標準的神経治療

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設立30年の歴史をもつ日本神経治療学会監修により、神経内科医だけでなく他科の医師も加わりまとめ上げられた独自の治療指針。手根管症候群、Bell麻痺、片側顔面痙攣、三叉神経痛、慢性疼痛、めまいなど、日常診療でよく遭遇する9つの神経疾患・症候について、神経治療のエキスパートがエビデンスに基づいた標準的治療を示す。神経内科専門医のみならず神経治療に携わるすべての医師が座右に置いておきたい1冊。
監修 日本神経治療学会
発行 2012年11月判型:B5頁:328
ISBN 978-4-260-01657-5
定価 10,450円 (本体9,500円+税)

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『標準的神経治療』の発行にあたって

 日本神経治療学会が創設されて30周年を迎えることになりました.創設当時は神経疾患の多くはその病因が不明であり,稀少性の疾患が多いこともあって,治療法が乏しく,また治療研究が大変遅れていました.そうした時代に,神経疾患における治療の開発と普及を目的に本学会が作られた経緯があります.
 医学の発展は日進月歩といわれるように,困難といわれた神経治療の分野においても,この30年の間に神経疾患のいくつかはその病因や病態が明らかにされ,根本治療を含めた治療法も開発されるようになりました.そうしたなか本学会も着実に発展し,現在は会員数が2,000名を超え,学会総会における演題数も250題を超えるようになりました.
 30周年を迎えるに当たり,次の時代の本学会のあり方や進むべき方向を皆で大局的に考えることは,意義深いことと思います.例えば,「学会がどのようにすれば難治性で希少性の神経疾患の治療開発に関与できるか」,「長期にわたる神経疾患の在宅ケアや社会的共存ケアに学会としてどのように関与していくか」,「American Society for Experimental Neuro Therapeutics(ASENT)をはじめとした国際的な神経治療の活動とどう連携していくか」,「学会としてどのようにして企業や規制当局と治験活動コンソーシアムを形成していくか」などのいくつかの大きな課題があります.そのいくつかは,第30回の本学会学術集会にて辻 貞俊会長の企画のもとに議論されるものと考えます.
 その一方で,30周年を記念して神経内科医の日常診療に役立っている『標準的神経治療』の合冊版を出してはどうかということが,1, 2年前から治療指針作成委員会や理事会にて考えられてきました.この『標準的神経治療』は本学会独自の企画として2008年から作られてきたもので,いわゆる代表的な神経疾患診療ガイドラインとは異なったいくつかの特徴があります.
 例えば「手根管症候群」,「Bell麻痺」,「片側顔面痙攣」および「三叉神経痛」などのように日常的に遭遇する疾患ではあるが,治療法が経験的なものであったり,診療分野ごとに異なった治療が行われている疾患を取り上げ,エビデンスに基づいた標準的治療を示しています.また,「慢性疼痛」や「めまい」のように多様な原因により起こる神経症候を取り上げ,その診断の仕方から治療の指針を示しています.それ以外にも,通常のガイドラインでは取り上げられないような稀少性の神経疾患や,最近急速に注目されてきている疾患をタイムリーに取り上げる工夫も行ってきています.これらの治療指針をまとめたものが『標準的神経治療』であり,多くの方々からその利便性を評価されてきました.
 この『標準的神経治療』は2008年の「手根管症候群」から本年7月発行の「高齢発症てんかん」まで,すでに10疾患が公表され,さらに5疾患について編集作業が現在進行中です.そのうち今回は30周年の記念として(1)手根管症候群,(2)Bell麻痺,(3)片側顔面痙攣,(4)三叉神経痛,(5)高齢発症重症筋無力症,(6)慢性疼痛,(7)めまい,(8)本態性振戦,(9)Restless legs症候群の疾患をまとめ合冊にしました.皆様の座右に置いていただき,活用していただきたいと思います.

