で,病名に関わらず病理所見が類似する場合は画像も類似することに気づいた.すなわち,“画像は病理・病態を反映し,また,同一疾患でも病理・病態は多彩である”という概念で,今思えば至極当然のことであるが,当時は新鮮な驚きであった.その後は,様々な画像所見を構成する病理・病態を解明することが,画像診断の精度の向上と治療への応用に最も重要であるとの強い意志のもとに,多くの同僚とともに取り組んできた.本書は,こうした我々のグループの研究と,多くの他の研究者の約半世紀の“肝画像の成り立ちと病理・病態”の集大成を目指したものである.
内容が膨大となり,第1版で記載された基本的な画像解剖や診断手技については割愛せざるを得なかったが,“画像の成り立ち”を集中的に記載できたことでより本書の特徴と目的を鮮明にすることができたと思う.画像診断は単なる絵合わせであってはならない.画像所見から直接病名診断を行うのではなく,様々な画像所見の背景となる病理・病態を可能な限り解析し,それらに基づいて各種疾患とそのバリエーションの鑑別診断を行い,その後病理・病態に応じた治療を行うというプロセスが重要であると思う.画像診断を専門とする方々のみならず,肝疾患の診療に携わる方々に広くこうした概念が普及することを願って本書を上梓した.しかしながら,当然ではあるが,まだまだ未解明な点も多い.特に,今後の遺伝子解析に基づく個別化医療には,画像所見と分子・遺伝子学的背景の研究(radiogenomics)が必須である.研究は緒についたばかりであり,本書ではその一端を記述したが,今後のさらなる四半世紀で大きな進歩が予想される.将来,radiogenomicsを盛り込んだ本書の第3版が後進の若い同僚によって上梓されることを願っている.
本書の出版には多くの方々・施設からの絶大な支援を受けた.特に,金沢大学形態機能病理学(中沼安二名誉教授,原田憲一教授),金沢大学消化器内科(金子周一教授),金沢大学肝胆膵・移植外科(太田哲生教授)の諸先生には長年のご指導・ご支援に心からの感謝を捧げます.また,診療を支えていただいた金沢大学放射線部の診療放射線技師・看護師の方々,多くの同僚が実地の第一線医療を学んだ金沢大学放射線科の関連病院・施設の諸先生にも感謝します.本書の出版は,忍耐強く指導いただいた医学書院 林 裕,田邊祐子氏なくしてはあり得ませんでした.心から感謝します.
本書における多くの知見は,数多くの患者さんの辛い体験のもとに成り立っています.医師としての心痛む思い出が本書を上梓する大きな原動力となっています.本書が今後の診療に役立つことを心から願っています.
2019年1月
松井 修
私が大学を卒業し放射線科医としてスタートした1972年は,英国で初めてCTの臨床応用がなされた年で,医療の一大革命といえる近代的な画像診断の幕開けの年であった.当時は知る由もなかったが,革命の第一世代としてその後の大きな渦に巻き込まれた.急速に臨床に導入される新しい画像診断技術・画像を前にして,それらがどのような病理・病態を反映しているのかを知ることは当然ながら喫緊の課題であった.病理とCTやMRI所見との対比,また当時私が専門としていた血管造影診断,特に肝細胞癌に対する血管造影診断での知見をCTやMRI診断に応用することなどでいくつかの新しい肝の画像診断の知見を得ることができ,それらをまとめて医学書院から1995年に本書の第1版を上梓した.第1版では創生期の四半世紀で得られた知見を,画像所見と病理・病態の対比を中心に,画像診断法の手技や画像解剖も含めて,当時の可能な範囲で記述した.しかしながら,その後の画像診断のさらなる進歩は大きく,改訂の勧めを多くの方々から受けながら,診療,研究や教育に忙殺され,機会を逸したままさらに四半世紀が経過した.2013年に金沢大学を退官したが,その後寄付講座で研究と教育を継続する機会に恵まれ,私にとっての長年の懸案であった改訂にようやくこぎつけることができた.この間の新しい知見や技術的進歩は大きく,全面的な改訂となり,新規の出版ともいえる.
今回の改訂では,“肝の画像診断”に“画像の成り立ちと病理・病態”という副題を加えた.思い起こせば,私たちのグループの画像診断における興味や研究のバックボーンはいつもこの点にあったように思う.CTやMRI診断に携わるようになった早い段階で,画像所見が異なるにも関わらず病理診断の病名が同一であることを多く経験し,一方で,病名に関わらず病理所見が類似する場合は画像も類似することに気づいた.すなわち,“画像は病理・病態を反映し,また,同一疾患でも病理・病態は多彩である”という概念で,今思えば至極当然のことであるが,当時は新鮮な驚きであった.その後は,様々な画像所見を構成する病理・病態を解明することが,画像診断の精度の向上と治療への応用に最も重要であるとの強い意志のもとに,多くの同僚とともに取り組んできた.本書は,こうした我々のグループの研究と,多くの他の研究者の約半世紀の“肝画像の成り立ちと病理・病態”の集大成を目指したものである.
