呼吸理学療法標準手技

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呼吸理学療法はその効果が認識されながら、臨床現場では用語や用法の混乱がみられる。本書では現在臨床で適応されている呼吸理学療法のすべての手技に関して、呼称・同義語・類語を整理。各手技の定義・適応・禁忌を明示したうえで手順を図解し、標準的かつ効果的な呼吸理学療法を解説。臨床での適応例も多数収載。呼吸リハ、呼吸ケアに携わるものにとっての必携書。
監修 千住 秀明 / 眞渕 敏 / 宮川 哲夫
編集 石川 朗 / 神津 玲 / 高橋 哲也
発行 2008年05月判型:B5頁:208
ISBN 978-4-260-00076-5
定価 3,520円 (本体3,200円+税)

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 わが国で呼吸理学療法が拡がりを見せ始めたのは1990年代半ばであると思われるが,それに伴って呼吸理学療法で用いられる手技の標準化の問題が取りざたされるようになってきた.その背景には,同じ方法を行っているにもかかわらず違う名称で呼ばれていたり,違う方法にもかかわらず同じ呼称が使われていたこと,また海外で使用されている方法が日本ではまったく違った意味で使用されていたり,海外では見聞されない日本独自の方法が行われていたことが挙げられる.これまで呼吸理学療法に関する専門用語,呼吸理学療法の手技や手段の定義について統一したものがなかったため,他の医療関連職種からは専門職または専門技術として疑問を抱かれるようになり,昨今では,あからさまに呼吸理学療法を否定する声も少なからず聞こえるようになってきた.
 呼吸器臨床医学とともに呼吸理学療法が科学的学問として成長・発展するためには,専門用語や手技の統一が必要不可欠である.呼吸理学療法という領域で使用される用語の定義や概念が定められていないのであれば,「呼吸理学療法学」という専門領域を修学することは事実上不可能であり,臨床実践において呼吸理学療法のエビデンスの構築も不可能であろう.
 しかし残念ながら10年以上が経過した現在においても,専門用語や手技の統一には至っていない.これらの状況をふまえ,現状を打開するため,日本理学療法士協会内部障害系理学療法研究部会が主催するセミナーの関係者が中心となり,呼吸理学療法に関連する用語の整理と手技の定義・標準化を試みる声が上がった.
 呼吸理学療法は様々な場面で使用されている.時には救命救急の現場であったり,脳性麻痺児の療育現場であったり,人工呼吸器を装着しながら退院された在宅療養の現場であったりと,時と場所を選ばず,我々理学療法士の「手」を使用してできる「技」が用いられてきた.したがって呼吸理学療法を受ける側にとって,「なんとなく胸を押す」のでは意味がなく,「Aさんの方法とBさんの方法がまったく違う」のであれば困惑が生じることになる.
 一方,呼吸理学療法の手技の不統一性についての議論は,折りしも「在宅ALS患者に対する痰の吸引の取扱い」を巡る議論と関連して拡大してきた.「痰の吸引は,原則として医行為である」とされ,医師や看護師以外の理学療法士などによる痰の吸引は違法とされている.しかし,専門的な排痰法(呼吸理学療法)を計画的に行うことで,侵襲性があり,苦痛を伴う痰の吸引が,効果的に行え,吸引回数を減らすことが可能となる.そのため,医師,看護師,さらにはホームヘルパーや盲・聾・養護学校における教員からも,呼吸理学療法手技に注目が集まってきた.世界の多くの国々では,呼吸理学療法の一連の流れの最終段階に吸引があるとの概念から,吸引が理学療法士に認められているのに対し,日本では呼吸理学療法の専門家である理学療法士にいまだに医療現場での吸引行為は認められていない.これは理学療法士の身分法の限界でもあるが,現実的には医療現場で多くの理学療法士が,痰の吸引が必要な現場に遭遇しており,多くの患者が理学療法士によって行われた呼吸理学療法後に速やかに吸引を行ってほしいと願っていると思われる.
 このような,呼吸理学療法手技の用語不統一による臨床現場での混乱収拾のためにも,また,効果的な呼吸理学療法手技を待ち望む患者からの期待にこたえるためにも,さらに,理学療法士自身の身分改善のためにも,医療,福祉,保健,教育などの各現場での共通言語として,我々理学療法士が行う呼吸理学療法手技を整理し,定義をまとめていく必要性があった.そして,ここにその使命が完成しようとしている.
 本書の内容については,反論も多々あることと思われる.ぜひとも皆様のご意見やご批判を仰ぎたい.本書が契機となって,手技の再評価や検証を進めていくとともに,新しい考え方や技術が編み出されていくことも期待している.
 これまでの現状を憂慮し,その問題可決に向けた第一歩となる今回の企画にご理解をいただき,快くご協力およびご執筆下さった同志の皆様に対し,まずは深く感謝申し上げる.本書が上梓するまでにかなりの月日が経過している.これはすべて編者の不徳といたすところであり,関係各位には深くお詫び申し上げる次第である.
 最後に,医学書院の担当の坂口順一氏には,根気強く本書の生みの苦しみを共にしてくださった.そのご尽力に対し,深い敬意を表すると共に心から感謝申し上げる.
 2008年3月
 監修・編集者一同

