チーム医療のための呼吸ケアハンドブック
慢性呼吸器疾患のケアを、科学的根拠をもって実践するために
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COPDをはじめとする慢性呼吸器疾患に対し、サイエンスに基づくケアを確立することを目的とした実践的なハンドブック。①cureからcareへの転換、②生理指標よりQOLの改善、③呼吸ケアのサイエンス、④呼吸ケアにおけるチーム医療を確立するための情報提供などの点を重視し、呼吸ケア実践に必要なプラクティカルな情報をコンパクトにまとめた。
監修 | 工藤 翔二 |
---|---|
編集 | 木田 厚瑞 / 久保 惠嗣 / 木村 弘 |
発行 | 2009年10月判型:A5頁:312 |
ISBN | 978-4-260-00793-1 |
定価 | 4,620円 (本体4,200円+税) |
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- 目次
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序文
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序
在宅酸素療法(HOT)に始まる近年の呼吸ケアは「包括的呼吸ケア」といわれるように,生まれ落ちたときから医師とコメディカルによるチーム医療であった。
今,呼吸ケアは大きく変貌しつつある。第一には,患者の高齢化である。HOTが健康保険適用となった1985年には全体の35%に過ぎなかった70歳以上のHOT患者が,1995年には約55%に増加し,現在では70%を超えている。第二は,病院の中にあったチーム医療が,病病・病診連携はもとより,訪問看護ステーション,保健施設を含む地域のチーム医療へと発展しつつあることである。慢性呼吸不全の急性増悪に対しても,急性期医療から回復期リハビリ,在宅医療への連続した流れが求められている。第三に,呼吸リハビリテーションが,2004 年以来の診療報酬改定によって,他の理学療法並みに算定できるようになったことである。関連学会ではさらに6分間歩行試験の点数化など,呼吸ケアが診療報酬の上でも正当な評価が得られるよう,努力が続けられている。第四に,呼吸ケアに必要な正しい呼吸生理学の理解のみならず医療安全の立場から,ハイテク呼吸ケアとされる酸素供給装置,人工呼吸器など種々の機器の取り扱いについて,これまで以上の配慮と患者・家族への指導が必要になっていることである。第五には,呼吸ケアを要する新たな患者発生と重症化を予防するために,特にCOPDを軸として喫煙対策やCOPDの早期治療介入の取り組みとともに,日本呼吸器学会による「肺年齢」の提唱など国民の肺の健康に対する関心を高める活動が進みつつあることである。
本書は,このような新しい時代に対応した呼吸ケアを包括的に網羅し,呼吸ケアに携わるすべての医療者がいつでも活用できるよう,ハンドブックとして編纂されたものである。呼吸ケアの現場で役立てて頂ければ幸いである。
終わりに,本書の編纂にあたられた木田厚瑞教授,久保惠嗣教授,木村弘教授と健筆を奮って頂いた執筆者の方々,医学書院編集部の皆様に深謝します。
2009年8月吉日
(財)結核予防会複十字病院院長
日本医科大学名誉教授
工藤翔二
在宅酸素療法(HOT)に始まる近年の呼吸ケアは「包括的呼吸ケア」といわれるように,生まれ落ちたときから医師とコメディカルによるチーム医療であった。
今,呼吸ケアは大きく変貌しつつある。第一には,患者の高齢化である。HOTが健康保険適用となった1985年には全体の35%に過ぎなかった70歳以上のHOT患者が,1995年には約55%に増加し,現在では70%を超えている。第二は,病院の中にあったチーム医療が,病病・病診連携はもとより,訪問看護ステーション,保健施設を含む地域のチーム医療へと発展しつつあることである。慢性呼吸不全の急性増悪に対しても,急性期医療から回復期リハビリ,在宅医療への連続した流れが求められている。第三に,呼吸リハビリテーションが,2004 年以来の診療報酬改定によって,他の理学療法並みに算定できるようになったことである。