内容が膨大となり,第1版で記載された基本的な画像解剖や診断手技については割愛せざるを得なかったが,“画像の成り立ち”を集中的に記載できたことでより本書の特徴と目的を鮮明にすることができたと思う.画像診断は単なる絵合わせであってはならない.画像所見から直接病名診断を行うのではなく,様々な画像所見の背景となる病理・病態を可能な限り解析し,それらに基づいて各種疾患とそのバリエーションの鑑別診断を行い,その後病理・病態に応じた治療を行うというプロセスが重要であると思う.画像診断を専門とする方々のみならず,肝疾患の診療に携わる方々に広くこうした概念が普及することを願って本書を上梓した.しかしながら,当然ではあるが,まだまだ未解明な点も多い.特に,今後の遺伝子解析に基づく個別化医療には,画像所見と分子・遺伝子学的背景の研究(radiogenomics)が必須である.研究は緒についたばかりであり,本書ではその一端を記述したが,今後のさらなる四半世紀で大きな進歩が予想される.将来,radiogenomicsを盛り込んだ本書の第3版が後進の若い同僚によって上梓されることを願っている.
本書の出版には多くの方々・施設からの絶大な支援を受けた.特に,金沢大学形態機能病理学(中沼安二名誉教授,原田憲一教授),金沢大学消化器内科(金子周一教授),金沢大学肝胆膵・移植外科(太田哲生教授)の諸先生には長年のご指導・ご支援に心からの感謝を捧げます.また,診療を支えていただいた金沢大学放射線部の診療放射線技師・看護師の方々,多くの同僚が実地の第一線医療を学んだ金沢大学放射線科の関連病院・施設の諸先生にも感謝します.本書の出版は,忍耐強く指導いただいた医学書院 林 裕,田邊祐子氏なくしてはあり得ませんでした.心から感謝します.
本書における多くの知見は,数多くの患者さんの辛い体験のもとに成り立っています.医師としての心痛む思い出が本書を上梓する大きな原動力となっています.本書が今後の診療に役立つことを心から願っています.
2019年1月
松井 修
目次
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総論
I 巨視的病理像と画像
A 肝臓の形態および肝内脈管の異常と画像・病理
1.先天的肝形態異常・変異
2.先天性肝内脈管異常・変異
3.後天的肝形態異常
図 I-1~18
B 腫瘤性病変の巨視的病理像と画像
1.嚢胞性病変
2.充実性病変
3.微小嚢胞性成分の集簇
4.腫瘤性病変の発生部位の特徴
図 I-19~47
II 微視的病理像と画像
A 磁気共鳴診断(MRI)所見が示唆する微視的病理・病態
1.MRIの撮像法と特徴
2.単純MRIの信号強度と病理・病態
3.造影MRI
図 II-1~14
B 組織構成成分・微細構造と画像
1.石灰化
2.脂肪
3.線維成分
4.鉄沈着
5.銅沈着
6.血腫
7.粘液
8.壊死
図 II-15~35
III 肝および肝腫瘤性病変の血流と画像・病理
A 肝内微細血管解剖と微小循環
1.正常肝
2.硬変肝
3.肝動脈と門脈血流の関連
図 III-1~8
B 肝内血行障害あるいは変異と画像・病理
1.動脈血行障害
2.門脈血行障害
3.肝静脈血行障害
4.肝類洞あるいは微小血管障害
5.肝内血行障害と肝細胞性結節性病変
図 III-9~36
C 肝腫瘤性病変の血行動態と画像・病理
1.肝細胞癌の多段階発癌に伴う血行動態の変化
2.その他の肝腫瘤性病変の血行動態
3.肝腫瘤性病変および周辺肝の血行動態と画像のまとめ
図 III-37~60
IV 胆管閉塞と画像
図 IV-1
V 門脈域(グリソン鞘)の異常と画像
図 V-1~6
VI 肝機能画像と病理・分子病理学的背景
A 網内系機能と画像
B 肝細胞・胆道機能と画像
1.Gd-EOB-DTPA造影MRIによる肝細胞癌の診断
図 VI-1~12
C その他の機能イメージング
1.tissue elastography
2.perfusion CT/MRI
3.dual energy CT
4.MRI spectroscopy(MRS)
5.positron emission tomography(PET)
6.texture analysis
VII 分子・遺伝子と肝画像
図 VII-1
各論
VIII びまん性肝疾患
A ウイルス性肝炎および類似の肝炎
急性肝炎
劇症肝炎
慢性肝炎
自己免疫性肝炎
B 肝硬変
C 脂肪肝
D アルコール性肝疾患
E 非アルコール性脂肪性肝疾患
肝線維化の画像診断
F 胆汁うっ滞・胆管系疾患
原発性胆汁性胆管炎
続発性胆汁性肝硬変
胆管炎
化膿性胆管炎
肝内結石症
胆管炎 硬化性胆管炎
原発性硬化性胆管炎
IgG4関連硬化性胆管炎
二次性硬化性胆管炎
胆管炎 ductal plate malformation
ductal plate malformation
多嚢胞肝
Caroli病・Caroli症候群
先天性肝線維症
胆管過誤腫症
先天性胆道拡張症(総胆管嚢腫)
胆道閉鎖症
肝内胆管消失症候群
G 脈管系疾患・循環障害
びまん性肝動脈血行異常
びまん性門脈血行異常
肝内門脈血栓症
肝外門脈血栓症
特発性(非硬変性)門脈圧亢進症