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本書の構成と利用法

第1部 呼吸理学療法の標準手技
総論
A 呼吸理学療法の歴史・定義・展望
B 呼吸理学療法手技を適応する際の評価のあり方

目的別手技
A 呼吸コントロール
 1 呼吸コントロール/呼吸調整
 2 安楽体位/リラクセーション
 3 胸郭外胸部圧迫法/気管支喘息発作時の呼気介助
B 呼吸法/呼吸練習
 1 口すぼめ呼吸[法]
 2 横隔膜呼吸[法]
 3 胸郭拡張練習[法]/部分呼吸[法]
 4 腹圧呼吸
 5 器具を用いた呼吸法―インセンティブスパイロメトリ
 6 舌咽頭呼吸
C 排痰法/気道クリアランス[法]
 1 咳嗽
 2 強制呼出手技/ハフィング
 3 咳嗽介助
 4 体位ドレナージ/体位排痰法
 5 軽打[法]/手技
 6 振動[法]/手技
 7 揺すり[法]/手技
 8 気管圧迫法/咳嗽誘発法
 9 ガーグリング
 10 応用手技
 11 器具を用いた排痰法
D 呼吸筋トレーニング
 1 器具を用いた呼吸筋トレーニング
 2 腹部重錘負荷法
E 胸郭可動域練習/胸郭モビライゼーション
 1 徒手胸郭伸張法
 2 その他の徒手胸郭可動域練習
 3 肋間筋のストレッチ/肋骨のモビライゼーション

項目別手技
A 徒手的テクニック
 1 呼吸介助[法]/呼気介助[法]
 2 スクイージング
 3 ポストリフト
 4 スプリンギング
B 体位管理
 1 ポジショニング
 2 腹臥位管理法,腹臥位療法,腹臥位換気
 3 体位呼吸療法
 4 持続的体位変換
C 呼吸体操
 1 呼吸筋ストレッチ体操
 2 その他の呼吸体操

第2部 呼吸管理
A 吸引
B 誤嚥の予防と対応

第3部 疾患・障害別呼吸理学療法手技
 1 慢性閉塞性肺疾患(COPD)―安定期
 2 慢性閉塞性肺疾患(COPD)―急性増悪時
 3 慢性閉塞性肺疾患(COPD)―難渋症例
 4 気管支喘息重症発作
 5 肺結核後遺症
 6 気管支拡張症
 7 間質性肺炎
 8 筋ジストロフィー
 9 筋萎縮性側索硬化症(ALS)
 10 脳性麻痺
 11 呼吸器外科術後
 12 上腹部外科術後
 13 消化器外科術後―食道癌
 14 心臓外科術後
 15 熱傷
 16 頸髄損傷
 17 脳神経外科術後の肺合併症
 18 脳血管障害―急性期
 19 肺移植
 20 生体肝移植
 21 新生児呼吸障害
 22 多発外傷
 23 重症肺炎による急性呼吸窮迫症候群(ARDS)

略語一覧
索引

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呼吸理学療法の正しい理解と適応のために
書評者: 松永 篤彦 (北里大教授・理学療法学専攻)
 2002年度に行われたNippon COPD Epidemiology(NICE)Studyの報告によると,慢性閉塞性肺疾患(COPD)の有病率は40歳以上で8.5%(男性13%,女性4%,約530万人)にも及ぶことが示されている。これは,ほぼ同時期に厚生労働省が報告したCOPD有病者数(約23万人)とは大きな隔たりがある。

 NICE Studyの報告は有用な診断法の一つであるスパイロメーターを用いた推計調査であるのに対して,厚生労働省の報告は医療機関で診断を受けた実態調査であることを考えると,約500万人近くの成人者が専門家による適切な診断とケアを必要としていることになる。

 また,日本ではCOPDのほかに肺結核後遺症者など多くの呼吸機能障害者が存在すること,さらには外科術後者の呼吸器合併症を予防する目的から,専門的な知識と技術を有したリハビリテーション(リハ)スタッフの育成が急務となっている。