関連学会ではさらに6分間歩行試験の点数化など,呼吸ケアが診療報酬の上でも正当な評価が得られるよう,努力が続けられている。第四に,呼吸ケアに必要な正しい呼吸生理学の理解のみならず医療安全の立場から,ハイテク呼吸ケアとされる酸素供給装置,人工呼吸器など種々の機器の取り扱いについて,これまで以上の配慮と患者・家族への指導が必要になっていることである。第五には,呼吸ケアを要する新たな患者発生と重症化を予防するために,特にCOPDを軸として喫煙対策やCOPDの早期治療介入の取り組みとともに,日本呼吸器学会による「肺年齢」の提唱など国民の肺の健康に対する関心を高める活動が進みつつあることである。
本書は,このような新しい時代に対応した呼吸ケアを包括的に網羅し,呼吸ケアに携わるすべての医療者がいつでも活用できるよう,ハンドブックとして編纂されたものである。呼吸ケアの現場で役立てて頂ければ幸いである。
終わりに,本書の編纂にあたられた木田厚瑞教授,久保惠嗣教授,木村弘教授と健筆を奮って頂いた執筆者の方々,医学書院編集部の皆様に深謝します。
2009年8月吉日
(財)結核予防会複十字病院院長
日本医科大学名誉教授
工藤翔二
目次
開く
1章 呼吸ケアの軌跡と課題
2章 呼吸ケア総論-チーム医療のための呼吸ケア
3章 呼吸ケアにおけるアセスメント
4章 薬物療法
5章 運動療法
6章 栄養療法
7章 禁煙教育
8章 在宅酸素療法
9章 在宅人工呼吸療法
10章 気管切開の長期ケア
11章 SAS(睡眠時無呼吸症候群)
12章 感染の対策とリスクマネージメント
13章 患者心理,QOL向上
14章 COPDにおける医療倫理の考え方と問題点
15章 疾患別の呼吸ケアの応用と注意点
索引
2章 呼吸ケア総論-チーム医療のための呼吸ケア
3章 呼吸ケアにおけるアセスメント
4章 薬物療法
5章 運動療法
6章 栄養療法
7章 禁煙教育
8章 在宅酸素療法
9章 在宅人工呼吸療法
10章 気管切開の長期ケア
11章 SAS(睡眠時無呼吸症候群)
12章 感染の対策とリスクマネージメント
13章 患者心理,QOL向上
14章 COPDにおける医療倫理の考え方と問題点
15章 疾患別の呼吸ケアの応用と注意点
索引
書評
開く
COPD患者の心理と終末期の医療倫理を学ぶ
書評者: 貫和 敏博 (東北大教授・呼吸器病態学/日本呼吸器学会理事長)
「呼吸ケア」という言葉が取り上げられてすでに10年以上が経過するが,この度「チーム医療のための」という読者対象と,日常臨床ですぐ参照しうるという意味の「ハンドブック」の体裁をなす本書が上梓された。
呼吸ケアという医療は,現代社会,ことにタバコが税収維持のための課税対象品という時代錯誤的状況が改善されない中で,呼吸器関連医療スタッフが正面から向き合う必要性のある領域である。肺はゲノム(遺伝的)背景,環境,習慣の上に種々の病態が形成され,加えて加齢に伴い進行する。高齢化社会日本で今後数十年間,呼吸ケアが重要な課題になることは,工藤翔二氏による序論にもある通り,重く受け止める必要がある。
呼吸ケアには日常動作における苦渋への対応も含まれる。かつてCOPDで加療中に肺癌併発を告げられた患者が,「肺癌とはチョロイものですな」と述べたのを耳にしたことがある。死への病としての癌よりも,刻々の動作に伴う苦悩がいかに患者を追い込んでいるか,想像に余りある。
本書はチーム医療という観点から,木田厚瑞氏の総論中で医療サービス,慢性疾患,高齢者,医療費,在宅ケアなどについてオーバービューが与えられており斬新である。チーム医療はその全体像を理解して初めて各パートに力を注ぐことが可能となる。引き続き,アセスメント,薬物療法,運動療法,栄養療法,禁煙教育が,まず呼吸ケア医療の基本として提示される。その後に,在宅酸素療法,在宅人工呼吸療法,気管切開ケア,さらには関連するSAS,また長期ケアの大きな課題となる感染症がそれぞれ経験豊富な執筆陣により要領よくまとめられている。最後には疾患別呼吸ケアの応用と注意点として気管支喘息以下10疾患が各論としてまとめられている。