結節性再生性過形成
先天性門脈大循環短絡(門脈欠損を含む)
びまん性門脈血行異常
静脈管開存
びまん性肝静脈血行異常
びまん性肝静脈血行異常
心血管性うっ血性肝障害
びまん性肝静脈血行異常 Budd-Chiari症候群
Budd-Chiari症候群
肝内肝静脈血栓症
肝静脈・下大静脈膜様閉塞
二次性Budd-Chiari症候群
びまん性肝静脈血行異常
sinusoidal obstruction syndrome(SOS)
その他
遺伝性出血性毛細血管拡張症
低酸素肝炎
HELLP症候群
H 代謝異常・遺伝性疾患
金属代謝異常
鉄過剰症(ヘモクロマトーシス,ヘモジデローシス)
Wilson病
アミロイドーシス
ポルフィリン症
糖原病
その他の代謝異常・遺伝性疾患
I びまん性肉芽腫性肝疾患
サルコイドーシス
その他のびまん性肉芽腫症
J 薬剤性肝障害・中毒性肝障害
IX 限局性・腫瘤性肝病変
A 画像上の偽病変・偽腫瘍
偽病変,偽腫瘍
偽腫瘍
脂肪肝内非脂肪化領域
限局性脂肪肝
過形成性変化
局所性鉄沈着
B 非腫瘍性肝腫瘤
単純性肝嚢胞
線毛性前腸性肝嚢胞
胆管性嚢胞性病変
胆汁性嚢胞,胆汁漏
肝内結石症
胆管周囲嚢胞
多嚢胞性胆管過誤腫
ductal plate malformation関連嚢胞性病変
血管性腫瘤
門脈-肝静脈短絡
門脈瘤
肝動脈瘤
炎症性肝腫瘤
炎症性肝腫瘤
化膿性肝膿瘍
アメーバ性肝膿瘍
感染性肝肉芽腫(慢性肝膿瘍,肉芽性肝膿瘍)
真菌性肝膿瘍
炎症性肝腫瘤 寄生虫性疾患
エキノコッカス(包虫)症
日本住血吸虫症
肝蛭症
肝吸虫症
内臓幼虫移行症
回虫症
炎症性肝腫瘤
炎症性偽腫瘍
血腫
急性期血腫
陳旧性肝内血腫
肝梗塞・壊死
Zahn梗塞
肝壊死(壊死性肝梗塞)
虚血性偽小葉壊死
壊死結節
好酸球性肝壊死
肝細胞性腫瘍類似病変
限局性結節性過形成
FNH様結節
結節性再生性過形成様結節(NRH様結節)
その他
放射線肝障害(放射線肝炎)
肝紫斑病
偽リンパ腫
髄外造血
confluent hepatic fibrosis
C 原発性肝腫瘍
上皮性腫瘍 肝細胞性腫瘍
肝細胞腺腫
SAA陽性腫瘍
上皮性腫瘍 肝細胞性腫瘍 肝細胞癌
肝細胞癌(肝癌)
多段階発癌
早期肝癌
高分化型肝癌
中分化型肝癌,低分化型肝癌
病理学的亜型を伴う肝癌
肝癌の分子病理学的・遺伝子学的分類と画像
上皮性腫瘍 肝細胞性腫瘍
成人型小児肝癌
肝芽腫
上皮性腫瘍 肝細胞性腫瘍
fibrolamellar hepatocellular carcinoma
上皮性腫瘍 胆管細胞性腫瘍
肝内胆管腺腫
胆管癌前癌病変
粘液性嚢胞性腫瘍
肝内胆管癌(胆管細胞癌)
細胆管細胞癌(細胆管癌)
上皮性腫瘍
肝細胞癌・胆管細胞癌の混合型腫瘍(混合型肝癌)
非上皮性腫瘍 良性腫瘍
海綿状血管腫
血管筋脂肪腫
小児肝血管内皮腫
間葉性過誤腫
その他の非上皮性良性腫瘍
非上皮性腫瘍 悪性腫瘍
血管肉腫
類上皮性血管内皮腫
未分化肉腫
その他の非上皮性悪性腫瘍
上皮性と間葉系の混合型悪性腫瘍
癌肉腫
肝芽腫,上皮系と間葉系の混合型
その他
神経内分泌腫瘍
副腎遺残腫瘍
悪性リンパ腫
D 転移性肝腫瘍
癌肝転移
非上皮性悪性腫瘍の肝転移
文献
索引
I 巨視的病理像と画像
A 肝臓の形態および肝内脈管の異常と画像・病理
1.先天的肝形態異常・変異
2.先天性肝内脈管異常・変異
3.後天的肝形態異常
図 I-1~18
B 腫瘤性病変の巨視的病理像と画像
1.嚢胞性病変
2.充実性病変
3.微小嚢胞性成分の集簇
4.腫瘤性病変の発生部位の特徴
図 I-19~47
II 微視的病理像と画像
A 磁気共鳴診断(MRI)所見が示唆する微視的病理・病態
1.MRIの撮像法と特徴
2.単純MRIの信号強度と病理・病態
3.造影MRI
図 II-1~14
B 組織構成成分・微細構造と画像
1.石灰化
2.脂肪
3.線維成分
4.鉄沈着
5.銅沈着
6.血腫
7.粘液
8.壊死
図 II-15~35
III 肝および肝腫瘤性病変の血流と画像・病理
A 肝内微細血管解剖と微小循環
1.正常肝
2.硬変肝
3.肝動脈と門脈血流の関連
図 III-1~8
B 肝内血行障害あるいは変異と画像・病理
1.動脈血行障害
2.門脈血行障害
3.肝静脈血行障害
4.肝類洞あるいは微小血管障害
5.肝内血行障害と肝細胞性結節性病変
図 III-9~36
C 肝腫瘤性病変の血行動態と画像・病理
1.肝細胞癌の多段階発癌に伴う血行動態の変化
2.その他の肝腫瘤性病変の血行動態
3.肝腫瘤性病変および周辺肝の血行動態と画像のまとめ
図 III-37~60
IV 胆管閉塞と画像
図 IV-1
V 門脈域(グリソン鞘)の異常と画像
図 V-1~6
VI 肝機能画像と病理・分子病理学的背景
A 網内系機能と画像
B 肝細胞・胆道機能と画像
1.Gd-EOB-DTPA造影MRIによる肝細胞癌の診断
図 VI-1~12
C その他の機能イメージング
1.tissue elastography
2.perfusion CT/MRI
3.dual energy CT
4.MRI spectroscopy(MRS)