 こういった社会的ニーズが拡大する中,2006年4月に大幅な診療報酬改定が行われ,呼吸機能障害に対するリハ(呼吸リハ)は脳血管疾患等,運動器および心大血管リハとならんでリハ医療の中で大きく位置づけられ,この領域の専任スタッフとして理学療法士が配置された。つまり,理学療法士には,呼吸機能障害の病態を正しく理解することはもとより,呼吸理学療法(治療手技)を正しく適応し,その介入効果を科学的根拠に基づいて検証する能力が求められている。

 このような状況の中で,この度,医学書院から『呼吸理学療法標準手技』が発刊された。監修にはこの呼吸理学療法の発展に長きにわたり貢献されてきた千住秀明氏,眞渕 敏氏および宮川哲夫氏があたられ,編集には第一線の医療現場で呼吸理学療法を実践されてきた石川 朗氏,神津 玲氏および高橋哲也氏が担当されている。

 先に挙げた監修と編集にあたられた先生方は,日本理学療法士協会の内部障害系理学療法研究部会呼吸班のメンバーであり,私が知る限り,それぞれが個別のテーマで,呼吸理学療法に関係する著書を数多く手がけられている。本書の編集に,これらの代表者が結集してあたられたことは,呼吸理学療法の定義,用語,手技および適応を統一しようという意図が明確にうかがえる。

 また,リハ医療の重要性は疑う余地はないものの,その治療手技や適応と効果についてはいまだ不明な点が多いことが指摘されていることから,本書の発刊の意義は大きいと思われる。

 本書は,発刊の目的に基づいて忠実に構成されており,呼吸理学療法の定義と目的を明示したうえで,治療手技を目的別と項目別に明確に解説している。また,呼吸管理として「吸引」と「誤嚥の予防と対応」が詳述されていることは,他の関連書籍にはない構成となっている。そして,後半には典型的な症例を提示し,病態に対する適した(正しい)治療手技が解説されている。

 先に述べたように,社会のリハ医療に対するニーズに応えていく一環として,呼吸理学療法を正しく理解し,適応していく必要がある。本書はそれを念頭に置いた著書だけに,これから呼吸理学療法を学ぶ方はもちろんのこと,すでに呼吸理学療法の臨床経験を積まれた方も,常に本書を手元に置き,研鑽を積まれることを強くお勧めする。
標準的な手技の解説を目的としつつ その概念をも解説
書評者: 丸川 征四郎 (兵庫医大教授・救急・災害医学)
 『呼吸理学療法標準手技』の出版を心から祝福し,発行に尽力された理学療法士の方々の苦労をねぎらいたい。本書が,呼吸理学療法に携るすべての医療者にとって必携のテキストとなることは間違いない。

 筆者が集中治療に専従して急性呼吸不全に対する呼吸理学療法に本格的にかかわって,既に25年が過ぎた。当時,具体的な指導書もなく教えを請う専門家も身近に見当たらず,臨床経験だけを頼りに急性呼吸不全患者の呼吸理学療法を実践した。この実践を通してわかったことは,教科書に書かれている呼吸理学療法は,ほぼすべてが慢性呼吸不全患者のためのものであって,急性呼吸不全を対象としたものではない,ということであった。

 インセンティブスパイロメトリを使うとよいと書いてあるが,急性呼吸不全で気管挿管患者にどう使う,酸素吸入が必要な状態でどうやって使う,あるいは排痰のために十数個の体位が記載されているが,呼吸・循環の悪い術後患者にどう使う,などといった素朴な疑問が次々と行く手に立ちはだかり,完全に立ち往生した。これらの疑問は,直ちに呼吸理学療法の有効性にかかわる疑問へと発展し,腹臥位を中心とする体位呼吸療法と特定手技を選択してICU患者のための新しい呼吸理学療法を構築せざるを得なかった。

 同時に,急性呼吸不全を扱う全国のICU医師や看護師へ呼吸理学療法を広めるべく,各地の若い理学療法士の方々の協力を得て講習セミナーを開設した。ところが,同じ呼吸理学療法手技のデモをお願いしても,その手順や手法がバラバラであることに,度肝を抜かれるほど驚いた。結局,地域によって,学閥によって手技もその意味付けも異なることを知った。

 そこで,呼吸理学療法を「科学」にするには専門用語の概念と手技の統一が不可欠であることを,協力してくれた若い理学療法士の皆さんに説いてきた。以来,約15年が経った。それだけに,本書『呼吸理学療法標準手技』の出版は感慨深い。本書は標準的な手技の解説が目的であるが,同時にそれぞれの概念をも解説している点でも重要な意義がある。

 今後は,本書を土台にして,呼吸理学療法の議論が進められることを期待したい。そして,同じ手法,同じ概念のもとに各手技の科学的検証が行われ,呼吸理学療法の臨床研究に新たな展開が生まれ,輝かしい成果のあがることを切望してやまない。

 最後に,もう一度,編纂・執筆に尽力された皆様に感謝と敬意を表したい。

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