何よりも日常生活に苦渋する患者に接する医療チームが必要とするものは患者心理の理解,またCOPDなどの進行が緩徐ながらも終末期における医療倫理の理解である。この2つの課題には2章,20ページが割り当てられ,本ハンドブックの最大の特徴となるのでないか。引用文献も新しいもので,現在の課題に対して理解が深まる。
折しも「慢性呼吸器疾患看護」認定看護師が2010年2月に日本看護協会より制定され,スクーリングが始まろうとしている。また平成22年度診療報酬改定において人工呼吸器管理が呼吸ケアチーム加算として算定されるというニュースも耳新しい。本ハンドブックはそうした中でまさに時宜を得たものであり,呼吸器科医,看護師,コメディカル各位に広く現場で参照されることが期待される。
呼吸ケアの重要性を最先端のエビデンスに基づいて解説した貴重な参考書
書評者: 佐々木 英忠 (秋田看護福祉大学長)
ケアという言葉が盛んに用いられるようになったのは十数年前からである。従来,在院日数の制限がなく長期療養ベッドもお構いなしであったが,医療費の高騰を避けるため,社会的入院ともいうべき長期療養患者は病院から締め出されることとなった。それにより,大病院であればあるほど患者は急性期疾患のみを診療するという建前のもと,在院日数は短ければ短いほどよい病院であると評価されるようになった。
呼吸器病床では,酸素吸入のためだけに入院しており在宅に戻せないCOPDをはじめとする患者にかなりの病床を占められていたが,在宅酸素療法の導入によって,長期療養患者は退院可能となり,他科の在院日数短縮の方針と歩調を合わせることができた。
ここで病院は急性期疾患を専門に診療するという大前提が整ったが,患者(特に高齢の患者)は急性期を乗り切っても直ちに回復するわけではなく,社会復帰となればさらに程遠いという実態が待っている。医学の粋を集めた専門集団である大病院が,急性期を乗り切ってもまだ回復には程遠い患者に対して,退院後はどうぞ好きなようにして下さいといわば投げ出すことは,すこぶる実態にそぐわないことになる。多くの患者は退院後に完全に回復するまで,または回復しなければそれなりの療養が切り離せない。
このような退院後の患者の療養には医療と看護・介護の両輪が必要となってくる。従来は医療の確立に多くの時間と労力が割かれ,看護・介護にはそれぞれの専門職の細々とした努力はあったが,医療に携わる専門職の目は向けられていなかった。しかし,例えば在宅酸素療法がCOPDの延命効果としてこれまでのどの薬物療法やその他の医療行為よりも寄与するなどのエビデンスが明らかにされるに及んで,看護・介護は医療と同等に重要な役割をもつことが明確になってきた。
本書は,早くから医療とともに看護・介護が重要と考えてこられた,日本の呼吸器学分野の最前線で御活躍されている医療専門職の方々によって書かれている。呼吸ケアの重要性について今日得られる最先端のエビデンスに基づいて解説された貴重な参考書である。内容は平易でわかりやすく,呼吸器に携わるチーム医療をスムーズに行うための参考書となっている。
包括的呼吸ケアを提供する全医療者が利用できるハンドブック
書評者: 長谷川 智子 (福井大教授・基礎看護学)
複雑化,高齢化する呼吸器疾患患者のケアには包括的呼吸ケアが必須であり,その包括的呼吸ケアを実践するためには,病院内の医療チームのみならず,訪問看護ステーション,保健施設を含む地域医療チームの協力が不可欠である。本書は,監修を担当された工藤翔二氏,編集を担当された木田厚瑞氏,久保惠嗣氏,木村弘氏という,わが国の呼吸器診療のエキスパートに加え,さまざまな領域の呼吸ケア専門家が包括的呼吸ケア提供のためにまとめ上げた1冊であり,呼吸ケアを提供するすべての医療者が利用できるハンドブックである。
日本における呼吸器ケアは,近年,劇的に変化し続けている。その背景には,患者の高齢化,疾患の複雑化・急性化,診療報酬の改正による在宅酸素療法と呼吸リハビリテーションの保険適用化,呼吸機能を支える医療機器の劇的進歩など,多くの要因がある。呼吸ケアにかかわる医療者は,さまざまな背景を理解した上で幅広い領域での知識と技術を持ち,患者・家族に合わせた包括的な医療を提供する必要がある。本書ではまず,呼吸ケアの軌跡と課題がわかりやすく述べられ,続いてチーム医療としての呼吸ケアのあり方が述べられているため,近年の動向と今後のめざすべき方向性が理解しやすい。