5.positron emission tomography(PET)
6.texture analysis
VII 分子・遺伝子と肝画像
図 VII-1
各論
VIII びまん性肝疾患
A ウイルス性肝炎および類似の肝炎
急性肝炎
劇症肝炎
慢性肝炎
自己免疫性肝炎
B 肝硬変
C 脂肪肝
D アルコール性肝疾患
E 非アルコール性脂肪性肝疾患
肝線維化の画像診断
F 胆汁うっ滞・胆管系疾患
原発性胆汁性胆管炎
続発性胆汁性肝硬変
胆管炎
化膿性胆管炎
肝内結石症
胆管炎 硬化性胆管炎
原発性硬化性胆管炎
IgG4関連硬化性胆管炎
二次性硬化性胆管炎
胆管炎 ductal plate malformation
ductal plate malformation
多嚢胞肝
Caroli病・Caroli症候群
先天性肝線維症
胆管過誤腫症
先天性胆道拡張症(総胆管嚢腫)
胆道閉鎖症
肝内胆管消失症候群
G 脈管系疾患・循環障害
びまん性肝動脈血行異常
びまん性門脈血行異常
肝内門脈血栓症
肝外門脈血栓症
特発性(非硬変性)門脈圧亢進症
結節性再生性過形成
先天性門脈大循環短絡(門脈欠損を含む)
びまん性門脈血行異常
静脈管開存
びまん性肝静脈血行異常
びまん性肝静脈血行異常
心血管性うっ血性肝障害
びまん性肝静脈血行異常 Budd-Chiari症候群
Budd-Chiari症候群
肝内肝静脈血栓症
肝静脈・下大静脈膜様閉塞
二次性Budd-Chiari症候群
びまん性肝静脈血行異常
sinusoidal obstruction syndrome(SOS)
その他
遺伝性出血性毛細血管拡張症
低酸素肝炎
HELLP症候群
H 代謝異常・遺伝性疾患
金属代謝異常
鉄過剰症(ヘモクロマトーシス,ヘモジデローシス)
Wilson病
アミロイドーシス
ポルフィリン症
糖原病
その他の代謝異常・遺伝性疾患
I びまん性肉芽腫性肝疾患
サルコイドーシス
その他のびまん性肉芽腫症
J 薬剤性肝障害・中毒性肝障害
IX 限局性・腫瘤性肝病変
A 画像上の偽病変・偽腫瘍
偽病変,偽腫瘍
偽腫瘍
脂肪肝内非脂肪化領域
限局性脂肪肝
過形成性変化
局所性鉄沈着
B 非腫瘍性肝腫瘤
単純性肝嚢胞
線毛性前腸性肝嚢胞
胆管性嚢胞性病変
胆汁性嚢胞,胆汁漏
肝内結石症
胆管周囲嚢胞
多嚢胞性胆管過誤腫
ductal plate malformation関連嚢胞性病変
血管性腫瘤
門脈-肝静脈短絡
門脈瘤
肝動脈瘤
炎症性肝腫瘤
炎症性肝腫瘤
化膿性肝膿瘍
アメーバ性肝膿瘍
感染性肝肉芽腫(慢性肝膿瘍,肉芽性肝膿瘍)
真菌性肝膿瘍
炎症性肝腫瘤 寄生虫性疾患
エキノコッカス(包虫)症
日本住血吸虫症
肝蛭症
肝吸虫症
内臓幼虫移行症
回虫症
炎症性肝腫瘤
炎症性偽腫瘍
血腫
急性期血腫
陳旧性肝内血腫
肝梗塞・壊死
Zahn梗塞
肝壊死(壊死性肝梗塞)
虚血性偽小葉壊死
壊死結節
好酸球性肝壊死
肝細胞性腫瘍類似病変
限局性結節性過形成
FNH様結節
結節性再生性過形成様結節(NRH様結節)
その他
放射線肝障害(放射線肝炎)
肝紫斑病
偽リンパ腫
髄外造血
confluent hepatic fibrosis
C 原発性肝腫瘍
上皮性腫瘍 肝細胞性腫瘍
肝細胞腺腫
SAA陽性腫瘍
上皮性腫瘍 肝細胞性腫瘍 肝細胞癌
肝細胞癌(肝癌)
多段階発癌
早期肝癌
高分化型肝癌
中分化型肝癌,低分化型肝癌
病理学的亜型を伴う肝癌
肝癌の分子病理学的・遺伝子学的分類と画像
上皮性腫瘍 肝細胞性腫瘍
成人型小児肝癌
肝芽腫
上皮性腫瘍 肝細胞性腫瘍
fibrolamellar hepatocellular carcinoma
上皮性腫瘍 胆管細胞性腫瘍
肝内胆管腺腫
胆管癌前癌病変
粘液性嚢胞性腫瘍
肝内胆管癌(胆管細胞癌)
細胆管細胞癌(細胆管癌)
上皮性腫瘍
肝細胞癌・胆管細胞癌の混合型腫瘍(混合型肝癌)
非上皮性腫瘍 良性腫瘍
海綿状血管腫
血管筋脂肪腫
小児肝血管内皮腫
間葉性過誤腫
その他の非上皮性良性腫瘍
非上皮性腫瘍 悪性腫瘍
血管肉腫
類上皮性血管内皮腫
未分化肉腫
その他の非上皮性悪性腫瘍
上皮性と間葉系の混合型悪性腫瘍
癌肉腫
肝芽腫,上皮系と間葉系の混合型
その他
神経内分泌腫瘍
副腎遺残腫瘍
悪性リンパ腫
D 転移性肝腫瘍
癌肝転移
非上皮性悪性腫瘍の肝転移
文献
索引
書評
開く
真摯に病態に迫る画像診断の世界
書評者: 齋田 幸久 (東医歯大特任教授・放射線科)
CT・MRIによって導かれた肝の画像診断の世界でトップランナーであったのが金沢大・松井修先生のグループです。高速CTの登場により,肝動脈と門脈血流を区別して認識できるようになり,肝血流を軸とした肝の画像診断全体が大きく進歩したのが1990年代です。この血管造影を併用したCTA(=CT arteriography),CTAP(CT=arterioportography)の適応技術について編著者の松井先生自ら指導のために筑波大まで出向いていただいたのもこの頃です。その当時の松井先生と筑波大の板井悠二教授の関係は特別です。彼は“肝のイタイ”として国際的にすでに名を知られた数少ない日本人の一人であり,1995年に肝血流動態・機能イメージ研究会を立ち上げられました。残念ながら板井先生が亡くなられ,2004年以降にこの会は松井先生に引き継がれました。現在も,全国の肝臓病学,病理学,外科学,放射線医学の研究者が一堂に会する熱気にあふれた1000人規模の大きな研究会です。
