精神科薬物治療
こんなときどうするべきか

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妊婦や高齢者、子ども、身体疾患を合併している患者など、向精神薬による治療を行う際に特に注意が必要な状況について、最前線で活躍する臨床家が具体的な対応策を解説。処方に当たっての注意点、減薬や変更のノウハウなど、実臨床で役立つ知識とテクニックが満載の1冊。 シリーズセットのご案内 ●≪精神科臨床エキスパート≫ シリーズセット IV 本書を含む3巻のセットです。  セット定価:本体15,500円+税 ISBN978-4-260-02206-4 詳細ページ
シリーズ 精神科臨床エキスパート
シリーズ編集 野村 総一郎 / 中村 純 / 青木 省三 / 朝田 隆 / 水野 雅文
編集 吉村 玲児
発行 2015年05月判型:B5頁:260
ISBN 978-4-260-02114-2
定価 6,380円 (本体5,800円+税)

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 薬物治療は精神科治療の1つの大きな柱であることは間違いない.しかし,目前の患者にどのような薬物治療を行うかを決定する作業は決して容易なことではない.現時点では,残念ながら個別化精神科薬物治療は臨床応用できる水準までには到達しているとはいえない.メタ解析の結果や多くのガイドラインは参考になるが,その内的妥当性や外的妥当性を臨床家はよく吟味する必要がある.
 精神科治療のすべてがそうであるように,薬物治療も主治医と患者との信頼関係に立脚した共同作業であり試行錯誤の積み重ねである.しかし,それらはこれまでわれわれが手にした少ないけれども貴重な知見を十分に知ったうえで実践されるべきであると私は思う.
 本書は日夜精神科臨床を実践し薬物治療の知識に卓越した先生方に執筆を依頼した.そして,ご執筆いただく先生方には一般的で無味乾燥な精神科薬物治療ではなく,具体的な症例を多く挙げてもらい,その症例に対してどのように考えどのような治療アプローチを選択するのか,失敗例なども含めて執筆していただきたいとお願いした.読者の方々がその診療場面をありありとイメージできるような臨場感のある本を作りたいというのが私の希望であった.
 ご執筆いただいた先生方は私のこの我儘なお願いに応えてくださり,私の希望どおりの本をこのたびお届けすることができた.本書は精神科医,心療内科医のみならず,コメディカルの方々にもきっと役立つと確信している.そして,最終的には精神疾患で苦しんでおられる方々が適切な薬物治療の恩恵を被ることができることを心から願っている.

 2015年4月
 編集 吉村玲児

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第1部 精神科薬物治療の原則
  抗精神病薬治療の原則
  抗うつ薬治療の原則
  抗不安薬治療の原則
  睡眠薬治療の原則
  気分安定薬治療の原則
  向精神薬使用時の原則(まとめ)

第2部 向精神薬の使い方のコツと注意点
 第1章 抗精神病薬
  抗精神病薬治療の効果と問題
  第一世代抗精神病薬(FGA)
  第二世代抗精神病薬(SGA)
  目の前の患者にとってベターな抗精神病薬の選択を
 第2章 抗うつ薬
  抗うつ薬の特徴をとらえるために必要な臨床態度
  各種抗うつ薬の効果
  緩和医療と抗うつ薬-副作用に焦点をあてて
 第3章 気分安定薬
  種類と効果
  基本的な考え方
  気分エピソードに対する治療
  気分安定薬の使い方のコツ
  双極性うつ病の症例提示
 第4章 睡眠薬・抗不安薬
  睡眠薬
  抗不安薬
 第5章 抗認知症薬
  現在の抗認知症薬は根本治療薬ではない
  各抗認知症薬の特徴
  各薬剤の使い分け
  認知症治療における抗認知症薬の役割