具体的な内容をみると,まず,呼吸ケアにおけるアセスメントとして必須の身体所見の解析・呼吸機能検査・血液ガスなどが要領よく説明されている。
次に各章において,薬物療法,運動療法,栄養療法,禁煙教育,在宅酸素療法,在宅人工呼吸療法など,呼吸器疾患に対する重要な治療法がわかりやすく要点を押さえて記述されているため,医療提供者のみならず,患者・家族への教育としても活用できる内容となっている。
後半には,感染症対策とリスクマネージメント,患者の心理・QOLの評価方法,および倫理的な課題が述べられており,慢性呼吸器疾患患者およびその家族が円滑に質の高い生活を保つための援助方法がわかりやすく解説されている。本書の最後には,疾患別呼吸ケアのあり方について,各呼吸器専門医がその知識と技術を生かしたケアのポイントを解説しており,この1冊でかなりの領域の呼吸器疾患ケアを知ることができる。
呼吸器疾患に携わるすべての医療専門家が本書を活用することで,一人でも多くの呼吸器疾患患者が質の高い包括的医療が受けられるようになることを期待したい。
書評者: 貫和 敏博 (東北大教授・呼吸器病態学/日本呼吸器学会理事長)
「呼吸ケア」という言葉が取り上げられてすでに10年以上が経過するが,この度「チーム医療のための」という読者対象と,日常臨床ですぐ参照しうるという意味の「ハンドブック」の体裁をなす本書が上梓された。
呼吸ケアという医療は,現代社会,ことにタバコが税収維持のための課税対象品という時代錯誤的状況が改善されない中で,呼吸器関連医療スタッフが正面から向き合う必要性のある領域である。肺はゲノム(遺伝的)背景,環境,習慣の上に種々の病態が形成され,加えて加齢に伴い進行する。高齢化社会日本で今後数十年間,呼吸ケアが重要な課題になることは,工藤翔二氏による序論にもある通り,重く受け止める必要がある。
呼吸ケアには日常動作における苦渋への対応も含まれる。かつてCOPDで加療中に肺癌併発を告げられた患者が,「肺癌とはチョロイものですな」と述べたのを耳にしたことがある。死への病としての癌よりも,刻々の動作に伴う苦悩がいかに患者を追い込んでいるか,想像に余りある。
本書はチーム医療という観点から,木田厚瑞氏の総論中で医療サービス,慢性疾患,高齢者,医療費,在宅ケアなどについてオーバービューが与えられており斬新である。チーム医療はその全体像を理解して初めて各パートに力を注ぐことが可能となる。引き続き,アセスメント,薬物療法,運動療法,栄養療法,禁煙教育が,まず呼吸ケア医療の基本として提示される。その後に,在宅酸素療法,在宅人工呼吸療法,気管切開ケア,さらには関連するSAS,また長期ケアの大きな課題となる感染症がそれぞれ経験豊富な執筆陣により要領よくまとめられている。最後には疾患別呼吸ケアの応用と注意点として気管支喘息以下10疾患が各論としてまとめられている。
何よりも日常生活に苦渋する患者に接する医療チームが必要とするものは患者心理の理解,またCOPDなどの進行が緩徐ながらも終末期における医療倫理の理解である。この2つの課題には2章,20ページが割り当てられ,本ハンドブックの最大の特徴となるのでないか。引用文献も新しいもので,現在の課題に対して理解が深まる。
折しも「慢性呼吸器疾患看護」認定看護師が2010年2月に日本看護協会より制定され,スクーリングが始まろうとしている。また平成22年度診療報酬改定において人工呼吸器管理が呼吸ケアチーム加算として算定されるというニュースも耳新しい。本ハンドブックはそうした中でまさに時宜を得たものであり,呼吸器科医,看護師,コメディカル各位に広く現場で参照されることが期待される。
呼吸ケアの重要性を最先端のエビデンスに基づいて解説した貴重な参考書
書評者: 佐々木 英忠 (秋田看護福祉大学長)
ケアという言葉が盛んに用いられるようになったのは十数年前からである。従来,在院日数の制限がなく長期療養ベッドもお構いなしであったが,医療費の高騰を避けるため,社会的入院ともいうべき長期療養患者は病院から締め出されることとなった。それにより,大病院であればあるほど患者は急性期疾患のみを診療するという建前のもと,在院日数は短ければ短いほどよい病院であると評価されるようになった。