『肝の画像診断―画像の成り立ちと病理・病態 第2版』をみると,これはまさに松井先生の率いる金沢大放射線科の集大成であり,日常臨床と臨床研究の凝集であることがわかります。病理学的知見を背景とし,徹底的に科学的な画像手法に基づいて肝病変を一つずつ洗い出し,丁寧にそれに対しての解答を導き,真摯に病態に迫る研究者の姿が浮かび上がってきます。各ページには豊富な症例が呈示されています。全ての肝病変を網羅する勢いであり,“画像解析説明文入り画像アトラス”の様相を呈しています。読影室の脇に一冊置いておくと便利です。前半に,肝の巨視的および微視的病理,後半に,びまん性肝疾患と限局性肝疾患を対比しています。その基礎には常に肝血流が存在しています。モザイクパターンを示す古典的な多血の肝細胞癌から,門脈血流のみの低下を示す高分化肝細胞癌までを比較しながら肝癌の多段階発育過程を明らかにしています。肝細胞癌周囲の血洞に造影剤が流出する状態をコロナ濃染と名付け,このコロナ領域はやがて化学塞栓術やラジオ波焼灼術(RFA)のために留意すべき重要な所見になります。
この時代を大きく振り返ると,画像のみで肝細胞癌を診断し,それに基づいて治療するという歴史的な転換点でもあったと考えることができます。病理診断を画像に基づいて推定でき,従来の病理学的手法では知り得なかった血流動態についての情報や経時的変化まで追加することが可能となったのです。ある意味で,病理学と画像診断学が肩を並べた瞬間と表現してよいかもしれません。この本では,不器用に,しかも丁寧に一つひとつの症例が呈示されています。この不器用さ,愚直さには,画像診断はこのように展開すべきという編著者の主張が込められています。臨床においても研究においてもきっと共通している画像診断の世界です。きっとAIからは遠くにあります。ぜひ,一度手に取ってご覧ください。
松井先生の肩を抱きながら“松井先生,よくやった! 金沢勢,頑張ったね!”と板井先生が笑っておられます。
肝画像診断の巨人が残したマイルストーン
書評者: 工藤 正俊 (近畿大主任教授・消化器内科学)
日本のみならず世界から尊敬を集めている肝画像診断の巨人が,また一つのマイルストーンを残された。
このたび,金沢大の松井修先生のグループが『肝の画像診断―画像の成り立ちと病理・病態 第2版』を上梓された。1995年の初版発刊からおよそ四半世紀ぶりの改訂である。まさに現在の肝の画像診断の最新・最先端の知識が余すところなく記載されており,間違いなく松井グループの研究の集大成と言える優れたtextbookである。
本書は総論と各論に分かれている。総論は第I章「巨視的病理像と画像」,第II章「微視的病理像と画像」,第III章「肝および肝腫瘤性病変の血流と画像・病理」,第IV章「胆管閉塞と画像」,第V章「門脈域(グリソン鞘)の異常と画像」,第VI章「肝機能画像と病理・分子病理学的背景」,第VII章「分子・遺伝子と肝画像」といった章建てである。総論全般を通じて通常の画像診断の教科書にはない画像の成り立ちや分子病理,遺伝子変異との関連についての記述も満載されており,とても通常の放射線科医では執筆できる内容ではないことが一目瞭然である。病理との詳細な対比のみならず,松井先生が常日頃提唱されているEOB-MRIの機能イメージングとしての意義や分子イメージングとしての意義,画像バイオマーカーとしての意義などが随所に散りばめられており大変勉強になる内容である。また本書には,これまで松井グループが提唱し発表してこられた画像と病理の対比による画像の成り立ちが詳細に記載されている。いかに画像が病理・病態に基づいた表現型であるか,逆に言うと画像そのものが本質的に肝臓や肝腫瘍に生じている病理・病態を語りかけているか,画像診断とは単に絵合わせやパターン認識ではなく病理・病態の本質に迫るものである,といった松井先生の信念が余すところなく記述されている。
総論第III章の「肝および肝腫瘤性病変の血流と画像・病理」の中では肝腫瘍の画像の成り立ちが総論的にかつ系統的に述べられている。肝細胞癌における多段階発癌に伴う血流動態の変化が,これまでの報告の総まとめとして詳細に記載されているのみならず,流出血流に関する記載やその他の肝腫瘍の画像所見もシェーマを使ってわかりやすく記載されている。また画像の成り立ちを説明する病理所見も常に画像とともに示されているのも大きな特徴である。
各論は大きく第VIII章「びまん性肝疾患」,第IX章「限局性・腫瘤性肝病変」の2部構成となっている。びまん性肝疾患ではまれな症例の画像所見も多く提示されており,その解説も丁寧になされている。限局性・腫瘤性肝病変の記載は総論の記載方法とは異なり,まれな症例も含め多くの症例の画像所見が解説されている。ここにも病理との対比による画像の成り立ちが詳細に記されており従来の画像診断の教科書にはない新鮮さがある。特筆すべきは普段あまり遭遇することのないまれな非腫瘍性肝腫瘤や原発性肝腫瘤も画像と病理を対比して画像の成り立ちを詳細に解説されていることである。各論については最初から通読するのではなく,困った症例に遭遇したときに辞書的に検索して知識を得るという使い方も可能ではないかと考える。また通読する際も,まず画像に目を通し,次に太字で図表番号が示されている部分の解説を読むことにより,より理解が深まる。そのような2通りの読み方が可能である。評者は後者の読み方をしてみたが大変役に立つ内容であった。