 平成24年9月
 日本神経治療学会
 理事長 糸山泰人
 治療指針作成委員長 片山泰朗

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I 手根管症候群
 1 エビデンスレベルおよび推奨度について
 2 概要と臨床診断
 3 病態生理
 4 CTSの電気診断
 5 保存的治療
 6 外科的治療
 7 治療法の選択
II Bell麻痺
 1 診断:病態生理を含む
 2 内科的治療
 3 薬剤治療以外の選択
 4 ボツリヌス毒素療法
 5 リハビリテーション
III 片側顔面痙攣
 1 概念・病態
 2 疫学
 3 治療
  1. 治療選択基準
  2. 薬物療法
  3.1. ボツリヌス毒素療法の総論
  3.2. ボツリヌス毒素療法・実際
  4. 外科的治療
IV 三叉神経痛
 1 三叉神経痛の病態と臨床像
 2 三叉神経痛の治療(総論)
 3 三叉神経痛の内科的治療
 4 三叉神経痛の神経ブロック療法
 5 三叉神経痛の外科治療
 6 三叉神経痛に対するガンマナイフ治療
V 高齢発症重症筋無力症
 1 高齢発症重症筋無力症-疫学的事項
 2 高齢発症MGの臨床
 3 高齢発症MGの治療-その1(胸腺摘除術を中心に)
 4 高齢発症MGの治療-その2(副腎皮質ステロイド薬や免疫抑制薬など)
VI 慢性疼痛
 1 慢性疼痛の定義と発症機序
 2 慢性疼痛の診断
 3 内科的治療
 4 心療内科的治療-とくに線維筋痛症に対して
 5 慢性痛:ペインクリニック
 6 刺激療法
VII めまい
 1 「めまい」と「ふらつき」:定義と機序
 2 診断
  1. 「めまい」の鑑別診断
  2. 「めまい」と「眼球運動障害」
 3 治療
  1. 救急疾患としての「めまい」治療
  2. 高齢者の「めまい」治療
  3. 循環器疾患による「めまい」の治療
VIII 本態性振戦
 1 疫学,病因,病態機序
 2 診断と鑑別
 3 治療:総論
 4 治療:薬物療法
 5 治療:外科治療
 6 治療:ボツリヌス毒素注射治療
IX Restless legs症候群
 1 Restless legs症候群の定義と発症機序
 2 Restless legs症候群の疫学
 3 Restless legs症候群の臨床症状と病態生理
 4 二次性Restless legs症候群
 5 Restless legs症候群の診断基準
 6 睡眠センターでの問診,検査,鑑別診断
 7 Restless legs症候群の治療(薬物療法と非薬物療法)

索引

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第一線の神経内科医のニーズをよく理解した疾患ラインアップ
書評者: 神田 隆 (山口大大学院教授・神経内科学)
 本書は日本神経治療学会創設30周年の記念事業として,2008年から順次公表されてきた『標準的神経治療』を合冊したものである。ここに取り上げられている疾患は(1)手根管症候群,(2)Bell麻痺,(3)片側顔面痙攣,(4)三叉神経痛,(5)高齢発症重症筋無力症,(6)慢性疼痛,(7)めまい,(8)本態性振戦,(9)Restless legs症候群の9つであり,神経内科医だけが診る疾患よりも,より多岐にわたる診療科が関与する疾患に重点が置かれ,また,慢性疼痛・めまいといった神経内科医が日々の診療で困難を感じている症候が積極的に選択されているのがまず目に留まる。日常診療の中ではなかなか接することのできない他科の最先端の考え方も吸収しながら患者を治療したいという,第一線の神経内科医のニーズをよく理解した疾患ラインアップであると思われる。本書の題名は『標準的神経治療』であるが,各章の記載の多くは治療指針のみにとどまらず,疾患概念,病態生理,疫学も含めた内容となっている。プラクティカルに治療はどのようにしたらよいかをダイレクトに伝えるだけでなく,疾患の基礎的な理解にも踏み込む内容となっており,より診療ガイドラインに近い記載と言ってよい。

 個々の章はそれぞれの分野のエキスパートによる力のこもった内容となっている。専門医が非専門医師を含む多数の読者に対して,エビデンスに基づきつつも誤解を与えないよう適切な治療指針を伝えるのは大変難しいことであり,本書の著者も苦労されたものと思われる。中でも本書で最も充実した内容を有するセクションの一つと思われる(1)手根管症候群を例に取ると,まず冒頭にエビデンスレベルおよび推奨度の呈示があり,以下の記述も,どのようなレベルのエビデンスに基づいてこの薬物・治療法が推奨されるかについての明快な記述がある。本来ならばこのエビデンスレベルと推奨度の呈示は本書の冒頭に掲げて,すべての章がこの基本方針の下に書かれていれば,もっと統一感のある成書になったのではないかと思われるが,一方,エビデンスレベルから少し離れて各薬物の使用法について丁寧に概説した章もあり,これもまた読者のニーズの一つを満たしているのではないかと感じた。各章で著者の意図するところが少しずつ違うことを理解しながら読むことも,読者には要求されるものと思われる。

 全9章の中でも第5章の高齢発症重症筋無力症は,特定の病態に限定した記載を行っているという点で他の8章とはいささか趣を異にしている。しかし,このような最近話題になっているトピックスに対して迅速に回答を出していくという姿勢は高く評価されるべきであり,神経内科の臨床家には大いに歓迎されるであろう。このような神経内科治療のトピックスのみでまとまった成書も将来的には大いに期待したいところである。

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