第3部 特殊な状況の患者にどう対応するか
 第1章 妊娠中の患者
  妊娠期・出産後の状態
  妊娠・授乳期の患者への投薬のポイント
  服薬指導のポイント
  最小限のリスクで最大限の効果を
 第2章 高齢の患者
  高齢者の身体的特性
  身体疾患の治療薬と向精神薬との薬物相互作用
  高齢者でより注意が必要な有害事象と対策
  向精神薬の使用状況の実際
  高齢者の特性を理解して適切な薬物療法を
 第3章 児童・思春期の患者
  児童・思春期患者の症状の非定型性
  児童・思春期患者の薬物療法への反応性の非定型性
  児童・思春期患者の操作的診断が抱える問題
  神経発達症との併存をめぐる問題
  児童・思春期患者に対するインフォームド・アセント
 第4章 発達障害のある患者
  発達障害のある患者への薬物療法はどうあるべきか
  自閉スペクトラム症の薬物治療
  薬物療法をうまく活用するために
 第5章 糖尿病患者
  糖尿病発症を予防するために必要なポイント
  実際のモニタリング法の工夫
  高血糖の予防と早期発見
 第6章 肝機能障害患者
  肝機能障害を合併する精神科症例への精神科薬物療法
  使用薬剤による肝機能障害が疑われる症例への対応
 第7章 腎機能障害患者
  腎機能障害患者は増えている
  肝代謝と腎排泄
  腎機能障害患者で主に気を付けるべき点
  抗精神病薬
  抗うつ薬
  抗不安薬,睡眠導入薬
  抗てんかん薬,気分安定薬
  抗躁薬
  抗認知症薬
  その他の薬剤
  腎機能障害患者に対する向精神薬のリスク
  安全性の高い治療法の選択を
 第8章 循環器疾患患者
  精神疾患と循環器疾患の関係
  循環器疾患と向精神薬
  重症身体疾患と精神症状
  循環器疾患による薬物動態の変化
  循環器疾患治療患者における抗うつ薬の選択
 第9章 緑内障患者
  緑内障とは
  緑内障患者への投薬のポイント
  向精神薬投与中に緑内障が出現した際の対応
 第10章 COPD患者
  慢性閉塞性肺疾患とは
  COPDと精神疾患の合併
 第11章 前立腺肥大患者
  前立腺肥大症とは
  薬剤と排尿障害
  向精神薬を投与するうえでの注意点
  向精神薬ごとのポイント
 第12章 てんかん患者
  てんかん患者にみられる精神症状の評価のポイント
  てんかん患者に対する向精神薬選択のポイント
  向精神薬治療を安全かつ効果的に行うための注意点
 第13章 脳血管障害患者
  脳血管障害と幻覚・妄想
  脳血管障害とせん妄
  脳血管障害と抑うつ

索引

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豊富な臨床経験に裏打ちされた学術的にもレベルの高い実践書
書評者: 大谷 浩一 (山形大教授・臨床精神薬理/山形大病院精神科科長)
 精神科医療を含めて医療行為を行う際にエビデンスに基づく知識と技術が必要なのは言うまでもない。しかし,疾患の在り方や治療反応性に大きな個人差が見られる精神科領域では他の領域と比較してエビデンスでカバーできない部分が大きい。

 この精神科医療の特徴を踏まえて,精神科臨床エキスパートシリーズの目的は,「その道のエキスパートに,エビデンスを踏まえつつ,その枠を超えた臨床知を提供してもらうこと」だと言う(「刊行にあたって」より)。

 本書はその一部として精神科薬物治療についてまとめられたものである。編者の吉村玲児先生は臨床精神薬理学の分野で多大な研究成果を上げている方であるが,臨床医としても非常に経験豊かな方である。したがって,本書の編者として最適と言える。また,各章の執筆者も全国からえりすぐりの方々である。

 第1部は「精神科薬物治療の原則」である。エビデンスと臨床経験に基づく編者の治療哲学がまとめられているが,いちいち納得させられ,この部分だけでも読み応えがある。

 第2部は「向精神薬の使い方のコツと注意点」である。抗精神病薬,抗うつ薬,気分安定薬,睡眠薬・抗不安薬,抗認知症薬の5つのグループの中で,各薬物の薬理作用,臨床的特徴,使い分け,副作用などの注意点が包括的にかつコンパクトにまとめられている。本邦で汎用される向精神薬の情報が網羅されていると言って良い。

 第3部は「特殊な状況の患者にどう対応するか」である。まず感心させられるのは,精神科医が日々の診療で遭遇する機会が多くて直ちに解決を迫られる問題や状況を的確に押さえていることである。ここにも編者の豊富な臨床経験が反映されていると言えよう。取り上げられたテーマは妊娠中の患者,高齢の患者,児童・思春期の患者など13にわたる。各執筆者は提示した症例について,エビデンスを意識しながら豊富な経験に裏打ちされた解決策を示していく。どの症例についても編者が意図したように「臨床場面がありありとイメージできる」(「序」より)。

 結論として,本書は実践書として完成度が高いのみならず,学術的にもレベルが高い。エキスパートを目指す精神科医はもちろんのこと,エキスパートを含めて精神科医全体に対して推奨できる。自室で教科書として精読しても良いし,診察室において辞書的に使用しても良いであろう。

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