個人的な話で恐縮であるが私と松井先生とは故・板井悠二先生が立ち上げられた肝血流動態・機能イメージ研究会で発足当初から長らくご一緒させていただき,その後の宴会などでも喧々諤々の議論を通してさまざまなことを学ばせていただいた。市中病院に長らく所属し内部に師匠のいなかった私にとって松井先生は私のお師匠様のおひとりであり,現在の私があるのも松井先生のおかげであると感謝している。実は知り合いになる以前にも松井先生にご連絡差し上げたことがある。30年くらい前だったか,私が所属していた神戸市立中央市民病院のAngio室から直接松井先生に電話し,CO2動注造影エコーで動脈血流の全く入らない大型の結節の診断についてご相談させていただいたのである。やや興奮気味に電話したことを懐かしく思い出す。
その当時,松井先生はCTHA,CTAPを既に開発されておられ,それを単なる診断手技としてのみならずさまざまな肝腫瘍性病変の血流動態の解明やdynamic CTなど他の画像診断所見の成り立ちの解釈にも応用されてこられた。またSPIO-MRIやEOB-MRIなどの機能的画像診断法が登場してからも常に画像の成り立ちを病理・病態の面から追及し発表してこられたが,それがまさに現在,一般に普及した概念となっている。このような画像所見の成り立ちに対する緻密なアプローチとそれを確実に英文論文として世界に発信してこられたことが現在まで多くの内外の放射線科医や病理医,肝臓内科医から尊敬を集め続けられた理由である。まさに現代の肝画像診断は松井先生によって実質的に確立され,また高度に洗練され,そして現在の画像診断体系の完成への道筋も松井先生によって築かれた,といっても過言ではない。その全ての神髄がこの書には込められている。
本書は若手のみならずベテランの放射線科医にも,また内科専攻医,消化器内科医,消化器外科医といった全ての医師にとって大いに役に立つ書籍となっている。ぜひとも,一冊手元に置いて日常診療のお役に立てていただきたい。自信を持ってお薦めする秀逸の書籍である。
永久保存版として薦める「本物」の醍醐味
書評者: 森 宣 (大分大名誉教授)
待ちに待った,松井修先生が率いられる金沢大・松井グループの新著である。豪華で優秀な編著者・共同執筆者の面々を見るだけで期待が高まるが,ページをめくると数ある医学書の中でこれぞ「本物」という醍醐味を味わえることは間違いない。簡潔な語り口と美しい画像に病理像と概念図が完備されているので,肝臓専門の研究者にも初心者にも扉が開かれる好著である。ただし,読者にはじっくりと腰を据えて読んでほしい。本書は総論と各論に分かれているが,全体を通して読むと,肝臓の病理・病態を画像がどう表しているか,同一疾患でも病理・病態は多彩であることを理解するのに絶好の書である。かつ臨床の場での座右の書としても重宝されるのは間違いない。
肝画像診断に大きな変革をもたらしたGd-EOB-DTPA造影MRIの原理というべきトランスポーターを理解できるのも嬉しい。詳述されているのにわかりやすいのは,的確な画像―病理像そして美しい概念図のおかげである。24年ぶりに改訂された第2版であるが,CT,MRIを中心とした画像診断に病理学・分子病理学の知識も入っており,次の24年間と言わず永久保存版としてお持ちになることを薦めたい。
近年,静脈血からの癌DNA情報(liquid biopsy)が注目され,人工知能(AI)の進歩も相まって,人間による画像診断・病理診断は岐路に立たされている,という論調の議論が多いように思われる。しかし,本書をじっくり読むと人体で最大の実質臓器である肝臓の一つの疾患でも病理・病態そして画像がいかに多彩であるか理解するであろう。そして,やはりまだまだ人間が学ばねばならない領域が広いことに気付くであろう。
序に書かれた「本書における多くの知見は,数多くの患者さんの辛い体験のもとに成り立っています。医師としての心痛む思い出が本書を上梓する大きな原動力となっています」という松井先生の心からのお言葉は,必ず読者の心を打つはずである。AIやliquid biopsyが一般的になる時代が到来しても,いつの時代でも医師が忘れてはならないのは“patient first”であることも教えていただいた貴重な書である。
書評者: 齋田 幸久 (東医歯大特任教授・放射線科)