呼吸器病床では,酸素吸入のためだけに入院しており在宅に戻せないCOPDをはじめとする患者にかなりの病床を占められていたが,在宅酸素療法の導入によって,長期療養患者は退院可能となり,他科の在院日数短縮の方針と歩調を合わせることができた。
ここで病院は急性期疾患を専門に診療するという大前提が整ったが,患者(特に高齢の患者)は急性期を乗り切っても直ちに回復するわけではなく,社会復帰となればさらに程遠いという実態が待っている。医学の粋を集めた専門集団である大病院が,急性期を乗り切ってもまだ回復には程遠い患者に対して,退院後はどうぞ好きなようにして下さいといわば投げ出すことは,すこぶる実態にそぐわないことになる。多くの患者は退院後に完全に回復するまで,または回復しなければそれなりの療養が切り離せない。
このような退院後の患者の療養には医療と看護・介護の両輪が必要となってくる。従来は医療の確立に多くの時間と労力が割かれ,看護・介護にはそれぞれの専門職の細々とした努力はあったが,医療に携わる専門職の目は向けられていなかった。しかし,例えば在宅酸素療法がCOPDの延命効果としてこれまでのどの薬物療法やその他の医療行為よりも寄与するなどのエビデンスが明らかにされるに及んで,看護・介護は医療と同等に重要な役割をもつことが明確になってきた。
本書は,早くから医療とともに看護・介護が重要と考えてこられた,日本の呼吸器学分野の最前線で御活躍されている医療専門職の方々によって書かれている。呼吸ケアの重要性について今日得られる最先端のエビデンスに基づいて解説された貴重な参考書である。内容は平易でわかりやすく,呼吸器に携わるチーム医療をスムーズに行うための参考書となっている。
包括的呼吸ケアを提供する全医療者が利用できるハンドブック
書評者: 長谷川 智子 (福井大教授・基礎看護学)
複雑化,高齢化する呼吸器疾患患者のケアには包括的呼吸ケアが必須であり,その包括的呼吸ケアを実践するためには,病院内の医療チームのみならず,訪問看護ステーション,保健施設を含む地域医療チームの協力が不可欠である。本書は,監修を担当された工藤翔二氏,編集を担当された木田厚瑞氏,久保惠嗣氏,木村弘氏という,わが国の呼吸器診療のエキスパートに加え,さまざまな領域の呼吸ケア専門家が包括的呼吸ケア提供のためにまとめ上げた1冊であり,呼吸ケアを提供するすべての医療者が利用できるハンドブックである。
日本における呼吸器ケアは,近年,劇的に変化し続けている。その背景には,患者の高齢化,疾患の複雑化・急性化,診療報酬の改正による在宅酸素療法と呼吸リハビリテーションの保険適用化,呼吸機能を支える医療機器の劇的進歩など,多くの要因がある。呼吸ケアにかかわる医療者は,さまざまな背景を理解した上で幅広い領域での知識と技術を持ち,患者・家族に合わせた包括的な医療を提供する必要がある。本書ではまず,呼吸ケアの軌跡と課題がわかりやすく述べられ,続いてチーム医療としての呼吸ケアのあり方が述べられているため,近年の動向と今後のめざすべき方向性が理解しやすい。
具体的な内容をみると,まず,呼吸ケアにおけるアセスメントとして必須の身体所見の解析・呼吸機能検査・血液ガスなどが要領よく説明されている。
次に各章において,薬物療法,運動療法,栄養療法,禁煙教育,在宅酸素療法,在宅人工呼吸療法など,呼吸器疾患に対する重要な治療法がわかりやすく要点を押さえて記述されているため,医療提供者のみならず,患者・家族への教育としても活用できる内容となっている。
後半には,感染症対策とリスクマネージメント,患者の心理・QOLの評価方法,および倫理的な課題が述べられており,慢性呼吸器疾患患者およびその家族が円滑に質の高い生活を保つための援助方法がわかりやすく解説されている。本書の最後には,疾患別呼吸ケアのあり方について,各呼吸器専門医がその知識と技術を生かしたケアのポイントを解説しており,この1冊でかなりの領域の呼吸器疾患ケアを知ることができる。
呼吸器疾患に携わるすべての医療専門家が本書を活用することで,一人でも多くの呼吸器疾患患者が質の高い包括的医療が受けられるようになることを期待したい。
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