CT・MRIによって導かれた肝の画像診断の世界でトップランナーであったのが金沢大・松井修先生のグループです。高速CTの登場により,肝動脈と門脈血流を区別して認識できるようになり,肝血流を軸とした肝の画像診断全体が大きく進歩したのが1990年代です。この血管造影を併用したCTA(=CT arteriography),CTAP(CT=arterioportography)の適応技術について編著者の松井先生自ら指導のために筑波大まで出向いていただいたのもこの頃です。その当時の松井先生と筑波大の板井悠二教授の関係は特別です。彼は“肝のイタイ”として国際的にすでに名を知られた数少ない日本人の一人であり,1995年に肝血流動態・機能イメージ研究会を立ち上げられました。残念ながら板井先生が亡くなられ,2004年以降にこの会は松井先生に引き継がれました。現在も,全国の肝臓病学,病理学,外科学,放射線医学の研究者が一堂に会する熱気にあふれた1000人規模の大きな研究会です。
『肝の画像診断―画像の成り立ちと病理・病態 第2版』をみると,これはまさに松井先生の率いる金沢大放射線科の集大成であり,日常臨床と臨床研究の凝集であることがわかります。病理学的知見を背景とし,徹底的に科学的な画像手法に基づいて肝病変を一つずつ洗い出し,丁寧にそれに対しての解答を導き,真摯に病態に迫る研究者の姿が浮かび上がってきます。各ページには豊富な症例が呈示されています。全ての肝病変を網羅する勢いであり,“画像解析説明文入り画像アトラス”の様相を呈しています。読影室の脇に一冊置いておくと便利です。前半に,肝の巨視的および微視的病理,後半に,びまん性肝疾患と限局性肝疾患を対比しています。その基礎には常に肝血流が存在しています。モザイクパターンを示す古典的な多血の肝細胞癌から,門脈血流のみの低下を示す高分化肝細胞癌までを比較しながら肝癌の多段階発育過程を明らかにしています。肝細胞癌周囲の血洞に造影剤が流出する状態をコロナ濃染と名付け,このコロナ領域はやがて化学塞栓術やラジオ波焼灼術(RFA)のために留意すべき重要な所見になります。
この時代を大きく振り返ると,画像のみで肝細胞癌を診断し,それに基づいて治療するという歴史的な転換点でもあったと考えることができます。病理診断を画像に基づいて推定でき,従来の病理学的手法では知り得なかった血流動態についての情報や経時的変化まで追加することが可能となったのです。ある意味で,病理学と画像診断学が肩を並べた瞬間と表現してよいかもしれません。この本では,不器用に,しかも丁寧に一つひとつの症例が呈示されています。この不器用さ,愚直さには,画像診断はこのように展開すべきという編著者の主張が込められています。臨床においても研究においてもきっと共通している画像診断の世界です。きっとAIからは遠くにあります。ぜひ,一度手に取ってご覧ください。
松井先生の肩を抱きながら“松井先生,よくやった! 金沢勢,頑張ったね!”と板井先生が笑っておられます。
肝画像診断の巨人が残したマイルストーン
書評者: 工藤 正俊 (近畿大主任教授・消化器内科学)
日本のみならず世界から尊敬を集めている肝画像診断の巨人が,また一つのマイルストーンを残された。
このたび,金沢大の松井修先生のグループが『肝の画像診断―画像の成り立ちと病理・病態 第2版』を上梓された。1995年の初版発刊からおよそ四半世紀ぶりの改訂である。まさに現在の肝の画像診断の最新・最先端の知識が余すところなく記載されており,間違いなく松井グループの研究の集大成と言える優れたtextbookである。
本書は総論と各論に分かれている。総論は第I章「巨視的病理像と画像」,第II章「微視的病理像と画像」,第III章「肝および肝腫瘤性病変の血流と画像・病理」,第IV章「胆管閉塞と画像」,第V章「門脈域(グリソン鞘)の異常と画像」,第VI章「肝機能画像と病理・分子病理学的背景」,第VII章「分子・遺伝子と肝画像」といった章建てである。総論全般を通じて通常の画像診断の教科書にはない画像の成り立ちや分子病理,遺伝子変異との関連についての記述も満載されており,とても通常の放射線科医では執筆できる内容ではないことが一目瞭然である。病理との詳細な対比のみならず,松井先生が常日頃提唱されているEOB-MRIの機能イメージングとしての意義や分子イメージングとしての意義,画像バイオマーカーとしての意義などが随所に散りばめられており大変勉強になる内容である。また本書には,これまで松井グループが提唱し発表してこられた画像と病理の対比による画像の成り立ちが詳細に記載されている。いかに画像が病理・病態に基づいた表現型であるか,逆に言うと画像そのものが本質的に肝臓や肝腫瘍に生じている病理・病態を語りかけているか,画像診断とは単に絵合わせやパターン認識ではなく病理・病態の本質に迫るものである,といった松井先生の信念が余すところなく記述されている。
総論第III章の「肝および肝腫瘤性病変の血流と画像・病理」の中では肝腫瘍の画像の成り立ちが総論的にかつ系統的に述べられている。肝細胞癌における多段階発癌に伴う血流動態の変化が,これまでの報告の総まとめとして詳細に記載されているのみならず,流出血流に関する記載やその他の肝腫瘍の画像所見もシェーマを使ってわかりやすく記載されている。また画像の成り立ちを説明する病理所見も常に画像とともに示されているのも大きな特徴である。
各論は大きく第VIII章「びまん性肝疾患」,第IX章「限局性・腫瘤性肝病変」の2部構成となっている。びまん性肝疾患ではまれな症例の画像所見も多く提示されており,その解説も丁寧になされている。限局性・腫瘤性肝病変の記載は総論の記載方法とは異なり,まれな症例も含め多くの症例の画像所見が解説されている。ここにも病理との対比による画像の成り立ちが詳細に記されており従来の画像診断の教科書にはない新鮮さがある。特筆すべきは普段あまり遭遇することのないまれな非腫瘍性肝腫瘤や原発性肝腫瘤も画像と病理を対比して画像の成り立ちを詳細に解説されていることである。各論については最初から通読するのではなく,困った症例に遭遇したときに辞書的に検索して知識を得るという使い方も可能ではないかと考える。また通読する際も,まず画像に目を通し,次に太字で図表番号が示されている部分の解説を読むことにより,より理解が深まる。そのような2通りの読み方が可能である。評者は後者の読み方をしてみたが大変役に立つ内容であった。
個人的な話で恐縮であるが私と松井先生とは故・板井悠二先生が立ち上げられた肝血流動態・機能イメージ研究会で発足当初から長らくご一緒させていただき,その後の宴会などでも喧々諤々の議論を通してさまざまなことを学ばせていただいた。市中病院に長らく所属し内部に師匠のいなかった私にとって松井先生は私のお師匠様のおひとりであり,現在の私があるのも松井先生のおかげであると感謝している。実は知り合いになる以前にも松井先生にご連絡差し上げたことがある。30年くらい前だったか,私が所属していた神戸市立中央市民病院のAngio室から直接松井先生に電話し,CO2動注造影エコーで動脈血流の全く入らない大型の結節の診断についてご相談させていただいたのである。やや興奮気味に電話したことを懐かしく思い出す。
その当時,松井先生はCTHA,CTAPを既に開発されておられ,それを単なる診断手技としてのみならずさまざまな肝腫瘍性病変の血流動態の解明やdynamic CTなど他の画像診断所見の成り立ちの解釈にも応用されてこられた。またSPIO-MRIやEOB-MRIなどの機能的画像診断法が登場してからも常に画像の成り立ちを病理・病態の面から追及し発表してこられたが,それがまさに現在,一般に普及した概念となっている。このような画像所見の成り立ちに対する緻密なアプローチとそれを確実に英文論文として世界に発信してこられたことが現在まで多くの内外の放射線科医や病理医,肝臓内科医から尊敬を集め続けられた理由である。まさに現代の肝画像診断は松井先生によって実質的に確立され,また高度に洗練され,そして現在の画像診断体系の完成への道筋も松井先生によって築かれた,といっても過言ではない。その全ての神髄がこの書には込められている。
本書は若手のみならずベテランの放射線科医にも,また内科専攻医,消化器内科医,消化器外科医といった全ての医師にとって大いに役に立つ書籍となっている。ぜひとも,一冊手元に置いて日常診療のお役に立てていただきたい。自信を持ってお薦めする秀逸の書籍である。
永久保存版として薦める「本物」の醍醐味
書評者: 森 宣 (大分大名誉教授)
待ちに待った,松井修先生が率いられる金沢大・松井グループの新著である。豪華で優秀な編著者・共同執筆者の面々を見るだけで期待が高まるが,ページをめくると数ある医学書の中でこれぞ「本物」という醍醐味を味わえることは間違いない。簡潔な語り口と美しい画像に病理像と概念図が完備されているので,肝臓専門の研究者にも初心者にも扉が開かれる好著である。ただし,読者にはじっくりと腰を据えて読んでほしい。本書は総論と各論に分かれているが,全体を通して読むと,肝臓の病理・病態を画像がどう表しているか,同一疾患でも病理・病態は多彩であることを理解するのに絶好の書である。かつ臨床の場での座右の書としても重宝されるのは間違いない。
肝画像診断に大きな変革をもたらしたGd-EOB-DTPA造影MRIの原理というべきトランスポーターを理解できるのも嬉しい。詳述されているのにわかりやすいのは,的確な画像―病理像そして美しい概念図のおかげである。24年ぶりに改訂された第2版であるが,CT,MRIを中心とした画像診断に病理学・分子病理学の知識も入っており,次の24年間と言わず永久保存版としてお持ちになることを薦めたい。
近年,静脈血からの癌DNA情報(liquid biopsy)が注目され,人工知能(AI)の進歩も相まって,人間による画像診断・病理診断は岐路に立たされている,という論調の議論が多いように思われる。しかし,本書をじっくり読むと人体で最大の実質臓器である肝臓の一つの疾患でも病理・病態そして画像がいかに多彩であるか理解するであろう。そして,やはりまだまだ人間が学ばねばならない領域が広いことに気付くであろう。
序に書かれた「本書における多くの知見は,数多くの患者さんの辛い体験のもとに成り立っています。医師としての心痛む思い出が本書を上梓する大きな原動力となっています」という松井先生の心からのお言葉は,必ず読者の心を打つはずである。AIやliquid biopsyが一般的になる時代が到来しても,いつの時代でも医師が忘れてはならないのは“patient first”であることも教えていただいた貴重な書である。
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